2018/05/31(木)「友罪」

 他人のスマホに保存されている動画をどうやって盗んだのか。終盤の大きな展開につながるこの部分があいまいなのがどうしても気になる。いや、映画の中では再生している場面を遠くから写真に撮ったと説明されるのだけれど、アホかと思う。接写で撮ってもうまく撮れるかどうか分からないのに、遠くから撮ってうまく撮れるはずがない。せめて別のスマホに動画ファイルを転送したというぐらいの説明が欲しいところだが、ファイルサイズの大きな動画の転送にはそれなりの手間と時間がかかるので、映画のあの状況では無理だ。

 それよりも大きな問題は少年時代に連続殺人を犯した男の現在の姿にリアリティが感じられないことだ。1人を殺しただけなら過ちで説明がついても、2人以上を殺すことは過ちではない。金銭目的でも怨恨でもない快楽殺人を犯す人間はサイコパスの可能性が高いが、サイコパスが医療少年院でどのように更正できるのかできないのか、そのあたりが知りたくなってくる。

 映画の作り自体は悪くない。“少年A”(神戸連続児童殺傷)の事件だけをモデルにしているのかと思ったら、登場人物のそれぞれに重たい過去がある。主人公の益田(生田斗真)は中学時代、親友がいじめに遭い、自殺した。週刊誌記者になったが、自分の記事がもとで悲劇が起きてしまう。益田は雑誌社を辞め、町工場に就職する。そこで鈴木(瑛太)という青年と出会い、徐々に親しくなっていく。益田の元恋人の杉本清美(山本美月)は17年前の連続児童殺害事件の犯人のその後を調べているが、行き詰まっている。相談を受けた益田はネットで見つけた事件の犯人の写真が鈴木によく似ていることに気づく。

 タクシー運転手の山内(佐藤浩市)は過去の息子の行為の贖罪を今も続けている。この息子の行為のために家族は離散した。これが鈴木の父親かと思ったら、まったく違った。鈴木と知り合う藤沢美代子(夏帆)は過去にAV出演を強要した恋人から逃げている。医療少年院で鈴木を担当した白石弥生(富田靖子)は仕事に打ち込みすぎたため、娘と断絶している。

 映画は序盤、こうした登場人物たちを並列的に描いていく。鈴木とほぼ接点のない山内を登場させたのは加害者家族と贖罪のテーマを打ち出すためだろう。パンフレットによると、瀬々敬久監督は原作者の薬丸岳に、映画を「ポール・ハギス監督の『クラッシュ』(04)のようなイメージにしたい」と語ったそうだ。序盤は、なるほど「クラッシュ」の構成によく似ている。映画でもミステリーでも部分を積み重ねて物語の全貌につなげていく手法は好ましいので、序盤を含めた全体の構成は悪くないと思った。

 惜しいのは脚本に先に挙げたような傷が目に付くことだ。脚本も瀬々監督が担当しているが、もっと緻密に仕上げ、突っ込みどころをなくしていく必要があっただろう。サイコパスの犯罪を過失と同列に扱ったことが、説得力を欠く大きな要因になっている。

2018/03/21(水)「アナイアレイション 全滅領域」

 「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランド監督、ナタリー・ポートマン主演に惹かれて見た。Netflixオリジナル作品ということになっているが、Wikipediaによると、アメリカと中国以外の全世界配給権をNetflixに(恐らくパラマウントとスコット・ルーディン・プロダクションズが)売ったのだという。当たり外れの多いNetflixオリジナル作品の中では当たりの方で、良い出来と思ったが、最初からオリジナルではなかったわけだ。

 原作はSF作家ジェフ・ヴァンダミアのサザーン・リーチ3部作の第1作。最近のSFには疎いのでこの原作もまったく知らなかった。いや、「全滅領域」というタイトルは書店で見かけた覚えがあるが、手には取らなかった。

 宇宙から飛来した物体の衝突によって謎の領域エリアXが出現する。監視機構サザーン・リーチに派遣された元米陸軍兵士で生物学者のレナ(ナタリー・ポートマン)は心理学者のヴェントレス(ジェニファー・ジェイソン・リー)、人類学者ソレンセン(ジーナ・ロドリゲス)ら4人とともに調査隊としてエリアXに入る。そこはGPSも電波も届かず、生態系が異様な変化を遂げ、拡大を続けていた。一行は沼地で巨大なワニに襲われる。ワニの歯はサメの歯のような特徴を持っていた。さらに謎の怪物に襲われ、隊員の1人が死亡する。隊員たちはこの領域から脱出を決意する。

 IMDbの評価は7.2、メタスコアは79。ラストに含みを持たせて終わるのは「エクス・マキナ」と同じだ。ただ、原作が3部作の第1作なので、きちんと完結しないのは当然とも言える。