2021/03/19(金)「さらば映画の友よ インディアンサマー」の感慨
原田眞人監督のデビュー作「さらば映画の友よ インディアンサマー」(1979年)のダンさん(川谷拓三)はそう言う。僕も365本の映画を見ることを今年の目標にしたが、劇場のほかに配信とDVD、テレビ録画も含めての数字だ。ダンさんの場合は劇場だけでカウントしているから、1年で365本はけっこう大変な数字ではある。映画の時代設定の1968年当時はまだ名画座が健在だったから、こうしたこともできたのだろう。映画は数多く見れば良いというものではない。しかし、数多く見ておかなければ、分からないことだってある。
1979年度のキネマ旬報ベストテン49位。はっきり言ってキネ旬ベストテンの30位以下にはあまり意味がない。投票者が少なくなるからで、この映画に票を入れたのは2人だけだった(南俊子と渡辺武信)。もちろん、ベストテンに入れたくなる映画というのはどこかに魅力があるのだ。
静岡県沼津市が舞台。予備校よりも映画館に多く通っているシューマ(重田尚彦)は映画館で中年の映画ファン、ダンさんに出会う。映画館の中でおしゃべりしていた女子学生たちを注意したダンさんは痴漢扱いされ、その窮地をシューマが救ったのだ。「死の接吻」のリチャード・ウィドマークのセリフを引用したことで、ダンさんが根っからの映画ファンであることが分かり、2人は意気投合する。この2人に絡むのが17歳の少女ミナミ(浅野温子)。シューマはミナミを好きになるが、ミナミにはヤクザが付いているらしい。
沼津は原田監督の出身地だから体験的な部分も入っているとのことだが、終盤はフィクションの度合いを強める。ダンさんは拳銃を手に入れて、1人でヤクザの親分の屋敷に殴り込みをかけるのだ。
出演者の多くは既に亡くなっている。川谷拓三、重田尚彦、トビー門口、原田芳雄、鈴木ヒロミツ、室田日出男、そして映画評論家で最初の方に出てくる映画館主役の石上三登志。SFに詳しい石上さんはキネ旬などによく映画評や長い評論を書いていて、それを読むのが僕は好きだった。42年前の映画だから亡くなった俳優が多いのは仕方がないが、感慨を持たざるを得ない。
この映画も長い間、見ることができなかった。ファンの要望を受けて、ようやくDVDが発売されたのは昨年9月。原田監督が監修に当たったそうだが、元のフィルムが劣化していたためか、全体的に赤みがかっていて、画質的に満足できる仕上がりではないだろう。
内容に関して原田監督は日記にこう書いている。
「さらば」は演出的には稚拙なパーツ満載の映画ではあるが、20代で撮った作品はこれ一本。駆け出し監督の痛点を見てもらえればありがたい。いやいや、イタいところなんてないですよ。時代背景も含めて僕には懐かしい映画でした。