2021/08/19(木)8月前半に見た映画
「アジアの天使」
全編監督ロケをした石井裕也監督作品。妻を失った剛(池松壮亮)は8歳の息子とともに兄(オダギリジョー)がいる韓国へ行く。兄は怪しい化粧品販売の仕事をしていた。剛たちは家族関係に悩むタレントのソル(チェ・ヒソ)の家族とソウルで出会い、一緒に旅をすることになる。日本、韓国とも役者は全員良いが、話が今一つ盛り上がらない。両家族の関係性が良くも悪くもなく、不透明なままなのだ。日韓の交流に安易な結論を出すのは難しいので仕方ないのかもしれない。
「キネマの神様」
原田マハの原作とはまるで異なる話になっている。映画好きの主人公ゴウがギャンブル好きで借金まみれであるなど原作の登場人物に沿ったキャラクターではあるが、原作のゴウに映画の助監督を務めた過去はない。原作は「父親のゴウが雑誌『映友』に歩の文章を投稿したのをきっかけに、娘の歩は編集部に採用され、ひょんなことから父の映画ブログ『キネマの神様』をスタートさせることに。“映画の神様”が壊れかけた家族を救う、切なくも心温まる奇跡の物語」。無名の個人のブログで月の広告収入1000万円とか、ありえない展開があって、原作にはあまり感心できなかった。ゴウがブログに書いている内容も「フィールド・オブ・ドリームス」の感想などいたって普通で特別に話題になるとも思えないものだ。
こうした物語では映画に向かないため、山田監督がまったく違う内容にしたのも分かるが、それならば、この小説を原作にする必要はなかった。要するに「キネマの神様」というタイトルを使いたかっただけなのではないか。
主演の沢田研二は志村けんに寄せた演技が所々にあってマイナスの印象。「東村山音頭」を歌うシーンなど不要だと思う。そもそも沢田研二、映画に出るなら、もう少し体を絞った方が良かっただろう。原作のゴウさんも志村けんもこんなに太ってはいない。
良かったのは過去のパートで、永野芽郁が良いのはもちろんだが、意外なことに美人女優を演じる北川景子がさまになっていた。北川景子、2月に公開された「ファーストラヴ」ではまったくラブシーンがダメダメな演技だったが、こういうそこにいるだけの美人という役柄にはぴったりだ。
コロナ禍の描写を取り入れたのは良いが、映画の出来としてはいたって普通のレベル。
「ワイルド・スピード ジェット・ブレイク」
2001年の第1作から数えてシリーズ9作目(スピンオフの「スーパーコンボ」を含めると10作目)は上映時間2時間23分。見る前は長すぎるのではと思ったが、アクションが切れ目なく続くので、そんなに長さは感じない。それでももう少し切り詰めた方が鋭い映画になったと思う。壊れた吊り橋のロープ1本を使ってクルマをジャンプさせたり、改造車で宇宙へ行ったりなど、大がかりなアクションは、おバカ映画の一歩手前という感じ。単なるカーアクションの枠を超えるアクションが展開されるようになったのは2011年の「MEGA MAX」ぐらいからだっと思うが、作品ごとにエスカレーションしている。
3作目で死んだハン(サン・カン)が実は生きていたとして復活する。こういう「死んだはずだよ、お富さん」的展開になるのはレティ(ミシェル・ロドリゲス)に続いて2人目で、このシリーズ、なんでもありなので、もはや気にならない。むしろ、2013年に亡くなったポール・ウォーカーが演じたブライアンが画面にまったく登場しないのに、存在している設定なのが不自然。ウォーカーは観客にもスタッフにも愛された人だったにせよ、さすがに無理が目立ってきた。
シリーズ開始から20年たち、出ている俳優陣の多くは年齢的に厳しくなった。シリーズは次の2作で完結するらしい。
「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」
原題は2016年の「Suicide Squad」に「The」を付けただけのタイトル。仕切り直しの決定版という意味だろう。悪を殲滅するために終身刑の悪人たちによる部隊を組織するという話だが、マーベルで「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を撮ったジェームズ・ガン監督がやりたい放題にやらせていただきました、という感じで作っている。マーベルは親会社がディズニーなのでグロい描写には規制があったのかもしれない。頭が切断されたり、吹っ飛んだり、DCはなんでもありだ。ジェームズ・ガンのユーモア感覚は絶妙で、ゲラゲラ笑いながら見ることになるが、怪獣映画のようなクライマックスからまともなヒーローものになる。その怪獣、「宇宙人東京に現わる」で岡本太郎がデザインしたヒトデ型一つ目の宇宙人パイラ人と同じなのが笑える。しかし、最新のVFXで動くこの怪獣、迫力があり、恐怖の存在として十分に機能している。
ビリングのトップはハーレイ・クイン役のマーゴット・ロビー。当然という感じだが、ロビーは演技もしっかりできるのにこうした映画を見捨てないのはえらい。2016年版のハーレイはそのキュートさで一躍人気者になった。今回はキュートさは控えめで、強さが目立っている。このほか、キャラで目立つのはサメ男キング・シャークで、シルベスター・スタローンが声を演じていてこれまた絶妙に面白い。ネズミの群れを操るラットキャッチャー2(父親=タイカ・ワイティティの跡を継いだから2)を演じるダニエラ・メルキオールはポーランド出身で、これが初のアメリカ映画出演とのこと。
「少年の君」
29歳なのに18歳の高校3年生チェン・ニェンを演じて不自然さがないドンユイも鮮烈だが、「俺は君を守る。君は世界を変えろ」と言うシャオベイ(ヤンチェンシー)が良い。かつてはこういう男子が普通(例えば、日活アクションとか「未来少年コナン」とか)だったのだが、日本では今や「あなたは死なないわ。私が守るから」と女の子(綾波レイ)から言われる始末だからなあ。
後半のミステリー的展開は作劇として決してうまくはないものの、学歴偏重社会の否定につながるラストをもってくるための手段でもあるだろう。
劇中、チョウ・ドンユイは坊主頭になる(これが「リリイ・シュシュのすべて」の伊藤歩を思わせる)。パンフレットによると、ドンユイの提案でスタッフ全員も同じく坊主頭になったとのこと。
いじめっ子の美少女ウェイ・ライを演じるチョウ・イエはこの映画で一躍注目を集め、大作への出演が続いているという。なるほど、それも納得の美少女ぶりだ。
映画の中で940万人(だったかな)とされる高考(全国統一大学入試)の受験者数は現在、1000万人を超えているそう。日本の大学入学共通テストの受験者は約53万人なので20倍近い数。大学受験の厳しさは日本をはるかに上回っているのだ。
2021/08/10(火)7月に見た映画
7月に見た映画は28本。内訳は映画館12本、Netflix6本、WOWOW3本、Hulu3本、amazonプライムビデオ3本、ディズニープラス1本。
「猿楽町で会いましょう」
完成映画の方の予告編を見ると、渋谷区猿楽町を舞台にした若い男女の単純なラブストーリーのように思える。映画は3章構成で、フリーカメラマンの男(金子大地)が仕事で出会った読者モデルの田中ユカ(石川瑠華)に惹かれ、付き合い始めるというのが第1章。
第2章からは映画とユカの第一印象を裏切るような展開を見せる。未完成映画の予告編(これにも石川瑠華が出ている)にはそうした部分も描かれている。YouTubeで完成映画の予告編を見ると、自動再生で次に未完成映画の予告編が再生されてしまうが、これはキャンセルして何も知らずに本編を見ることを勧めたい。
石川瑠華、監督の児山隆ともこれが長編映画デビュー。どちらも頑張っていて、敢闘賞に値すると思った。
「ブラック・ウィドウ」
序盤を見て「007のようなスパイアクションだな」と思ったら、劇中で「007ムーンレイカー」を流す場面があり、ロジャー・ムーア時代の007を思わせる空中アクションがメインになっていた。世界的な悪の組織という敵の設定も含めて、製作者たちは明らかに007を意識して作っている。
当時の007はアクションは素晴らしかったものの、エモーションには欠けていた。「ブラック・ウィドウ」にもそんなところがある。いくらでもエモーショナルに作れる題材なのに、それほどドラマティックな演出にはなっていない。しかし大きなスクリーンで見た方が良い作品であり、ディズニーが劇場公開にこだわったのも理解できる。
「茜色に焼かれる」
主人公の田中良子(尾野真千子)は7年前に夫(オダギリジョー)を元高級官僚の老人が運転する車の事故で亡くし、加害者側が謝罪しなかったために賠償金の受け取りを拒否。中学生の息子純平(和田庵)を1人で育てるシングルマザーとなってスーパーの花屋コーナーと風俗店の掛け持ちで働いている。
こんなことしてたら、コロナ禍じゃなくても苦しいと思えるのは良子が、夫と愛人との間に生まれた子どもへの養育費の仕送りと、義父が入っている施設への支払いも行っていること。希望は純平が全国でもトップクラスの優秀な成績であることが分かったほか、いじめを受けているにもかかわらず、素直に育っていること。風俗店の同僚のケイちゃん(片山友希)が「純平くんって、いい男だねえ」としみじみ言うほどで、純平には人間関係の希望、次代への希望みたいなものを感じさせる。
一方で良子を解雇する花屋の店長とか、セックス目当ての同級生とか、ケイちゃんが同棲しているDV男とか、女性の不幸の原因の多くがコロナ禍よりもクズみたいな男にあることがよく分かる映画だ。
「東京リベンジャーズ」
クズみたいな人生を送っている主人公・花垣武道(北村匠海)がその発端となった10年前に戻り、人生を、そしてヤクザと半グレの抗争に巻き込まれて死んだ橘日向(今田美桜)を取り戻そうとする物語。主人公は過去に戻って殴られ蹴られてばかりだが、かつてそれに屈したことが今の情けない生活につながっているわけなので絶対に諦めない。それが映画の熱さにつながっている。
「いつも急に来るんだね、君は」と言い、タケミチを信じ抜くヒナタを演じる今田美桜の最強のかわいさも必見。タイムリープを絡めた物語としては明らかに「夏への扉 キミのいる未来へ」よりよく出来ている。
「映画大好きポンポさん」
「泣かせ映画で感動させるより、おバカ映画で感動させる方がかっこいいでしょ」とか「人間の集中力はそんなに持たない。90分が限界」とか、プロデューサーのポンポさんが言ってることは極めてまとも(でも目新しくはない)。映画全体も好感の持てる作りになっているが、それ以上のものはなく、中高生向けと思えた。
入場者プレゼントで映画の前日譚にあたる書き下ろしコミック(非売品、24ページ)がもらえた(僕がもらったのは前編)。
「シドニアの騎士 あいつむぐほし」
2期にわたって放送されたテレビシリーズの完結編となる新作。「未知の生命体ガウナに地球を破壊され、かろうじて生き残った人類は巨大宇宙船シドニアで旅を続けていたが、100年ぶりにガウナが出現、再び滅亡の危機に襲われる」というストーリー。クライマックスの出撃シーンでテレビシリーズ第1期のオープニングテーマ「シドニア」が流れた時には「おおおおおおーっ」とテンションが爆上がりだった。
これはテレビシリーズを見ていた人には共通するようで、YouTubeのこのMVのコメント欄には「鳥肌立った」「震えた」というコメントが並んでいる。
メインのストーリーに絡めて逆「美女と野獣」のようなラブコメ設定があり、そこもきちんと完結している。CGをふんだんに使い、制作のポリゴン・ピクチュアズが技術の高さを示した1作になった。テレビシリーズは全話Netflixにある。
「イン・ザ・ハイツ」
移民の生活には経済的貧困や差別が影を落としていて、それらの問題をヒップホップで歌い上げる、いかにも現代のミュージカルになっている。フレッド・アステア「恋愛準決勝戦」(1951年、スタンリー・ドーネン監督)の有名なシーンをアップデートしたシーンがあったり、ミュージカルとしては水準を超えている。
群舞も素晴らしいが、欲を言えば、圧倒的なソング&ダンスマン(ウーマン)のパフォーマンスが欲しかったところ。ヒスパニック系移民を描いたミュージカルは「ウエスト・サイド物語」(1961年)以来とのこと。
「ジャングル・クルーズ」
ディズニーランドのアトラクションをモチーフにした作品。「不老不死の力を秘めた奇跡の花を追って、並外れた行動力を持つ博士リリーと船長フランクは、アマゾンの上流奥深くの“クリスタルの涙”へ向かう」というストーリーでエミリー・ブラントとドウェイン・ジョンソンが主演している。「レイダース」や「ロマンシング・ストーン」を思わせる展開だが、そうした傑作に比べて新鮮さは皆無で、映画のタッチとしては同じくアトラクションを映画化した「パイレーツ・オブ・カリビアン」に近い。ブラントもジョンソンも好きな俳優だが、溌剌さには欠けており、もっと若い俳優の方が良かったのでは、と思えた。監督は「トレイン・ミッション」のジャウム・コレット=セラ。