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2022年04月24日の記事

2022/04/24(日)「英雄の証明」ほか(4月第4週のレビュー)

「英雄の証明」はイランの巨匠アスガー・ファルハディ監督の新作。拾った金貨を持ち主に返した受刑者が「正直者の囚人」としてマスコミにもてはやされますが、SNSで「この美談自体、嘘では?」との疑惑と悪評が広がって、窮地に陥るという話。脚本の緻密さに感心しまくりの映画で、主人公がちょっとした嘘をつき、それは絶対ダメだろうと思っていると、絶対ダメなシチュエーションに追い込まれるという絶望的展開になっていきます。

イランでは借金を返さないと訴えられ、刑務所に入れられるそうで、主人公もそのため刑務所に入ってます。借金は1億5000万トマン。「白い牛のバラッド」の際にも書いたようにイラン通貨でのやり取りのケタの大きさにはドキッとしますが、1トマン=0.003円なので450万円にしかなりません。それで刑務所というのもどうかと思います。もっとも、休暇があって外出もできるので、普通の刑罰ほど厳しくはないのでしょう。

主人公には意志の弱さと不運な面があり、小学生ぐらいの息子がいることもあってヴィットリオ・デ・シーカ監督の名作「自転車泥棒」を想起させたりしますが、嘘やごまかしをやってしまったのは事実。そんな主人公にもかかわらず、映画としてはすごく面白いです。SNSの功罪とか、他人の妬みとか、人間の弱さとか意地の悪さとか、さまざまなことを考えさせる物語になっています。

この映画を巡っては盗作騒動が起き、訴訟合戦になっています。4月8日のTBSラジオ「アフター6ジャンクション」では「盗作で有罪判決が出たというのは誤報」としていました。裁判で争うことが決まった段階なのだそうです。

盗作を訴えているのはファルハディに師事した女性監督アザデ・マシザデ(Azadeh Masihzadeh、きれいな人です)で、盗作されたとされるドキュメンタリー作品「All Winners, All Losers」はYouTubeで見ることができます(英語字幕のみ)。



盗作ではないにしてもインスパイアされた事件・作品ではあるのでしょうから、クレジットに1行くらい名前を入れておいた方が良かったかもしれません。

「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」

ゴールデンウイークに合わせて公開される長寿のアニメシリーズの過去作が配信サイトで一挙配信されています。「名探偵コナン」はHuluとamazon、「クレヨンしんちゃん」はNetflix。GWではありませんが、「ドラえもん」もamazonで。

劇場版を過去に1作しか見ていなかった「名探偵コナン」を「これではいけない」と昨年、第1作から見始めました(別に見なくてもいいんですが、せっかく見られるので)。現在12作目「漆黒の追跡者(チェイサー)」(2009年)まで。退屈はしませんが、それほど楽しんで見ているわけでもありません。Huluでは例年7月ごろまでは配信しているので、それまでには全作見終えたいと思ってます。

「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」は劇場版25作目。ロシアの爆弾魔を巡るサスペンスで、名探偵といっても、殺人事件を推理で解決する物語ではなく、よりスケールの大きな、ほとんどスパイアクションのような話になってます。脚本もアニメ演出も水準以上の出来栄えで、十分に楽しめる仕上がり。女性に人気のあるキャラクター安室透(本名:降谷零=声:古谷徹)が出ていることもあって、シリーズ初の興収100億円に向けて大ヒットしているようです。

物語の完成度は高いんですが、惜しむらくはエモーショナルなものが不足しています。この弱さを補強すれば、さらに広範な支持を集められるのではないかと思いました。監督はシリーズ初監督の満仲勧(みつなか・すすむ)。

「オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体」

第2次大戦中にイギリス軍が行った「ミンスミート作戦」を描くサスペンス。Wikipediaを引用すると、ミンスミート作戦とは「ナチス・ドイツの上層部に連合国軍の反攻予定地はギリシャとサルデーニャを計画していると思い込ませ、実際の計画地がシチリアであることを秘匿することに成功した」。具体的には死体に偽造文書を持たせて地中海に流し、ナチスに届けさせて騙すという作戦。冗談みたいな作戦ですが、これがうまくいったのですから現実はフィクションより奇なわけです。

監督は「恋におちたシェイクスピア」「女神の見えざる手」のジョン・マッデン。題材は大変面白いんですが、演出にメリハリに欠けるところがあり、水準的な出来に留まっています。