2023/08/13(日)「CLOSE クロース」ほか(8月第2週のレビュー)
レオ(エデン・ダンブリン)とレミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)は中学に入学したばかりの12歳。親密な様子を見たクラスメートの少女が「2人は付き合ってるの?」と素朴な疑問を投げかけたことがレオとレミの関係崩壊の始まりでした。それまでは花畑を一緒に走り回り、夜は寄り添って寝ていた2人の親密な距離が徐々に開いていくことになります。それを主導したのは主にレオの方。毎日一緒に自転車で登校していたのに、ある日、レオが1人で登校したためレミと殴り合いの喧嘩になります。そして、大きな悲劇が訪れることに。
その悲劇までが前半の1時間弱で、後半はレオの大きな後悔と苦悩のドラマになります。この悲劇はレオが世間の目・他人の目を意識したために起きたこと。軽い知的障害を持つ女性(小野花梨)とのラブストーリー「初恋、ざらり」(テレ東)の風間俊介が「世界で2人だけだったら良いのに」と話すのと同じように、レオは世間の目を気にしてしまったわけです。2人の周囲だけでなく、レオ自身にもスタンダードと異なることを恐れる気持ちがあったのでしょう。
できれば、レミの気持ちも深く知りたいところではありますが、冗長になるのかもしれません。監督はバレリーナを夢みるトランスジェンダー少女を描いた「Girl ガール」(2018年)に続いて2作目のルーカス・ドン。主演の2人はいずれもオーディションで選ばれて映画デビューを果たしたそうです。カンヌ国際映画祭グランプリ。1時間44分。
IMDb7.8、メタスコア81点、ロッテントマト91%。
▼観客20人ぐらい(公開2日目の午後)
「イノセンツ」
大友克洋のコミック「童夢」(1981年)にインスピレーションを得たエスキル・フォクト監督のサイキック・スリラー。「クライマックスはほとんど『童夢』のパクリで『大友克洋原案』とクレジットに入れた方が良かった」との感想もあったので、どれぐらい似ているのかと思ったら、クライマックスのブランコのシーンのみ似てました。あ、もちろん、団地に住む子供の超能力を扱った点はそのままですが、原案クレジットまではいらないかなと思います。ノルウェーの郊外にある団地が舞台。父親の仕事の都合で団地に引っ越してきた9歳のイーダ(ラーケル・レノーラ・フレットゥム)は自閉症の姉アナ(アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ)と2人姉妹。同じ団地に住むベン(サム・アシュラフ)とアイシャ(ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム)と親しくなるが、ベンには念力能力が、アイシャにはテレパシー能力があった。アナはアイシャとテレパシーで交流でき、ベンは次第に念力能力を高める。しかし、念力が強まるに連れてベンは人を操るようになり、邪悪に染まっていく。
アメリカ映画に比べると、VFXが小粒なのが残念な点で、「童夢」で印象的だった場面、サイコキネシスで壁に押しつけられて壁が球状に凹むシーンなど、ぜひ実写で見たいところですが、ありません。好意的に見れば、スケールが小さい分、リアルに見えないこともありません。超能力が次第に強くなっていく過程を見せる前半はもう少し簡潔に描いた方が良かったと思いました。1時間57分。
IMDb7.0、メタスコア79点、ロッテントマト96%。
▼観客11人(公開3日目の午後)
「サントメール ある被告」
フランス北部の町サントメールで実際に起こった生後15カ月の乳幼児死亡事件を巡るドラマ。殺人罪に問われた母親ロランス(ガスラジー・ラマンダ)の裁判を通して移民差別や貧困、女性の社会進出の問題などを浮き彫りにしています。映画の基になったのは2015年、セネガル人の母親が満潮の海岸に乳児を置き去りにして死なせてしまった事件です。母親は博士課程の学生で、IQ150。にもかかわらず、自分がやったことはセネガルの叔母にかけられた呪いのためだと供述したとのこと。
アリス・ディオップ監督はセネガル系フランス人。被告が自分と同い年であったこともあって事件に興味を持ち、裁判を傍聴して映画化を決めました。ドキュメンタリー出身なので、実際の裁判記録をセリフに使っています。ストーリーは妊娠中に裁判を傍聴した女性作家ラマ(カイジ・カガメ)の視点で語られますが、やや単調になりがちなのはこのドキュメンタリー手法のためでしょう。もっと明確にドラマの強弱を付けた方が共感を得られやすかったのではないかと思います。2時間3分。
IMDb6.9、メタスコア91点、ロッテントマト94%。
▼観客5人(公開4日目の午後)
ディオップ監督の前作でドキュメンタリーの「私たち」(2021年)はU-NEXT、amazonプライムビデオが配信しています。こちらはIMDb6.1、メタスコア78点、ロッテントマト80%。