2023/09/10(日)「禁じられた遊び」ほか(9月第2週のレビュー)
少年の父親に重岡大毅、思いを寄せる同僚が橋本環奈。蘇ってくる母親を演じるのはファーストサマーウイカで、もうこの人、生きてる時から笑っていても怖いです。橋本環奈は重岡大毅を好きなことを誰にも言ってないのにウイカはなぜかそれを知り、「近づかないで」と脅してきます。特殊な能力を持っていて、不倫以前の段階なのに生霊が橋本環奈を執拗に苦しめるなど、とても嫉妬深く迷惑な存在と言うほかありません。生霊の説明で「源氏物語」の六条御息所の挿し絵が出てきますが、ああいう存在なのでしょう。
交通事故死した母親の指を少年が埋めるのは以前、父親から「トカゲのしっぽは切れてもまた生えてくる」と聞いたから。少年はしっぽから体が生えると思い込み、しっぽを埋めたところ、実際にトカゲが生き返ってきます。これがそもそもおかしいんですが実は、という展開。この理由は予想でき、理屈が分かってしまうと、怖さが半減してしまうのが悩ましいところではあります。
劇中、少年が唱える「エロイムエッサイム」は悪魔を呼び出す呪文で、水木しげる「悪魔くん」などで使われていて有名です(「悪魔くん」はNetflixが11月からアニメの新シリーズを配信予定)。吉野公佳主演の「エコエコアザラク Wizard of Darkness」(1995年、佐藤嗣麻子監督)でもクライマックスで、菅野美穂がルシファーを召喚するのに使ったと記憶しています(配信を探しましたが、どこも配信していないようで確認できませんでした)。
霊媒にシソンヌの長谷川忍(まじめに演じていてもおかしいです)、橋本環奈の同僚に堀田真由(出演してるのを知らなかったので嬉しい驚きでしたが、少しもったいない役回り)。1時間50分。
▼観客5人(公開初日の午前)
「658km、陽子の旅」
東京で引きこもりの生活を送る草壁陽子(菊地凛子)が父(オダギリジョー)の死の知らせを受けて、青森までヒッチハイクの旅をするロードムービー。2019年のTSUTAYAクリエイターズプログラムで脚本部門審査員特別賞を受賞した室井孝介の脚本を熊切和嘉監督が映画化した作品です。陽子は42歳、独身。引きこもりの上にコミュ障で人付き合いが苦手。いとこの茂(竹原ピストル)の家族とともに青森に向かうが、ある事情からサービスエリアではぐれ、置き去りにされてしまう。所持金は2300円余り。電車代もスマホもないことから、陽子はヒッチハイクで北に向かうことにする。
終盤、菊地凛子の独白シーンが見せます。42歳は陽子が家を出た時の父の年齢と同じで、陽子は就職の夢に破れて引きこもりになってしまったわけですが、「20年があっという間だった」というセリフが泣かせます。菊地凛子の演技力を見せる白眉のシーンと言えるでしょう。
ヒッチハイクしただけで大きな変化が起きるはずはなく、ぼそぼそ声からはっきりした声に変わるぐらいの小さな変化に留まるわけですが、これが再生へのきっかけになるのかもしれません。
深夜のパーキングエリアで一緒になるヒッチハイカーに見上愛、軽トラを運転する何でも屋に最近好調の仁村紗和。ただ、仁村紗和はアップにもならず、残念な使われ方でした。上海国際映画祭で最優秀作品賞、最優秀女優賞、最優秀脚本賞を受賞。1時間53分。
▼観客13人(公開2日目の午後)
「スイート・マイホーム」
神津凛子の小説現代長編新人賞受賞作を斎藤工監督が映画化。長野県に住むスポーツインストラクターの賢二(窪田正孝)は妻(蓮佛美沙子)と娘の3人暮らし。アパートが寒いこともあって家を建てることにした。住宅メーカーの本田(奈緒)が設計した家は最新工法を取り入れ、エアコン1台で「夏涼しく、冬暖かい」快適な温度を保ってくれる。しかし新居での生活が始まると不可解な出来事が起こり始めた。ささいなことから賢二と言い争った住宅メーカーの甘利(松角洋平)が何者かに殺され、賢二の不倫相手だった友梨恵(里々佳)も不審な死を遂げる。話の底が浅く、登場人物も少ないので展開の予想がつきやすいのが難点。新しさはないにしても話自体それほど悪くはないんですが、長々と描く内容でもないのでもう少しコンパクトにまとめた方が良かったと思います。おまけのエピソードは不快なだけで不要でしょう。たぶん、原作もこうなんでしょうね。
フロッギングができるほど大きなアメリカの家ならともかく、日本の家では成立しにくい話ではあります。1時間53分。
▼観客11人(公開4日目の午後)
「ラヴ・ストリームス」
「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ」の1本。1984年の作品で日本公開は1987年10月。公式サイトを引用すると、「他人を愛することに不器用ながらも、愛や孤独をテーマにした小説を書く弟と、その深い愛ゆえに狂気に陥っていく姉の内面の荒廃を描く」。弟がジョン・カサヴェテス、姉がジーナ・ローランズ。実生活で夫婦なので最初はこの2人、元夫婦の関係かと思ったら、姉弟の設定でした。パンフレットによると、元になった戯曲「きみがレモンを切るのを見ている」(テッド・アラン)は「近親相姦へといたるカナダ人姉弟の欲求不満や情念を克明に探求し、児童虐待も主題とする二人芝居」とのこと。元夫婦と誤解したのは元の戯曲がそうした内容だからでしょう。映画の脚本はテッド・アラン自身がまったく新しい内容に書き換えた改訂舞台版をカサヴェテスがさらに映画用に書き直したそうです。
主演を兼ねたカサヴェテスとローランズの演技が見どころで、意味の取りにくい箇所もありましたが、最後まで面白く見られるのはこの2人の演技のためでしょう。ベルリン国際映画祭金熊賞受賞。2時間21分。
「レトロスペクティヴ」の他の5本はU-NEXTで配信していますが、今月末までです。もっとも、U-NEXTの場合、いったん配信が終わってもまた再開することがあります。
IMDb7.7、ロッテントマト100%。
▼観客6人(公開6日目の午後)