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2023年09月24日の記事

2023/09/24(日)「ジョン・ウィック コンセクエンス」ほか(9月第4週のレビュー)

 「ジョン・ウィック コンセクエンス」はキアヌ・リーブス主演、チャド・スタエルスキ監督によるアクション映画のシリーズ第4作で、たぶん最終作。「コンセクエンス」(Consequence)は劇中何度かセリフに出てきて、字幕は「報い」と訳していますが、原題はシンプルに「JOHN WICK:CHAPTER4」です。

 裏社会を牛耳る主席連合から狙われるジョン・ウィック。主席連合の配下で権力を得たグラモン(ビル・スカルスガルド)は聖域としてジョンを守ってきたニューヨークのコンチネンタルホテルを爆破する。さらにジョンの旧友で盲目のケイン(ドニー・イェン)に娘の命と引き換えにジョン・ウィックの殺害を命じる。ジョンは大阪のコンチネンタルホテルを訪れ、旧友で支配人のシマヅ(真田広之)に協力を求めるが、そこにも組織の殺し屋たちがやって来る。

 シンプルな物語に壮絶なアクションを絡めた構成はこれまで通りですが、アクションの質の高さが今回はワンランク上がった印象です。パリの凱旋門のロータリーでジョンと多数の殺し屋が次々に車にはねられながら闘ったり、クライマックス、200段以上ある階段を何度も何度も転げ落ちながら闘ったり、いやこれはどうやって撮影したんだと思うシーンが続出します。ドニー・イェンと真田広之というアクション映画界のベテラン2人を出したのは大正解で、動きに風格があり、画面の重みがまるで違います。

 「ベイビーわるきゅーれ」(2021年)の伊澤彩織は真田広之の娘アキラ役を演じるリナ・サワヤマのスタントダブルにクレジットされていますが(和田崎愛と共同)、キネ旬のインタビューによると、当初はアキラ役の候補でもあったのだそうです。スタエルスキ監督に「ベイビーわるきゅーれ」を見せたら、「Oh,female John Wick!」と喜んだのだとか。伊澤彩織は謎の芸者役で本編にも一場面登場しているそうですが、気づきませんでした。

 3時間近い映画の8割ぐらいはアクションが占め、お腹いっぱいになります。ストーリーにもう少し凝った展開があると、満足感がさらに高まり、文句なしの一級品になるんじゃないかと思います。
IMDb7.8、メタスコア78点、ロッテントマト94%。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間49分。

「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」

 汐見夏衛の原作を酒井麻衣監督が映画化。高校生のラブストーリーには興味がないので敬遠していましたが、最近、ドラマで見かけることが多い久間田琳加が主演していることと、一部で評判が良いので見ました。マスクを手放せない主人公の設定はコロナ禍の影響かと早合点しますが、原作はコロナ以前の2017年に出版されているので関係ありません。といっても、コロナ禍以来マスクしたままの人も多いのでタイムリーな設定と言えますし、映画もそれを意識しているでしょう。

 高校で学級委員長を務める茜(久間田琳加)は人前でマスクを外さない。銀髪のクラスメイト青磁(白岩瑠姫)が苦手だったが、ある日、マスクを忘れて過呼吸になったところを青磁に助けられる。茜は徐々に青磁が描く絵や彼のまっすぐな性格に惹かれていく。茜の母親(鶴田真由)は離婚した後に再婚し、茜には年の離れた義妹がいる。茜は義父(吉田ウーロン太)を「お父さん」と呼べず、家では疎外感を感じている。

 というのが物語の設定。原作には引きこもり状態の兄がいますが、映画はその設定を外したことで茜の疎外感がより強まっています。この序盤の描き方がとても良いのですが、青磁との関係に重心が移っていくと、やや普通のラブストーリーになってしまった観があります。

 茜がマスクを手放さないのは小学生の頃のある出来事が原因で、それ以来、率直な性格から控えめで慎重な性格に変わりました。マスクを外さない=本心を見せないことのきっかけになった重要な出来事ですが、それにかかわる人物のことを茜は忘れていて、これは不自然に思えました。物語の根幹の部分なのでここは工夫したかったところ。

 久間田琳加、白岩瑠姫は無難に役をこなしています。酒井監督の演出もまずまず。汐見夏衛のデビュー作「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 」は福原遥主演で映画化され、12月に公開予定です。
▼観客5人(公開21日目の午後)1時間40分。

「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」

 フランスで違法だった妊娠中絶の合法化に尽力したほか、移民やエイズ患者、刑務所の囚人などの待遇改善に努めた政治家シモーヌ・ヴェイユの生涯を描いた作品。シモーヌの政治姿勢は人道主義が根本にあり、苦しんでいる人がいたら、イデオロギーを超えてまず助ける方を選びます。そこが素晴らしく感動的なところです。

 ユダヤ人であるシモーヌは家族とともにアウシュヴィッツに収容されましたが、幸い収容期間が約6カ月と短かったこともあって助かりました(母親は死亡)。このアウシュヴィッツ体験が人道主義の形成に影響を与えたことは確かなのでしょうが、アウシュヴィッツ体験者のすべてがシモーヌのようになったわけではないので、元々の資質も大きいのでしょう。

 映画は前半がややダイジェスト的になっているものの、シモーヌの考え方は十分に伝えています。僕は寡聞にしてシモーヌのことを知りませんでした。一見の価値は大いにある映画だと思います。脚本・監督は「エディット・ピアフ 愛の讃歌」(2007年)「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」(2014年)のオリヴィエ・ダアン。
IMDb6.8、ロッテントマト70%(アメリカでは限定公開)。
▼観客5人(公開2日目の午後)2時間20分。

「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」

 アガサ・クリスティの「ハロウィーン・パーティ」をケネス・ブラナー監督が映画化。ブラナー監督・主演版のクリスティ映画は「オリエント急行殺人事件」(2017年)「ナイル殺人事件」(2020年)に続いて3作目になりますが、今回は前2作ほど有名な原作ではありません。

 1969年、クリスティが79歳の時に書いた作品で、新訳版の文庫本にある若竹七海さんの解説によると、「犯人の設定はクリスティがさんざん使い込んできたおなじみのパターン。物語は本作の13年前に発表された『死者のあやまち』そっくり」なのだそうです。

 原作の舞台となっているのはロンドンから50-60キロのところにあるウッドリー・コモンという村ですが、映画ではベネチアに変えてあります。このシリーズには観光映画的な側面があるからでしょうか。ホラー風味の演出も取り入れた作りは悪くありませんが、ポアロがあまりに簡単に事件を解決するのが物足りないです。
IMDb6.8、メタスコア63点、ロッテントマト77%。
▼観客13人(公開5日目の午後)1時間43分。