メッセージ

2025年08月24日の記事

2025/08/24(日)「私たちが光と想うすべて」ほか(8月第4週のレビュー)

 「ファイナル・デスティネーション」シリーズ最新作の「ファイナル・デスティネーション ブラッドライン」は日本では劇場公開されず、10月22日からDVD・ブルーレイ・配信開始となりました。タイトルは「ファイナル・デッドブラッド」。レーティングがR18+なのでヒットが見込めないという判断でしょうかね。

「ウルフズ」や「M3GAN ミーガン 2.0」など最近、こういうケースが続いてます。「ミーガン2.0」はまだ配信予定も発表されてません。IMDb6.1、メタスコア54点、ロッテントマト59%で、ここまで低評価だと劇場未公開もしょうがないかなと思います。「ファイナル…」はIMDb6.8、メタスコア73点、ロッテントマト92%と、まずまずの評価です。

「私たちが光と想うすべて」

「私たちが光と想うすべて」パンフレット
「私たちが光と想うすべて」パンフレット
 2024年のカンヌ国際映画祭グランプリを受賞したインド映画(フランス=インド=オランダ=ルクセンブルク合作)。個人的には特に優れた部分があるとは思えず、テーマの描き方も浅く感じ、どこが評価されたのか分かりにくい映画でした。玄人受けしそうなのはラスト近くにファンタスティックな場面を用意していることですが、煙に巻かれたような気分になりました。この年のパルムドールは「ANORA アノーラ」(2024年、ショーン・ベイカー監督)で、女性の生き方を描く点で本作と共通しています。その意味で一環した審査結果ではあり、審査委員長を務めたグレタ・ガーウィグ監督の好みの反映でもあるのでしょう。

 インドのムンバイが舞台。看護師のプラバ(カニ・クスルティ)と年下の同僚アヌ(ディヴィヤ・プラバ)はルームメイトとして一緒に暮らしている。プラバは職場と自宅を往復するだけの真面目な性格。何事も楽しみたい陽気なアヌとの間には少し距離がある。プラバは親が決めた相手と結婚したが、夫はドイツで仕事を見つけ、ずっと連絡がない。インドで多数派のヒンドゥー教徒であるアヌはイスラム教徒のシアーズ(リドゥ・ハールーン)と密かに付き合っているが、異教徒との交際を親が認めるわけがないことは分かっていた。病院の食堂で働くパルヴァディ(チャヤ・カダム)が高層ビル建設のためにアパートの立ち退きを迫られ、故郷の海辺の村へ帰ることになる。プラバとアヌは失意のパルヴァディの励ましも兼ねて村まで一緒に送っていくことにする。

 インドに詳しくない自分に理解しにくいのは言語のこと。プラバが働く病院の医師マノージ(アジーズ・ネドゥマンガード)はムンバイの公用語であるヒンディー語をうまく話せない設定ですが、じゃあ、この医師が話しているのは何語なんだと思うわけです。プラバと会話できるのはいったい何語で話しているからなのだろう?

 パンフレットによると、プラバたちが話しているのはマラヤーラム語です。プラバとアヌはケーララ州出身で、この州の公用語がマラーヤラム語であり、主要登場人物5人を演じる役者のうち、チャヤ・カダムを除く4人は実際にカーララ州出身とのこと。映画で交わされる会話の8割がマラーヤラム語であり、この映画はマラーヤラム語映画と言えるのだそうです。ちなみにケーララ州出身の看護師は優秀な人が多く、「マラーヤラリー・ナース」として一目置かれる存在なのだとか。

 ドキュメンタリー映画「何も知らない夜」(2021年)で注目を集めたパヤル・カパーリヤーの劇映画監督デビュー作。この映画もドキュメンタリーの手法を取り入れることを意識して撮ったそうです。冒頭の場面といい、確かにそんな感じです。カパーリヤー監督はムンバイ出身で、マラーヤラム語は話せないそうです。
IMDb7.3、メタスコア93点、ロッテントマト100%。
▼観客11人(公開2日目の午後)1時間58分。

「バレリーナ The World of John Wick」

b「バレリーナ The World of John Wick」パンフレット
「バレリーナ」パンフレット
 「ジョン・ウィック」シリーズのスピンオフでアナ・デ・アルマス主演。シリーズの監督であるチャド・スタエルスキは製作に回り、「アンダーワールド」シリーズや「ダイ・ハード4.0」のレン・ワイズマンが監督していますが、スタエルスキが追加撮影した部分もあるそうです。アクションのバリエーションが凄い映画で、特に手榴弾を使ったアクションと火炎放射器同士の戦いに見応えがあって感心しました。アクション映画ファンは必見です。

 幼い頃に父親を殺されたイヴ(アナ・デ・アルマス)がロシア系犯罪組織“ルスカ・ロマ”で殺しの腕を磨き、父の復讐に立ち上がるという物語。なぜタイトルが「バレリーナ」というと、ルスカ・ロマでは殺しの技術と同時にバレエも教えているからです。

 アルマスはスタエルスキが共同設立したアクションデザイン会社87elevenでトレーニングを積み、ハードなアクションを見せています。危険なアクション場面ではダブルがいたそうですが、これは吹き替えではないだろうと思えるワンカットのアクションもあって、シャーリーズ・セロンを受け継ぐ美形のアクション女優という感じでした。アルマスは「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2021年、キャリー・ジョージ・フクナガ監督)で華麗なアクションをこなしていました。あれがこの役に繋がったのでしょうね。もっとアルマスのアクションを見たいです。

 「バレリーナ」というタイトルを聞いてNetflixのアクション映画「バレリーナ」(2023年、イ・チュンヒョン監督)を思い浮かべましたが、内容は全く関係ありませんでした。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午前)2時間5分。

「桐島です」

「桐島です」パンフレット
「桐島です」パンフレット
 足立正生監督の「逃走」と同じく「東アジア反日武装戦線 “さそり”部隊」のメンバー、桐島聡を描いた作品。49年間逃走を続けた桐島の逃走中の詳細は分かっていませんので、「爆弾犯の娘」である脚本の梶原阿貴は自分の父親のエピソードを取り入れて物語を作っています。高橋伴明監督の演出も的確で、映画としての結構は「逃走」より上だと思いました。何より主演の毎熊克哉が桐島とよく似ています。

 クリスマスツリー爆弾事件の犯人を父親に持つ梶原阿貴はそれを見込まれて高橋監督から脚本を依頼されたそうです。「5日で初稿あげてこい」という監督の要求は無茶ですが、既に桐島の記事をスクラップしていた梶原阿貴はそれに応えました。「爆弾犯の娘」もそうなのですが、梶原阿貴の文章にはユーモアが滲み出ていて好ましいです。劇中、桐島が安倍首相の言動に怒ってコーヒーカップを投げつけて画面を割るテレビは梶原阿貴が私物を提供したそうです。

 ラスト、アラブ地方と思える場所にいる女性を高橋恵子が演じています。超法規的措置で海外に逃亡した「東アジア反日武装戦線」のメンバーのうち、国際手配され、まだ逃走中の女性は大道寺あや子(大道寺将司の妻)です。エンドクレジットを確認したら、高橋恵子の役名はAYAとなっていました。
▼観客8人(公開5日目の午後)1時間29分。

「ChaO」

「ChaO」パンフレット
「ChaO」パンフレット
 「海獣の子供」のスタジオ4℃がアンデルセンの童話「人魚姫」をモチーフに製作したアニメ。興行的に歴史的大爆死と言われているそうで、僕が見た時も観客1人でした。今年観客1人だった映画は「愛されなくても別に」「見える子ちゃん」に続いて3回目なので別に珍しくはありません。去年は「夜の外側 イタリアを震撼させた55日間」の前編、「密輸1970」「おいしい給食 Road to イカメシ」「美と殺戮のすべて」の4本でした。平日の地方の映画館はそんなものです。

 内容的にはともかく興行的に失敗した原因は誰もが言うようにキャラクターデザインがかわいくないからでしょう。「人は見た目が9割」というベストセラーがありましたが、アニメ映画もキャラデザインがかなり重要なのです。映画を見たいかどうかはそれで決まる要素が大きいです。

 これに関連して、主人公のChaO(チャオ)が水の中では人魚、陸に上がると魚の形態なのも計算違いの気がします。「スプラッシュ」(1984年、ロン・ハワード監督)のダリル・ハンナは陸に上がると人間、水に入ると人魚の姿でした(これが普通)。ChaOは本当に愛し合ってる人の前では陸上でも人魚の姿になるという設定で、これはルッキズムの観点から言うと好ましくはないでしょう。

 舞台が上海なのもよく分かりません。中国での公開を考えたんでしょうか? ストーリー的にも同じ「人魚姫」モチーフの「リトル・マーメイド」(1989年、ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ監督)の素直な展開に負けてます。アニメの技術ではかなり頑張っているのに惜しいです。
▼観客1人(公開6日目の午前)1時間45分。