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2025年08月10日の記事

2025/08/10(日)「カーテンコールの灯」ほか(8月第2週のレビュー)

 Googleで「長崎原爆を描いた映画」を検索すると、AIの回答の中に「黒い雨 (1989年):井伏鱒二の小説を原作に、原爆投下後の長崎を舞台に、原爆症に苦しむ人々の姿を描いた作品」と出てきました(今は修正されてます)。もちろん、「黒い雨」が描いたのは広島原爆の方です。

 Googleは「AI の回答には間違いが含まれている場合があります」と注意書きを付けていますが、いったいどこを捜したら、こんな回答になるんですかね。間違った人のブログでも参照してたんでしょうか?

「カーテンコールの灯」

「カーテンコールの灯」パンフレット
「カーテンコールの灯」パンフレット
 原題のGhostlightは「劇場が閉まっている時、舞台上に灯されたままになっているライト」のこと。主に安全を保つためのものですが、劇場に住みつく亡霊を遠ざける意味もあるそうです。そのタイトル通り、これはある悲劇的な出来事から立ち直れず、崩壊しそうになっている家族が演劇を通して再生する姿を描いています。

 建設作業員のダン(キース・カプフェラー)は妻シャロン(タラ・マレン)と思春期の娘デイジー(キャサリン・マレン・カプフェラー)とのすれ違いの日々を送っていた。ある日、見知らぬ女性に声をかけられたダンは小さなアマチュア劇団の「ロミオとジュリエット」に参加することに。最初は乗り気でなかったが、個性豊かな団員と過ごすうちに居場所を見出してゆく。ダンはロミオ役に抜擢されるが、劇の内容と自身のつらい経験が重なり、次第に演じることができなくなってしまう。そして家族や仲間の想いが詰まった舞台の幕が上がる。

 主人公が出演する「ロミオとジュリエット」の悲劇は主人公が置かれた状況と近すぎると感じました。もちろん、過去のつらい体験と近い内容を演じることで立ち直ることもあるのでしょうが、それよりも役を演じること自体と、新たな仲間とともに公演を成功させること(何かを成し遂げること)が再起に大きな役割を果たすのではないかと思います。

 監督は「セイント・フランシス」(2019年)のアレックス・トンプソンと、脚本も担当しているケリー・オサリヴァンの共同。小品ですが、ユーモアを絡めた作劇は好印象で温かみがあり、スッカスカの大作などよりよほど心に残る作品になっています。主人公の家族を演じた3人は実際の家族だそうです。

 邦題は意味が分かるようで分からず、決して良くありません。普通に「ゴーストライト」とすると、ホラー映画と間違われそうですし、「劇場の灯」もピンとこないので考えた末にこう付けたのでしょうが、もう少し良いタイトルはありませんかね。
IMDb7.6、メタスコア82点、ロッテントマト99%。
▼観客3人(公開初日の午後)1時間55分。

「アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓」

「アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓」パンフレット
パンフレットの表紙
 タイトルの「アメリカッチ」はアメリカ人の意味。これも「カーテンコールの灯」同様、しみじみと良かったです。

 オスマン帝国(現在のトルコ)によるアルメニア人虐殺・迫害から逃れるために、幼い頃アメリカに渡ったチャーリー(マイケル・グールジャン)は1948年、祖国アルメニアに戻る。ソビエト連邦の統治下であっても、理想の故郷と思えたからだ。だが、食料を求める長蛇の列、劣悪な生活環境、そしてソ連による統治の重圧に直面する。ある日、チャーリーは不当に逮捕され、収監されてしまう。悲嘆に暮れながらも、牢獄の小窓から近くのアパートの部屋が見えることに気づき、そこに暮らす夫婦の“幸せな食卓”を観察することが彼の日課となる。

 ヒッチコックの「裏窓」(1954年)を思わせるシチュエーションですが、サスペンスではなく、ユーモアも絡めたヒューマンなドラマです。監督・主演を務めたマイケル・グールジャンはサンフランシスコ生まれのアルメニア系アメリカ人。

 アカデミー国際長編映画賞のショートリストに入ったそうですが、ノミネートには至りませんでした。
IMDb7.3、メタスコア62点、ロッテントマト88%。
▼観客5人(公開7日目の午前)2時間1分。

「長崎 閃光の影で」

「長崎 閃光の影で」パンフレット
「長崎 閃光の影で」パンフレット
 1945年の長崎で原爆被爆者の救護に当たった看護学生の少女たちを描いた作品。「閃光の影で:原爆被爆者援護赤十字看護婦の手記」(日本赤十字社長崎県支部)を原案に長崎出身で被爆三世の松本准平が脚本(保木本佳子と共同)と監督を務めました。

 長崎原爆をテーマにした作品は黒木和雄監督の傑作「TOMORROW 明日」(1988年、キネ旬ベストテン2位)がありますが、広島原爆の映画に比べて数は意外に少なく、投下後の惨状を劇映画で本格的に描いた作品はほかに思いつきません。プロデューサーの鍋島壽夫は「TOMORROW 明日」をプロデュースした人。「TOMORROW 明日」で原爆投下前の長崎の人々を描いたので、今度は投下後を描く作品を作りたかったのでしょう。

 井上光晴の原作(「明日 一九四五年八月八日・長崎」)があった「TOMORROW…」に対して、これは手記の脚本化。ドラマに弱い部分があるのは端的に脚本の詰めが足りなかったためと思われます。朝鮮人を差別し、治療を拒否する場面を描くなど意欲的な部分もありますが、物語にエモーションをかき立てるような求心力が今一つ足りないと思えました。

 映画初主演の菊池日菜子をはじめ出演者は頑張ってます。主題歌は福山雅治作詞作曲の「クスノキ」(2014年発表)を使用していて、これはぴったりの選曲だと思いました。
▼観客9人(公開5日目の午後)1時間49分。

「ジュラシック・ワールド 復活の大地」

「ジュラシック・ワールド 復活の大地」パンフレット
パンフレットの表紙
 登場人物を一新したシリーズ第7作。心臓病の治療薬に恐竜のDNAが活用できることが分かり、陸・海・空に生息する3大恐竜のDNAサンプルを採取しようとするストーリー。酷評が多いですが、僕は退屈せずに見ました。序盤の海洋恐竜モササウルスとの戦いは「ジョーズ」(1975年)を思わせ、相手が巨大なだけにずっとリアルで迫力がありました。

 ミッションに参加するのは製薬会社のマーティン・クレブス(ルパート・フレンド)、特殊工作員ゾーラ・ベネット(スカーレット・ヨハンソン)、彼女が信頼するダンカン・キンケイド(マハーシャラ・アリ)、古生物学者のヘンリー・ルーミス博士(ジョナサン・ベイリー)ら。これにモササウルスに襲われて転覆したヨットで漂流していたルーベン・デルガド(マヌエル・ガルシア=ルルフォ)の娘2人と娘の恋人の計4人が加わります。ゾーラたちは金儲けのために恐竜の島に乗り込むわけで、共感を得にくいのが難(後で改心します)。そんな危険な場所に行って、当然のように危険な目に遭うのは自業自得で、ドラマもキャラクターの深みも足りません。

 それでも、おなじみのティラノザウルスをはじめ、巨大翼竜のケツァルコアトルス、竜脚類ティタノサウルスなどさまざまな恐竜が登場し、存分に暴れ回ってくれます。そういうものを好きな人は楽しめるでしょう。誰かが書いてましたが、アトラクションのような映画であり、4DXやMX4Dの体感型上映方式にぴったりではないかと思います。監督は「GODZILLA ゴジラ」(2014年)、「ザ・クリエイター 創造者」(2023年)のギャレス・エドワーズ。
IMDb6.1、メタスコア50点、ロッテントマト51%。
▼観客15人ぐらい(公開初日の午前)2時間1分。

「アンティル・ドーン」

 人気ゲームの実写化で、人里離れた山荘で男女5人が殺されて生き返るループを繰り返すホラー。これも酷評だらけですが、ラストのループの貧弱な説明を除けば、まずまずと思いました。

 ループを抜けるには夜明けまで生き延びる必要があります。しかも単なるループではなく、繰り返すうちにどうやら怪物化していくことが分かってきます。ループできるのは13回目までらしく、それを超えると怪物になって夜に取り込まれてしまう、というわけ。

 敵も殺され方もバリエーションがあり、残虐描写が多いのでR18+指定となってますが、それほど大したことはありませんでした。監督は「アナベル 死霊人形の誕生」(2017年)、「シャザム!」(2019年)のデビッド・F・サンドバーグ。
IMDb5.8、メタスコア47点、ロッテントマト52%。
▼観客5人(公開6日目の午後)1時間43分。