2026/01/11(日)「Black Box Diaries」ほか(1月第2週のレビュー)

 映画「五十年目の俺たちの旅」公開に合わせてTVerでドラマ「俺たちの旅」(1975年)全46話と「十年目の再会」「二十年目の選択」「三十年目の運命」が配信されています。有料のHuluではなぜか「十年目」以降の3話は配信されていません。普段からTVerでは地上波で番組が終わると、すぐに配信が始まりますが、Huluでは翌日になります。有料より無料を優遇するとはどういうことでしょう? まあ、日テレにとっては少しでもCM収入を増やせるのでTVerで配信するメリットはあるんでしょうけどね。

「Black Box Diaries」

「Black Box Diaries」パンフレット
「Black Box Diaries」パンフレット

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが監督を務め、自らの性被害を告発、追及する過程を描いたドキュメンタリー。理不尽な誹謗中傷と脅しにさらされる苦しい日々が続いた後、クライマックスにまるでドラマのような場面が訪れます。それは事件があったホテルのドアマンの証言。事件から4年たった頃、ドアマンの男性は事件の夜に自分が見たことを伊藤さんにメールで連絡してきます。これまでに明らかになっていなかった新たな重要証言であり、伊藤さんは民事訴訟の裁判でこの証言を出したいと、男性に電話で許可を請います。そして男性の「裁判で私の名前を出してもらってかまいません」という返事を聞いて泣き崩れます。

 意識がもうろうとした状態でTBSの元記者に無理矢理ホテルに連れ込まれ、レイプされた事件。それから裁判までの大まかな流れは知っていましたが、映画で描かれる伊藤さんへの謂れ無い誹謗中傷の多さに胸が痛むと同時に怒りがふつふつと沸騰してきます。伊藤さんは強い女性だから事件を追及し、民事裁判を闘えたわけではなく、性被害のPTSDから逃れるために打ち込んできたのではないかと思えます。

 ドアマンの男性の証言を裁判に使うことで彼は職場を追われるかもしれない、と伊藤さんの弁護士は忠告しますが、「名前を出してかまわない」と言った男性はそれを承知の上でした。伊藤さんの苦闘をさんざん見せられた後だったので、男性の言葉に救われる思いがしました。事件を握りつぶそうとする警察上層部の腐った幹部やネットのデマに踊らされて被害者を誹謗中傷する浅薄な人たちもいますが、もちろん、そんな人間ばかりではないわけです。幸い、男性が職を失うことはなかったそうです。

 両親への遺書のようなビデオレターの自撮り撮影直後に病院の描写があり、伊藤さんが自殺未遂していたことを示唆する場面があります。性被害は深刻な心の傷を残し、それが完全に癒えることはないのでしょう。被害を受けて11年。#MeToo運動(2017年、ニューヨーク・タイムズがハーヴェイ・ワインスタインの性加害を告発した記事がきっかけ)の前に起きた事件であり、伊藤さんの行動はその先駆けになったものと言えます。心の傷が少しでも和らぐことを願うばかりです。
IMDb7.5、メタスコア82点、ロッテントマト99%。アカデミー長編ドキュメンタリー賞候補。
▼観客5人(公開初日の午前)1時間42分。

「五十年目の俺たちの旅」

「五十年目の俺たちの旅」パンフレット
「五十年目の俺たちの旅」パンフレット
 人気を博した青春ドラマ「俺たちの旅」(1975年、日テレ)の50年後を描く作品。10年目、20年目、30年目の際もドラマが作られましたが、2015年の40年目の時はドラマのメイン監督だった斎藤光正さんが2012年に亡くなっていたため、見送られたそうです。

 今回は50周年だからということで作ったのでしょうが、残念ながらドラマの中身に見るべきものはほとんどありません。初めて監督を務めた中村雅俊が歌う主題歌と昔の映像には懐かしさを感じましたが、それだけ。かつての登場人物たちの現在のドラマに語るべきことがない(思いつかない)のなら、作る必要はなかったと思います。

 原作・脚本は50年前のドラマも担当した鎌田敏夫。70代になった津村浩介(カースケ=中村雅俊)と大学時代の同級生・神崎隆夫(オメダ=田中健)、カースケの小学校の先輩・熊沢伸六(グズ六=秋野太作)の現在の状況が描かれます。僕は知りませんでしたが、山下洋子(金沢碧)は「三十年目の運命」の中で死んでいたことが分かったという設定だったそうです。

 洋子はカースケに思いを寄せる重要な役柄でしたから、しばしば挿入される過去の映像にも頻繁に登場します。しかし、映画のエンドクレジットに金沢碧の名前はありませんでした。僕の見落としかと思い、パンフレットを確認しましたが、やはりありません。金沢碧は女優を引退しているらしいですが、映像を使っているのにクレジットに入れなくて良いのでしょうかね。

 映画を見る前にドラマの第1話をHuluで見たんですが、映像が意外にきれいなことに少し驚きました。地デジが始まる前にビデオ撮影されたテレビドラマは例外なく画質が悪いです。このドラマがきれいなのはフィルム撮影だったからでしょう。といっても16ミリフィルムのはずですから、スクリーンでは画質の粗さは出てしまいます。映画は現在と過去の映像をスムーズにつなげるため、画面比率4:3のスタンダードサイズで撮られています。今のテレビだと、この画面比率でドラマを作るのは民放では難しいでしょうから、映画にしたのはそれが理由の一つかもしれません。

 映画を見た後に「十年目の再会」をTVerで見ました。オメダは妻子を残して家を出てシングルマザー(永島暎子)と暮らし、洋子の夫は不倫しており、オメダの妹真弓(岡田奈々)は離婚という状況。鎌田敏夫はこの前に「金曜日の妻たちへ」の脚本を書いており、それに引きずられたような内容と言えますが、ドラマ全体の出来は悪くないと思いました。「五十年目」もこれぐらいの水準は保って欲しかったところです。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午後)1時間49分。

「手に魂を込め、歩いてみれば」

「手に魂を込め、歩いてみれば」パンフレット
パンフレットの表紙
 「通りに出る時はいつも手に魂を込めて歩くの」。ガザに住むパレスチナ人で、フォト・ジャーナリストのファトマ・ハッスーナのこの言葉がタイトルの由来。「手に魂を込める」とはGoogleのAIによれば、「作品や仕事に心(魂)を込めて、情熱や思い、技術を最大限に注ぎ込むこと」を意味するそうです。

 そのファトマと1年近くビデオ通話を続けたイラン人の監督セピデ・ファルシがまとめたドキュメンタリー。イスラエルによる爆撃が続くガザでファトマは死の恐怖と飢えに苦しみながら、ビデオ通話では笑顔を絶やしません。ガザの犠牲者は昨年12月の段階で7万人を超えたそうです。数字だけでは実感しにくい人の命の重さを、この映画は25歳で亡くなった1人の女性の考え方と生き方、人柄を描くことで痛切に伝えています。

 観客の多くは映画を見ているうちにファトマに親近感を持つでしょう。元々、途切れがちだったビデオ通話が完全につながらなくなると、ファルシ監督と同じくファトマの身を案じて不安になるはず。イスラエルがやっていることは狂気の沙汰であり、これまでのナチスのホロコーストを糾弾した数々の映画の価値を著しく貶めることにつながっています。イスラエルはナチスと同等の醜悪な存在になるつもりなんでしょうか。
IMDb7.7、メタスコア83点、ロッテントマト98%。
▼観客3人(公開11日目の午前)1時間53分。

「殺し屋のプロット」

「殺し屋のプロット」パンフレット
「殺し屋のプロット」パンフレット
 マイケル・キートン監督・主演。キートンの監督作としては2本目になりますが、殺し屋が認知症(アルツハイマーではなく、クロイツフェルト・ヤコブ病)になる話、と思って油断していたので、ラストの種明かし的な展開にえっと驚きました。

 きちんと伏線を張っているのが良く(途中でこれは何をやってるんだろうと思うシーンがありましたが、忘れちゃいますね)、ミステリーファンにもアピールする内容だと思います。アメリカでの評判はあまり良くないんですが、日本ではそこそこ良い評価になってます。脚本は「ナショナル・トレジャー2 リンカーン暗殺者の日記」(2007年、ジョン・タートルトーブ監督)などのグレゴリー・ポイリアー。共演はアル・パチーノ、マーシャ・ゲイ・ハーデンら。
IMDb7.0、メタスコア54点、ロッテントマト66%。
▼観客3人(公開5日目の午後)1時間55分。

「プラハの春 不屈のラジオ報道」

「プラハの春 不屈のラジオ報道」パンフレット
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 1968年のプラハの春と言えば、ミラン・クンデラの原作を映画化した「存在の耐えられない軽さ」(1987年、フィリップ・カウフマン監督)を思い出します。市街地への戦車の登場シーンは鮮烈でした。非日常的な戦車の地響きは自由が崩れ去る音のように聞こえました。

 「プラハの春 不屈のラジオ報道」でもソ連率いるワルシャワ条約機構軍の戦車は登場しますが、「存在の…」ほど強い印象を残さないのはプラハの春以前の不自由な時代が描かれているからでしょう。「存在の…」はダニエル・デイ・ルイス演じる主人公の脳外科医がプレイボーイであるという軽さが対比の上で効果を上げていました。

 チェコスロバキア国営ラジオ局の国際報道部を舞台にしたこの映画は1967年10月の学生デモから始まります。プラハの春は1968年1月始まったとされていますが、映画では同年3月にノヴォトニー大統領が裏金発覚で辞任したことから本格化したように描かれています。そして自由化阻止を狙った8月のソ連による軍事侵攻で“春”は終わります。

 脚本・監督のイジー・マードルは当時の記録映像も取り入れて事態の経過を描いています。真正直な映画化ではあるんですが、監督が参照したという「アルゴ」(2012年、ベン・アフレック監督)や「グッドナイト&グッドラック」(2005年、ジョージ・クルーニー監督)には及ばないと思えました。
IMDb7.8(アメリカでは限定公開)
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午後)2時間11分。

2026/01/04(日)「教場 Reunion」ほか(1月第1週のレビュー)

 amazonプライムビデオでApple TVのサブスクリプションが始まったためかどうか知りませんが、うちのパナソニックのテレビはApple TVのアプリを実行すると、いちいちログイン画面が出るようになりました。正確にはApple TVでログインするか、amazonでログインするかの二択が出るんです。パナソニックのテレビはamazonのFire OSを使っているので、こうなるのも分からなくはないんですが、いちいちログインはやっぱり面倒。というわけでamazonでApple TVに入り直しました。

 さっそく第3シーズンを見始めたばかりだった「窓際のスパイ」を見てみたら、字幕がクローズドキャプション(CC)しか選べません。CCは主に聴覚障害者向けの字幕で普通の会話のほか、ドアの音や音楽、誰のセリフかなどが分かる説明が入ります。逆にほかの映画は普通の字幕しかなく、CCは選べません。うーん、これもおかしな仕様ですね。普通の字幕とCCの両方から選べるようにするのが理想でしょう。ドラマにCCしかないのは日本語吹き替え版で見る人が多いだろうという考えなんでしょうかね。

「教場 Reunion」

 長岡弘樹原作のテレビドラマの後を受けて脚本・君塚良一、監督・中江功で映画化したNetflix作品。Reunion(再集結)のタイトルは風間公親(木村拓哉)教場の教え子たちが、シリーズ最大の凶悪犯で風間に恨みを持つ十崎(森山未來)の捜査で一堂に会することに由来しているのでしょう。

 物語はいつものように警察学校の新入生たちのエピソードが描かれる形で進行しますが、中盤にかつての教え子たちが集う場面、染谷将太、新垣結衣、赤楚衛二、川口春奈、白石麻衣、福原遥、大島優子らが十崎捜査の話し合いをする場面が入ることでぐっと引き締まりました。ラストは2月20日劇場公開の「教場 Requiem」につながる形で終わります。最後の場面に意外な人物を出してくるのがうまいところ。劇場版への期待が高まりました。

 今回の新入生の中心になるのは綱啓永。ほかに齊藤京子、金子大地、倉悠貴、井桁弘恵、大友花恋、大原優乃、猪狩蒼弥らが出ていますが、井桁弘恵ら一部の出演者は活躍の場があまりなく、劇場版の方に持ち越されたようです。元日向坂46の齊藤京子は最初にドラマ「泥濘の食卓」(テレ朝系)に出た時は演技が不安定でしたが、ドラマ出演を重ねてだんだん巧くなった感があります。今月公開の「恋愛裁判」(深田晃司監督)も楽しみです。

 これを見ていなくても劇場版は分かる作りになっていると思います。もちろん、見ておいた方が楽しめるでしょう。

 画面に出たタイトルは「教場III Reunion」となってました。第3シーズンにあたりますからね。2時間30分。

「ナイブズ・アウト ウエイク・アップ・デッドマン」

 ダニエル・クレイグが名探偵ブノワ・ブラン役を演じる本格ミステリーシリーズ第3弾。昨年9月にカナダのトロント国際映画祭で上映された後、各地の映画祭や一部の国で劇場公開し、12月12日からNetflixで配信が始まりました。

 田舎町の教会で司祭(ジョシュ・ブローリン)が密室的な状況下で殺される。教会の中には地域の住民たちがいたが、赴任したばかりの若い神父(ジョシュ・オコナー)が一番近くにおり、司祭と不仲だったためもあって容疑がかかる。警察の要請を受けたブノワ・ブランが捜査を始める中、もう一つの殺人事件が起こる。

 2つの殺人はいずれも不可能犯罪と呼べるもので、特に2番目の事件はタイトル通り、死者が死体安置所のコンクリートを砕いて登場し、殺人を犯すというもので興味を引きます。脚本・監督はライアン・ジョンソン。ジョン・ディクスン・カーの名作「三つの棺」への言及シーンがあるなど、ジョンソン監督の本格ミステリー好きがうかがえました。4作目の構想もあるとか。

 出演はほかにグレン・クローズ、ジェレミー・レナー、ミラ・クニス、アンドリュー・スコット、ケリー・ワシントン、ケイリー・スピーニーら。スピーニーは車椅子で登場し、「エイリアン:ロムルス」「シビル・ウォー アメリカ最後の日」とは違った魅力を見せています。
IMDb7.4、メタスコア80点、ロッテントマト92%。2時間24分。

2025/12/28(日)「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」ほか(12月第4週のレビュー)

 西尾潤「愚か者の疾走」を読みました。「愚か者の身分」の続編というより、登場人物のその後を描いた連作という位置づけになると思います。「柿崎護」、「小波(梶谷)剣士」のほか、映画には出てこなかった「六本木探偵事務所」の3編が収録されています。北村匠海、林裕太、綾野剛が演じたキャラクター3人はそれぞれ真っ当な職業に就こうとしていて、ホッとするような話でした。彼らのその後が気になった観客は多かったと思いますが、作者も書いておきたかったのでしょうね。

「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」

「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」パンフレット
パンフレットの表紙
 スイスの片田舎のお針子が事件に遭遇し、針と糸を駆使して危機を切り抜けようとするサスペンス。フレディ・マクドナルド監督が19歳で発表して、ジョエル・コーエン監督に絶賛された短編「Sew Torn」を長編化した作品で、コメディーを絡めて、まず合格点の作品になっています。

 スイスの山中にある小さな町。お針子のバーバラ(イヴ・コノリー)は母を亡くし、譲り受けた“喋る刺繍”の店は倒産寸前だったが、相談できる友人も恋人もいなかった。ある日、常連客との約束に遅刻した上に、ボタンを落としてなくすミスをして激怒させてしまう。愛車のフィアット500(チンクエチェント)でボタンを取りに店に戻る途中、バーバラは麻薬取引の現場に遭遇。売人の男2人が血まみれで倒れ、道には白い粉入りの紙袋、拳銃と大金の入ったトランクがあった。バーバラは「完全犯罪(横取り)」「(警察に)通報」「直進(見て見ぬふり)」の三つの選択肢を思い浮かべる。

 元になった短編はYouTubeで公開されています。

 ジョエル・コーエンに言われてマクドナルド監督は長編化しようとしますが、脚本を22回書き直してもダメだしをされたそうです。そこで原点に立ち返って、3つの選択肢のアイデアを思いついたとのこと。この経験は映画に活かされていて、3つの選択肢のどれでもないハッピーで含蓄のある結末へと向かいます。人間、追い詰められると視野が狭くなってしまいがちですが、実はもっと別の方法があったりするわけです。そんなことを考えさせるうまいラストだと思いました。
IMDb6.0、ロッテントマト95%(アメリカでは映画祭で上映)。
▼観客20人ぐらい(公開2日目の午後)

「劇場版 緊急取調室 THE FINAL」

「劇場版 緊急取調室 THE FINAL」パンフレット
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 警視庁の緊急事案対応取調班(通称キントリ)の活躍を描くテレビドラマの劇場版。第5シーズンのドラマを見ていましたが、井上由美子の脚本は力の入ったものが多くて楽しめました。特に第4話は死刑囚を演じた大原櫻子の演技が光る傑作でした。劇場版はテレビシリーズを見ていなくても分かる作りですが、やっぱり見ていた方が楽しめます。

 超大型台風が連続発生する中、内閣総理大臣・長内洋次郎(石丸幹二)は災害対策会議に10分遅れて到着する。長内総理はその「空白の10分」を糾弾する暴漢に襲撃された。警視庁は総理を襲った森下弘道(佐々木蔵之介)を取り調べるため、キントリを緊急招集する。真壁有希子(天海祐希)らキントリチームは取調べを始めるが、森下は犯行動機を語らないどころか、取調室に総理大臣を連れて来いと無謀な要求を繰り返す。総理と森下の関係を調べるうちに35年前のヨット遭難事件が関係していることが分かる。

 間延びした部分はありませんが、この事件だけで2時間持たせるのは少し苦しくも感じます。警察が舞台でも複数の事件が並行して起こるモジュラー型にしにくいのが難しいところです。

 Finalと銘打っているようにキントリチームは解散しましたが、以前も解散してましたし、いつでも再招集はできるので復活しても良いんじゃないでしょうかね。監督はテレビシリーズも担当した常廣丈太。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間1分。

「映画ラストマン FIRST LOVE」

「映画ラストマン FIRST LOVE」パンフレット
パンフレットの表紙
 キントリと同じくテレビドラマの劇場版で、こちらの方がヒットしているようです。ただ、出来はキントリの方が上だと思いました。

 テレビシリーズも担当した黒岩勉の脚本は面白くなりそうな要素と物語展開を備えていますが、演出に少し問題があるようです。詳細は避けますが、月島琉衣の役柄は本来なら20代半ばぐらいの女優の方が説得力があったと思います。クライマックスにしても、あの2人がどうやって助かったのかの説明は必要でしょう。

 とはいっても、福山雅治と大泉洋のコンビのおかしさに女性客は笑ってましたし、それなりに満足度はあったんじゃないでしょうか。監督は平野俊一。
▼観客15人ぐらい(公開初日の午後)2時間7分。

「火の華」

「火の華」パンフレット
「火の華」パンフレット
 南スーダンでPKOに従事していた自衛隊員が襲撃を受け、数年後、日本で隊員たちによるクーデターが発生するというプロットがとてもよく似ているので「機動警察パトレイバー2 The Movie」(1993年、押井守監督)にインスパイアされたのだろうと思いましたが、直接的には2016年の自衛隊日報問題から発想した物語とのこと。日報問題とは南スーダンの自衛隊駐留地が反政府ゲリラから襲撃を受けたことを記録した日報を防衛省が廃棄したとされる問題。その後、電子データの存在が発覚し、関係者が辞任しました。

 パンフレットにそう書いてあるので「クーデター」と書きましたが、映画の描写からは単なる人質事件としか思えないのが残念なところ。人質2人を別々の場所に監禁し、どちらを助けるかを迫るこのクライマックスは恐らく「ダークナイト」(2008年、クリストファー・ノーラン監督)のクライマックスを参考にしたのでしょう。「ダークナイト」の場合、バットマンは1人なのでどちらを助けるか選ぶ必要がありましたが、この映画、警察が手分けして両方助ければ良いだけことなので、設定が意味をなしていません。どうも脚本の詰めの甘さが気になりました。

 本当なら「パトレイバー2」が描いたようなスケールの大きなクーデター(TOKYOウォーズ)を描きたかったはず。それにはもっと製作費が必要で、それができないなら、説得力のある別の物語を考える必要があったと思います。

 監督は「ジョイント」(2020年)の小島央大。主演は同じく「ジョイント」主演の山本一賢。脚本はこの2人の共同となっています。ハードな内容なのに観客はなぜか女性客が多かったです。タイトルからロマンティックな映画と誤解したのか、あるいは冨永愛の第二子妊娠で名前が出た山本一賢が目当てだったのか(それはないか)。
▼観客10人ぐらい(公開5日目の午後)2時間4分。

「モンテ・クリスト伯」

「モンテ・クリスト伯」パンフレット
「モンテ・クリスト伯」パンフレット
 アレクサンドル・デュマの原作は岩波文庫版で全7巻(3年計画で刊行中の光文社古典新訳文庫は全6巻)と長大なので映画は約3時間かけても説明不足のところは残ります。主人公エドモン・ダンテス(ピエール・ニネ)が無実の罪を着せられて投獄され、脱獄するまで1時間ぐらい。サクサク話が進み(すぎ)ますが、復讐に入って展開が停滞し、終盤またドラマティックに盛り返した感じ。全体としてはまずまずの出来というところに落ち着くと思います。

 エデという女性が途中から出てきてダンテスに協力するんですが、どういう素性なのか説明されるのは終盤。これは分からないでもないんですけど、演じるアナマリア・ヴァルトロメイ(「あのこと」「ミッキー17」「タンゴの後で」)がとても魅力的なので気になりました。

 このエデは原作とは設定が異なるようです。原作未読なので詳しく分かりません。というわけで光文社の新訳版の1巻を読み始めました。2巻の刊行は来年1月。半年に1度のペースで刊行していくようです。
IMDb7.6、メタスコア75点、ロッテントマト97%。
▼観客5人(公開21日目の午後)2時間58分。

2025/12/21(日)「シャドウズ・エッジ」ほか(12月第3週のレビュー)

 スティーブン・スピルバーグ監督の次作「ディスクロージャー・デイ」の予告編が公開されています。内容は異星人絡みのSFということ以外まだよく分かりませんが、めちゃくちゃ面白そうです。スピルバーグのSF作品は2018年の「レディ・プレイヤー1」以来とのこと。来年夏公開予定です。

 劇場限定で公開されているのが「アベンジャーズ ドゥームズデイ」のティーザー映像。内容はスティーブ・ロジャース=キャプテン・アメリカが帰ってくるというもの。「アベンジャーズ エンドゲーム」(2019年)で高齢の老人になったのに、どうやって帰って来るのでしょう? まあ、「アベンジャーズ」シリーズはタイムトラベルもマルチバースもありですから、どうやってでも帰ってこられるんですけどね。こちらは来年12月公開予定です。

「シャドウズ・エッジ」

「シャドウズ・エッジ」パンフレット
「シャドウズ・エッジ」パンフレット
 2007年の香港映画「天使の眼、野獣の街」(ヤウ・ナイホイ監督)のリメイク。主演のジャッキー・チェンはもちろん、女優も含めて出演者が全員、ハードな格闘アクションができるのが強みで、これにサイバー犯罪を絡めた物語の面白さが加わって、最近のアクション映画の中では出色の出来だと思いました。1月に公開された「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」(ソイ・チェン監督)よりこちらを強く推します。

 マカオが舞台。華やかな街の裏側で正体不明のサイバー犯罪集団が暗躍していた。警察はなす術もなく、追跡のエキスパートであるホワン・ダージョン(ジャッキー・チェン)を呼び戻す。ホワンは現役を退いていたが、若き精鋭たちとチームを組み、最新テクノロジーと旧式の捜査術を駆使して、影(シャドウ)と呼ばれる犯罪集団のボスで指名手配犯の元暗殺者フー・ロンション(レオン・カーフェイ)を追う。

 冒頭の犯人グループと警察との死闘から見せ場は十分。犯人たちは格闘でも警察以上の力を持っていて、逃走途中で変装し、戦い、タワーからパラシュートで逃げていきます。格闘とアクロバティックなアクションを盛り込んだスピーディーな組み立てが見事でした。

 犯人たちに完敗した警察は追跡班を組織するために、既に退職しているホワンを呼ぶというのがスムーズな展開になっています。ホワンと組むのはかつての相棒の娘ホー・チウグオ(チャン・ツイフォン)。チウグオは父親が死んだのはホワンのせいだと思っていて、最初は反発しますが、次第に理解を深めていきます。アクションもできるチャン・ツイフォンは「少年の君」(2019年、デレク・ツァン監督)のチョウ・ドンユイに似ていて、中国ではこういうルックスに人気あるのでしょうね。

 ジャッキー・チェンは格闘とアクロバティックなアクションのどちらもできる人でしたが、さすがに71歳ともなると、「プロジェクトA」(1983年、監督もジャッキー・チェン)で見せた高所から落ちるようなアクロバット系のアクションは無理。しかし、70代でこの格闘アクションができる俳優はほとんどいないでしょう。敵役のレオン・カーフェイは67歳。アクション俳優ではありませんが、ナイフを使った凄みのある格闘でジャッキーと対等に渡り合っています。

 脚本・監督は「ライド・オン」(2023年)のラリー・ヤン。構成を練り、テンポを変え、2時間17分の上映時間を飽きさせません。含みを持たせたラストだったので続編も作る予定なのでしょう。楽しみに待ちたいです。
IMDb7.2、ロッテントマト80%。
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午後)2時間21分。

「ネタニヤフ調書 汚職と戦争」

「ネタニヤフ調書 汚職と戦争」パンフレット
パンフレットの表紙
 イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフの汚職捜査を描き、本国では上映禁止となったドキュメンタリー。警察での尋問映像が流出したというのが凄いですが、警察内部にも反ネタニヤフの人たちがいるということなのでしょう。ネタニヤフとその妻、息子の3人の尋問の様子を見ると、汚職うんぬんの前に唾棄すべき傲慢な人間たちであることが一目瞭然。この家族3人が政権に関わっていることがイスラエル全体のイメージを落とし、ユダヤ人のイメージ低下にもつながっているのは間違いありません。

 汚職捜査が進む段階で、2023年10月、ハマスによるイスラエル攻撃がありました。ネタニヤフは反撃のためガザを徹底的に破壊しますが、戦争状態に入ったことで汚職捜査は中断しました。悪運が強い男であり、戦争を終わらせれば捜査が再開されるので、戦争を長引かせたという指摘もあります。今は一時的に攻撃をやめていますが、これで本当に平和が訪れるかどうかは分かりません。ガザ以外の他国への攻撃を始める可能性もあるでしょう。

 ネタニヤフは恩赦の申請を計画しているようです。まだ有罪判決が出たわけではないので恩赦なんてできるはずがありません。捜査の行方を見守る必要があります。監督はアレクシス・ブルーム。
IMDb7.6、メタスコア73点、ロッテントマト95%。
▼観客10人ぐらい(公開4日目の午後)1時間55分。

「ブルーボーイ事件」

「ブルーボーイ事件」パンフレット
「ブルーボーイ事件」パンフレット
 日活の懐かしいKマークのタイトルが出るのは舞台となる1965年の時代を反映しているのでしょう。ファッションや風俗も時代色を出していますが、裁判所のセットがなんとなく裁判所風という作りで低予算なのはありあり。しかし、やや寂しさも感じる画面とは裏腹にトランスジェンダーをテーマにした内容はとても充実していると思いました。特にクライマックス、主人公のサチ(中川未悠)が性別適合手術(当時は性転換手術)を受けた後悔も含めてトランスジェンダーへの偏見・差別の現状を裁判で証言する場面は感動的。60年前の実際の裁判を基にしているそうですが、トランスジェンダーを取り巻く状況は今もそんなに変わっていないのではないかと思えます。

 手術によって身体の特徴を女性的に変えたブルーボーイと呼ばれるセックスワーカーの取り締まりに警察は頭を悩ませていた。現行の売春防止法では摘発対象にはならないからだ。そのため警察は生殖を不能にする手術が「優生保護法」に違反するとして、手術を行った医師の赤城(山中崇)を逮捕する。喫茶店でウェイトレスとして働くサチ(中川未悠)も赤城医師から性別適合手術を受けていた。サチは恋人の若村(前原滉)からプロポーズを受けたところだったが、弁護士の狩野(錦戸亮)が訪れ、証人としてサチに出廷してほしいと依頼する。

 飯塚花笑監督をはじめトランスジェンダーを演じる俳優は実際のトランスジェンダーの人たちだそうです。
▼観客5人(公開5日目の午後)1時間46分。

「アバター ファイヤー・アンド・アッシュ」

「アバター ファイヤー・アンド・アッシュ」パンフレット
パンフレットの表紙
 前作「アバター ウェイ・オブ・ウォーター 」から3年ぶりの第3作。このシリーズ、1作目(2009年)が2時間42分、前作が3時間12分、今回が3時間17分とだんだん長くなっています。観客フレンドリーな上映時間とは言えず、ぼくが見た時は途中で5、6人が(トイレのため?)自主休憩してました。この長さがどうしても必要かというと、物語としては2時間半もあれば、描けそうな内容でした。VFXのレベルは高く、退屈せずに見ましたが、上映時間には一考の余地がありそうです。

 惑星パンドラで人類に立ち向かったジェイク・サリー(サム・ワーシントン)はナヴィ族の妻ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と息子のロアク(ブリテン・ダルトン)、娘のトゥクティレイ(トリニティ・ジョリー・ブリス)、養女キリ(シガニー・ウィーバー)、クオリッチ大佐(スティーブン・ラング)の息子スパイダー(ジャック・チャンピオン)と暮らしていた。ジェイクはスパイダーの安全を考え、科学者たちの元へ送り届けようとする。旅の途中、一家はヴァラン(ウーナ・チャップリン)率いるマンクワン(別名アッシュ)族の攻撃を受け、旅は中断。人間とナヴィのハイブリッドであるクオリッチ大佐はヴァランと手を結び、ジェイクたちを襲ってくる。

 クライマックスは人間とマンクワンの連合対ジェイクとナヴィ族連合との戦いが空と海で繰り広げられます。ここは見応えはあるんですが、これまでの2作で見たのと同じような場面と感じられてしまいます。物語はこれで終わっても何ら問題はなさそうですが、ジェームズ・キャメロン監督は全5部作の構想を発表しており、次作は2009年公開予定になってます。前作と今作の違いは大きくはなく、新機軸を打ち出せないなら作る必要はないんじゃないでしょうかね。
IMDb7.6、メタスコア62点、ロッテントマト69%。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午前)3時間17分。

「ひとつの机、ふたつの制服」

「ひとつの机、ふたつの制服」パンフレット
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 原題は「夜校女生」。名門高校の夜間部に通う女子生徒を主人公にした台湾映画で、邦題は1つの机を全日制と夜間部で共用していることを表しています。制服も学籍番号の刺繍の色が異なる(全日制は黄色、夜間部は白)のでふたつの制服というわけです。夜間部の生徒に対する偏見や見下した扱いがあるという設定にはやや古さも感じますが、舞台は1997年から99年までで現代の話ではありません。

 主人公のシャオアイ(チェン・イェンフェイ)は父親を事故で亡くし、母と妹の三人暮らし。受験に失敗しますが、母親の勧めで同じ高校の夜間部に入学します。シングルマザーの家庭で裕福ではないことも母親が夜間部進学を勧めた理由でした。捨ててあった家具を拾ってきたりして節約に努める母親をシャオアイは理解できず、「なぜそんなに節約ばかりするの」と聞きます。母親は「節約であなたたちの未来が見える」と答えます。

 大学進学など今後の娘2人の学費と自分の老後のために節約するという母親の考えは真っ当で揺るぎがありません。映画は同じ机を共有する全日制のミンミン(シャン・ジエルー)と仲良くなったシャオアイが差別に遭ったり、引け目を感じたりしながらも、それを克服する様子を描いています。それができたのはこの母親の存在が大きいでしょう。

 映画で描かれる夜間部は日本の定時制とは少し異なるように思えますが、それはこの時代、シャオアイのように全日制に落ちた生徒が入学するケースが多かった(他校に行くより名門の夜間部を選択するケースが多かった)ためとのこと。今は昼間働いて夜学ぶ日本の定時制と同じような形になってきたそうです。
▼観客5人(公開7日目の午後)1時間49分。

2025/12/07(日)「ペリリュー 楽園のゲルニカ」ほか(12月第1週のレビュー)

 今週のニューズウィーク日本版に岡田准一のロングインタビューが掲載されています(表紙も岡田准一)。今村翔吾の原作をドラマ化した「イクサガミ」(Netflix、全6話、藤井道人監督)に関連する内容で、岡田准一は海外を目指すより、「日本発で、世界に届く作品を作りたい」と話しています。

 明治維新後の武士たちが死闘を繰り広げる「イクサガミ」ではプロデューサーとアクションコーディネーターも務めていますが、このアクションのレベルの高さは世界に届いているだろうなと思えます(IMDbの評価は7.6、ロッテントマト100%)。殺陣のスピードが段違いに速いです。実写版「るろうに剣心」シリーズもアクションに感心しましたが、あの映画で使った撮影用の安全な刀は岡田准一のスピードで振ると、しなってしまって使えないのだとか。第6話の伊藤英明との死闘で火だるまになるシーンはCGかと思ったら、本物の火を使ったそうです。

 ドラマ化が決まる前から今村翔吾は「Netflixと岡田准一でなければ実写化は難しい」と語っていたそうです。その期待を上回る出来だと思います。山田孝之が出てきてすぐに殺されるなどキャストの贅沢な使い方をしていて、阿部寛、染谷将太、早乙女太一、遠藤雄弥、玉木宏、濱田岳、東出昌大、宇崎竜童など錚々たる男性キャストに混じり、清原果耶がクールビューティーな魅力を見せて秀逸。清原果耶、笑顔を振りまく役よりこういうクールな役が似合ってます。

 6話かけても物語は全然終わらず、早く続きを作ってくれいと思ってしまいます。6話の最後の方で滅法強い横浜流星が出てくるあたり、藤井監督の作品らしいですね。

「ペリリュー 楽園のゲルニカ」

「ペリリュー 楽園のゲルニカ」パンフレット
「ペリリュー 楽園のゲルニカ」パンフレット

 1万人の日本兵のうち34人しか生き残らなかった太平洋戦争の激戦地ペリリュー島の戦いを描くアニメーション。武田一義の原作コミック(全15巻)を「化け猫あんずちゃん」「トリツカレ男」など傑作映画の発表が続くシンエイ動画が製作しました。キャラクターデザインは原作と同じく漫画チックな三頭身ですが、戦場の地獄図を描いて今回もレベルの高い作品に仕上がっています。監督は久慈悟郎。漫画家志望の主人公・田丸均の声を板垣李光人、同期で射撃がうまい吉敷佳助を中村倫也が演じています。

 生き残った34人について、僕は組織的戦闘が終わったと同時に投降したと思っていました。そうではなく、島の日本兵たちは終戦後も2年近く、敗戦を知らず(信じず)、島に潜伏して作戦を続けていました。

 原作は15巻のうち10巻がペリリューでの戦い。11巻がペリリューから帰って戦後を生きた主人公の話、12巻から15巻は外伝となっています。ペリリューの司令部が玉砕し、組織的戦闘が終わった11月27日までが4巻の初めまで、終戦は7巻、34人が投降するのが10巻で、映画が描いたのは10巻までということになります(というわけで10巻までと外伝を1巻読みました)。もちろん、全部を描けるわけはなく、改変もあります。例えば、米軍から手に入れた口紅をこっそり塗っていた泉康市(声:三上瑛士)は映画では病死しますが、原作では米軍に見つかって射殺されます。洞窟の入り口をセメントで固められて生き埋めにされた日本兵が(たぶん)仲間の死体を喰って生き延びたエピソードも映画にはありません。

 そうしたエピソードがなくても、原作のエッセンスを十分に伝える内容になっています。これは原作者自身が脚本に加わったことが大きいのでしょう。前半の戦闘はもう少し長い方が良いような気もしましたが、原作10巻の構成を考えれば、映画の時間配分はそれを踏襲したものと言えます。

 ペリリュー島の戦いについては2015年に当時の天皇皇后両陛下が慰霊の旅で訪問されたことで広く知られるようになりました。その訪問のきっかけとなったのは前年8月に放送されたNHKスペシャル「狂気の戦場 ペリリュー “忘れられた島”の記録」だと思います。当時、僕は見ていなかったので先日、NHKオンデマンドで見ました。米軍の記録映像と生き残った旧日本兵(いずれも90代)のインタビューで構成してあり、第二次大戦中最悪と言われた米軍側の被害の多さと深刻さもよく分かる内容。接近戦の殺し合いや負傷者を運ぶ兵士への銃撃、戦闘のショックで精神に異常を来す米兵も描かれ、“狂気の戦場”というタイトルが大げさではなく、やり切れない思いになる傑作でした。

 ペリリューの戦いから旧日本軍はサイパンやグアムでの戦いのようなバンザイ突撃と玉砕を禁じ、持久戦に持ち込みます。玉砕戦を想定していた米軍は当初、3、4日で終わると考えていましたが、占領まで2カ月半もの長さを要したのはこの方針転換が原因だったそうです。この戦い方はその後の硫黄島や沖縄戦でも採用されました。日本側視点の「ペリリュー 楽園のゲルニカ」と併せて見ると、ペリリューの戦いがよく分かります。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午後)1時間46分。

「ホーリー・カウ」

「ホーリー・カウ」パンフレット
「ホーリー・カウ」パンフレット

 父親の事故死で幼い妹と2人だけで暮らすことになった18歳の少年を主人公にした青春ドラマ。ルイーズ・クルヴォワジエ監督の長編デビュー作で、カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門ユース賞を受賞しました。

 熟成ハードチーズ・コンテチーズの故郷であるフランス・ジュラ地方が舞台。18歳のトトンヌ(クレマン・ファヴォー)は仲間と酒を飲み、パーティに明け暮れ気ままに過ごしている。しかし、チーズ職人だった父親が飲酒運転の事故で亡くなり、7歳の妹クレール(ルナ・ガレ)の面倒を見ながら、収入を得る方法を探すことになる。チーズ工房にいったん勤めるが、同僚とけんかして辞めてしまう。そんな時、チーズのコンテストで金メダルを獲得すれば3万ユーロの賞金が出ることを知り、伝統的な製法でコンテチーズを作ることを決意する。

 そんなに簡単に優勝できるほどのチーズが作れるはずはなく、仲間と一緒に始めたチーズ作りは失敗の連続。その過程でトトンヌは酪農場を切り盛りするマリー=リーズ(マイウェン・バルテルミ)と知り合います。キャストはすべてジュラ地方の演技未経験の若者たちだそうです。物語としては何も解決しませんが、彼らの演技には素人とは思えない充実度がありました。

 タイトルの「Holy Cow」は直訳では「神聖な牛」ですが、「マジかよ!」「なんてこった!」など感嘆を表す言葉だそうです。
IMDb7.0、メタスコア83点、ロッテントマト98%。
▼観客10人ぐらい(公開5日目の午後)1時間32分。

「兄を持ち運べるサイズに」

「兄を持ち運べるサイズに」パンフレット
パンフレットの表紙

 村井理子の原作「兄の終い」を中野量太監督が映画化。笑いはこれまでの作品より控えめですが、中野監督らしい家族を描いた作品になっています。

 作家の理子(柴咲コウ)の元に、何年も会っていない兄(オダギリジョー)が死んだという知らせが入る。発見したのは兄と住んでいた息子・良一(味元耀大)。東北へ向かった理子は警察署で7年ぶりに兄の元妻・加奈子(満島ひかり)とその娘の満里奈(青山姫乃)と再会する。兄たちが住んでいたアパートはゴミ屋敷と化しており、3人で片付けることに。マイペースで自分勝手な兄に幼い頃から振り回されてきた理子が兄の後始末をしながら悪口を言い続けていると、同じように迷惑をかけられたはずの加奈子が、もしかしたら理子の知らない兄の一面があるかもしれないと言う。

 母にお金をせびりながらも、病気になった母を見捨てた兄を理子は長い間嫌っていましたが、“持ち運べるサイズ”にする段階(つまり葬儀を済ませ、火葬にする段階)で、徐々に兄を理解するようになります。理解はしても、長年の確執がきれいさっぱり消えるかというと、そんなことはないような気もします。

 オダギリジョーはクズ男を演じさせたら、めちゃくちゃ巧いですね。柴咲コウと映画で共演するのは「メゾン・ド・ヒミコ」(2005年、犬童一心監督)以来じゃないでしょうか。
▼観客20人ぐらい(公開4日目の午後)2時間7分。

「ナイトフラワー」

「ナイトフラワー」パンフレット
「ナイトフラワー」パンフレット

 出て行った夫の借金を背負い、2人の子どもを育てる苦境のシングルマザーが合成麻薬の売人になるサスペンス。主演の北川景子と女性格闘家を演じる森田望智の頑張りが目立つ映画ですが、ラストの曖昧さが残念すぎます。

 こういうラストを描きたいのであれば、それにつながる筋立てを考えればすむだけのこと。絶対にそうはならない展開で、このラストを唐突に持ってくるのは説得力を無視して物語を投げ出しているとしか思えません。

 脚本・監督は「ミッドナイトスワン」(2020年)などの内田英治。北川景子の娘・小春を演じる渡瀬結美は実際にバイオリンが弾けるそうで、劇中の演奏シーンも自然でした。
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午前)2時間4分。

「見はらし世代」

「見はらし世代」パンフレット
「見はらし世代」パンフレット

 母親の死をきっかけに父親と疎遠になった姉弟との関係を描くドラマ。冒頭のシーンが長々とかったるく、もっと簡潔に描けないものかと見ながら思ってました。重要な場面であることは後で分かるんですが、それにしても、作りがアマチュアの自主映画レベル。ここばかりではなく、描写の仕方としては未熟な点が目につきます。

 主人公の黒崎煌代、姉役の木竜麻生の演技に助けられた部分が大きく、これがデビューの団塚唯我監督、まだまだ学ぶべきことは多いです。パンフレットとして販売されているのは文庫サイズで286ページ。ページ数が多いのでパンフではなく、本ですね。脚本を収録してあり、1800円でした。
▼観客6人(公開初日の午後)1時間55分。