2024/01/14(日)「枯れ葉」ほか(1月第2週のレビュー)

 荒井晴彦監督の「花腐し」の終盤に「Wの悲劇」(1984年、澤井信一郎監督、荒井晴彦脚本)の薬師丸ひろ子のセリフが出てきます。「顔、ぶたないで。私、女優なんだから」というセリフ。昨年秋発行の季刊「映画芸術」485号によると、このセリフは中野太の脚本にはなく、荒井監督が付け加えたそうです。なぜ付け加えたのかの説明はありませんが、ヒロインがどちらも売れない女優の設定なので、連想したのでしょうかね。

 「映画芸術」はほとんど買ったことがなかったんですが、キネマ旬報が月2回発行から月1回に減って物足りなくなったので「映画芸術」も定期購読することにしました。といっても、年間4冊ですが。

「枯れ葉」

 フィンランドのアキ・カウリスマキ監督6年ぶりの作品。首都ヘルシンキのスーパーで働くアンサ(アルマ・ポウスティ)と工事現場で働き、アル中気味のホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)がカラオケバーで出会い、お互いの名前も知らないまま惹かれ合う、というラブストーリー。

 カウリスマキの作品はじわっとしたユーモアやとぼけた味わいが特徴的でしたが、この作品はそうした笑いの部分を少し抑えた印象。代わりにアンサの部屋のラジオからはロシアのウクライナへの攻撃のニュースが何度も流れます。フィンランドはロシアと国境を接していますから、この戦争は他人事ではないはず。前作「希望のかなた」(2017年)の後に引退宣言をしたにもかかわらず、カウリスマキが映画を作ったのはそういう思いがあったからと思います。パンフレットの最初のページにあるカウリスマキの言葉を引用しておきます。
 無意味でバカげた犯罪である戦争に嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました。それこそが語るに足るものだという前提で。
 そうした主張を過不足なく盛り込んだコンパクトな作品になっています。パンフレットを読んで思い出しましたが、カウリスマキは「マッチ工場の少女」(1990年)でも天安門事件のニュースを流していたのでした。「映画ではニュースが永遠のものとして記録される」からなのだそうです。

 序盤、疲れた表情だったアルマ・ポウスティはだんだんきれいに見えてきます。アンサとホラッパが映画館で見るゾンビ映画はジム・ジャームッシュ監督の「デッド・ドント・ダイ」(2019年)でした。
IMDb7.6、メタスコア86点、ロッテントマト99%(ただし、観客スコアは53%)。カンヌ国際映画祭審査員賞。
▼観客多数(公開2日目の午後)1時間21分。

「市子」

 プロポーズの翌日に失踪した女性・市子(杉咲花)を巡るドラマで、劇団チーズtheaterの舞台「川辺市子のために」を同劇団の戸田彬弘監督自身で映画化。失踪した市子を婚約者(若葉竜也)が関係者を訪ね歩いて探すという構成で、関係者の話を聞くにつれて断片が積み重なり、市子の人物像が明らかになっていきます。

 この構成、僕は宮部みゆき「火車」を思い出しましたが、そのほかにも同じ構成のミステリーはいろいろとあるでしょう。それならミステリーそのものかというと、そういうわけでもありません。市子の身の上が国内に1万人いると言われる不運な境遇であり、明らかに不当と思える社会的なテーマをはらんでいるからです。戸田監督はパンフレットのインタビューでこう語っています。
 社会的なメッセージを出したかったわけではないんです。ひとりの厳しい環境下に置かれた女性の人生をとにかく描きたかったという思いで作ったので……。ただ、自分の作品を作るときには社会的な問題を背景にすることが多くて、社会の中で生き辛さを抱える人の正義みたいなことを描きたい、『現代社会を生きている人間としてその人をどう捉えるんですか?』と自問もふくめて投げかけることは、いつも大事にしています。
 戸田監督は映画化するために舞台の脚本から24稿を重ねたそうです。映画の作りは緊密ですし、杉咲花は力演していて、ラスト近くの幸福な市子の姿を描いたシーンには涙する人もいるでしょう。ただ、この主人公を全面的には支持できない気分が残ります。監督の言う「厳しい環境」に置かれているとはいえ、市子は正当化できない行為をしてしまっているからです。

 そこを映画化に当たって、なんとか変えられなかったのかという思いがあります。市子の行動の根本原因である、改革でき得る問題を強く訴えるにはそうしたことを考えても良かったのではないかと思います。
▼観客16人(公開初日の午後)2時間6分。

「ティル」

 1955年8月、人種差別の激しいミシシッピー州マネーで起きたエメット・ティル殺害事件を描いた作品。

 シカゴに住む14歳の少年エメット(ジェイリン・ホール)はミシシッピー州の親戚宅に滞在中、食料品店の白人女性キャロリン(ヘイリー・ベネット)に向けて口笛を吹いたことから、白人の男たちの怒りを買い、壮絶なリンチの末に殺され、川に流される。エメットの母メイミー(ダニエル・デッドワイラー)は変わり果てた息子の遺体をマスコミと葬儀に参列した人たちに公開し、強く抗議していく。

 タイトルの「ティル」はエメットとメイミーの両方を指しています。映画は事件の経過とメイミーの行動はよく分かりますし、真正直に作られた重要な作品ではありますが、事実を知らしめる以上の作品にはなっていないと思いました。

 シノニエ・チュクウ監督はナイジェリア出身の38歳。プロデューサーを兼ねたウーピー・ゴールドバーグはエメットの祖母役で出演していますが、僕は気づきませんでした。
IMDb7.2、メタスコア78点、ロッテントマト96%。
▼観客7人(公開6日目の午後)

「ある閉ざされた雪の山荘で」

 東野圭吾の原作を飯塚健監督が映画化。新作舞台の主演を決める合宿形式の最終選考に集まった7人の役者たちが“大雪で閉ざされた山荘で起きる連続殺人事件”を演じることになる。山荘に例えた別荘にはアガサ・クリスティー「そして誰もいなくなった」の文庫本が人数分置いてあった。その夜から7人は1人1人消えていく。

 7人を演じるのは重岡大毅、中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、間宮祥太朗。これに事件の要因に関係していると見られる役で森川葵。若手俳優8人だけのキャスティングはうまく行っていて好感を持ちました。出演者をまったく知らずに見たので、贔屓の堀田真由と西野七瀬がいるのが嬉しかったですが、この2人、最初の方で……。

 原作通りなのかどうか知りませんが、前半の面白さに対して後半は腰砕けになった感があります。殺人の動機も弱く、事件の真相にも物足りなさが残りました。

 原作は1992年に発行され、推理作家協会賞の候補になったそうですが、「このミステリーがすごい!」のベストテンには入っていません。東野圭吾が「このミス」の常連になったのは1997年の「名探偵の掟」以降で、キャリアの助走に位置する作品のようです。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午前)1時間49分。

「私がやりました」

 1930年代のパリを舞台にしたフランソワ・オゾン監督のコメディー。

 映画プロデューサーの男が自宅で殺害され、新人女優マドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)に殺人の容疑がかけられた。親友で駆け出しの弁護士ポーリーヌ(レベッカ・マルデール)はマドレーヌに台本を用意し、正当防衛を主張するよう指示する。ポーリーヌは台本通りの陳述で裁判官や大衆の心をつかみ、無罪を勝ち取る。マドレーヌは一躍時の人となってスターへの階段を駆け上がっていくが、往年の大女優オデット(イザベル・ユペール)が2人の前に現れ、プロデューサー殺しの犯人は自分であり、マドレーヌたちが手に入れた富も名声も自分のものだと主張する。

 オゾンは女優を撮るのがうまく、今回も主演の2人が魅力的ですが、笑いの方は大したことありません。ユペールが出てくる後半が面白かったです。
IMDb6.5、メタスコア72点、ロッテントマト97%。
▼観客8人(公開19日目の午前)1時間43分。

「TALK TO ME トーク・トゥ・ミー」

 母親を亡くした高校生ミア(ソフィー・ワイルド)はSNSで話題の「憑依チャレンジ」に参加する。呪物の手を握り、「トーク・トゥ・ミー、レット・ミー・イン」と唱えると、霊が憑依する。制限時間は90秒。それを超えると、大変なことが起きるとされる。ミアたちは憑依チャレンジを繰り返していくが、仲間の1人にミアの母の霊が憑依する。

 若者たちの死に絡む無謀な行為は「フラットライナーズ」(1990年、ジョエル・シュマッカー監督)を思わせました。オチは短編小説によくあるパターン。長編向きには少し考えたかったところです。監督は双子のダニー&マイケルのフィリッポウ兄弟。
IMDb7.1、メタスコア76点、ロッテントマト94%。
▼観客8人(公開6日目の午後)1時間35分。

「劇場版SPY×FAMILY CODE:White」

 人気コミック・テレビアニメの劇場版。諜報員ロイド、超能力を持つ娘アーニャ、殺し屋ヨル、未来予知犬ボンドから成るフォージャー家は全員で家族旅行へ出発するが、世界平和を揺るがす事態に巻き込まれてしまう。

 家族で「おでけけ(お出かけ)」するエピソードはテレビアニメにもあり、そちらの方が良い出来でした。下ネタ(ウンコネタ)は子供向けを意識したのでしょうねえ。片桐崇監督。
▼観客20人ぐらい(公開5日目の午後)1時間50分。

2024/01/10(水)世にも奇妙な「君が心をくれたから」

 永野芽郁主演のドラマ「君が心をくれたから」(フジ)の第1話終盤の展開に唖然としました。主人公・逢原雨は交通事故で危篤となった愛する男・朝野太陽(山田裕貴)を助けるため、「あの世からの案内人」(死神? 悪魔?=ひげ面の斎藤工と松本若菜)と契約。これから3カ月間かけて自分の五感を奪われることを受け入れるのです。漫画なら成立しても実写ドラマでは厳しい内容で、トンデモ系のドラマとしか思えません。

 雨と太陽という奇をてらったネーミングといい、1クールそのままの「3カ月かけて」の設定といい、色覚障害のため信号の赤と青を間違ったという交通事故の原因といい、視聴者舐めすぎ。驚いたことに、この展開で泣いた人もいるようですが、別の意味で泣きたくなるようなお粗末な脚本でした。

 脚本の宇山佳佑はドラマ「世にも奇妙な物語」や映画「今夜、ロマンス劇場で」(2018年)のようなファンタジー系の作品が多い人。だからこういう展開なのかと、腑に落ちました。このドラマ、「世にも奇妙な物語」の拡大版と思って見た方が良いのでしょう。月9じゃなくて木8か土9の方が似合ってます。

2024/01/02(火)スマホブラックアウト

 新年早々、スマホ(Google Pixel 5a)が壊れた。電源が入らなくなった。検索してみると、Pixel 5aにけっこうある症状らしい。セーフモードで起動するには電源ボタンと音量小ボタンを長押し(45秒程度)するが、Googleのロゴが出てから進まない。

 電源に1時間つないでいたが、温かくもならないし、まったく反応しない。どうしようもないのでGoogleのサポートに連絡した。

 チャットで症状を伝えたところ、交換することになった(少なくない症状なのでサポートも慣れているのでしょう。話はスムーズでした)。「在庫の都合上で恐縮ですが、交換品が再生品となる可能性やPixel6aにアップグレードされる可能性がございます」とのこと。どうせならPxiel 6aが良いが、再生品であっても1年足らず持てばよいのでかまわない。使い始めて2年4カ月。3年たったら買い換えようと思っていたのです。

 面倒なのはスマホが起動しないのでデータの移行ができないこと。昨日、撮影した写真はダメでしょうね。あとは何とかなるかな。

ここから追記

 1日にサポートに連絡し、2日に来たメールに沿って交換品を注文し、6日にPixel 6aが届きました。翌日、壊れたスマホをGoogleに宅急便で送って手続き完了。1日に撮影した写真とLINEのトークのデータは消失しましたが、その他のデータはおおむね移行できました。

 面倒なのは「おサイフケータイ」の移行手続きで、事前にやっていれば、簡単なんですが、なんせ元のスマホがないので移行に時間がかかるものがあります。モバイルWAONはナビダイヤルでサポートに連絡して(20秒10円で20分ほどかかりました)10日後に完了すると言われました。楽天Edyも数日かかるようです。こればかりは普段からのバックアップがきかないのでしょうがないですね。モバイルSuicaは簡単でした。nanacoは使ってません。

2023/12/24(日)「PERFECT DAYS」ほか(12月第4週のレビュー)

 ザック・スナイダー監督のNetflixオリジナル映画「レベルムーン パート1 炎の子」の配信が始まりましたが、評価メタメタです。IMDb6.1、メタスコア30点、ロッテントマト22%。ソフィア・ブテラ主演のSF大作で期待していたんですが、見る気が失せました。見ますけど。

「PERFECT DAYS」

 役所広司がカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞したヴィム・ヴェンダース監督作品。最近では「SISU シス 不死身の男」の主人公が最後まで意味のある言葉を発しませんでしたが、この映画の役所広司もほとんどセリフがなく、寡黙な男です。

 主人公の平山は渋谷区の公共トイレを巡回して掃除するのが仕事。スカイツリー近くの古いアパートに1人で住む平山はまだ薄暗いうちに起き、鉢植えに水をやり、自販機で缶コーヒーを買って飲み、軽自動車でトイレ掃除に向かいます。テキパキと手際よく掃除し、昼食は神社の境内でサンドイッチ。木漏れ日を小型のフィルムカメラで撮影。仕事を終え、銭湯に自転車で向かい、銀座線浅草駅の地下商店街にある酒場で夕食。アパートに荷物は少なく、1冊100円の文庫本を読みながら寝る毎日。休みの日はコインランドリーで洗濯、写真の現像を頼み、美人ママ(石川さゆり)のいる居酒屋で一杯。それを繰り返しています。

 映画は同僚のタカシ(柄本時生)の恋のゴタゴタを描きつつ、そうした平山の日常を淡々と描いていきます。ストーリーが動くのは後半、家出してきた姪のニコ(中野有紗)がアパートを訪れてから。2、3日、一緒に暮らした平山は妹(麻生祐未)にそれを知らせます。高級車に運転手付きで迎えに来た妹は平山に「本当にトイレ掃除しているの?」と聞きます。平山の身の上について映画は詳しく描いていませんが、妹との会話から平山が以前、別の仕事に就いていたこと、父親との確執があったらしいことが分かります。

 分からなかったのは妹と別れた平山が慟哭するシーン。妹に会ったことで、以前の生活と今の生活の落差を改めて実感したために泣いたのかと思ったんですが、シンプルで質素な今の生活に充足しているように見えた平山が泣くのは少し違うかなと思えました。

 パンフレットのインタビューで役所広司はこう語っています。
 「人は悲しいから泣くだけではない、嬉しいから泣くこともある。名状しがたい思いを抱き泣くこともある。あの涙の曖昧さは、監督が観客に向けて平山を好きに解釈してほしいということでもある。僕は笑いながら泣いているのはどうだろうかと思った。平山さんは自分の過去を知っている親族と再会したことで心が大きく揺れ動いた気がします。そうした人との関係を全て断って、穏やかな生活を送ろうと努めていたにもかかわらず」
 心が大きく揺れ動いたという役所広司の解釈が正しいのでしょう。落差を実感したという一種類の感情ではなかったということです。

 アニマルズ「朝日のあたる家」からニーナ・シモン「フィーリング・グッド」まで。平山がカセットテープで聴く音楽はヴェンダースが聴いていたオールディーズなのでしょうか? と、能天気に考えていたんですが、パンフレットによると、ヴェンダースは「フィーリング・グッド」の歌詞と平山の生活の共通点に驚いたのだそうです。

 映画の個人的な評価は、タカシ風に言えば、「10のうち8ぐらい」(正確には7.8)と思いました。「パリ、テキサス」(1984年)よりも「ベルリン・天使の詩」(1987年)よりも日本人にはよく分かる映画だと思います。
IMDb7.9、メタスコア72点、ロッテントマト92%。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間4分。

「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」

 実話を基にした社会派サスペンス。この実際の事件自体は興味深いんですが、映画は話の構成がまるでうまくありません。

 フランス最大の総合原子力企業アレバの労働組合代表モーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)は従業員5万人の雇用を守るため、会社が計画した中国への技術移転契約のリスクを告発する。そこからモーリーンへの脅迫が始まる。モーリーンは自宅で何者かに襲われ、手足を椅子に縛られ、腹にAの文字を刻まれ、膣にナイフの柄を挿入される。警察が捜査するが、現場に容疑者の痕跡は一切なかった、自作自演を疑い、モーリーンを虚偽告発で逮捕・拘留する。強引な取り調べで追い詰められたモーリーンは自作自演を認めてしまう。一審でモーリーンは有罪判決を受けるが、控訴を決意する。

 後半は面白いんですが、前半がモタモタした印象で、ここをもっとコンパクトにまとめた方が良かったでしょう。イザベル・ユペールが追い詰められて嘘の自白をしてしまうほど弱い女性には見えないことも誤算です。主人公は裁判に勝ちますが、事件の犯人は不明のまま。初動を含めた警察の捜査の在り方に大きな問題があったのではないかと思いました。監督はジャン・ポール・サロメ。
▼観客2人(公開5日目の午後)2時間1分。

「屋根裏のラジャー」

 A・F・ハロルド「ぼくが消えないうちに」をアニメ化したスタジオ・ポノック作品。ポノックはスタジオジブリを退社した後、プロデューサーの西村義明が立ち上げたアニメーション映画スタジオ。監督の百瀬義行もジブリで多数の作品に携わった人なので、絵柄が似てくるのは仕方ないでしょう。アニメの技術的にも何ら問題はないんですが、いまいち盛り上がりに欠けます。

 ジブリ作品、特に宮崎駿の作品は熱い思いを抱いた少年少女が主人公でしたが、「屋根裏のラジャー」に欠けているのはそうした熱さのように思えました。別にジブリと同じことをする必要はありませんが、それならば、似ている絵からの脱却を図った方が良いです。ジブリのと似ているポノックの会社ロゴから変えた方が良いです。
▼観客9人(公開4日目の午後)1時間48分。

「ウィッシュ」

 エンドクレジットの後に「星に願いを」が流れます。発想の基になったのがこの名曲であることは明らかですが、出来は芳しくありません。といってもアメリカでの酷評ほどひどいとは思えませんでした。個人的には「屋根裏のラジャー」より面白く見ました。

 どんな願いもかなうと言われるロサス王国で暮らす17歳のアーシャは、ある出来事をきっかけに王国の真実を知り、国民の願いを取り上げているマグニフィコ王に立ち向かう、というストーリー。ディズニーのアニメは吹き替え版で見ることが多いんですが(出来が良いのです)、今回は間違って字幕版を見ました。たぶん来年2月ごろに配信が始まるはずのディズニープラスでは吹き替え版を見たいと思います。
IMDb5.8、メタスコア47点、ロッテントマト49%。
▼観客2人(公開7日目の午後)1時間35分。

「ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出」

 「ウィッシュ」の併映で、ディズニーのこれまでのキャラクター(543のキャラだそうです)がそろって記念写真を撮るまでの騒動を描いた9分の短編。なんてことはない内容ですが、お馴染みのキャラがたくさん出てきて楽しいです。ディズニープラスで10月から字幕版を配信済み。劇場では特別吹き替え版が上映されています。なぜか日本語字幕が付いていました。脚本・監督はダン・アブラハム、トレント・コリー。IMDb8.5。

「カンダハル 突破せよ」

 amazonプライムビデオで配信が始まりました。イランの核開発施設を爆破したCIAの工作員トム(ジェラルド・バトラー)がCIAの内部告発で正体を明かされ、アフガニスタン南部カンダハルへの脱出を図るアクション。

 よその国の施設を破壊したら追われるのは当たり前の話。イランの精鋭集団・コッズ部隊のほか、パキスタンとアフガニスタンで活動するテロ集団ISIS-K(イスラム国ホラサン州)などがそれぞれの目的でトムに襲いかかりますが、トムの方に絶対の正義があるわけでもないのが微妙なところです。バトラーの「エンド・オブ・ホワイトハウス」(2013年)シリーズのようにテロリストを撃退する話とは違って、自分がテロリストみたいなものですからね。

 監督は「グリーンランド 地球最後の2日間」(2020年)のリック・ローマン・ウォー。1時間59分。
IMDb6.1、メタスコア52点、ロッテントマト45%。

2023/12/17(日)「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」ほか(12月第3週のレビュ-)

 U-NEXTで「ほつれる」(加藤拓也監督)を399ポイント払って見た2日後にamazonプライムビデオを見たら、既に見放題に入ってました。劇場公開が9月8日だったので3カ月。配信が始まってもおかしくはないですが、見放題とは。同時にガイ・リッチー監督「オペレーション・フォーチュン」も見放題に。こちらは劇場公開が10月8日。約2カ月での配信は少し早く感じます。下に感想を書いた同時期公開の「シアター・キャンプ」もディズニープラスで見放題に入りました。ディズニーの「ウィッシュ」はアメリカでは「どうせすぐにディズニープラスでやるだろう」と思われたことがヒットしなかった一因とか。そういう時代なのです。

「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」

 太平洋戦争末期にタイムスリップした女子高生・百合(福原遥)が特攻隊の隊員たち、特にその中の1人の彰(水上恒司)と心を通わせる話。貶す気満々で見に行ったら、意外にも悪くない出来でした。

 成田洋一監督はCMディレクター出身。劇場用映画は2作目ですが、60代のベテランだけに浮ついた演出はありません。正攻法な画面作りできっちりとまとめた作品になっています。

 気になるのは原作由来のことなんでしょうが、物語の場所が不明確なこと。特攻隊基地の近くの町で、原作者の汐見夏衛は鹿児島出身なので知覧にするのが自然なんですが、町の人たちの言葉は標準語。特攻基地が多かった九州ではなく、関東地方、筑波海軍航空隊のあった茨城あたりの設定なのではないかと思います。映画のロケも茨城と千葉だったようです。

 百合は幼い頃に父親が事故死し、母親(中嶋朋子)と二人暮らし。母親は夜中まで働いていますが、家は裕福ではありません。懸命に働く母親のことを理解せず、スーパーで魚をさばいていることで「魚くさい」と恥ずかしい思いを抱いています。それが戦争中の過酷な運命を目の当たりにして変わる、というのが分かりやす過ぎる展開ではあります。

 特攻基地の近くで食堂を切り盛りして特攻兵たちに食事を提供する松坂慶子と、シングルマザー家庭の現実を反映した中嶋朋子の存在が映画を引き締めていました。
▼観客多数(公開7日目の午後)2時間7分。

「窓ぎわのトットちゃん」

 ご存じ黒柳徹子の大ベストセラーのアニメ化。この本、800万部以上売れて国内トップ級のベストセラーだそうですが、未読でした。いい機会なので文庫本を買って読み始めました。

 戦前から戦中にかけての物語。落ち着きがなく、授業中に騒ぐため小学校を退学となったトットちゃんが私立のトモエ学園に入学、小児麻痺で手足が不自由な泰明ちゃんらクラスメートと伸び伸びと育っていくエピソードで構成しています。

 トモエ学園は自由な校風ですが、世の中は息苦しさを増し、トットちゃんの家庭にも波及していきます。この対比をもっと強調した方が良かったかなと思います。トットちゃんの元気の良さと奔放さは「となりのトトロ」のメイに重なりました。声を演じたのは7歳の大野りりあな。校長先生は役所広司、お父さんが小栗旬、おかあさんが杏。八鍬新之介監督。
▼観客16人(公開5日目の午後)1時間54分。

「青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない」

 精神的に不安定なことなどが原因となる思春期症候群(架空の症状です)をテーマにした略称「青ブタ」シリーズの劇場版第3弾。

 高校2年生の梓川咲太の1学年上の恋人で女優の桜島麻衣は卒業を迎える。咲太が海岸で麻衣を待っていると、子役時代の麻衣と瓜二つの小学生が現れる。父から電話が入り、長く入院していた母が、妹の花楓に会いたいと言っていることを告げる。咲太は花楓と共に母親と会うことにするが、咲太の身体に謎の傷跡が現れる。

 6月に公開された前作「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」よりは面白く見ました。ただ、「窓ぎわのトットちゃん」が幅広い世代に受け入れられる内容なのに対して、これは主に10代、20代の男子限定でしょう。この世代に受けるのは桜島麻衣先輩が理想の彼女だからですね。次は大学生編だそうです。増井壮一監督。
▼観客8人(公開13日目の午後)1時間15分。

「SISU シス 不死身の男」

 1944年、第二次大戦末期のフィンランドを舞台にしたアクション。川で砂金を探す主人公アアタミ((ヨルマ・トンミラ)が金鉱を掘り当て、荒野を馬で移動中にナチスに遭遇。金塊を狙ったドイツ兵から執拗に追跡され、死闘を繰り広げることになります。アアタミは老人ですが、特殊部隊出身で過去に300人のロシア兵を殺したと言われています。「ランボー」のように“1人だけの軍隊”なわけです。

 画面に出るのは明らかに西部劇風のフォント。といってもマカロニウエスタンに近い描写の仕方で、これにクエンティン・タランティーノ風のタッチを加えて出来上がった作品と言えるでしょう。

 主人公のアアタミは死なないにもほどがあるほど死にません。ここまで不死身だと、その理由が必要になると思いますが、映画はそれには触れません。

 ヤルマリ・ヘランダー監督は1976年生まれ。「ランボー」など1980年代のアクション映画が好きなのだそうです。
IMDb6.9、メタスコア70点、ロッテントマト94%。
▼観客10人(公開初日の午後)1時間31分。

「シアター・キャンプ」

 ニック・リーバーマン監督の短編「Theater Camp」(2020年)をリーバーマンと「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」(2019年)の女優モリー・ゴードンが共同監督を務めて長編化したコメディ。

 ニューヨーク州北部の演劇スクール「アディロンド・アクト」はミュージカルスターを夢見る子どもたちを指導してきた。今夏のキャンプ開校を前にジョーン校長(エイミー・セダリス)が昏睡状態となり、演劇に無関心な息子トロイ(ジミー・タトロ)が跡を継ぐ。経営は破綻寸前。スクール存続のためには3週間後のキャンプ終了までに出資者に新作ミュージカルを披露する必要がある。教師たちと子どもたちは舞台を完成させようと奮闘する。

 落ちこぼれチームが栄光をつかむという、よくあるパターンのプロット。序盤のドキュメントタッチがどうも乗り切れない要因のようで、これは普通に映画化した方が良かったと思います。完成したミュージカル「ジョーンのままで」(Still Joan)を披露するクライマックスがそれなりに盛り上がるだけに序盤がもったいなかったです。1時間35分。
 IMDb7.0、メタスコア70点、ロッテントマト85%。