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「CLOSE クロース」は親密な(クロース)人間関係の崩壊と苦悩の物語。同じ年頃の同性愛的な少年2人を主人公にしていることで是枝裕和監督の「怪物」とつい比較してしまいますが、題材へのアプローチと描き方はまるで異なります。話の構成に凝り、見せ方にこだわった「怪物」に対して「CLOSE クロース」はとてもシンプル。作品としては観客サービスの固まりのような坂元裕二脚本の方が僕は好きですが、ストレートに訴えるこっちの方が良いとする人もいるでしょう。
レオ(エデン・ダンブリン)とレミ(グスタフ・ドゥ・ワエル)は中学に入学したばかりの12歳。親密な様子を見たクラスメートの少女が「2人は付き合ってるの?」と素朴な疑問を投げかけたことがレオとレミの関係崩壊の始まりでした。それまでは花畑を一緒に走り回り、夜は寄り添って寝ていた2人の親密な距離が徐々に開いていくことになります。それを主導したのは主にレオの方。毎日一緒に自転車で登校していたのに、ある日、レオが1人で登校したためレミと殴り合いの喧嘩になります。そして、大きな悲劇が訪れることに。
その悲劇までが前半の1時間弱で、後半はレオの大きな後悔と苦悩のドラマになります。この悲劇はレオが世間の目・他人の目を意識したために起きたこと。軽い知的障害を持つ女性(小野花梨)とのラブストーリー「初恋、ざらり」(テレ東)の風間俊介が「世界で2人だけだったら良いのに」と話すのと同じように、レオは世間の目を気にしてしまったわけです。2人の周囲だけでなく、レオ自身にもスタンダードと異なることを恐れる気持ちがあったのでしょう。
できれば、レミの気持ちも深く知りたいところではありますが、冗長になるのかもしれません。監督はバレリーナを夢みるトランスジェンダー少女を描いた「Girl ガール」(2018年)に続いて2作目のルーカス・ドン。主演の2人はいずれもオーディションで選ばれて映画デビューを果たしたそうです。カンヌ国際映画祭グランプリ。1時間44分。
IMDb7.8、メタスコア81点、ロッテントマト91%。
▼観客20人ぐらい(公開2日目の午後)
大友克洋のコミック「童夢」(1981年)にインスピレーションを得たエスキル・フォクト監督のサイキック・スリラー。「クライマックスはほとんど『童夢』のパクリで『大友克洋原案』とクレジットに入れた方が良かった」との感想もあったので、どれぐらい似ているのかと思ったら、クライマックスのブランコのシーンのみ似てました。あ、もちろん、団地に住む子供の超能力を扱った点はそのままですが、原案クレジットまではいらないかなと思います。
ノルウェーの郊外にある団地が舞台。父親の仕事の都合で団地に引っ越してきた9歳のイーダ(ラーケル・レノーラ・フレットゥム)は自閉症の姉アナ(アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ)と2人姉妹。同じ団地に住むベン(サム・アシュラフ)とアイシャ(ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム)と親しくなるが、ベンには念力能力が、アイシャにはテレパシー能力があった。アナはアイシャとテレパシーで交流でき、ベンは次第に念力能力を高める。しかし、念力が強まるに連れてベンは人を操るようになり、邪悪に染まっていく。
アメリカ映画に比べると、VFXが小粒なのが残念な点で、「童夢」で印象的だった場面、サイコキネシスで壁に押しつけられて壁が球状に凹むシーンなど、ぜひ実写で見たいところですが、ありません。好意的に見れば、スケールが小さい分、リアルに見えないこともありません。超能力が次第に強くなっていく過程を見せる前半はもう少し簡潔に描いた方が良かったと思いました。1時間57分。
IMDb7.0、メタスコア79点、ロッテントマト96%。
▼観客11人(公開3日目の午後)
フランス北部の町サントメールで実際に起こった生後15カ月の乳幼児死亡事件を巡るドラマ。殺人罪に問われた母親ロランス(ガスラジー・ラマンダ)の裁判を通して移民差別や貧困、女性の社会進出の問題などを浮き彫りにしています。
映画の基になったのは2015年、セネガル人の母親が満潮の海岸に乳児を置き去りにして死なせてしまった事件です。母親は博士課程の学生で、IQ150。にもかかわらず、自分がやったことはセネガルの叔母にかけられた呪いのためだと供述したとのこと。
アリス・ディオップ監督はセネガル系フランス人。被告が自分と同い年であったこともあって事件に興味を持ち、裁判を傍聴して映画化を決めました。ドキュメンタリー出身なので、実際の裁判記録をセリフに使っています。ストーリーは妊娠中に裁判を傍聴した女性作家ラマ(カイジ・カガメ)の視点で語られますが、やや単調になりがちなのはこのドキュメンタリー手法のためでしょう。もっと明確にドラマの強弱を付けた方が共感を得られやすかったのではないかと思います。2時間3分。
IMDb6.9、メタスコア91点、ロッテントマト94%。
▼観客5人(公開4日目の午後)
ディオップ監督の前作でドキュメンタリーの「私たち」(2021年)はU-NEXT、amazonプライムビデオが配信しています。こちらはIMDb6.1、メタスコア78点、ロッテントマト80%。
「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」は同じアパートに住んでいたウクライナ人、ユダヤ人、ポーランド人の3家族が支配者に翻弄される姿を描いた物語。ソ連→ドイツ→ソ連と支配者は変わりますが、その時々に民衆は苦しめられます。他国に蹂躙されてきたウクライナのこれまでを3家族の苦難に象徴させた映画だと思います。
1939年1月、ウクライナのイバノフランコフスク(当時はポーランド領スタニスワヴフ)でウクライナ、ユダヤ、ポーランドの3家族が同じ屋根の下で暮らすことになる。ウクライナ人の娘ヤロスラワ(ポリナ・グロモヴァ)が歌うウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」を通して互いに交流が始まるが、第2次大戦が勃発。ナチス・ドイツやソ連によって占領され、ポーランド人とユダヤ人の両親たちは連行される。ウクライナ人で歌の先生でもあるソフィア(ヤナ・コロリョーヴァ)の夫ミハイロ(アンドリー・モストレーンコ)はウクライナ民族主義者組織のメンバーであったことからドイツ軍に処刑される。ソフィアはポーランド人の娘テレサ、ユダヤ人の娘ディナを、自分の娘ヤロスラワと分け隔てなく守り、生き抜くことを誓う。
物語は実話そのままではないようですが、脚本を書いたクセニア・ザスタフスカの祖母が体験したことをベースに実際の出来事を多く盛り込んだそうです。オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ監督はキーウ在住。撮影はロシアが侵攻する前の2019年から2020年にかけて行われたそうで、侵攻後の状況を反映したものではありませんが、監督を含めて多くの人たちはロシアの侵攻を予想していたとのこと。2時間2分。
IMDb8.1(アメリカでは映画祭での上映のみ)。
▼観客6人(公開7日目の午前)
意外な展開をする密室殺人ミステリー。もっとも、登場事物が少ないので意外性はそれほど高くなく、そこそこの出来に終わっています。
IT企業社長ユ・ミンホ(ソ・ジソブ)の不倫相手キム・セヒが密室のホテルで殺された。容疑者となったミンホは潔白を主張し、敏腕弁護士ヤン・シネ(キム・ユンジン)に頼んで事件の真相を追う。ミンホは事件以前に起きたある交通事故がセヒの殺人に関係しているかもしれないと告白。事件の再検証が始まるが、目撃者の存在により、思わぬ方向へと進む。
キム・セヒ役の女優がすごい美人だなと思ったら、ガールズグループAFTERSCHOOLのメンバー、ナナとのこと。K-POPにうといので知りませんでした。ユン・ジョンソク監督、1時間45分。
IMDb6.6(アメリカでは未公開)。
▼観客5人(公開5日目の午後)
シリーズ7作目。監督がマイケル・ベイからスティーブン・ケイブル・Jrに替わっても出来は大して変わらず。いや、序盤は期待させたんですが、その後失速します。子供向けを意識しているのかもしれませんが、話が簡単すぎてつまらないです。
子供向けにするなら、子供を登場させた方が良いでしょう。シリーズ番外編の「バンブルビー」(2019年、トラヴィス・ナイト監督)が作品内容でも成功したのはティーンエイジャーを主人公(ヘイリー・スタインフェルド)にした青春ものに徹したからでしょう。もちろん、監督の手腕が高かったためでもありますが。2時間7分。
IMDb6.1、メタスコア42点、ロッテントマト52%。
▼観客多数(公開初日の午前)
北九州を舞台に定年間近の男が人間関係を見つめ直し、新たな一歩を踏み出す姿を描いたドラマ。俳優でもある二ノ宮隆太郎監督の商業映画デビュー作で、北九州出身の光石研が主演しています。
北九州で定時制高校の教頭を務める末永周平(光石研)。元教え子の平賀南(吉本実憂)が働く定食屋で、周平は支払いを忘れてしまう。記憶が薄れていく症状に見舞われ、これまでのように生きられなくなってしまった。妻の彰子(坂井真紀)との仲は冷え切り、一人娘の由真(工藤遥)とも会話が進まない。周平はこれまでの人間関係を見つめ直そうとする。
音楽もなく、ホン・サンス監督作品のような会話劇で話が進行します。そのためか未完成感は残るんですが、二ノ宮監督の話の作りと演出は悪くありません。同じく北九州出身という吉本実憂は憂いを含んだ表情が良いです。1時間36分。
▼観客7人(公開2日目の午後)
「愛のこむらがえり」は「渇水」の高橋正弥監督作品。宮崎キネマ館で舞台あいさつ付きの回を観賞しました。観客は上映開始1時間前の段階で予約状況を見たら50人。それから少し増えたでしょうから60~70人だったと思います。ゲストは高橋監督と主演の磯山さやか、吉橋航也の3人。上映終了後、20分ほどのトークがありました。
この中で磯山さやかは共演している大先輩の柄本明にあいさつに行った際のエピソードを紹介。「志村さんのコントでご一緒させていただいたことがある磯山さやかです。よろしくお願いします」とあいさつしたのに対して柄本明は「知ってる知ってる、覚えてるから」と応えたそうです。こういう謙虚なあいさつをする人なので、磯山さやかは座長としてスタッフ受けも良かったらしいです。18年ぶり主演というこの映画での好演がさらに多くの出演機会につながれば、と思います。高橋監督は年齢(1967年生まれなので56歳ぐらい)より若々しく見えました。
映画は調布市を舞台に助監督(吉橋航也)と、8年前からその才能に惚れ込んで同棲している恋人(磯山さやか)が自力で映画製作を目指すハートフルコメディー。助監督18年目とか25年目とかのリアルな設定やセリフもあり、映画ファンおよび映画に詳しい人にはなかなか興味深い内容になっています。
ネットの評価があまり高くなかったので僕は期待せずに見たんですが、途中からちょっと感心しながら見てました。唯一、ホヤ好きの殺し屋(篠井英介)が絡むエンタメを狙った展開はうまく行ってるとは思えませんでしたが、あとはOKです。「渇水」とはまったく異なるタイプの作品ながら高橋監督はうまくまとめています。
映画の中で白鳥あかねという名前のスクリプターが出てきます(演じているのは吉行和子)。往年の日本映画ファンならこの名前を知っているはずで、僕はにっかつロマンポルノ関連のデータでよく目にして記憶しました。
監督インタビューによると、「撮影シーンの様子や内容を記録・管理する仕事の人として白鳥あかねさんというキャラクターが出てくるのですが、これは実際にスクリプターとして日本映画界を支えてきた白鳥あかねさんをそのままモデルにした人物で、僕はこのあかねさんと映画監督の白鳥信一さんの夫婦の話でもあるかと思います」(雑誌LEEのサイトより)とのことです。監督ではなく、3人の脚本家(加藤正人、安倍照雄、三嶋龍朗)の誰かに縁があったのかもしれません。
李相日や是枝(裕和)の名前も出てくるなど、日本映画のファンならニヤリとする場面もあり、見て損はない内容だと思いました。1時間48分。
▼観客多数(公開2日目の午後)
原泰久の原作コミックを映画化したシリーズ3作目。今回も面白い仕上がりです。
秦の隣国・趙の大軍勢が秦の首都を目指して侵攻を始める。えい政(吉沢亮)は趙軍に対抗するため、王騎(大沢たかお)を総大将に任命する。決戦の地・馬陽は王騎にとって因縁のある場所だった。出撃を前に、王騎はえい政に王としての覚悟を聴く。えい政は趙の人質となっていた頃に自分に光をもたらした恩人・紫夏(しか=杏)との話を明かす。一方、信(山崎賢人)は100人の兵士を率いる隊長になる。王騎は飛信(ひしん)隊と名付け、敵将を討つ特殊任務を命じる。
前半は吉沢亮、後半は山崎賢人をメインにした内容。後半のアクションの方が見応えがありますが、前半の吉沢亮も王としてふさわしい風格を感じさせ、悪くありません。オールスターキャストの大作という言い方がしっくり来る作品で、脚本を今回も原泰久自身と映画・ドラマで実績を積み上げる黒岩勉が書いているので、内容的にも充実しています。
最後の10分ぐらいは次作へつながる話。王騎と因縁の好敵手で圧倒的な強さを誇るほう煖(ほうけん=吉川晃司)と1作目でファンを魅了した楊端和(ようたんわ=長澤まさみ)が登場し、4作目への期待が高まります。佐藤信介監督、2時間10分。
▼観客多数(公開初日の午前)
主演のアンドレア・ライズボローがアカデミー主演女優賞にノミネートされたインディペンデント作品。ノミネートを得るために知り合いの女優たちに働きかけたやり方が一部で批判されました。僕もいくらか色眼鏡で見ていましたが、実際に作品を見ると、中年女性の再起を描く内容は感動的ですし、ライズボローの演技もノミネートに値するものだと思いました。
シングルマザーのレスリー(アンドレア・ライズボロー)は宝くじで19万ドル(約2700万円)を当てるが、酒に溺れて6年後には使い果たす。モーテルの家賃を払えないレスリーは行き場を失い、死んだ夫の母親で旧友のナンシー(アリソン・ジャネイ)とダッチ(スティーヴン・ルート)の元へ向かう。やはり酒をやめられず、家を追い出されるが、孤独なモーテル従業員スウィーニー(マーク・マロン)との出会いをきっかけに、レスリーは再起への道を踏み出す。
マーク・マロンが温かい好演をしています。再起を決めるのは結局、自分の意志なんですが、それを助ける人の存在は大事だなと思います。監督のマイケル・モリスは「ベター・コール・ソウル」「プリーチャー」「13の理由」などのテレビシリーズの監督を務め、これが長編映画初監督作。1時間59分。
IMDb7.1、メタスコア84点、ロッテントマト93%。
▼観客11人(公開4日目の午後)
ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員大賞)を受賞した韓国のホン・サンス監督作品。銀熊賞受賞は「逃げた女」(監督賞)「イントロダクション」(脚本賞)に続いて3年連続4度目というのがすごいです。
最近、新作を発表していない作家のジュニ(イ・ヘヨン)は引退同然の女優ギルス(キム・ミニ)と偶然出会い、意気投合する。ジュニは一緒に短編映画を撮ろうと提案する、というストーリー。
いつものように固定カメラのワンシーン・ワンカット撮影、ズームもなしという作りの会話劇。カット数は20カットぐらいしかないんじゃないでしょうかね。前作「あなたの顔の前に」(2021年)は脚本が面白かったんですが、今回はあまりピンと来ませんでした。1時間32分。
IMDb6.8、メタスコア82点、ロッテントマト100%。
▼観客5人(公開6日目の午後)
「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」はシリーズ第7作。デッドレコニング(Dead Reckoning)とは「推測航法」の意味で、冒頭、ロシアの原子力潜水艦の中でのセリフに出てきます。映画はこの原潜の事故に関わり、世界に破滅をもたらす力を持つとされる2つの鍵の争奪戦で、IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のイーサン・ハント(トム・クルーズ)とCIA、ハントに恨みを持つガブリエル(イーサイ・モラレス)の組織の三つどもえの争いが繰り広げられます。
もちろん、アクションメインの映画なんですが、脚本・監督のクリストファー・マッカリーはこうしたスパイアクションのポイントをよく分かっていて、中盤に大きなドラマを用意しています。
トム・クルーズは予告編でさんざん見せられたあの断崖ジャンプ(実際にはジャンプ台があります)を7回跳んだそうです。その前にスカイダイビングとオートバイジャンプを何百回も繰り返していて、だからああした危険なジャンプができるのでしょう(常人より恐怖感が少ないサイコパス的な資質もたぶんあると思います)。
このシーンを見てすぐに思い出すのが「007 私を愛したスパイ」(1977年、ルイス・ギルバート監督)のスキーアクション。オーストリア・アルプスを舞台に敵に追われたジェームズ・ボンド(ロジャー・ムーア)がスキーで斜面を滑り降りてそのまま崖からジャンプし、下方で英国国旗デザインのパラシュートが開くというシーンです(もちろん、ムーアがやったわけではなく、スタントマン)。久しぶりに見直してみたら、「私を愛したスパイ」の冒頭はソ連の原潜ポチョムキンが行方不明になるというシーンで、潜水艦追跡システムを巡る話でした。マッカリー監督、「私を愛したスパイ」をヒントにしたのかもしれません。
この大ジャンプに続く列車アクションも見応えがあります。列車の上で格闘しながら狭いトンネルが来ると伏せて避けるというシーンは「大列車強盗」(1979年、マイケル・クライトン監督)を思い出します。「ミッション:インポッシブル」シリーズがすごいのは過去に類似したアクションの先例がありながら、そのすべて上回っていて、単なる模倣に終わっていないことです。参考にはするけど、絶対に凌駕してやるとういう気概みたいなものを感じます。昨年の「トップガン マーヴェリック」と同じく、これは大画面で見なくては真価が分からない作品になっています。
シリーズ第5作「ローグ・ネイション」(2015年)からレギュラーのレベッカ・ファーガソンのほか、ヴァネッサ・カービー、ヘイリー・アトウェル、ポム・クレメンティエフという女優陣のアクションがいずれも良いです。かなりの訓練をしたのでしょう。パート2は2024年6月公開予定(日本は時期未定)。2時間44分。
IMDb8.1、メタスコア81点、ロッテントマト96%。
▼観客多数(公開初日の午前)
「ドロステのはてで僕ら」(2020年)に続く劇団ヨーロッパ企画のオリジナル長編映画第2弾。昨年の「MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」や全国的に公開中の「神回」(中村貴一朗監督)など最近の流行と言って良いほど多いループもので、京都の貴船(きぶね)の旅館を舞台に2分間のループに翻弄される人たちを描くコメディです。
上田誠脚本、山口淳太監督という「ドロステ…」コンビの作品。2分たつと、ループするというのは忙しいですが、登場人物はみな記憶が連続しているので話は早いです。ループの始まりの場所に戻ると、さっさと前のターンの続きを行い、物語が展開していきます。相変わらず笑って笑ってのタッチですが、アイデア的には特に感心する場面は見当たりませんでした。このアイデアなら60分程度にまとめた方が良かったかなと思います。
映画を見た後にメイキングのDVDを見ました。撮影は今年1月から3月にかけて、貴船の旅館「ふじや」を貸し切って行ったそうです。ループが始まった時になかった雪が後の方では降っていたり、積もっていたりするのはループとしてはおかしいんですが、ユーモアあふれる好感度の高い映画に仕上がっているので文句を言う気にはなりません。ループの場面は2分間ワンカット撮影。旅館の中だけでなく、通りを挟んで向かいにある本館の3階まで行く場面もあり、撮影はけっこう大変だったでしょう。
主人公の旅館の仲居は「ふじや」が実家の藤谷理子(ヨーロッパ企画)、女将に本上まなみ、番頭は永野宗典、旅館に滞在している作家役で近藤芳正、友情出演のクレジットで乃木坂46の久保史緒里。1時間26分。
▼観客9人(公開2日目の午後)
実在の悪魔祓い師ガブリエーレ・アモルト神父(2016年死去)の2冊の回顧録を基にしたホラー。ウィリアム・フリードキン監督の「エクソシスト」(1973年)以来、多数のエクソシスト映画が作られましたが、どれもフリードキン作品の影響下にあります。この映画も目新しい部分はありません。ただ、映画のまとまりは悪くなく、過去作を見ていなければ、それなりに楽しめると思います。
実在のエクソシストが主人公でもクライマックスには「こんなことあるわけないだろ」と言いたくなるような派手なシーンが展開されます。アモルト神父を演じるのはラッセル・クロウ。
高橋ヨシキさんが批判していましたが、中世にカトリック教会が行った異端審問と拷問・処刑は悪魔に取り憑かれた神父の仕業という見方が出てきます。悪いことはすべて悪魔のせいにする、というのはどんなもんでしょうね。ジュリアス・エイヴァリー監督、1時間43分。
IMDb6.1、メタスコア45点、ロッテントマト49%。
▼観客12人(公開6日目の午後)
アカデミー長編アニメ映画賞候補となったストップモーションアニメ。12年前にYouTubeに発表した短編が人気を呼び(再生回数3300万回以上)、長編化されたそうです。
VIDEO
マルセルは体長2.5センチの貝で言葉をしゃべり、靴をはいている。祖母のコニーと一軒家で暮らしていたが、引っ越してきた映像作家ディーン(監督のディーン・フライシャー・キャンプが演じてます)と出会い、初めて人間の世界を知る。離れ離れになった家族を見つけるためディーンの協力を得てYouTubeに動画をアップしたところ、評判となり、テレビ番組「60ミニッツ」で紹介されたことからマルセルは全米の人気者になる。
マルセルの姿と声がかわいいので、女性と子供に受けるのはよく分かります。元の短編にはストーリーらしいストーリーはありませんが、長編化するにあたって心温まる話になってます。マルセルの声を演じるのはコメディエンヌのジェニー・スレイト、祖母はイザベラ・ロッセリーニ。1時間30分。
IMDb7.7、メタスコア80点、ロッテントマト98%。
▼観客5人(公開5日目の午後)
「君たちはどう生きるか」は宮崎駿監督10年ぶりの作品。公開まで内容等が一切伏せられていましたが、そこまで秘密にしなくてはいけないようなストーリーではありませんし、質から見ても宮崎監督作品の中では低位の出来だと思いました。引退宣言を撤回して作ったのに、とても残念です。
物語が明快ではないことが作品の弱さの一番の原因と思います。時代は1944年、主人公の牧眞人(まき・まひと)は入院中だった母親を空襲による火災で亡くし、父親とともに田舎へ疎開する。そこには母親の妹ナツコがいて父親はナツコと再婚するという。既にナツコは父の子供を妊娠していた。ナツコが住む古い屋敷の敷地内には廃墟の塔があり、言葉をしゃべる不思議なアオサギに導かれて、眞人は塔に入ろうとするが、塔の入り口は埋められて中に入れなかった。ある日、ナツコが森に行ったまま帰らなくなる。目撃していた眞人はナツコを救うため森に入り、不思議な世界に迷い込む。
設定は「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」を思わせますし、至る所に宮崎監督の過去の作品が反響しています(集大成などという手垢の付きまくった安易な表現でこの作品を評価するのは語彙不足な上に愚かしいです)。問題は主人公が対峙する敵の正体も目的もあいまいなことで、見終わってモヤモヤの残る結果になっています。これは作る前に脚本を徹底的に検討・修正すれば、回避できた失敗要因ですが、宮崎駿の脚本に意見できる人がいなかったのでしょう。
宮崎映画の主人公は一途な思いを持つ元気いっぱいの少年少女であることが多かったのですが、眞人はおとなしくナイーブな少年。中盤以降に出てくるある少女にかつての宮崎映画のヒロインの面影がありました。吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」(1937年発行)にインスパイアされたことが製作の出発点だそうですが、この大上段に振りかぶったタイトルに沿う内容でもありません。全米公開時の英語タイトルは「THE BOY AND THE HERON」(少年とサギ)になるそうで、この方が内容に近いです。
巨匠と言われる監督の最後の作品が精神的・肉体的に充実したキャリアの最盛期を上回る傑作になることは稀です。ヒッチコックも黒澤明も最後の作品は過去作の残照的なものでした。もちろん、最後の作品が芳しくない出来であっても、最盛期の傑作群まで否定されるわけではありません。ただ、老境の監督が優れた作品を生むには優れたスタッフのサポートが不可欠なのだと思います。2時間4分。
▼観客多数(公開初日の午前)
宮崎駿監督は今年82歳ですが、本作の監督ポール・シュレイダーは今月22日で77歳。やはり最盛期には及ばないにしても、本作はそれに近い出来だと思います。
主人公のウィリアム・テル(オスカー・アイザック)は配られたカードから残りのカードを推測するカード・カウンティングで勝率を上げているギャンブラー。「小さく賭けて小さく勝つ」がモットーで、勝ち続けてもカジノで目立たないようにしている。ある日、ギャンブル・ブローカーのリンダ(ティファニー・ハディッシュ)からポーカーの世界大会への出場を誘われる。いったんは断るが、過去の体験が出場を決断させる。
普通のギャンブル映画になっていないのは主人公の過去の悲惨な体験が現在に影響しているからです。主人公はイラクのアブグレイブ刑務所での捕虜虐待に加わったことで有罪となり、軍刑務所に8年間服役しました。しかし、虐待を指揮した上官(ウィレム・デフォー)は罪に問われず、のうのうと暮らしています。非人間的な虐待行為は実行した主人公のトラウマとなっており、同じような境遇で自殺した父親を持つ若者カーク(タイ・シェリダン)と知り合ったことで過去に決着を付けることになります。
映画の構造はポール・シュレイダーがキャリアの初期に脚本を手掛けた「ローリング・サンダー」(1977年、ジョン・フリン監督)などとよく似ています。「ローリング・サンダー」の場合、主人公はベトナム戦争の後遺症に苦しんでいました。そうしたシュレイダーの一貫した姿勢がよく表れた作品だと思います。1時間52分。
IMDb6.2、メタスコア77点、ロッテントマト87%。
▼観客3人(公開10日目の午後)
またぞろ高校生のラブストーリーか、と食指はあまり動かなかったのですが、一部で評判が良いので見ました。
高校2年生の黒田希美(桜田ひより)は机の中に「好きだ」と書かれた手紙を見つける。送り主は女子からモテモテの瀬戸山潤(高橋文哉)。戸惑いつつも、返事を靴箱に入れたことから、2人の交換日記が始まる。実はその手紙、生徒会長の松本江里乃(茅島みずき)に宛てたものだった。本当のことを言い出せないまま、やり取りを続ける希美は次第に瀬戸山に惹かれていく。
希美が日記を受け取るのは放送室前のボックスに指定したので相手が違っていても続けられるわけですが、無理のある設定ではあります。「君に届け」(2010年、熊澤尚人監督)の多部未華子のように「先輩が、私を好きだったことはありません」と本当のことを告白する流れなのだろうと思っていると、そこはよく考えた展開になっていました。櫻いいよの原作小説を脚色したのは「ハニーレモンソーダ」「私がモテてどうすんだ」などの吉川菜美。
桜田ひよりと高橋文哉は普通に好演しています。竹村謙太郎監督はTBSスパークル所属で、「トリリオンゲーム」や「インビジブル」「MIU404」など多くのテレビドラマの演出を担当。劇場用映画を監督するのはこれが初めてですが、手堅くまとめています。1時間50分。
▼観客12人(公開5日目の午後)
北アイルランド・ベルファストにあるホーリークロス男子小学校の哲学の授業を紹介したドキュメンタリー。プロテスタントとカトリックの対立が長く続いた街で、子どもたちは異なる立場の意見に耳を傾けながら、自らの考えを整理し、学ぶことになります。
暴力には暴力で対抗するよう家で教えられる子供もいますが、そうした子供たちに暴力を否定し、怒りをコントロールする方法をケヴィン校長は哲学を通して教えていきます。これは北アイルランドに限らず、どこの学校でも有効な方法でしょう。興味深い題材ですが、ナレーションも詳しい説明もなく、もう少し親切な作りにしても良かったかなと思いました。ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ監督、1時間42分。
IMDb7.8、メタスコア78点、ロッテントマト100%。
▼観客9人(公開21日目の午後)
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