2021/08/19(木)8月前半に見た映画

 8月前半(15日まで)に見た映画は16本。劇場では6本だった。

「アジアの天使」

 全編監督ロケをした石井裕也監督作品。妻を失った剛(池松壮亮)は8歳の息子とともに兄(オダギリジョー)がいる韓国へ行く。兄は怪しい化粧品販売の仕事をしていた。剛たちは家族関係に悩むタレントのソル(チェ・ヒソ)の家族とソウルで出会い、一緒に旅をすることになる。

 日本、韓国とも役者は全員良いが、話が今一つ盛り上がらない。両家族の関係性が良くも悪くもなく、不透明なままなのだ。日韓の交流に安易な結論を出すのは難しいので仕方ないのかもしれない。

「キネマの神様」

 原田マハの原作とはまるで異なる話になっている。映画好きの主人公ゴウがギャンブル好きで借金まみれであるなど原作の登場人物に沿ったキャラクターではあるが、原作のゴウに映画の助監督を務めた過去はない。

 原作は「父親のゴウが雑誌『映友』に歩の文章を投稿したのをきっかけに、娘の歩は編集部に採用され、ひょんなことから父の映画ブログ『キネマの神様』をスタートさせることに。“映画の神様”が壊れかけた家族を救う、切なくも心温まる奇跡の物語」。無名の個人のブログで月の広告収入1000万円とか、ありえない展開があって、原作にはあまり感心できなかった。ゴウがブログに書いている内容も「フィールド・オブ・ドリームス」の感想などいたって普通で特別に話題になるとも思えないものだ。

 こうした物語では映画に向かないため、山田監督がまったく違う内容にしたのも分かるが、それならば、この小説を原作にする必要はなかった。要するに「キネマの神様」というタイトルを使いたかっただけなのではないか。

 主演の沢田研二は志村けんに寄せた演技が所々にあってマイナスの印象。「東村山音頭」を歌うシーンなど不要だと思う。そもそも沢田研二、映画に出るなら、もう少し体を絞った方が良かっただろう。原作のゴウさんも志村けんもこんなに太ってはいない。

 良かったのは過去のパートで、永野芽郁が良いのはもちろんだが、意外なことに美人女優を演じる北川景子がさまになっていた。北川景子、2月に公開された「ファーストラヴ」ではまったくラブシーンがダメダメな演技だったが、こういうそこにいるだけの美人という役柄にはぴったりだ。

 コロナ禍の描写を取り入れたのは良いが、映画の出来としてはいたって普通のレベル。

「ワイルド・スピード ジェット・ブレイク」

 2001年の第1作から数えてシリーズ9作目(スピンオフの「スーパーコンボ」を含めると10作目)は上映時間2時間23分。見る前は長すぎるのではと思ったが、アクションが切れ目なく続くので、そんなに長さは感じない。それでももう少し切り詰めた方が鋭い映画になったと思う。

 壊れた吊り橋のロープ1本を使ってクルマをジャンプさせたり、改造車で宇宙へ行ったりなど、大がかりなアクションは、おバカ映画の一歩手前という感じ。単なるカーアクションの枠を超えるアクションが展開されるようになったのは2011年の「MEGA MAX」ぐらいからだっと思うが、作品ごとにエスカレーションしている。

 3作目で死んだハン(サン・カン)が実は生きていたとして復活する。こういう「死んだはずだよ、お富さん」的展開になるのはレティ(ミシェル・ロドリゲス)に続いて2人目で、このシリーズ、なんでもありなので、もはや気にならない。むしろ、2013年に亡くなったポール・ウォーカーが演じたブライアンが画面にまったく登場しないのに、存在している設定なのが不自然。ウォーカーは観客にもスタッフにも愛された人だったにせよ、さすがに無理が目立ってきた。

 シリーズ開始から20年たち、出ている俳優陣の多くは年齢的に厳しくなった。シリーズは次の2作で完結するらしい。

「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」

「ザ・スーサイド・スクワッド」パンフレット
 原題は2016年の「Suicide Squad」に「The」を付けただけのタイトル。仕切り直しの決定版という意味だろう。悪を殲滅するために終身刑の悪人たちによる部隊を組織するという話だが、マーベルで「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を撮ったジェームズ・ガン監督がやりたい放題にやらせていただきました、という感じで作っている。マーベルは親会社がディズニーなのでグロい描写には規制があったのかもしれない。頭が切断されたり、吹っ飛んだり、DCはなんでもありだ。

 ジェームズ・ガンのユーモア感覚は絶妙で、ゲラゲラ笑いながら見ることになるが、怪獣映画のようなクライマックスからまともなヒーローものになる。その怪獣、「宇宙人東京に現わる」で岡本太郎がデザインしたヒトデ型一つ目の宇宙人パイラ人と同じなのが笑える。しかし、最新のVFXで動くこの怪獣、迫力があり、恐怖の存在として十分に機能している。

 ビリングのトップはハーレイ・クイン役のマーゴット・ロビー。当然という感じだが、ロビーは演技もしっかりできるのにこうした映画を見捨てないのはえらい。2016年版のハーレイはそのキュートさで一躍人気者になった。今回はキュートさは控えめで、強さが目立っている。このほか、キャラで目立つのはサメ男キング・シャークで、シルベスター・スタローンが声を演じていてこれまた絶妙に面白い。ネズミの群れを操るラットキャッチャー2(父親=タイカ・ワイティティの跡を継いだから2)を演じるダニエラ・メルキオールはポーランド出身で、これが初のアメリカ映画出演とのこと。

「少年の君」

「少年の君」パンフレット
 中国の苛烈な受験戦争を背景にしたいじめを巡る青春映画。第93回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされた(受賞は「アナザーラウンド」)。内容について東野圭吾のあれとあれだとか、岩井俊二の影響受けているとか、いろいろ言われているが、ともに不遇な環境にある若い男女が出会い、強く切実に惹かれ合うという展開は過去の青春映画に多数の前例がある。定番とも言えるプロットにもかかわらず、この映画が大きな成功を収めたのは主演のチョウ・ドンユイとイー・ヤンチェンシーの魅力によるところが大きいだろう。

 29歳なのに18歳の高校3年生チェン・ニェンを演じて不自然さがないドンユイも鮮烈だが、「俺は君を守る。君は世界を変えろ」と言うシャオベイ(ヤンチェンシー)が良い。かつてはこういう男子が普通(例えば、日活アクションとか「未来少年コナン」とか)だったのだが、日本では今や「あなたは死なないわ。私が守るから」と女の子(綾波レイ)から言われる始末だからなあ。

 後半のミステリー的展開は作劇として決してうまくはないものの、学歴偏重社会の否定につながるラストをもってくるための手段でもあるだろう。

 劇中、チョウ・ドンユイは坊主頭になる(これが「リリイ・シュシュのすべて」の伊藤歩を思わせる)。パンフレットによると、ドンユイの提案でスタッフ全員も同じく坊主頭になったとのこと。

 いじめっ子の美少女ウェイ・ライを演じるチョウ・イエはこの映画で一躍注目を集め、大作への出演が続いているという。なるほど、それも納得の美少女ぶりだ。

 映画の中で940万人(だったかな)とされる高考(全国統一大学入試)の受験者数は現在、1000万人を超えているそう。日本の大学入学共通テストの受験者は約53万人なので20倍近い数。大学受験の厳しさは日本をはるかに上回っているのだ。

2021/08/10(火)7月に見た映画

 遅くなりましたが、7月に劇場で見た映画のうち、ここで触れていない作品の感想をアップしておきます。シネマ1987のメーリングリストに流したものを「ですます」調から「である」調に変えただけですが。

 7月に見た映画は28本。内訳は映画館12本、Netflix6本、WOWOW3本、Hulu3本、amazonプライムビデオ3本、ディズニープラス1本。

「猿楽町で会いましょう」

「猿楽町で会いましょう」パンフレット
 公開初日、1回目の上映に行ったら、観客1人だった。未完成映画予告編大賞のグランプリを受賞した後に本編を撮影した作品。

 完成映画の方の予告編を見ると、渋谷区猿楽町を舞台にした若い男女の単純なラブストーリーのように思える。映画は3章構成で、フリーカメラマンの男(金子大地)が仕事で出会った読者モデルの田中ユカ(石川瑠華)に惹かれ、付き合い始めるというのが第1章。

 第2章からは映画とユカの第一印象を裏切るような展開を見せる。未完成映画の予告編(これにも石川瑠華が出ている)にはそうした部分も描かれている。YouTubeで完成映画の予告編を見ると、自動再生で次に未完成映画の予告編が再生されてしまうが、これはキャンセルして何も知らずに本編を見ることを勧めたい。

 石川瑠華、監督の児山隆ともこれが長編映画デビュー。どちらも頑張っていて、敢闘賞に値すると思った。

「ブラック・ウィドウ」

「ブラック・ウィドウ」パンフレット
 延期に延期を重ねてようやく公開されたか、という感じ。

 序盤を見て「007のようなスパイアクションだな」と思ったら、劇中で「007ムーンレイカー」を流す場面があり、ロジャー・ムーア時代の007を思わせる空中アクションがメインになっていた。世界的な悪の組織という敵の設定も含めて、製作者たちは明らかに007を意識して作っている。

 当時の007はアクションは素晴らしかったものの、エモーションには欠けていた。「ブラック・ウィドウ」にもそんなところがある。いくらでもエモーショナルに作れる題材なのに、それほどドラマティックな演出にはなっていない。しかし大きなスクリーンで見た方が良い作品であり、ディズニーが劇場公開にこだわったのも理解できる。

「茜色に焼かれる」

「茜色に焼かれる」パンフレット
 コロナ禍の苦しい生活を描くだけかと思ったら、希望を描いていた。

 主人公の田中良子(尾野真千子)は7年前に夫(オダギリジョー)を元高級官僚の老人が運転する車の事故で亡くし、加害者側が謝罪しなかったために賠償金の受け取りを拒否。中学生の息子純平(和田庵)を1人で育てるシングルマザーとなってスーパーの花屋コーナーと風俗店の掛け持ちで働いている。

 こんなことしてたら、コロナ禍じゃなくても苦しいと思えるのは良子が、夫と愛人との間に生まれた子どもへの養育費の仕送りと、義父が入っている施設への支払いも行っていること。希望は純平が全国でもトップクラスの優秀な成績であることが分かったほか、いじめを受けているにもかかわらず、素直に育っていること。風俗店の同僚のケイちゃん(片山友希)が「純平くんって、いい男だねえ」としみじみ言うほどで、純平には人間関係の希望、次代への希望みたいなものを感じさせる。

 一方で良子を解雇する花屋の店長とか、セックス目当ての同級生とか、ケイちゃんが同棲しているDV男とか、女性の不幸の原因の多くがコロナ禍よりもクズみたいな男にあることがよく分かる映画だ。

「東京リベンジャーズ」

「東京リベンジャーズ」パンフレット
 ヤンキーな予告編を見た段階ではスルーしようと思っていたが、キネ旬で好評だったのでアニメを見たら、なかなか面白い出来。見に行ったら、意外にも若い女性客が多かった。北村匠海や吉沢亮のファンなのだろう。

 クズみたいな人生を送っている主人公・花垣武道(北村匠海)がその発端となった10年前に戻り、人生を、そしてヤクザと半グレの抗争に巻き込まれて死んだ橘日向(今田美桜)を取り戻そうとする物語。主人公は過去に戻って殴られ蹴られてばかりだが、かつてそれに屈したことが今の情けない生活につながっているわけなので絶対に諦めない。それが映画の熱さにつながっている。

 「いつも急に来るんだね、君は」と言い、タケミチを信じ抜くヒナタを演じる今田美桜の最強のかわいさも必見。タイムリープを絡めた物語としては明らかに「夏への扉 キミのいる未来へ」よりよく出来ている。

「映画大好きポンポさん」

「映画大好きポンポさん」パンフレット
 作画からして「竜とそばかすの姫」に見劣りするが、内容は初歩的な映画ファンが喜びそうな感じに仕上がっていた。

 「泣かせ映画で感動させるより、おバカ映画で感動させる方がかっこいいでしょ」とか「人間の集中力はそんなに持たない。90分が限界」とか、プロデューサーのポンポさんが言ってることは極めてまとも(でも目新しくはない)。映画全体も好感の持てる作りになっているが、それ以上のものはなく、中高生向けと思えた。

 入場者プレゼントで映画の前日譚にあたる書き下ろしコミック(非売品、24ページ)がもらえた(僕がもらったのは前編)。

「シドニアの騎士 あいつむぐほし」

 2期にわたって放送されたテレビシリーズの完結編となる新作。「未知の生命体ガウナに地球を破壊され、かろうじて生き残った人類は巨大宇宙船シドニアで旅を続けていたが、100年ぶりにガウナが出現、再び滅亡の危機に襲われる」というストーリー。

 クライマックスの出撃シーンでテレビシリーズ第1期のオープニングテーマ「シドニア」が流れた時には「おおおおおおーっ」とテンションが爆上がりだった。

 これはテレビシリーズを見ていた人には共通するようで、YouTubeのこのMVのコメント欄には「鳥肌立った」「震えた」というコメントが並んでいる。

 メインのストーリーに絡めて逆「美女と野獣」のようなラブコメ設定があり、そこもきちんと完結している。CGをふんだんに使い、制作のポリゴン・ピクチュアズが技術の高さを示した1作になった。テレビシリーズは全話Netflixにある。

「イン・ザ・ハイツ」

「イン・ザ・ハイツ」パンフレット
 トニー賞4部門を受賞したブロードウェーミュージカルの映画化。マンハッタン北端にある移民の街ワシントン・ハイツを舞台に、通りを埋めた群舞や歌でヒスパニック系移民たちの今を描く。監督は「クレイジー・リッチ!」(2018年)のジョン・M・チュウ。

 移民の生活には経済的貧困や差別が影を落としていて、それらの問題をヒップホップで歌い上げる、いかにも現代のミュージカルになっている。フレッド・アステア「恋愛準決勝戦」(1951年、スタンリー・ドーネン監督)の有名なシーンをアップデートしたシーンがあったり、ミュージカルとしては水準を超えている。

 群舞も素晴らしいが、欲を言えば、圧倒的なソング&ダンスマン(ウーマン)のパフォーマンスが欲しかったところ。ヒスパニック系移民を描いたミュージカルは「ウエスト・サイド物語」(1961年)以来とのこと。

「ジャングル・クルーズ」

 ディズニーランドのアトラクションをモチーフにした作品。「不老不死の力を秘めた奇跡の花を追って、並外れた行動力を持つ博士リリーと船長フランクは、アマゾンの上流奥深くの“クリスタルの涙”へ向かう」というストーリーでエミリー・ブラントとドウェイン・ジョンソンが主演している。

 「レイダース」や「ロマンシング・ストーン」を思わせる展開だが、そうした傑作に比べて新鮮さは皆無で、映画のタッチとしては同じくアトラクションを映画化した「パイレーツ・オブ・カリビアン」に近い。ブラントもジョンソンも好きな俳優だが、溌剌さには欠けており、もっと若い俳優の方が良かったのでは、と思えた。監督は「トレイン・ミッション」のジャウム・コレット=セラ。

2021/07/01(木)6月に見た映画

 観賞本数31本。内訳は映画館14本、WOWOW、Netflix、amazon各4本、Hulu2本、ディズニープラス、レンタルDVD、その他各1本。

「映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット」

 脚本の弱さが致命的。前作もそうだったが、30分のテレビドラマでは成立したものが、2時間の映画では持たない。前半の退屈さに比べれば、後半のロシアンルーレットの場面は悪くないが、いかさまのトリックが穴だらけ。もっと脚本を練ってほしい。

 浜辺美波、池田エライザ、森川葵などのファンの方はどうぞ。

「明日の食卓」

 WOWOWオンデマンドで見た。石橋ユウという同じ名前(ユウの漢字は違う)で同じ小学3年の男子児童を育てる3人の母親の話。裕福な家庭(尾野真千子)、共働きの家庭(菅野美穂)、シングルマザーの家庭(高畑充希)と3つの家庭は異なる環境だが、それぞれに男児を巡る問題が起きてくる。子育てを巡る切実な問題が描かれ、瀬々敬久監督が力作に仕上げている。

 一つ疑問なのはこれ、原作由来の問題なのだが、児童が同じ名前である必要がないこと。3人の母親に接点がまるでなく、冒頭に描かれる事件との関連を示唆してるにも関わらず、なんだこれはというラストになる。つまり、3つの話を一つの作品にまとめたいがために同じ名前にし、余計な事件を加えたという構成なのだ。

 しかも、そっちの事件の方が深刻なので、そっちを詳しく描かないとダメでしょう。ネタバレになりかかってるのでやめるが、子育ての母親の苦悩を描く部分はとても良いので、もったいない構成と思う。

「AWAKE アウェイク」

 Netflixオリジナル。SFだったので見たが、激しく後悔した。

 世界的な大停電の後、人類は眠れなくなってしまい、昏睡状態の患者たちも目を覚ます(だから「アウェイク」というタイトル。目覚めというより不眠症だ)。主人公の娘はなぜか眠れる。その娘を政府機関が狙ってくるという展開で、アイデアの発展が少しもないC級SFだった。

 IMDb4.8、メタスコア35点、ロッテントマト31%と酷評されている。

「Mr.ノーバディ」

 アメリカではそんなに評価が高くない(IMDb7.4、メタスコア63点、ロッテントマト83%)ので、スルーしようかと思ったが、日本ではなかなか好評のようだ。

 ヘンリー・フォンダが出た映画で同じタイトルがあったよなと思い、調べたら「ミスター・ノーボディ」(1973年)だった。さらに「ミスター・ノーバディ」(2011)という映画もあった。

 ひと言で言うと、「なめてた相手が実は殺人マシンだった」という映画だ。最近ではデンゼル・ワシントン主演の「イコライザー」がこのタイプだった。主人公のハッチ(ボブ・オデンカーク)は自宅と工場を往復するだけの毎日を送っているが、ある夜、自宅に2人組の強盗が押し入り、間一髪のところで撃退する。実はハッチ、過去に国の機関で凄腕の殺し屋として働いていた。強盗との格闘でかつての自分に火が付き、ハッチは強盗が手首にしていた刺青を手がかりに居所をつきとめ、盗まれたものを取り返す。

 これで終われば良かったのに、帰りのバスにロシア系のギャングが数人乗り込んできて、ハッチは戦う羽目になる。全員を病院送りにするが、そのうちの1人はロシアンマフィアのボスの弟だった、という展開。序盤の刺されたり、殴られたり、自分も傷を負いながら戦う主人公にリアリティーがあり、これは傑作かと思ったが、クライマックスのアクションがリアリティーを欠き、大きく減点した印象。メタスコアの低い点数はこのあたりが影響したのだろう。

 ただ、B級アクションを好きな人なら、見て損はない映画だと思う。主演のボブ・オデンカークは大傑作ドラマ「ブレイキング・バッド」の悪徳弁護士役でブレイクした俳優。アクションをやるタイプには見えないが、だからこそのキャスティングだろう。ちょい役でマイケル・アイアンサイドが出ている。すっかり太ってて、最初は誰だか分からなかった。強烈な印象があった「スキャナーズ」から既に40年だからなあ。

「キャラクター」

「キャラクター」パンフレット
 小栗旬は2016年の「ミュージアム」でやはりサイコパスを追う刑事役をやっているから、この映画でも同じような主役級の役回りなのだろうと思っていた。中盤でまさかああなるとは予想していなかった。脚本は永井聡監督と長崎尚志、川原杏奈の3人で書いているが、オリジナルでここまで面白い話にできるのは大したものだと思う。

 ただ、サイコパスの犯人像というのはヒッチコックの「サイコ」(1960年)のモデルになったエド・ゲインにずーっと、どんな作品でも影響されている。模倣してると言っても良い。「レッド・ドラゴン」や「羊たちの沈黙」などもそうで、サイコパスはこうしたキャラクターが一般的になっている。

 まあ、今回もそのパターンを抜けられなかったのは少し残念ではある。犯人のアパートの部屋なんて、一目で異常者と分かってしまう。現実にはあんな風にはならないだろう。アメリカの田舎の方の人口の少ない地域ではエド・ゲインのように死体の皮を剥いだりすることもできたのだろうが、日本のアパートでは近所の人に怪しまれてしまうだろう。

「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」

 3年ぶりの続編で、音に反応して人間を襲うモンスターが大量に出現し、荒廃した世界を舞台にしたSFホラー。冒頭に1日目の描写があるが、話は前作の終了直後から進む。今回もサスペンスたっぷりに進行し、前作を上回る評価を得ている。

 ジョン・クラシンスキー監督と主演のエミリー・ブラントは夫婦で良い仕事をしているなと思う。ただ、モンスターの弱点は前作で分かったため、展開の目新しさはなかった。

「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」

 腹立たしいことに入場料が1900円均一だった。招待券も使えず。これでつまらなかったら怒るところだが、予想より面白かった。

 中盤にある市街地上空でのモビルスーツの戦いで下の建物や人たちが被害に遭うという「ガメラ3」みたいなシーンに迫力があったし、徐々に分かってくる人間関係も楽しめた。加えてヒロインのギギ・アンダルシア(10代なのに80歳超の富豪の愛人)にセクシーな魅力があり、中高生男子はイチコロだろう。

 「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988年)の12年後の話といわれても、33年も前の「逆襲のシャア」の細部は忘れているが、原作はその翌年1989年から1990年にかけて発表されたそうだ。3部作と言われていて、話はまだまだ導入部。続きを見たい気持ちになった。

「アメリカン・ユートピア」

「アメリカン・ユートピア」パンフレット
 デイヴィッド・バーンによるブロードウェイのショーをスパイク・リー監督で映画化した作品。ブラック・ライブズ・マター(BLM)などアメリカのさまざまな問題を取り上げ、「僕らはあてどない旅の途中」と歌い上げるクライマックスは感動的で、評価の高さも納得できる。

 ただし、スパイク・リーがやったことは舞台を真上から撮影したり、犠牲になった黒人の名前を連呼する歌に合わせて犠牲者の写真を出すなど元のショーを効果的に見せるための補足的な演出にとどまる。

 映画にすることでブロードウェイに行けない世界中の観客がこの優れたショーを見ることができるというメリットはあるが、これを映画と言うなら、「キンキーブーツ」はもちろん、堂本光一主演の「Endless Shock」も同列に扱う必要があるだろう。そのあたり、釈然としない気持ちも残った。

「ブータン 山の教室」

 アカデミー国際長編映画賞のブータン代表作品。標高4800メートルにあるブータン北部の村ルナナを舞台に、都会から赴任した男性教師と子どもたちや村人との交流を描く。

 ルナナは人口56人。電気は太陽光発電で不安定、水道もガスもない不便なところで、8日かけてたどり着いた若い教師はすぐに帰りたくなるが、次第に素朴な村人たちに惹かれていくという話。といっても、教師はオーストラリアに行きたいという夢を持っていて、数カ月で村を後にすることになる。

 「ブータンは世界一幸福な国と言われるのに、若者は幸せを求めて外国へ行く」という村長の指摘には考えさせられる。

「夏への扉 キミのいる未来へ」

「夏への扉 キミのいる未来へ」パンフレット
 ロバート・A・ハインラインの名作SFの初映画化。山崎賢人、清原果耶の好演に加えて、邦画SFとして脚本も頑張った印象で、水準には達していると思った。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクを思わせる田口トモロヲの役も面白い。

 夏菜は意外なことに悪女役が実にぴったりな感じ。この路線で菜々緒に負けない存在になれるのでは、と思えた。

「Arc アーク」

「アーク」パンフレット
 石川慶監督作品だが、前半30点、後半75点ぐらいの出来だと思った。ケン・リュウの短編「円弧(アーク)」は6年前にポケットブック判の短編集「紙の動物園」で読んでいたが、内容は完全に忘れていた。この短編集の中で特に優れているわけでもないのになぜ映画化したのだろう。

 不老不死を巡る話だが、前半に描かれるのは死体の防腐処置(プラスティネーション)。これが無用に長いのが敗因で、単純に脚色(石川慶、澤井香織)の失敗だと思う。

 後半の展開を考えれば、前半にはプラスティネーションではなく、主人公(芳根京子)が十代で子どもを産み、捨てた経緯をもう少し詳しく描いた方が良かっただろう。後半はエモーショナルな映画らしくなるだけに前半の無機質な描き方が悔やまれる。

 役柄の予想はつくが、小林薫が情感を込めたさすがの演技を見せて良かった。

2021/04/04(日)2本のサイレント映画

 amazonプライムビデオで「狂った一頁」を見た。衣笠貞之助監督の1926年のサイレント映画でキネ旬ベストテン4位。まったく字幕がないのでどういう話なのかつかみにくいが、精神病院を舞台にそこで働く男と、男のせいで入院した妻、結婚間近の娘を巡る話。ということはKINENOTEなどの解説を読んで分かった。

 Wikipediaによると、「激しいフラッシュバックや多重露光、キアロスクーロ、素早いショット繋ぎ、オーバーラップなどの技法を駆使して斬新な映像表現を試みた、日本初のアヴァンギャルド映画」。ドイツ映画「カリガリ博士」(1920年)に影響を受けているそうだ。公開当時は一種のホラーだったのではないか。精神病院の患者たちを恐怖の対象にしているのは明らかだ。関連作品としてamazonが表示したトッド・ブラウニング「怪物團(フリークス)」(1932年)が公開された際の観客の受け止め方と同じだったのではないかと思う。

 急いで付け加えておくと、当時の見世物小屋を舞台にして観客に大きなショックを与えた「フリークス」には障害を持った人がたくさん出てくるが、そうした人たちを恐怖の対象とはしていない。ストーリーはむしろ健常者の方があくどいことをやる、という結論であり、出てくる障害者の多くは善良な人たちとして描かれている。現在では高く評価され、IMDb7.9、メタスコア80、ロッテントマト95%と高得点なのも納得できるのである。

 「狂った一頁」はYouTubeでも見られる。


 閲覧履歴に基づいてamazonがお勧めしてきたのは同じくサイレント映画の「何が彼女をさうさせたか」。鈴木重吉監督作品で1930年度キネ旬ベストテン1位。長らく「幻の映画」になっていたが、1992年にソ連で発見され、大阪芸術大学によって修復・復元された。1997年の第10回東京国際映画祭で上映されたそうだ。こちらは丁寧な字幕があるので極めて分かりやすく面白い。

 「公開当時に流行し、社会主義思想の影響を受けた『傾向映画』の代表作としても知られる」とWikipediaにある。主人公の少女は不幸の固まり、不運の連続のような人生を送る。親が自殺して叔父に頼るが、曲馬団(サーカス)に売られる。恋心を寄せた青年と脱走の途中に青年が交通事故に遭ったため離ればなれになり、少女は職を転々として酷い目に遭い続ける。

 悪人は本当に悪人顔という分かりやすい配役をしている。救いのない展開で悲劇のまま終わるのが「傾向映画」らしい。ラストはフィルムが消失していて字幕だけになる。偽善や不正への少女の怒りをどう表現していたのか映像が見たいところだが、もうどこにも残っていないのだろう。

 この映画もYouTubeにアップされている。

2021/03/19(金)「さらば映画の友よ インディアンサマー」の感慨

 「俺の目標は1年に365本映画を見ること。それを20年続けること」。

 原田眞人監督のデビュー作「さらば映画の友よ インディアンサマー」(1979年)のダンさん(川谷拓三)はそう言う。僕も365本の映画を見ることを今年の目標にしたが、劇場のほかに配信とDVD、テレビ録画も含めての数字だ。ダンさんの場合は劇場だけでカウントしているから、1年で365本はけっこう大変な数字ではある。映画の時代設定の1968年当時はまだ名画座が健在だったから、こうしたこともできたのだろう。映画は数多く見れば良いというものではない。しかし、数多く見ておかなければ、分からないことだってある。



 1979年度のキネマ旬報ベストテン49位。はっきり言ってキネ旬ベストテンの30位以下にはあまり意味がない。投票者が少なくなるからで、この映画に票を入れたのは2人だけだった(南俊子と渡辺武信)。もちろん、ベストテンに入れたくなる映画というのはどこかに魅力があるのだ。

 静岡県沼津市が舞台。予備校よりも映画館に多く通っているシューマ(重田尚彦)は映画館で中年の映画ファン、ダンさんに出会う。映画館の中でおしゃべりしていた女子学生たちを注意したダンさんは痴漢扱いされ、その窮地をシューマが救ったのだ。「死の接吻」のリチャード・ウィドマークのセリフを引用したことで、ダンさんが根っからの映画ファンであることが分かり、2人は意気投合する。この2人に絡むのが17歳の少女ミナミ(浅野温子)。シューマはミナミを好きになるが、ミナミにはヤクザが付いているらしい。

 沼津は原田監督の出身地だから体験的な部分も入っているとのことだが、終盤はフィクションの度合いを強める。ダンさんは拳銃を手に入れて、1人でヤクザの親分の屋敷に殴り込みをかけるのだ。

 出演者の多くは既に亡くなっている。川谷拓三、重田尚彦、トビー門口、原田芳雄、鈴木ヒロミツ、室田日出男、そして映画評論家で最初の方に出てくる映画館主役の石上三登志。SFに詳しい石上さんはキネ旬などによく映画評や長い評論を書いていて、それを読むのが僕は好きだった。42年前の映画だから亡くなった俳優が多いのは仕方がないが、感慨を持たざるを得ない。

 この映画も長い間、見ることができなかった。ファンの要望を受けて、ようやくDVDが発売されたのは昨年9月。原田監督が監修に当たったそうだが、元のフィルムが劣化していたためか、全体的に赤みがかっていて、画質的に満足できる仕上がりではないだろう。

 内容に関して原田監督は日記にこう書いている。
「さらば」は演出的には稚拙なパーツ満載の映画ではあるが、20代で撮った作品はこれ一本。駆け出し監督の痛点を見てもらえればありがたい。
 いやいや、イタいところなんてないですよ。時代背景も含めて僕には懐かしい映画でした。