2023/02/19(日)「別れる決心」ほか(2月第3週のレビュー)

 「別れる決心」はカンヌ国際映画祭監督賞を受賞したパク・チャヌク監督作品。岩山の頂上から転落死した男の妻ソレ(タン・ウェイ)が容疑者となり、取り調べる刑事ヘジュン(パク・ヘイル)が徐々にソレに惹かれていくサスペンスロマンです。週刊文春のレビューで芝山幹郎さんが「名作『めまい』を換骨奪胎」と書いていたので期待は大きかったんですが、僕にとっての生涯ベスト級であるヒッチコック「めまい」(1958年)に比べると、いやいや全然及びませんでした。

 タン・ウェイは「めまい」のキム・ノヴァクに匹敵するほどではないものの「ラスト、コーション」(2007年、アン・リー監督)の時よりも魅力的なんですが、パク・ヘイルはジェームズ・スチュアートに比べるべくもありません。刑事が容疑者に惹かれていく展開は「めまい」より「氷の微笑」(1992年、ポール・バーホーベン監督)を思い出しますが、タン・ウェイはシャロン・ストーンのような冷たい悪女とは違います。映画の終盤にプロット上の弱さを感じたのはそれが一因にもなっていて、パク・チャヌクは基本的に女性に優しい監督なのでしょう。

 「あなたが『愛している』と言った時から私はあなたを愛するようになった」とソレは言います。ヘジュンは「愛している」なんて言った覚えはありません。それが何のことなのか思い至った時、ソレの気持ちが初めてヘジュンには分かります。観客にもソレがどういう女なのか分かります。終盤のこの描写はとても良いと思いました。

 パク・チャヌクの前作「お嬢さん」(2016年)はR-18の描写を入れながらもしっかりしたミステリーでした。サラ・ウォーターズ「荊の城」が原作だったので当たり前です。今回は原作のないオリジナルで、脚本の詰めの甘さを感じました。2時間18分。
IMDb7.3、メタスコア84点、ロッテントマト93%。
▼観客12人(公開初日の午前)

「エゴイスト」

 高山真の原作を松永大司監督が映画化。東京でファッション誌の編集者として働く浩輔(鈴木亮平)は、パーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)に出会い、お互いに強く惹かれ合う。幸せな時間を過ごす2人だったが、ある日、龍太は「もう終わりにしたい」と突然、浩輔に告げる。病弱な母親(阿川佐和子)と狭いアパートで暮らす龍太にはある秘密があった。

 僕はホモフォビアではありませんが、男同士が愛する姿よりは男女の愛する姿の方を見たいと思っていて、この映画を見ることには少し不安もありました。そんな僕でも納得できる男と男のラブストーリーが前半に描かれます。映画の中で「あなたにとって大切な人なら、男でも女でもいいじゃない」と阿川佐和子は宮沢氷魚に言いますが、まさしくそんな感じ。

 ただ、最もドラマティックなことは前半で終わってしまい、後半は長い長い蛇足に思えました。長さの割にドラマが薄くなるのが残念です。

 演技の虫の鈴木亮平はゲイの仕草を徹底的に勉強したようで、非常にリアルにゲイを演じています。宮沢氷魚の儚さも良いです。2時間。
▼観客17人(公開7日目の午後)ほとんど女性客。後半に泣いてる人もいましたが、前半の号泣展開を引きずったんじゃないでしょうか。

「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」

 ハリウッドの大物プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタイン(映画の中ではみんなハーヴィー・ワインスティンと発音してます)の卑劣なセクハラを暴き、#MeToo運動の先駆けとなったニューヨークタイムズのスクープを映画化。女性記者2人が地道な調査報道でワインスタインを追い詰める姿を描いています。

 事実を積み重ね、記事を補強するためにオンレコの証言を入れる努力をしていく記者の姿は真っ当なものです。映画の作りもこの記事の作りと同様、正直に描写を積み重ねていて僕は傑作だと思いました。ただ、記者を演じるゾーイ・カザンとキャリー・マリガンのカッコ良さと魅力をもってしても、地味な作りであることは否めません。アメリカでの批評が絶賛とまではいかないのはドラマの希薄さが影響しているのでしょう(中には序盤のトランプ批判を快く思わない人もいるかもしれません)。

 こうした記者を描く映画を見ていつも思うのは、記者がいくら優秀であっても口を開いてくれる人がいなければ、影響力のある優れた記事は書けないということです。この映画でも勇気を持ってセクハラの詳細を語った被害女性たちこそが事態を打開した本当の貢献者と言えるでしょう。女優のアシュレイ・ジャッドは名前を記事に使うことを許し、本人役で登場しています。

 監督はドイツ生まれの女優で「アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド」(2021年)などのマリア・シュラーダー。2時間9分。
IMDb7.2、メタスコア74点、ロッテントマト88%。
▼観客11人(公開2日目の午後)

「バビロン」

 芳しくない評価がほとんどで期待値が低かったこともあって、予想より面白かったです。狂騒的なパーティーを描いた最初の1時間は長すぎで、ここを20分ぐらいにまとめれば、もう少し引き締まった作品になったのではないかと思います。

 映画製作を目指すマニー(ディエゴ・カルバ)と女優志望のネリー(マーゴット・ロビー)を中心に、サイレントからトーキーに変わる1920年代のハリウッドを描いています。ディエゴ・カルバの存在感が薄いことと、同じ1920年代を描いていることから序盤は「グレート・ギャツビー」を想起しました。

 印象的なのはブラッド・ピットの役柄で、サイレントからトーキーに変わる過程で落ちぶれていくスターなんですが、別に声が悪いわけでも演技が下手なわけでもありません。それなのに真面目に演じているシーンで観客はピットを見て嗤います。なぜかと思ったら、本人にはいかんともしがたい理由を告げられます。このピットに代表されるように、映画は「時代は変わる」こと、その厳しさ切なさを描いて悪くないと思いました。

 劇中でも引用されていますが、サイレントからトーキーへの変更期の混乱は「雨に唄えば」(1952年)という楽しくて偉大な作品がありますから、あれを上回るような気概と工夫が欲しいところではありました。3時間9分。
IMDb7.4、メタスコア60点、ロッテントマト56%。
▼観客5人(公開4日目の午後)

「ブロンド」

 アナ・デ・アルマスがマリリン・モンローを演じてアカデミー主演女優賞候補となったNetflix作品。評判がすこぶる悪いので見るのを躊躇していましたが、アルマスが良いことだけを期待して見ました。監督は「ジャッキー・コーガン」(2012年)などのアンドリュー・ドミニク。

 ジョイス・キャロル・オーツの原作はフィクションなので、事実と違う箇所も相当数あるのでしょう。モンローの不幸な生い立ちを強調し、ファザコン気味にまとめた感じの作品になっています。Wikipediaによると、モンローの父親がDNA鑑定で判明したのは、なんと2022年とのこと。生前、モンローは父親を強く求めながらも、本当の父親を知らなかったわけです。

 映画は予想ほどメタメタではありませんでしたが、モンローの出演作品への評価がほぼなく、セクシーでキュートなモンローの魅力を少しも伝えていませんし、アルマスを無駄に脱がせています。終盤のまとめ方もうまくありません。何より2時間47分も暗い展開を見せられると、気分が下がります。

 アルマスは外見だけでなく、話し方もモンローに似せていますが、作品の出来が良くないので主演女優賞は難しいでしょう。ある程度、モンローの生涯について知らないと、モンローと結婚する2人の男の素性が分からないのではないかと思いました。
IMDb5.5、メタスコア50点、ロッテントマト42%。

 Huluは今月からアナ・デ・アルマスが出ている2本の旧作を配信しています。「セックスとパーティーと嘘」(2009年、IMDb3.9、「灼熱の肌」のタイトルでDVDあり)と「カリブの白い薔薇」(2005年、IMDb5.3)で、どちらも日本では劇場公開されていません。IMDbのこの評価の低さではしょうがないですね。

2023/02/12(日)「モリコーネ 映画が恋した音楽家」ほか(2月2第週のレビュー)

 「モリコーネ 映画が恋した音楽家」は映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネ(2020年、91歳で死去)のドキュメンタリー。監督は「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988年)以来、モリコーネに音楽を依頼してきたジュゼッペ・トルナトーレ。

 父親からトランペットを習ったモリコーネがトランペット奏者を経て映画音楽を手がけるようになり、マカロニウエスタンから芸術映画まで幅広い映画音楽を担当して、巨匠になっていく過程を詳細に描いています。序盤はやや退屈ですが、セルジオ・レオーネ監督「荒野の用心棒」(1964年、監督クレジットはレオーネの変名ボブ・ロバートソン)の音楽を手がけるあたりから面白くなりました。レオーネとモリコーネは小学校の同級生とのこと。

 モリコーネの音楽が素晴らしいのは今さら強調するまでもなく、「荒野の用心棒」の口笛は画期的でしたし、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984年)はロマンティックで哀愁を帯びた名曲でした。モリコーネの音楽によって映画の面白さが2、3割アップしているのではないでしょうかね。

 クラシック音楽方面の人たちからは一段低く見られてきたモリコーネがクラシックでも優れた作品を発表し、評価を得ていくあたりは痛快です。アカデミー賞では2007年の名誉賞を経て、6度目のノミネート「ヘイトフル・エイト」(2015年)で受賞したことを描くのも構成としては良いでしょう。次から次に傑作・名作映画の音楽が流れるので、映画ファンにはたまらない作品です。

 ただ、それはモリコーネが素晴らしいからで、監督のトルナトーレの手腕が優れているからではありません。ドキュメンタリー映画の場合、題材そのものが面白ければ、自然と映画も面白くなり、監督の手腕を見分けるのは難しくなります。中盤以降は長さ単調さを感じる場面もあり、メタスコアの点数が低いのはそのあたりが影響しているのではないかと思いました。2時間37分。
IMDb8.3、メタスコア69点、ロッテントマト100%。
▼観客7人(公開初日の午前)

「チョコレートな人々」

 ドキュメンタリーで続けます。「チョコレートな人々」は東海テレビ制作で愛知県に本店がある久遠チョコレートを描いた作品。テレビ版は2021年の日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリを受賞したそうです。

 久遠チョコレートは全国に52の拠点があり、従業員570人のうち、約6割が障害者。代表の夏目浩次さんは障害者の賃金があまりにも低いことにショックを受け、2003年、26歳の時に障害のあるスタッフとパン屋を始めます。愛知県の最低賃金と同じ賃金を掲げますが、パンはその日のうちに売り切らなければ、廃棄処分になるなど利益が薄く、夏目さんは個人で1000万円の借金を抱えました。10年後、チョコレートに出会い、作業工程を細かく分けて分担することで障害者にできるよう仕事を工夫。今では障害者だけでなく、シングルペアレントや親の介護を行う人たち、性的少数者の人たちなどが働きやすい職場になっています。

 劇中、「チョコレートは失敗しても、温めれば何度でもやり直せる」という言葉が繰り返されます。それはチョコレートの特性であると同時に、久遠チョコレートの信念でもあるのでしょう。出来ないからといって排除するのではなく、どうすればできるかを考える。この方針に沿って、重度障害者のためチョコレートに混ぜるお茶やフルーツを加工するパウダーラボも作りました。つや出しのための植物性油脂などは使わず、カカオだけでじっくり仕上げる久遠チョコレートは質的にも高い評価を受けるに至りました。

 残念ながら、うまく働けなかった人もいます。決して順調とは言えないけれど、さまざまな問題を一つ一つ解決して前進していく様子には頭が下がります。映画を見ていると、久遠チョコレートをたくさん買いたくなります。1時間42分。
▼観客5人(公開7日目の午前)

「仕掛人・藤枝梅安」

 藤枝梅安というとテレビシリーズ「必殺仕掛人」(1972年、全33話)の緒形拳のイメージが強いです。緒形拳は当時35歳(原作の梅安も35歳)。今回の豊川悦司は60歳ですから、緒方梅安のようなエネルギッシュさはありません。しかし、原作の梅安は「六尺に近い大きな躰」の男なので体格的には合っています。

 池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安」シリーズを2部作として映画化。第1部となる今回はシリーズ第1作「殺しの四人」所収の「おんなごろし」の映画化で、「時代劇専門チャンネル開局25周年記念」、「池波正太郎生誕100年企画」と銘打ってあります。脚本は大森寿美男、監督は同チャンネル開局20周年記念映画「雨の首ふり坂」(2017年)も撮った河毛俊作。

 原作は短編なので、細部を膨らませ、エピソードを加え、情感を高めて映画化してあり、悪くありません。悪女おみのを演じる天海祐希がこんなに色っぽかったのは(元々、健康的な人なので)、「狗神 INUGAMI」(2001年、原田眞人監督)以来じゃないでしょうかね。梅安の相棒・彦次郎を演じる片岡愛之助、料亭の仲居役・菅野美穂も好演しています。光と影を効果的に使った河毛監督の演出は安定していて手慣れた感じがします。川井憲次が担当した音楽も良いです。

 ちなみにこの話、テレビシリーズでは第23話「おんな殺し」に当たり、おみの役を加賀まりこが演じました。エンドクレジットを見ていたら、予告編制作は樋口真嗣監督でした。2時間14分。第2作は4月公開。
▼観客15人(公開4日目の午後)

「パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女」

 リュック・ベッソン監督の「レオン」(1994年)はジョン・カサベテス「グロリア」(1980年)をうまく換骨奪胎した傑作でしたが、「パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女」は両方のプロットのいいとこ取り(例えば、刑事が悪役だったり、ラストがああなったり)で映画化してあります。ところが、両作には到底及ばないB級アクションにとどまっています。端的に監督の力量の違いなのでしょう。

 主人公のウナ(パク・ソダム)は「ザ・ドライバー」(1978年、ウォルター・ヒル監督)や「ベイビー・ドライバー」(2017年、エドガー・ライト監督)のようなランナウェイ・ドライバーではなく、ワケありの荷物を届ける特殊配送会社のドライバー。300億ウォンが入った貸金庫の鍵を持ち逃げした野球賭博のブローカーとその息子ソウォン(チョン・ヒョンジュン)を船まで運ぶ仕事を請け負うが、父親は賭博の元締めの刑事から殺され、息子だけが車に乗り込む。ウナは追ってくる悪徳刑事たちを振り切れるのか。

 このタイトルならクライマックスはカーアクションかと思いきや、格闘アクションになるのが残念。原題は「特送」、英題は「Special Delivery」で、邦題はもう少し考えた方が良かったと思います。主人公は格闘も強いんですが、その理由を付け加えたかったところ。監督はパク・デミン。1時間49分。
IMDb6.4、ロッテントマト(ユーザー)80%。
▼観客5人(公開5日目の午後)

「アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判」

 アカデミー国際長編映画賞候補で、1985年にアルゼンチンで実際に行われた軍事独裁政権に対する裁判を基にした作品。クーデターで発足したアルゼンチンの軍事政権は国民に過剰な弾圧を行った。ストラセラ検事たちは限られた準備時間の中で、脅しや困難に屈せず、軍事政権幹部らの責任を追及していく。

 最初はとっつきにくいかなと思いましたが、主人公の検事が経験の少ない副検事や若者たちと裁判の準備を進めるあたりから面白くなり、裁判での証言に胸を揺さぶられるような場面が続きます。アルゼンチンでは軍の弾圧によって3万人が行方不明と言われており、拉致・拷問・殺害を行った軍部にフツフツと怒りが湧いてきます。同時に軍事政権に限らず独裁体制はろくなことにはならないということを改めて痛感させられました。

 その軍事政権が倒れたのは1982年のフォークランド紛争がきっかけとのこと。サンティアゴ・ミトレ監督。2時間20分。amazonプライムビデオで配信中。
IMDb7.7,メタスコア78点、ロッテントマト95%。

「ジェイコブと海の怪物」

 アカデミー長編アニメ映画賞候補。怪物と言うよりは怪獣と言った方がふさわしい海の巨大生物を巡る物語。非常にきれいな3DCGアニメです。物語も真っ当で、海の怪物レッドの真意を知った主人公ジェイコブと少女メイジーが長年続く怪物と人間たちとの戦いに終止符を打とうと奔走します。

 ただ、今回の長編アニメ映画賞候補は「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」をはじめ傑作ぞろいなので受賞は難しいと思います。Netflixで昨年7月から配信されていて、監督は「ベイマックス」(2014年)のクリス・ウィリアムズ。1時間55分。
IMDb7.1、メタスコア74点、ロッテントマト94%。

2023/02/05(日)「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦」ほか(2月第1週のレビュー)

 「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦」はアカデミー長編ドキュメンタリー賞ノミネート作品。フランスの火山学者モーリス&カティア・クラフト夫妻の生涯を描いていて、ディズニープラスが配信しています。

 2人が火山の観察中に死んだことは事前情報として知っていました。火口の近くや溶岩流のそばに行って観察し、硫酸の溶けた湖でボートに乗るなど危険な場所で活動する夫婦なので、きっと日本にも火山観察に来てるんだろうなとぼんやり思ってましたが、2人は確かに日本に来てました。あの雲仙普賢岳に。

 1991年6月3日、普賢岳の大火砕流の犠牲者43人の中にこの2人は含まれていました(映画は最後に43人への献辞が出ます)。知りませんでした。いや、犠牲者に外国人がいたのは知っていましたが、この夫妻だったとは。

 2人が普賢岳に行ったのは火山災害に対応を取らない政府を動かすには映画で見せるのが有効と判断し、世界各地の危険な火山の映像を撮影していたからです。その契機となったのは1985年、死者・行方不明者2万2000人以上を記録したコロンビアのネバド・デル・ルイス火山の大噴火でした。以来2人は犠牲者を出さないための活動に尽力していました。

 火山の観測には予測できない危険が伴います。1980年のセント・ヘレンズ火山の大規模噴火では10キロ離れた場所で観測していた科学者が命を落としたそうです。普賢岳で亡くなった人たちの多くも山頂から4キロほど離れたところにいて、まさかここまで被害が及ぶとは考えていなかったでしょう。この夫妻もそうだったわけです。見終わって粛然とした気持ちにならざるを得ません。

 見る価値が大いにある傑作だと思います。セーラ・ドーサ監督。ナショナルジオグラフィック作品。1時間38分。
 IMDb7.6、メタスコア83点、ロッテントマト98%。

 NHKはこの夫妻を描いたドラマ「カティアとモーリス 雲仙・普賢岳 火砕流に挑んだ夫婦」(2011年)を国際共同制作していますが、残念ながらNHKオンデマンドでは配信していません。

「金の国 水の国」

 岩本ナオの原作コミックを渡邉こと乃監督が映画化。激しく敵対する2つの国の物語で、商業が発達した金の国アルハミトの93番目の王女サーラと、豊かな水と緑に恵まれるものの、貧しい水の国バイカリの建築士ナランバヤルが出会い、一緒に戦争を食い止めようとする話。

 よくできた童話のような感触がありますが、子供だけでなく、大人も心を動かされる佳作だと思いました。ポリコレ的なのが特徴で、サーラは一般的な美しい王女ではなく、敵の国王から「0.1トンはありそうな」と陰口をたたかれる容姿です。だからナランバヤルが惹かれたのは内面的な美しさと優しさ純粋さで、その点でサーラは外見が美しい姉たちよりはるかに好ましい女性です。

 原作は2017年版の「この漫画がすごい!」オンナ編1位となったそうです。原作のA国、B国を映画ではアルミハト、バイカリとしています。サーラの声を浜辺美波、ナランヤバルの声は賀来賢人が担当。1時間57分。
▼観客3人(公開4日目の午後)

「離ればなれになっても」

 40年間にわたる男3人と女1人の浮き沈みのドラマを描くイタリア映画。原題Gli anni piu belliは「最高の年」の意味だそうです。

 1982年のローマで16歳のジェンマは同級生のパオロと恋におちる。彼の親友ジュリオとリッカルドと共に、弾けるような楽しい時を過ごすが、母親が亡くなり、ジェンマはナポリの伯母に引き取られることになる。という風にパオロとジェンマが離ればなれになるのはまだ序盤。この2人のラブストーリーかと思ったら、4人のさまざまな人生模様が描かれていきます。

 といっても、かなり通俗的なタッチで、ノスタルジーとは無縁。いや、40年間の時代の諸相も点描されるのでイタリア人ならノスタルジーを感じるのかもしれません。2時間15分。
IMDb6.6。アメリカでは公開されていないようです。
▼観客5人(公開5日目の午後)

「そばかす」

 アロマンティック・アセクシュアルの女性を主人公にした作品。生きにくさについての映画でもあると思います。結婚して子供を産んで、というのが女性の幸せと一般的に思われている社会において、主人公の蘇畑佳純(三浦透子)は恋愛感情がないことをいちいち説明しなくちゃいけないからです。アロマンティックは同性愛者よりも少数派でしょうから、説明しても理解されにくい状況に置かれていて、主人公はそうしたことに面倒臭さ、生きにくさを感じているように思えました。

 それを打開するのは理解してくれる人、同じ境遇にある人の存在なわけで、映画もそういう展開になっていきます。

 原作・脚本はゲイの2人と子供との生活を描いた「his」(2020年、今泉力哉監督)のアサダアツシ。監督は玉田真也。うまいところもうまくいっていないところもありますが、主人公の周囲の人たちのように観客の多くもアロマンティックを知らないでしょうから、啓発の意味は大きいと思います。

 と書くと、真面目一方の映画と誤解されそうですが、主人公一家の食事シーンでの言い争いはテーマと一体となって面白く、もう少し長くても良かったのでは、と思いました。主人公の友人に前田敦子、妹に伊藤万理華。1時間44分。
▼観客5人(公開初日の午後)

「レジェンド&バタフライ」

 東映70周年記念映画として時代劇、しかも信長を企画したのは会社の方で、大友啓史監督は「これほどの座組なのに、信長かよ」と思いながら引き受けたそうです。大友監督に依頼するなら「るろうに剣心」のようなチャンバラの方が良かったのではないかと思います。

 脚本を書いた古沢良太は大河ドラマ「どうする家康」が放送中ですが、最初に上がった脚本はコメディー寄りの内容だったとか。「コンフィデンスマンJP」シリーズの古沢良太ですから当然そうなるでしょうし、そういう信長を見たかったとも思いますが、70周年記念の大作にコメディーはふさわしくないと思う人もいるでしょう。

 というわけで濃姫(綾瀬はるか)の役割を大きくしてはあっても、信長(木村拓哉)の在り方は従来作品から大きく逸脱しない話になっています。2時間48分の上映時間は信長の十代から本能寺の変までを描くために必要だったのでしょうが、多くのテレビドラマや映画で見てきた信長の一生をダイジェスト的に見せられている感が拭えませんでした。予算の関係からか大がかりな合戦シーンが少ない(合戦が終わった後を見せる)のも残念。
▼女性客中心に多数(公開7日目の午前)

「マーサ・ミッチェル 誰も信じなかった告発」

 アカデミー短編ドキュメンタリー賞候補。Netflixの説明を引用すると、「ウォーターゲート事件の闇に警鐘を鳴らした、ニクソン政権の司法長官の妻マーサ・ミッチェル。信念を貫いた彼女の姿と、口封じを図った政権の隠ぺい工作に迫る」。50年前の事件のことを描かれてもなあとの思いもありますが、ウォーターゲート事件をリアルタイムで知っている人の方がもはや少数派でしょうから、50年だからこその企画なのかもしれません。

 マーサは夫のジョン・ミッチェルをはじめニクソン政権の不正を訴えますが、病人扱いされて信用されません。後に彼女の言っていたことは事実であることが分かります。このプロセスから1988年に「マーサ・ミッチェル効果」という心理学用語ができたとのこと(この映画の原題もThe Martha Mitchell Effectです)。映画の説明では「妄想と見なされた個人の主張が後に事実と判明するプロセスを表す」としていますが、ネットを検索すると「医療専門家が、患者の実際の出来事の正確な認識を妄想としてラベル付けし、誤診を引き起こすプロセス」と、医療側の用語になっています。
 40分。IMDb6.7、ロッテントマト100%。

 マーサ・ミッチェルに関しては昨年、「ガスリット 陰謀と真実」(原題Gaslit、全8話)というドラマも作られました。ジュリア・ロバーツがマーサ、夫のジョン・ミッチェルをショーン・ペンが演じていて、amazonプライムビデオのチャンネルLIONSGATE+(月額600円)で配信しています。IMDbを見ると、評判はまずまずのようです。

 日本語で「ガスリット」と聞くと、人の名前かと思ってしまいますが、これはガスライティングのこと。戯曲および映画の「ガス燈」(Gaslight、1944年)に由来し、「心理的虐待の一種であり、被害者に些細な嫌がらせ行為をしたり、故意に誤った情報を提示し、被害者が自身の記憶、知覚、正気、もしくは自身の認識を疑うよう仕向ける手法」(Wikipedia)です。つまり、このタイトルはマーサが「ガス燈」のイングリッド・バーグマンと同じような状態にあったということを指しています。

2023/01/29(日)「イニシェリン島の精霊」ほか(1月第4週のレビュー)

 「イニシェリン島の精霊」はアカデミー賞8部門で9ノミネート(助演男優賞に2人が候補となったため)の作品。ユーモア描写もある序盤はまずまずの出来で評判ほどではないかなと思いましたが、中盤からの展開がものすごく、終盤まで息をつかせない仕上がり。描写は具体的でありながら、すべてに説明をつけないところがいかにも「精霊」が出てくる話で、こういう寓意に満ちた物語は書けそうでなかなか書けるものではないでしょう。

 要約すれば、親友だった2人の男が一夜にして断絶し、争いがエスカレートしていく物語。1923年、アイルランドの沖合にあるイニシェリン島が舞台。島に暮らすパードリック(コリン・ファレル)は毎日午後2時から島の唯一のパブで、音楽家の友人コルム(ブレンダン・グリーソン)と酒を酌み交わすのが日課だった。ある日、いつものように飲みの誘いに行ったパードリックはコルムから突然、絶縁される。理由は分からない。パードリックはなんとか修復を図ろうとするが、コルムは「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と宣言する。

 指を切断するというと、ロアルド・ダール「南から来た男」を思い出しますが、自分からそんなことをするのは異常としか言いようがありません。コルムは絶縁の理由について、残された人生を作曲と思索にあて、パードリックのつまらない話に付き合いたくないから、と話します。しかしなぜ突然そんな心変わりをしたのか説明はありません。パードリックがこの理由に納得しないのは当然でしょう。

 2人の争いは海を隔てたアイルランドの内戦と直接の関係はありませんが、この内戦を含むすべての戦争と争いのメタファーであることは明らかでしょう。拒絶されたパードリックがコルムに固執する姿はストーカー行為さえ想起させます。

 ただ、そうした諸々の意味付けよりも物語自体の持つ力に引き込まれました。精霊(バンシー)と思われる老婆マコーミック(シーラ・フリットン)は島に2つの死が訪れることを予言します。パードリックの妹シボーン(ケリー・コンドン)は狭い人間関係に嫌気がさして島を出て行きます。やや知的障害があるらしいドミニク(バリー・コーガン)の振る舞いまで含めて、この映画には物語を膨らませる要素が備わっています。

 脚本・監督のマーティン・マクドナーは物語の構築において、前作「スリー・ビルボード」(2017年)より格段に腕を上げていると思いました。物語の意味を押しつけない間口の広さも魅力になっています。コリン・ファレルら主要4人はそれぞれに説得力のある演技を見せ、アカデミー主演・助演賞の候補になりました。

 20世紀スタジオ傘下のサーチライト・ピクチャーズ作品なので、ディズニープラスの「45日ルール」に従えば、アカデミー賞授賞式(日本時間3月13日)の頃に配信開始となるはず。映画興行でのアカデミー賞効果を期待するなら、配信は先延ばしになるかもしれません。1時間49分。
IMDb7.8、メタスコア87点、ロッテントマト97%。
▼観客17人(公開初日の午前)

「ドリーム・ホース」

 ウェールズの谷あいにある村の住民たちが競走馬を育てる組合を作り、育てた馬ドリームアライアンス(夢の同盟)がレースで活躍した実話を基にした物語。まとめ方は悪くありませんが、トントン拍子で話が進み、平板な作りになってます。なんでここをもっと描き込まないのか、ドラマを盛り上げないのかと思う場面が散見されました。

 監督のユーロス・ミラーは「ドクター・フー」などテレビで活動してきた人で劇場用映画はこれが2作目のようです。脚本のニール・マッケイも同様のキャリア。テレビ慣れしてしまってるから、こういうあっさりした作りなんだなと妙に納得してしまいます。

 ディック・フランシスの競馬シリーズを愛読していたので障害競馬のレースを何度も見られたのは良かったです。組合作りを進めた主役の主婦を演じるのはトニ・コレット。1時間54分。
IMDb6.9、メタスコア68点、ロッテントマト88%。
▼観客20人(公開2日目の午後)

「BAD CITY」

 小沢仁志の「還暦記念作品」と銘打っても、客は呼べない気がします。これはむしろ、「ベイビーわるきゅーれ」(2021年)のアクション監督・園村健介の監督作品として売った方が少なくともアクション映画ファンの注目は集めるでしょう。そのラインで見ると、十分面白い映画に仕上がっています。いやもちろん、脚本・製作総指揮と主演を兼ねた小沢仁志も頑張っていて、シリーズ化してもおかしくない映画だと思いました。

 架空の開港市を舞台にヤクザと特捜班が繰り広げるアクション。格闘アクションに見応えがあって、香港映画を思わせる場面もいくつか。小沢仁志と特捜班でチームを組む三元雅芸、勝矢、坂ノ上茜はいずれも好演。敵の凄腕の男を演じるTAK∴(坂口拓)も良いです。脚本に新味がないのが惜しいところで、誰かアクションに理解のある脚本家の協力を仰いだ方が良かったと思います。

 坂ノ上茜は新体操とバトントワリングの経験があり、身体能力が高いそうです。アクション志望の女優はけっこう多いですね。主演作の「ぬけろ、メビウス」が2月3日に公開されます。1時間57分。
▼観客3人(公開6日目の午後)

「無垢の瞳」

 アカデミー短編実写映画賞候補。ディズニープラスの説明を引用すると、「戦時中のカトリック系女子校を舞台にクリスマスケーキを巡って描かれる、無邪気さと欲望と幻想の物語」。

 イタリア人作家エルサ・モランテが友人ゴッフレード・フォフィに送ったクリスマスの手紙から着想を得ているそうです。「幸福なラザロ」「夏をゆく人々」のアリーチェ・ロルヴァケル監督作品ですが、短編として特に褒めるべき点は見当たりません。38分。IMDb7.0。

「エレファント・ウィスパラー 聖なる像との絆」

 アカデミー短編ドキュメンタリー賞候補。Netflixによると、「南インドで野生の象の保護に人生をささげる夫婦、ボムマンとベリー。親を亡くした子象ラグとその親代わりとなった2人が築いた、唯一無二の家族のきずなを映し出す」。

 この夫婦は南インドで保護された野生の子ゾウの飼育に初めて成功したそうです。見ていて気になるのはゾウがどのぐらいの知性を持っているかということで、「そこに寝なさい」と指さすと、言われた通りに寝転ぶシーンがあります。ゾウの脳は5キロ以上あってかなり賢い動物とのこと。カルティキ・ゴンサルヴェス監督。40分。
IMDb7.5、ロッテントマト(ユーザー)86%。

2023/01/22(日)「光復」ほか(1月第3週のレビュー)

 「光復」は深川栄洋監督が新しい自主映画の取り組み「return to mYselF」として製作した作品。「42-50 火光(かぎろい)」が「sideA」で、これが「sideB」としています。

 生活保護を受けながら認知症の母親の介護をする大島圭子(宮澤美保)、42歳が主人公。圭子は脳梗塞で倒れた父親の介護のため、28歳の時に東京から長野に帰ってきた。父親は死んだが、今度は母親の介護をすることになる。手づかみでガツガツと食事する母親とは意思疎通ができない。ある日、圭子は高校時代に付き合っていた賢治(永栄正顕)と再会する。

 パンフレットには「『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00)に臨むような覚悟をもっての鑑賞をお勧めする」という昨年10月下旬号のキネ旬の特集記事からの引用がありますが、ヒロインが不幸と不運と悪意の総攻撃を、絶え間ない連続攻撃を受けて肉体的にも精神的にも完膚なきまでに破壊される中盤で、僕もあの悲惨な映画を想起しました。ここまで理不尽な目に遭うヒロインは珍しく、やり過ぎじゃないか、と思えるほどです。

 もっと驚くのはラスト近い場面。極めて唐突で唖然とするようなこの描写があるからR-18になったのではないかと思うほどの衝撃があります。しかも、終盤に感じたいくつかの疑問がこの描写で氷解するという優れた効果を上げています。

 深川監督は世間の単純な善意なんて微塵も信じていないですね。ネタバレで話したくなること請け合いの、裏の意味が込められた描写であり、僕は絶賛はしませんが、結果的に面白い映画になっていると思いました。ここが、ただただ悲惨でヒロインが救われなかった「ダンサー・イン・ザ・ダーク」とは違うところでしょう。

 商業映画にはできない物語、自主映画だからできた展開と思いますが、この映画全体が好評であるなら、商業映画で作ったって別にかまわないわけです。製作委員会方式が主流の今の日本映画では準備段階で反対が出る可能性はありますけどね。

 宮澤美保は深川監督の奥さん。「櫻の園」(1990年、中原俊監督)に出演後、映画やドラマなどさまざまな作品に出ているそうですが、今回初めて顔と名前が一致しました。製作費は一部をクラウドファンディングで賄ったとのこと。3作目の予定もあるそうです。2時間9分。
▼観客6人(公開初日の午後)

「そして僕は途方に暮れる」

 「何者」「娼年」の三浦大輔作・演出で、Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔主演の同名舞台を同じコンビで映画化。

 フリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は5年間同棲している恋人・里美(前田敦子)に浮気がばれ、問い詰められたことから家を飛び出す。幼なじみで親友の伸二(中尾明慶)のアパートに転がり込むが、自堕落な態度に愛想を尽かされ、大学の先輩でバイト仲間の田村(毎熊克哉)ともささいなことから喧嘩して飛び出す。大学の後輩で映画の助監督をしている加藤(野村周平)には泊めてくれとは言い出せず、東京で暮らす姉・香(香里奈)にも責められて、母・智子(原田美枝子)が1人で暮らす苫小牧の実家へ帰る。リウマチでも懸命に働く母親の元でしばらくいようと考えたが、母が新興宗教に嵌まっていることを知って出ていく。途方に暮れた裕一は、家族から逃げて行った父・浩二(豊川悦司)と偶然再会する。

 フランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生!」(1946年)とヒッチコック「逃走迷路」(1942年)を上映している映画館の前で「ハッピーエンドの映画なんてくだらない」と父親が言う場面があるぐらいですから、この映画もハッピーエンドに向かいそうでそうはなりません。前半は面白かったんですが、終盤がどうも今一つの出来。ひねり方がうまいとは言えません。

 最近、ダメ親父を演じることが多い豊川悦司はダメっぷりが板に付いてきてうまいです。藤ヶ谷太輔の申し分のないクズ演技を見ているので豊川悦司の登場はこの子供にしてこの親あり、という感じ。言うことにもそれなりの説得力があるのが凄いところです。

 三浦大輔の作品では、監督は違いますが、クズの男女しか出てこない「恋の渦」(2013年、大根仁監督)に感心しました。そういう男女を描くのが三浦大輔、うまいです。前田敦子の役柄もやっぱりそうかというぐらいのクズキャラでした。2時間2分。
▼観客6人(公開7日目の午後)

「ノースマン 導かれし復讐者」

 シェイクスピア「ハムレット」に影響を与えたヴァイキング伝説をベースにした復讐譚。

 9世紀、スカンジナビア地域の島国で、10歳の王子アムレート(オスカー・ノヴァク)と旅から帰還した父オーヴァンディル王(イーサン・ホーク)は宮廷の道化ヘイミル(ウィレム・デフォー)の立ち会いのもと、成人の儀式を執り行う。儀式の直後、叔父フィヨルニル(クレス・バング)がオーヴァンディルを殺害し、母グートルン王妃(ニコール・キッドマン)を連れ去る。アムレートはボートに乗り島を脱出。復讐と母の奪還を誓う。数年後、ヴァイキング戦士の一員となっていたアムレート(アレクサンダー・スカルスガルド)はスラブ族の預言者(ビョーク)と出会い、フィヨルニルがアイスランドで農場を営んでいることを知る。奴隷船に乗り込み、親しくなったオルガ(アニャ・テイラー=ジョイ)の助けで叔父の農場に潜入する。

 「アムレート」はWikipediaに項目があるぐらい有名なようですが、話は随分違います。脚本・監督のロバート・エガースは神話的要素を取り入れ、暴力描写を強調して映画を構成しています。ただ、物語の膨らみと映画のスケールがいま一歩。スペクタクル面でも物足りません。

 シェイクスピアを好きだった黒澤明監督なら、アニャ・テイラー=ジョイのほかにもう一人、主人公を助けるキャラを用意したんじゃないかと思います。2時間17分。
IMDb7.1、メタスコア82点、ロッテントマト89%。
▼観客7人(公開初日の午前)

「JUNG_E ジョンイ」

 20日から配信しているNetflixのSFアクション。監督は「新感染 ファイナル・エクスプレス」「地獄が呼んでいる」(Netflixのドラマ)のヨン・サンホです。

 急激な気候変動で人類は地球と月の軌道面の間に80個のシェルターを作って移住。シェルターの一部が「アドリアン自治国」と名乗り、地球と他のシェルターを攻撃するという「ガンダム」を思わせる設定。40年以上も続く戦争を終わらせるため、AI研究所の研究員(カン・スヨン)が自分の母親である伝説的な傭兵ユン・ジョンイ(キム・ヒョンジュ)の脳データを複製し、戦闘指揮AIを作ろうとする。

 アメリカでは芳しくない評価ですが、日本のYahoo!映画では3.8、Filmarksは3.3となってます。冒頭のCGがチャチなんですが、その後はそれほど悪くない展開だと思いました。クライマックスは「アイ,ロボット」(2004年、アレックス・プロヤス監督)の影響が濃厚。もう少しSF的な展開があると良かったんですけどね。

 昨年5月に脳出血で急死したカン・スヨンの遺作になりました。1時間38分。
IMDb5.4、メタスコア53点、ロッテントマト60%。