2023/12/24(日)「PERFECT DAYS」ほか(12月第4週のレビュー)

 ザック・スナイダー監督のNetflixオリジナル映画「レベルムーン パート1 炎の子」の配信が始まりましたが、評価メタメタです。IMDb6.1、メタスコア30点、ロッテントマト22%。ソフィア・ブテラ主演のSF大作で期待していたんですが、見る気が失せました。見ますけど。

「PERFECT DAYS」

 役所広司がカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞したヴィム・ヴェンダース監督作品。最近では「SISU シス 不死身の男」の主人公が最後まで意味のある言葉を発しませんでしたが、この映画の役所広司もほとんどセリフがなく、寡黙な男です。

 主人公の平山は渋谷区の公共トイレを巡回して掃除するのが仕事。スカイツリー近くの古いアパートに1人で住む平山はまだ薄暗いうちに起き、鉢植えに水をやり、自販機で缶コーヒーを買って飲み、軽自動車でトイレ掃除に向かいます。テキパキと手際よく掃除し、昼食は神社の境内でサンドイッチ。木漏れ日を小型のフィルムカメラで撮影。仕事を終え、銭湯に自転車で向かい、銀座線浅草駅の地下商店街にある酒場で夕食。アパートに荷物は少なく、1冊100円の文庫本を読みながら寝る毎日。休みの日はコインランドリーで洗濯、写真の現像を頼み、美人ママ(石川さゆり)のいる居酒屋で一杯。それを繰り返しています。

 映画は同僚のタカシ(柄本時生)の恋のゴタゴタを描きつつ、そうした平山の日常を淡々と描いていきます。ストーリーが動くのは後半、家出してきた姪のニコ(中野有紗)がアパートを訪れてから。2、3日、一緒に暮らした平山は妹(麻生祐未)にそれを知らせます。高級車に運転手付きで迎えに来た妹は平山に「本当にトイレ掃除しているの?」と聞きます。平山の身の上について映画は詳しく描いていませんが、妹との会話から平山が以前、別の仕事に就いていたこと、父親との確執があったらしいことが分かります。

 分からなかったのは妹と別れた平山が慟哭するシーン。妹に会ったことで、以前の生活と今の生活の落差を改めて実感したために泣いたのかと思ったんですが、シンプルで質素な今の生活に充足しているように見えた平山が泣くのは少し違うかなと思えました。

 パンフレットのインタビューで役所広司はこう語っています。
 「人は悲しいから泣くだけではない、嬉しいから泣くこともある。名状しがたい思いを抱き泣くこともある。あの涙の曖昧さは、監督が観客に向けて平山を好きに解釈してほしいということでもある。僕は笑いながら泣いているのはどうだろうかと思った。平山さんは自分の過去を知っている親族と再会したことで心が大きく揺れ動いた気がします。そうした人との関係を全て断って、穏やかな生活を送ろうと努めていたにもかかわらず」
 心が大きく揺れ動いたという役所広司の解釈が正しいのでしょう。落差を実感したという一種類の感情ではなかったということです。

 アニマルズ「朝日のあたる家」からニーナ・シモン「フィーリング・グッド」まで。平山がカセットテープで聴く音楽はヴェンダースが聴いていたオールディーズなのでしょうか? と、能天気に考えていたんですが、パンフレットによると、ヴェンダースは「フィーリング・グッド」の歌詞と平山の生活の共通点に驚いたのだそうです。

 映画の個人的な評価は、タカシ風に言えば、「10のうち8ぐらい」(正確には7.8)と思いました。「パリ、テキサス」(1984年)よりも「ベルリン・天使の詩」(1987年)よりも日本人にはよく分かる映画だと思います。
IMDb7.9、メタスコア72点、ロッテントマト92%。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間4分。

「私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?」

 実話を基にした社会派サスペンス。この実際の事件自体は興味深いんですが、映画は話の構成がまるでうまくありません。

 フランス最大の総合原子力企業アレバの労働組合代表モーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)は従業員5万人の雇用を守るため、会社が計画した中国への技術移転契約のリスクを告発する。そこからモーリーンへの脅迫が始まる。モーリーンは自宅で何者かに襲われ、手足を椅子に縛られ、腹にAの文字を刻まれ、膣にナイフの柄を挿入される。警察が捜査するが、現場に容疑者の痕跡は一切なかった、自作自演を疑い、モーリーンを虚偽告発で逮捕・拘留する。強引な取り調べで追い詰められたモーリーンは自作自演を認めてしまう。一審でモーリーンは有罪判決を受けるが、控訴を決意する。

 後半は面白いんですが、前半がモタモタした印象で、ここをもっとコンパクトにまとめた方が良かったでしょう。イザベル・ユペールが追い詰められて嘘の自白をしてしまうほど弱い女性には見えないことも誤算です。主人公は裁判に勝ちますが、事件の犯人は不明のまま。初動を含めた警察の捜査の在り方に大きな問題があったのではないかと思いました。監督はジャン・ポール・サロメ。
▼観客2人(公開5日目の午後)2時間1分。

「屋根裏のラジャー」

 A・F・ハロルド「ぼくが消えないうちに」をアニメ化したスタジオ・ポノック作品。ポノックはスタジオジブリを退社した後、プロデューサーの西村義明が立ち上げたアニメーション映画スタジオ。監督の百瀬義行もジブリで多数の作品に携わった人なので、絵柄が似てくるのは仕方ないでしょう。アニメの技術的にも何ら問題はないんですが、いまいち盛り上がりに欠けます。

 ジブリ作品、特に宮崎駿の作品は熱い思いを抱いた少年少女が主人公でしたが、「屋根裏のラジャー」に欠けているのはそうした熱さのように思えました。別にジブリと同じことをする必要はありませんが、それならば、似ている絵からの脱却を図った方が良いです。ジブリのと似ているポノックの会社ロゴから変えた方が良いです。
▼観客9人(公開4日目の午後)1時間48分。

「ウィッシュ」

 エンドクレジットの後に「星に願いを」が流れます。発想の基になったのがこの名曲であることは明らかですが、出来は芳しくありません。といってもアメリカでの酷評ほどひどいとは思えませんでした。個人的には「屋根裏のラジャー」より面白く見ました。

 どんな願いもかなうと言われるロサス王国で暮らす17歳のアーシャは、ある出来事をきっかけに王国の真実を知り、国民の願いを取り上げているマグニフィコ王に立ち向かう、というストーリー。ディズニーのアニメは吹き替え版で見ることが多いんですが(出来が良いのです)、今回は間違って字幕版を見ました。たぶん来年2月ごろに配信が始まるはずのディズニープラスでは吹き替え版を見たいと思います。
IMDb5.8、メタスコア47点、ロッテントマト49%。
▼観客2人(公開7日目の午後)1時間35分。

「ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出」

 「ウィッシュ」の併映で、ディズニーのこれまでのキャラクター(543のキャラだそうです)がそろって記念写真を撮るまでの騒動を描いた9分の短編。なんてことはない内容ですが、お馴染みのキャラがたくさん出てきて楽しいです。ディズニープラスで10月から字幕版を配信済み。劇場では特別吹き替え版が上映されています。なぜか日本語字幕が付いていました。脚本・監督はダン・アブラハム、トレント・コリー。IMDb8.5。

「カンダハル 突破せよ」

 amazonプライムビデオで配信が始まりました。イランの核開発施設を爆破したCIAの工作員トム(ジェラルド・バトラー)がCIAの内部告発で正体を明かされ、アフガニスタン南部カンダハルへの脱出を図るアクション。

 よその国の施設を破壊したら追われるのは当たり前の話。イランの精鋭集団・コッズ部隊のほか、パキスタンとアフガニスタンで活動するテロ集団ISIS-K(イスラム国ホラサン州)などがそれぞれの目的でトムに襲いかかりますが、トムの方に絶対の正義があるわけでもないのが微妙なところです。バトラーの「エンド・オブ・ホワイトハウス」(2013年)シリーズのようにテロリストを撃退する話とは違って、自分がテロリストみたいなものですからね。

 監督は「グリーンランド 地球最後の2日間」(2020年)のリック・ローマン・ウォー。1時間59分。
IMDb6.1、メタスコア52点、ロッテントマト45%。