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2023年12月03日の記事

2023/12/03(日)「燃えあがる女性記者たち」ほか(12月第1週のレビュー)

 動画配信サービスParamount+の作品が12月1日からWOWOWオンデマンドで見られるようになりました。

 ラインナップを見ると、ドラマはともかく映画に関してはほとんど見ている作品ばかり。配信されるのはParamount+の一部の作品のようです。Wikipediaによると、動画配信サービスとしては5番目の規模(加入者6100万人)で、経営的にも苦しい状況のようです。

「燃えあがる女性記者たち」

 昨年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたインド映画。カースト最下層のダリット(ダリト=不可触民)の女性たちが設立した新聞社「カバル・ラハリヤ」(ニュースの波)の活動を5年間にわたって記録しています。

 彼女たちはカーストによる差別とインドに根強い女性蔑視による二重の差別を受けています。ダリットの女性が自宅に押し入ってきた男たちに何度もレイプされた事件を取材しますが、警察は立件しません。記者が警察に取材に行っても、とぼけられるか無視されるか。被害女性と夫は警察からも暴力を受ける始末。記者たちは記事を書くだけでなく、スマホで動画を撮影し、動画チャンネルにアップしています。新聞の発行は週1回ですが、これは文字の読み書きができない住民が多いからなのかもしれません。

 記事になることで村に電気が通ったり、道路が舗装されたりの効果も紹介されています。ジャーナリズムの原初的な意味の感動がこの映画にはあり、そうした記事の効果は彼女たちの励みにもなっているでしょう。それにしてもインドはカースト制度をなくして、民主主義を確立すれば、もっと経済成長が期待できるのに、現状は残念すぎます。監督はリントゥ・トーマスとスシュミト・ゴーシュ。
IMDb7.3、メタスコア84点、ロッテントマト100%。
▼観客4人(公開7日目の午後)1時間33分。

「ダンサー イン Paris」

 本番の公演中に恋人の裏切りを目にしたことで動揺して転倒し、足首を剥離骨折したバレリーナがコンテンポラリーダンスで再起する姿を描くフランス映画。初の映画出演で主役を務めたマリオン・バルボーはパリ・オペラ座のプルミエール・ダンスーズ(バレリーナのコンクールで上がれる階級の最高位。その上に監督が任命するエトワールがあるそうです)とのこと。細い体なのにしなやかで強靱さも感じさせるのがさすがです。

 映画は「まなじりを決して」という悲壮感ではなく、主人公が自然に緩やかに再起していくのが良いです。コンテンポラリーダンスの魅力もよく分かりますが、その中で普通にバレエの仕草を入れるバルボーがやはり光ってました。ちょっとレベッカ・ファーガソンに似ている顔立ち。今後、映画でも活躍していくのでしょう。
IMDb7.1、ロッテントマト100%(アメリカでは限定公開)。
▼観客8人(公開初日の午後)1時間58分。

「OUT」

 累計発行部数650万部を超える井口達也の原作漫画を「ドロップ」(2008年)「漫才ギャング」(2010年)の品川ヒロシ監督が映画化。少年院を出所した主人公(倉悠貴)が叔父(杉本哲太)叔母(渡辺満里奈)の焼肉店で働き始めるが、暴走族「斬人(きりひと)」の副総長・安倍要(水上恒司)と出会い、半グレ集団との抗争に巻き込まれる。

 品川監督得意のヤンキーもので格闘アクションをはじめ手堅くまとめていますが、この種のヤンキーものでは「東京リベンジャーズ」もあり、新鮮さがないのが残念なところ。共演は醍醐虎汰朗、与田祐希など。
▼観客2人(公開14日目の午後)2時間9分。

「バカ塗りの娘」

 髙森美由紀の原作「ジャパン・ディグニティ」を鶴岡慧子監督が映画化。バカ塗りとはバカ丁寧に何度も塗っては研ぐを繰り返す青森県の伝統工芸・津軽塗のこと。

 青森県弘前市の津軽塗職人・青木清史郎(小林薫)とその仕事を手伝う娘・美也子(堀田真由)。美也子は高校卒業後、近所のスーパーで漫然と働きながら家業を手伝っていた。人とコミュニケーションを取るのが苦手で、恋人や仲のいい友人もおらず、家とスーパーを往復する毎日。父・清史郎は津軽塗の名匠だった祖父を継いだが、今は注文も減って苦労している。

 堀田真由は人当たりの柔らかさが魅力ですが、今回は笑顔をあまり見せず、引っ込み思案の主人公を好演しています。主人公がバカ塗りを継ぐ意志があいまいなまま話が進むのが少し残念で、もっと明確に描いた方が良かったと思います。鶴岡監督は立教大時代に万田邦敏監督(「接吻」「愛のまなざしを」)に師事したとのこと。
▼観客6人(公開12日目の午前)1時間58分。

「ナポレオン」

 アメリカでの評価が良くなかったので期待しませんでしたが、やはりそれぐらいの出来でした。リドリー・スコット監督だけにクライマックスのワーテルローの戦いなど戦闘シーンの描写はすごいんですが、ドラマがイマイチ。どうしてもナポレオンの生涯のダイジェストになってしまいますね。主演のホアキン・フェニックスよりジョゼフィーヌ役のヴァネッサ・カービーが良いです。
IMDb6.7、メタスコア64点、ロッテントマト60%。
▼観客15人ぐらい(公開2日目の午前)2時間38分。