2023/12/17(日)「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」ほか(12月第3週のレビュ-)
「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」
太平洋戦争末期にタイムスリップした女子高生・百合(福原遥)が特攻隊の隊員たち、特にその中の1人の彰(水上恒司)と心を通わせる話。貶す気満々で見に行ったら、意外にも悪くない出来でした。成田洋一監督はCMディレクター出身。劇場用映画は2作目ですが、60代のベテランだけに浮ついた演出はありません。正攻法な画面作りできっちりとまとめた作品になっています。
気になるのは原作由来のことなんでしょうが、物語の場所が不明確なこと。特攻隊基地の近くの町で、原作者の汐見夏衛は鹿児島出身なので知覧にするのが自然なんですが、町の人たちの言葉は標準語。特攻基地が多かった九州ではなく、関東地方、筑波海軍航空隊のあった茨城あたりの設定なのではないかと思います。映画のロケも茨城と千葉だったようです。
百合は幼い頃に父親が事故死し、母親(中嶋朋子)と二人暮らし。母親は夜中まで働いていますが、家は裕福ではありません。懸命に働く母親のことを理解せず、スーパーで魚をさばいていることで「魚くさい」と恥ずかしい思いを抱いています。それが戦争中の過酷な運命を目の当たりにして変わる、というのが分かりやす過ぎる展開ではあります。
特攻基地の近くで食堂を切り盛りして特攻兵たちに食事を提供する松坂慶子と、シングルマザー家庭の現実を反映した中嶋朋子の存在が映画を引き締めていました。
▼観客多数(公開7日目の午後)2時間7分。
「窓ぎわのトットちゃん」
ご存じ黒柳徹子の大ベストセラーのアニメ化。この本、800万部以上売れて国内トップ級のベストセラーだそうですが、未読でした。いい機会なので文庫本を買って読み始めました。戦前から戦中にかけての物語。落ち着きがなく、授業中に騒ぐため小学校を退学となったトットちゃんが私立のトモエ学園に入学、小児麻痺で手足が不自由な泰明ちゃんらクラスメートと伸び伸びと育っていくエピソードで構成しています。
トモエ学園は自由な校風ですが、世の中は息苦しさを増し、トットちゃんの家庭にも波及していきます。この対比をもっと強調した方が良かったかなと思います。トットちゃんの元気の良さと奔放さは「となりのトトロ」のメイに重なりました。声を演じたのは7歳の大野りりあな。校長先生は役所広司、お父さんが小栗旬、おかあさんが杏。八鍬新之介監督。
▼観客16人(公開5日目の午後)1時間54分。
「青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない」
精神的に不安定なことなどが原因となる思春期症候群(架空の症状です)をテーマにした略称「青ブタ」シリーズの劇場版第3弾。高校2年生の梓川咲太の1学年上の恋人で女優の桜島麻衣は卒業を迎える。咲太が海岸で麻衣を待っていると、子役時代の麻衣と瓜二つの小学生が現れる。父から電話が入り、長く入院していた母が、妹の花楓に会いたいと言っていることを告げる。咲太は花楓と共に母親と会うことにするが、咲太の身体に謎の傷跡が現れる。
6月に公開された前作「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」よりは面白く見ました。ただ、「窓ぎわのトットちゃん」が幅広い世代に受け入れられる内容なのに対して、これは主に10代、20代の男子限定でしょう。この世代に受けるのは桜島麻衣先輩が理想の彼女だからですね。次は大学生編だそうです。増井壮一監督。
▼観客8人(公開13日目の午後)1時間15分。
「SISU シス 不死身の男」
1944年、第二次大戦末期のフィンランドを舞台にしたアクション。川で砂金を探す主人公アアタミ((ヨルマ・トンミラ)が金鉱を掘り当て、荒野を馬で移動中にナチスに遭遇。金塊を狙ったドイツ兵から執拗に追跡され、死闘を繰り広げることになります。アアタミは老人ですが、特殊部隊出身で過去に300人のロシア兵を殺したと言われています。「ランボー」のように“1人だけの軍隊”なわけです。画面に出るのは明らかに西部劇風のフォント。といってもマカロニウエスタンに近い描写の仕方で、これにクエンティン・タランティーノ風のタッチを加えて出来上がった作品と言えるでしょう。
主人公のアアタミは死なないにもほどがあるほど死にません。ここまで不死身だと、その理由が必要になると思いますが、映画はそれには触れません。
ヤルマリ・ヘランダー監督は1976年生まれ。「ランボー」など1980年代のアクション映画が好きなのだそうです。
IMDb6.9、メタスコア70点、ロッテントマト94%。
▼観客10人(公開初日の午後)1時間31分。
「シアター・キャンプ」
ニック・リーバーマン監督の短編「Theater Camp」(2020年)をリーバーマンと「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」(2019年)の女優モリー・ゴードンが共同監督を務めて長編化したコメディ。ニューヨーク州北部の演劇スクール「アディロンド・アクト」はミュージカルスターを夢見る子どもたちを指導してきた。今夏のキャンプ開校を前にジョーン校長(エイミー・セダリス)が昏睡状態となり、演劇に無関心な息子トロイ(ジミー・タトロ)が跡を継ぐ。経営は破綻寸前。スクール存続のためには3週間後のキャンプ終了までに出資者に新作ミュージカルを披露する必要がある。教師たちと子どもたちは舞台を完成させようと奮闘する。
落ちこぼれチームが栄光をつかむという、よくあるパターンのプロット。序盤のドキュメントタッチがどうも乗り切れない要因のようで、これは普通に映画化した方が良かったと思います。完成したミュージカル「ジョーンのままで」(Still Joan)を披露するクライマックスがそれなりに盛り上がるだけに序盤がもったいなかったです。1時間35分。
IMDb7.0、メタスコア70点、ロッテントマト85%。