シリーズ25作目で上映時間はシリーズ最長の2時間44分。
「ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドは最後」とアナウンスされているにしても長すぎるのでは、と見る前は思ってました。
でもこの内容なら仕方ないかなと思います。
KINENOTEから粗筋を引用すると、「現役を退いたボンドは、ジャマイカで穏やかな生活を満喫していた。しかし、CIA出身の旧友フィリックス・ライターが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者を救出するという任務は、想像以上に危険なものだった……」。
この紹介は何も言っていないに等しいですが、この映画、激しくネタバレ禁止の内容でした。
この内容ならば、もっと情感たっぷりに描いて欲しいところなのに、キャリー・ジョージ・フクナガ監督の演出はドラマティックな盛り上げ方がうまくありません。
敵役のラミ・マレックもダニエル・クレイグの相手としては役不足の感じがあります。
しかし「女王陛下の007」のようにエモーショナルな展開ではあり、シリーズのファンであるなら、必見の作品であることは間違いありません。
1年前にリリースされたビリー・アイリッシュのややブルーな主題歌もオープニング映像に合わせて聞くと、さらに良かったです。
キューバでボンドを支援するCIAの女エージェントが格好良くて美人だなと思ったら、アナ・デ・アルマス(「ブレードランナー 2049」「ノック・ノック」)じゃありませんか。
エンドクレジットの最後にはいつものように「James Bond Will Return」と出ます。
「明日の食卓」に続いて今年2本目の瀬々敬久監督作品。
東日本大震災と生活保護を絡めたテーマは重いですが、これに連続殺人まで絡めなくても良かったのではないでしょうかね。
ミステリーとしては犯人の動機の設定が弱いです。
2人を縛ったまま放置して餓死させ、さらに3人目まで狙うというのは相当な恨みの感情が必要ですが、それを納得させる描写が足りませんでした。
殺人の動機となった出来事から何年もたってなぜ犯行に及んだのかの説明もありません(これは中山七里の原作も同じだそうです)。
加えて制度・運用上の欠陥を現場の個人の責任に帰す犯人の考え方は近視眼的すぎるほか、狙われる1人の代議士はそうした欠陥を知った上で現状改善を含めた福祉向上を訴えており、いわば同士討ちの様相になっています。
佐藤健、清原果耶、阿部寛、倍賞美津子らの演技に深く感心しながらも、この脚本ではダメだという思いが沸々とわいてきました。
瀬々敬久監督は「明日の食卓」もそうでしたが、物語の不備に気づいていないか、気づいても修正能力がないのでしょう。
演出の技術は高いので、誰か優秀な脚本家と組んだ方が良いと思います。
いわゆる扶養照会が生活保護の受給をためらわせる原因となるケースは多いと聞きます。
子どもや親族に自分の窮状を知られたくない、迷惑をかけたくないという気持ちはよく分かりますが、その結果、保護費を受給せずに苦しんだり、病気になったりするのはおかしいでしょう。
人命を第一に考えて、制度運用を改め、早急に保護を決定してほしいものです。
震災の避難所で老婆と若者、子どもが出会い、疑似家族を形成するという出だしは「岬のマヨイガ」と同じでした。若者の男女の違いはありますけど。
「ベイビーわるきゅーれ」の殺し屋女子2人組(高石あかり、伊澤彩織)のアイデアの元になった阪元裕吾監督「ある用務員」をU-NEXT(お試し会員登録中)で見た。
元暴力団員だった父を持つ深見晃(福士誠治)は高校の用務員として働きながら、父の兄弟分である真島(山路和弘)の娘・唯(芋生悠)のボディーガードとして密かな人生を送っていた。ある日、暴力団の抗争が勃発し、唯が標的にされてしまう。学校を襲撃してきた9人の殺し屋たちに深見は単身立ち向かう、というストーリー。
高石あかりと伊澤彩織は中盤に登場、派手なアクションを繰り広げる。アクション監督はクレジットされていないが、伊澤彩織の福士誠治との格闘シーンは「ベイビーわるきゅーれ」同様にスピード感があり、見応え十分。公開時に行われた舞台あいさつで伊澤彩織は「(福士誠治に首を絞められて絶命するシーンは)あと3秒続いていたら落ちていた」と話していた。どうりで顔が赤黒く、真に迫っていたわけだ。
この映画、1月に「未体験ゾーンの映画たち」の1本として東京で公開されたが、九州では福岡のみの公開。10月25日のDVDリリースに先立ってU-NEXTで配信したのはU-NEXTが製作委員会に入っているからだろう。
U-NEXTには以前から興味があったが、月額2189円(税込み)は他の配信サービスに比べて高く感じる。U-NEXT月額プランの料金詳細によると、「ビデオ見放題:1,089円 雑誌読み放題:550円 1,200ポイント:550円」という考え方だそうだ。毎月付与される1200ポイントは劇場公開から間もない新作などの観賞に必要で、399ポイントの作品が多いようなので3本は見られる計算。それが550円なのはお得と考えても良いが、強制的に550円使わせる仕組みとも言える。
さらに不要なのは雑誌読み放題だ。「月額プラン1490」(税込み1639円)はこれを外して「1200ポイント」を入れてほしい。あるいは基本サービスを見放題の1089円だけにして、あとのサービスはトッピングで加えられる仕組みにした方がリーズナブルだし、理解を得やすいと思う。そうなると、雑誌読み放題が550円では楽天マガジンやdマガジンには対抗できないですけどね。
十代の女殺し屋コンビのダラダラした日常と颯爽とした活躍を描くアクション。作りは非常に荒削りだが、同時に大きな可能性を感じさせる。「ベイビーわるきゅーれ」の感想はそんな感じになる。可能性というのは主演の一人、伊澤彩織がアクション女優として大成する可能性だ。クライマックスの伊澤彩織の格闘シーンは一見の価値どころか、100回ぐらい繰り返し見たくなる。動きがしなやかで柔らかく、めちゃくちゃ速い。女優が演じたアクションでこんなにレベルの高いものは初めて見た。
冒頭、コンビニ内での男3人を相手にしたアクションよりもクライマックスが数段凄いのは敵役の三元雅芸(みもとまさのり)のアクションが凄いからだ。Wikipediaによれば、三元雅芸はアクション俳優として活躍するほか、「るろうに剣心」などのアクション監督谷垣健治の下でスタントマンを務めた経験があり、殺陣師でもあるという。伊澤彩織もスタントパフォーマー(男女を区別しないために伊澤彩織がこだわる言い方)出身で「るろうに剣心 最終章」2部作でもスタンドインを務めたそうだ。YouTubeで公開されている刀のアクションシーンを見ると、伊澤彩織、「るろうに剣心」で佐藤健のダブルも務めたのではないかと思えてくる。殺陣の動きがよく似ているのだ。
そうした実力のある2人が激突するわけだから当然迫力のあるものになってくる。伊澤彩織はラストファイト撮影の1週間前、練習中に三元雅芸から自分のパンチを「フッ」と笑われ、「火が付いた」。だから本番では肘打ちも入れたという。アクション監督の園村健介はアクションシーンの設計で「女性が大勢の男の人を殺す説得力を持たせないといけないので、それなりにやっぱり、やられなきゃいけないし、素手になった時にはなるべくフィジカルの差をどう克服するかを考えた」と語っている(【ベイビーわるきゅーれ】主演 伊澤彩織&アクション監督 園村健介が語る制作舞台裏 - YouTube)。
これは頷ける発言で、コンビニ内のアクションで伊澤彩織がナイフを振り回し、クライマックスで落とした拳銃を拾おうとするのはまったく正しい。例えば、シャーリーズ・セロンのように身長が男優に劣らない女優であっても、「アトミック・ブロンド」では周囲にあるものを手当たり次第に武器にした。身長159センチの伊澤彩織のアクションに説得力を持たせるにはハンディを克服するための銃とナイフを利用した方が良いのだ。それがリアリティーにつながる。
宮崎キネマ館に舞台あいさつで訪れた高石あかり(2021年9月11日)
もう一人の殺し屋役高石あかりはそうしたアクションはできないものの、ガンプレーの速さを見ると、相当に練習したことがうかがえた。コミュ障で社会不適合者で陰キャの役柄の伊澤彩織に対して明らかな陽キャ。この2人が高校卒業と同時に殺し屋の寮を出てアパートで一緒に暮らす、というのが映画の設定で、2人は仕事である男を殺したことからヤクザに付け狙われることなる。
偏執的で凶暴なヤクザの親分を演じる本宮泰風の怖くておかしい味わいとか、その娘秋谷百音の弾けたキャラとか、息子役うえきやサトシのなんだかかわいそうなキャラとか、キャストはいずれも好演している。映画全体としては脚本も演出もまだ改善するところはあるのだろうが、阪元裕吾監督のまとめ方は悪くない。この設定の話ならシリーズ化も可能だ。荒削りな部分をなくし、アクションファン以外にもアピールする第2作、第3作を切望したい。