「俺の目標は1年に365本映画を見ること。それを20年続けること」。
原田眞人監督のデビュー作「さらば映画の友よ インディアンサマー」(1979年)のダンさん(川谷拓三)はそう言う。僕も365本の映画を見ることを今年の目標にしたが、劇場のほかに配信とDVD、テレビ録画も含めての数字だ。ダンさんの場合は劇場だけでカウントしているから、1年で365本はけっこう大変な数字ではある。映画の時代設定の1968年当時はまだ名画座が健在だったから、こうしたこともできたのだろう。映画は数多く見れば良いというものではない。しかし、数多く見ておかなければ、分からないことだってある。
1979年度のキネマ旬報ベストテン49位。はっきり言ってキネ旬ベストテンの30位以下にはあまり意味がない。投票者が少なくなるからで、この映画に票を入れたのは2人だけだった(南俊子と渡辺武信)。もちろん、ベストテンに入れたくなる映画というのはどこかに魅力があるのだ。
静岡県沼津市が舞台。予備校よりも映画館に多く通っているシューマ(重田尚彦)は映画館で中年の映画ファン、ダンさんに出会う。映画館の中でおしゃべりしていた女子学生たちを注意したダンさんは痴漢扱いされ、その窮地をシューマが救ったのだ。「死の接吻」のリチャード・ウィドマークのセリフを引用したことで、ダンさんが根っからの映画ファンであることが分かり、2人は意気投合する。この2人に絡むのが17歳の少女ミナミ(浅野温子)。シューマはミナミを好きになるが、ミナミにはヤクザが付いているらしい。
沼津は原田監督の出身地だから体験的な部分も入っているとのことだが、終盤はフィクションの度合いを強める。ダンさんは拳銃を手に入れて、1人でヤクザの親分の屋敷に殴り込みをかけるのだ。
出演者の多くは既に亡くなっている。川谷拓三、重田尚彦、トビー門口、原田芳雄、鈴木ヒロミツ、室田日出男、そして映画評論家で最初の方に出てくる映画館主役の石上三登志。SFに詳しい石上さんはキネ旬などによく映画評や長い評論を書いていて、それを読むのが僕は好きだった。42年前の映画だから亡くなった俳優が多いのは仕方がないが、感慨を持たざるを得ない。
この映画も長い間、見ることができなかった。ファンの要望を受けて、ようやくDVDが発売されたのは昨年9月。原田監督が監修に当たったそうだが、元のフィルムが劣化していたためか、全体的に赤みがかっていて、画質的に満足できる仕上がりではないだろう。
内容に関して原田監督は日記にこう書いている。
「さらば」は演出的には稚拙なパーツ満載の映画ではあるが、20代で撮った作品はこれ一本。駆け出し監督の痛点を見てもらえればありがたい。
いやいや、イタいところなんてないですよ。時代背景も含めて僕には懐かしい映画でした。
第93回アカデミー賞の候補作が発表された。候補作品のうち毎年数本はNetflixなどの動画配信サイトで見ることができたが、今年はコロナ禍の影響で配信作品が26本もあった。このうちNetflixが17本を占める。4月26日の授賞式までに見ておきたいところだ。
配信リストは以下の通り。「ムーラン」などはディズニープラスだけでなく各配信サイトで有料配信しているし、DVDも出ているが、見放題で見られるサイトに限った。カッコ内は候補部門。
●Netflix
「Mank マンク」(作品賞ほか)
「シカゴ7裁判」(作品賞ほか)
「マ・レイニーのブラックボトム」(主演男優賞ほか)
「私というパズル」(主演女優賞)
「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」(助演女優賞)
「ザ・ホワイトタイガー」(脚色賞)
「ミッドナイト・スカイ」(視覚効果賞)
「この茫漠たる荒野で」(美術賞ほか)
「ハンディキャップ・キャンプ 障害者運動の夜明け」(長編ドキュメンタリー賞)
「オクトパスの神秘 海の賢者は語る」(長編ドキュメンタリー賞)
「ザ・ファイブ・ブラッズ」(作曲賞)
「フェイフェイと月の冒険」(長編アニメーション賞)
「愛してるって言っておくね」(短編アニメーション賞)
「ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語」(歌曲賞)
「これからの人生」(歌曲賞)
「ラターシャに捧ぐ ~記憶で綴る15年の生涯~」(短編ドキュメンタリー賞)
「隔たる世界の2人」(短編実写映画賞)
●amazonプライムビデオ
「あの夜、マイアミで」(助演男優賞)
「サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~」(作品賞ほか)
「続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画」(助演女優賞ほか)
「タイム」(長編ドキュメンタリー賞)
●ディズニープラス
「ムーラン」(視覚効果賞ほか)
「ゴリラのアイヴァン」(視覚効果賞)
「ソウルフル・ワールド」(長編アニメーション賞ほか)
「夢追いウサギ」(短編アニメーション賞)
●Apple TVプラス
「グレイハウンド」(音響賞)
Huluで原一男監督のドキュメンタリー4本の配信が始まった。「さよならCP」「極私的エロス・恋歌1974」「ゆきゆきて、神軍」「全身小説家」の4本で、このほかに「ニッポン国VS泉南石綿村」も以前からある。このうち、僕は「ゆきゆきて、神軍」しか見ていない。以前から見たかった「極私的エロス・恋歌1974」をようやく見た。強烈で、しかも感動的な映画だった。
公開当時、映画雑誌の「ロードショー」で短い紹介記事を読み、印象に残ったが、地方では公開されず、その後も触れる機会がなかった。2015年に再DVD化されているので見ようと思えば、見られる作品だが、僕はこの10年ほどDVDレンタルから遠ざかっていた。
amazonの内容紹介を引用すると、以下のようになる。
監督自らが、かつて一緒に暮らし、子供を産んだ女を、そして今自らが共に暮らしている女を執拗にカメラで追いつづけ、「極私」の極致へと到達したこの映画は、未踏のドキュメンタリーとして歴史にその名を刻んだ。
原一男監督が「一世一代のミス」と後悔した、衝撃の出産シーンは必見!
普通の男が出産シーンを見られるのは自分の奥さんのものぐらいだろう。僕は見たくなかったので遠慮した。だからこの映画で初めて見たのだが、生命が生まれる瞬間というのは感動的なものだと思った。昨年公開された「娘は戦場で生まれた」にあった、帝王切開で仮死状態で生まれた赤ん坊が息を吹き返すシーンと同じ感動を味わった。
しかもただの出産シーンではない。場所はアパートの一室。助産師さんはいない。この女性(かつて原監督の恋人だった武田美由紀)は誰の助けもなく、1人で出産するのだ。部屋には原監督がいてカメラを回しているし、製作の小林佐智子がマイクを向けているのだが、どちらも手助けはしない。武田美由紀にとっては2人目の子どもなので慣れてはいるが、それまでの言動を見てもたくましい女性なのである。
内容紹介に「一世一代のミス」とあるのは出産シーンの一部がピンボケになっているため。わざとそうしたわけではないらしい。1974年度のキネマ旬報ベストテン11位。
物語はシンプルに3つのパートに分かれる。サードインパクトで赤く汚染されたパリ旧市街地を復元させるための戦い、主人公・碇シンジたちの「第三村」での穏やかな生活、そして人類補完計画を実行しようとするネルフとそれを阻止するためのヴィレの戦い。例によって意味が分からない単語・用語が大量に出てくるが、そうしたものを取っ払って乱暴にプロットまとめるなら、これはマッド・サイエンティストである父親・碇ゲンドウと息子シンジの確執に集約されていく。
入場者プレゼントのアスカの画像
マッド・サイエンティストの暴走は世間に隠れてこそこそやるのが普通だが、エヴァにおいては巨大な組織が堂々と行うことになった。どう考えても人類に破滅しかもたらさない人類補完計画を終わらせるための葛城ミサトやシンジたちの戦いは物語を終わらせるための総監督・庵野秀明の戦いでもあっただろう。テレビシリーズから25年かけてエヴァはようやく最後に「つづく」ではなく、本当の「終劇」を打つことができた(旧劇場版にも「終劇」は打たれていた)。併走してきたファンにとってもそれは感慨深いものであるはずだ。
前作「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」(2012年)が不評だったのは、神以上の力を得たエヴァ初号機を現出させた「破」の直接的な続きになっていなかったことと、「序破Q」で終わるはずが終わらなかったからだ。終わると思っていた観客は裏切られた思いを持たざるを得なかった。1995年から翌年にかけてのテレビシリーズは物語の決着を放棄した終わり方をした。劇場版2作も満足な終わり方ではなかった(途中までは良かったのに最後で観念的になった)。新劇場版3部作で今度こそ終わるかと思ったら、またしても終わらなかったのだ。
同時に「Q」でそれまでの世界観が反転したことも唐突だった。舞台設定は「破」から14年後の世界。ミサトが率いるヴィレはネルフを壊滅するための組織であり、ネルフは悪役に堕ちていた。
ただし、「シン・エヴァ」を見た後に全体を眺めれば、物語は新劇場版3部作と「シン・エヴァ」の4作で構成され、観客が思っていた「序破急」ではなく「起承転結」の構成だったことが分かる。「転」に当たるとすれば、「Q」で物語が反転・転換したことも許容できる。もちろん、これは後付けの考え方で、庵野秀明は当初、「Q」で終わらせることを意図していたはずだ。それにしては見事に「Q」の最後から話をつないで完結させたなと思う。傑作「シン・ゴジラ」を挟んで9年間かけただけのことはあった。
「シン・エヴァ」がある意味分かりやすいのは物語の方向性にブレがないからだ。「Q」で悪役を規定したわけだから、悪の陰謀を止める戦いに単純化できる。そして終わらせることを目標に物語が組み立てられている。「Q」でフォースインパクトを起こしそうになったシンジは例によってウジウジして拗ねているが、父の暴走を止めるためにエヴァに乗ることになる。エヴァの物語は父と息子が和解するか、対決しないと終わらない話なのだ。
ラスト、成長した2人のキャラの姿を見てほっとした気分になった。登場人物たちのそれぞれにつらく苦しい十代を終わらせることも、この完結編の目的ではあったのだろう。
4月2日から始まる「午前十時の映画祭11」で上映される27作品の評価ランキングを作ってみた。KINENOTE、Yahoo!映画、Filmarksのレビューの点数を平均して順位を付けたもの。KINENOTEは100点満点での評価なので5点満点の他サイトと合わせるため20分の1にして平均した。
「午前十時の映画祭11」上映作品評価ランキング(画像)
順位は次の通り。
(1)赤ひげ(1965年)
(2)ターミネーター2(1991年)
(3)天使にラブ・ソングを…(1992年)
(4)スタンド・バイ・ミー(1986年)
(4)アンタッチャブル(1987年)
(6)座頭市物語 4Kデジタル修復版(1962年)
(7)隠し砦の三悪人 4Kデジタルリマスター版(1958年)
(8)ターミネーター(1984年)
(9)ユージュアル・サスペクツ(1995年)
(9)ファイト・クラブ(1999年)
(11)シャイニング 北米公開版(1980年)
(12)グラディエーター(2000年)
(13)2001年宇宙の旅(1968年)
(14)ザ・ロック(1996年)
(15)ノッティングヒルの恋人(1999年)
(16)グッドフェローズ(1990年)
(17)ナイトメアー・ビフォア・クリスマス(1993年)
(18)シカゴ(2002年)
(19)未来世紀ブラジル(1985年)
(20)真昼の決闘(1952年)
(21)ファーゴ(1996年)
(22)マディソン郡の橋(1995年)
(23)ロミオ+ジュリエット(1996年)
(24)イージー・ライダー(1969年)
(25)モスラ 4Kデジタルリマスター版(1961年)
(26)ティファニーで朝食を(1961年)
(27)イングリッシュ・ペイシェント(1996年)
1位の黒澤明監督の「赤ひげ」は山本周五郎の原作を映画化した3時間5分の大作。僕は「羅生門」のラストの取って付けたようなヒューマニズムが嫌いだったが、この作品は黒澤監督のヒューマニズムが最も良い形で出た傑作だと思う。1965年度のキネマ旬報ベストテンでも1位を獲得した。
2位の「ターミネーター2」は1991年キネ旬ベストテン8位。公開当時、「VFXはすごいが、映画のまとまりは1作目の方が上」と思った。殺人を禁じられたターミネーター、T-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)の魅力は1作目に比べて半減してると思ったんですけどね。今の観客の目から見れば、VFXのレベルの違いがそのまま作品の面白さの違いになるのかもしれない。
上の表のPDFは以下にあります。
「午前十時の映画祭11」上映作品ランキング(PDF)