ミステリマガジン9月号によると、池井戸潤の小説「アキラとあきら」は2006年から2009年にかけて問題小説に連載された。単行本化されていなかったその小説をWOWOWの青木泰憲プロデューサーが読み、池井戸潤に「胸が何度も熱くなりました」と伝えたそうだ。そうした作り手の思いはドラマの内容に結実しており、だからこっちの胸だって毎回熱くなりっぱなしになるのだろう。
原作を読んでいる家内に言わせると、ドラマの方が面白いという。連載原稿は原稿用紙1500枚。池井戸潤はドラマ化に合わせて出版するために気に入らない部分を700枚を削り、新たに500枚を書き足し、さらに300枚削って100枚足した。ドラマの方は連載原稿を基にして脚本化しているから(これは水谷俊之監督が「WOWOWぷらすと」で語っていた)、文庫本とドラマの内容が違ってくるのも当然なのだった。
ドラマの内容はWOWOWの紹介を引用すると、「自らの意志で人生を選んできたエリートと、自らの能力で人生を切り開いてきた天才 2人の“宿命”を描くヒューマンドラマ」ということになる。バブル期前後を舞台にした物語。父親が零細企業を営む山崎瑛(斎藤工)と大企業・東海郵船社長の息子階堂彬(向井理)は共にメガバンクの産業中央銀行に入行する。山崎瑛が銀行員を目指したのは倒産しそうな父親の会社を助けた銀行員の姿を見ているからだ。階堂彬は大企業の社長を継ぐという敷かれたレールに乗ることを嫌って銀行に入った。金持ちと貧乏人の主人公という設定なら、普通は貧乏人の方を主人公にしてその対立者として金持ちを描くことになりがちだが、この物語は違う。2人のあきらはお互いの実力を認め合い、共に銀行員として理想的な姿を追い求める。
それを象徴するのがこんなエピソードだ。山崎瑛が担当している中小企業が倒産しそうになる。この会社の社長の娘は心臓病を患い、アメリカで移植手術を受ける予定だった。倒産して銀行預金を差し押さえられたら、娘は手術を受けられなくなる。瑛は社長に預金を全額解約して他行に移すよう勧める。その結果、銀行に損害を与えたことから瑛は静岡支店に異動させられることになる。「山崎はこれで出世コースから外れた」と陰口をたたく行員がいる中、階堂は「早く帰ってこい。おれはお前と一緒に仕事がしたいんだ」と話す。
2人のあきらの行動は正義と理想を意識したものではなく、人間として真っ当な在り方に基づく自然なものだ。「取引先のことを助けてやってくれ。それがお前の宿命だ」。瑛の父親(松重豊)はことあるごとにそう言う。ある銀行幹部はこう言う。「銀行は社会の縮図だ。金は人のために貸せ。生きた金を貸すのがバンカーだ」。銀行が金儲けのためだけに仕事をしていいはずがない。池井戸潤のそういう主張を最大限に物語にちりばめた脚本(前川洋一)と的確な演出(水谷俊之、鈴木浩介)、出演者たちの好演がドラマを充実したものにしている。羽岡佳の音楽を聞くたびに強く心を動かされる。必見のドラマだと思う。