2013/07/19(金)「稼ぐ経済学 『黄金の波』に乗る知の技法」

 最近読んだ金融・投資関係の本では最も面白かった。これぐらいの基礎知識を持たずに投資をするのは無謀ということなのだろう。株式投資の不都合な真実について書かれた3章と著者の専門分野である外国為替相場に関する4章は必読だ。

 著者の竹中正治さんはインデックス投資派の人で実際に投資を実践しているが、ドルコスト平均法は勧めていない。マンション投資も実践しているが、これは地方では成り立たないと思う。空室リスクの少ない都市部では参考になるだろう。

 

2013/07/04(木)「ノンフィクションW 映画で国境を越える日 映像作家・ヤン ヨンヒという生き方」

 「いろんな国の映画祭でインタビューを受けるたびに、すごく疲れ果てるんです。私は率直に言いたいことを言うけど、でも兄家族や母のことが心配で…」

 気丈で饒舌なイメージがあるヤン・ヨンヒ監督が思わず涙を流す。もう一人の母親とも言うべきニューヨークの母校ニュースクール大学の恩師に、他の人には言えない思いを打ち明ける。北朝鮮に関する映画を撮れば、北朝鮮に住む兄たちや大阪の母に迷惑がかかるのではないか。そんな思いを抱えて、ヤン・ヨンヒは映画を撮っているのだ。

 WOWOWメンバーズオンデマンドで配信中のノンフィクションW「映画で国境を越える日 映像作家・ヤン ヨンヒという生き方」は映画「かぞくのくに」同様に胸を揺さぶられる。キネマ旬報ベストテン1位をはじめ内外の映画賞・映画祭で高く評価された「かぞくのくに」がわずか2週間で撮られたというのは驚きだが、このドキュメンタリーは映画の撮影風景や映画祭での反響などを紹介し、ヤン・ヨンヒの人柄と考え方を余すところなく伝えている。

 映画のクライマックス、北朝鮮に帰ることになった兄との別れの場面で、当初、現実と同じように撮っていたヤン・ヨンヒに「現実にはできなかったことを描けばいい」とアドバイスしたのは見張り役を演じた俳優で監督でもあるヤン・イクチュン(「息もできない」)だったそうだ。

 そのイクチュンは釜山での上映の舞台挨拶で感極まる。「日本で試写した時は感じなかったんですが、釜山で見ると、あまりにも悲しいですね」。分断された韓国で映画が一層リアルに迫るのは当然なのだろうが、韓国だけでなく映画は他の国でも同じような境遇にいる人たちに共感と感動を与えている。ヤン・ヨンヒが描く温かくて厳しい家族の姿には普遍性があるのだ。そして映画は国境を越えるけれども、分断された家族は容易に国境を越えられない。その現実が胸に迫るのだ。

 ヤン・ヨンヒ、次はどんな映画を撮るのだろう。

2013/06/30(日)「発情アニマル」と「鮮血の美学」

 映画オタクであるというデイヴィッド・ゴードン(「二流小説家」)の第2作「ミステリガール」に「アイ・スピット・オン・ユア・グレイブ」という映画のタイトルが出てくる。「1978年にメイル・ザルチ監督がイタリアで製作した知る人ぞ知るスプラッター映画」と説明があるので、これ、「発情アニマル」のことだ。レイプされた女性が加害者の男たちを血祭りに上げていくという復讐劇で、タイトルから分かるように日本ではポルノとして公開された(ので、僕は見ていない)。「悪魔のえじき」というタイトルでDVD化されているそうだ。

 これには「アイ・スピット・オン・ユア・グレイブ」(2010年)という原題そのままのリメイク版があって、たしかWOWOWで見たと思ったが、違った。僕が見たのは「鮮血の美学」(1972年)のリメイク版「ラスト・ハウス・オン・ザ・レフト 鮮血の美学」(2009年)の方だった。なぜ、この2本がごっちゃになっているかというと、「鮮血の美学」はレイプされて殺された娘の復讐を両親がするという話なのだ。イングマール・ベルイマンの「処女の泉」(1960年)をモチーフにしたもので、ウェス・クレイブンが監督しているが、やっぱりスプラッターな内容である(といっても、これも僕は見ていない)。混じるのも無理はない。

 リメイク版の方はけっこう面白くて、IMDBの評価は6.5。旧版(5.9)より評価が高い。日記を探してみたら、「志の低い作品だろうとバカにして見始めたら、サスペンスフルなバイオレンス映画としてまずまず良く出来ていて少し驚いた」と書いている。「発情アニマル」の方も旧版が5.5、リメイク版が6.2とリメイク版の方が高い。高いといっても、これぐらいの点数だと、マニア以外は積極的に見る必要はないんですけどね。

2013/06/24(月)「ヘルプ 心がつなぐストーリー」

 黒人メイドたちへの人種差別を描いた映画だが、出てくる女優がいずれも好演していて女性映画の趣がある。主演のエマ・ストーンは相変わらず良く、ジェシカ・チャステインのうまさも光る。憎まれ役のブライス・ダラス・ハワードも褒めるべきかも。

2013/06/24(月)「きっと、うまくいく」

 原題の“3 Idiots”は「3人のバカ」という意味で、インドで歴代興収ナンバーワンになったコメディだ。細部にさまざまな粗が目立ち、僕には普通のコメディに思えた。

 パンフレットには「学歴競争が過熱する現代のインドが抱える教育問題に一石を投じ」とあるが、主人公のランチョー(アーミル・カーン)は大学でトップの成績を残す。親友のファルハーン(R・マーダヴァン)とラージュー(シャルマン・ジョーシー)は最下位と下から2番目だが、名門工科大学ICEの中での順位だから世間的には全然バカじゃないエリートだ。

 卒業後、1番のランチョーが2番のチャトゥル(オーミ・ヴァイディヤ)に勝つという展開になると、なんだ学歴社会を否定してるわけじゃなくて、成績は大事ですよという当たり前の結論になってしまうじゃないか。観客をなめてるんじゃないのか、この脚本。

 この3人、バカなことはするけれども、バカじゃない。愛すべき善良な3人だ。友情を大事にする善良な人間が、成績は良いけれどもイヤな人間に勝つというのはエンタテインメント映画の王道の作りと言える。この王道に沿うのなら、三流大学の学生、あるいは大学に行っていない人間が一流大学の学生に勝つという展開にした方がテーマはより明確になったし、好ましかったのではないかと思う。

 最近のインド映画は以前より上映時間が短くなったらしいが、これは170分。はっきり言って、この内容なら2時間程度にまとめてほしいところだ。コメディとしての新機軸はないし、いくつかある下ネタで僕は頬が引きつったが、映画は上映時間の長さも含めて十分な大衆性を持っている。この大衆性は美点なので、ラージクマール・ヒラニ監督、次はもっと脚本を練り、高いところを目指して欲しいと思う。