2005/06/21(火)「バットマン ビギンズ」

 「バットマン ビギンズ」パンフレット個人的に興味があったのはティム・バートンが第2作「バットマン リターンズ」(1992年)で提起した問題を今回はどう描いているかということだった。すなわち、バットマンはなぜあんな格好をしているのかということ。ここが合理的に説明されなければ、どんな重厚なドラマも嘘くさくなってしまう。監督・脚本のクリストファー・ノーラン(「メメント」「インソムニア」)はちゃんとそこを分かっていて、恐怖に絡めて説明している。バットマンのコスチュームは悪人たちへの恐怖のシンボルなのである。主人公のブルース・ウェインは子供の頃、井戸に落ち、コウモリの大群に襲われた。それが恐怖のトラウマとなっており、前半はその恐怖の克服の過程を詳細に描く。正義の味方のコスチュームに自分の恐怖をイメージしたものを選ぶのは、理にかなっている。

 これに加えてノーランは両親を強盗に殺されたウェインの自責の念と復讐意識を描いていく。ヒマラヤでの苦悩の末に「正義は調和をもたらす。復讐は自己満足だけ」という結論に達したウェインが理想主義者だった父の死後、賄賂が横行して役人も警察も腐りきったゴッサム・シティの立て直しに動くことにも説得力があるのである。

 前半の重厚なドラマがアクション中心の後半に生きてくる。あるいは後半のバットマンの活躍を生かすためにウェインのキャラクターを描き込んだのが今回の「バットマン ビギンズ」と言える。これは十分成功していると思うものの、やはり1時間ほどある前半は少し長すぎるのではないかと感じる。後半に至って、バットマンの秘密兵器やコスチュームがウェインの会社の閑職(応用科学部)にいるフォックス(モーガン・フリーマン)によって既に開発されていたというのも、ややご都合主義的な感じがする。前半のドラマからお約束のバットマン・ワールドへ至る描写にもう一工夫欲しかったところだ。ノーランの演出は真っ当でドラマの組み立ても悪くないけれど、タイトな傑作になり損ねた正直な力作というのが率直な感想である。

 ドラマの作りは凝っている。世界放浪の旅に出たウェインがブータンの刑務所にいるところにヘンリー・デュカード(リーアム・ニーソン)が訪れ、ウェインはヒマラヤで修行を積むことになる。デュカードのボスで渡辺謙演じるラーズ・アル・グールが率いる集団は過去に腐った都市を壊滅させてきた組織である。ウェインはここで鍛えられて強くなるが、悪人の処刑を命じられて拒否し、組織のアジトを破壊する。ゴッサム・シティに7年ぶりに帰ってみると、そこは父親(ライナス・ローチ)がいたころとは異なり、マフィアのファルコーネ(トム・ウィルキンソン)が牛耳って、貧困がはびこる街になっていた。ウェインの幼なじみで正義感に燃える検事レイチェル・ドーズ(ケイティ・ホームズ)はファルコーネを逮捕したいと思っているが、上層部も警察もファルコーネの言いなりで手も足も出ない。ウェインは腐った街の浄化のためにバットマンとなる準備を進める。

 これが大まかな設定だが、敵役が単なるマフィアでは小さいなと思っていたら、精神科医のジョナサン・クレイン(キリアン・マーフィー)が登場し、さらに大がかりな悪の組織があることが分かる。このクレインの印象が強い。映画はラストでバートンの第1作へのつながりを示すエピソードを入れているが、この映画の続編を作るなら、キリアン・マーフィーを敵役(スケアクロウ)として登場させた方が面白いのではないかと思う。

 主人公ブルース・ウェインを演じるのは「アメリカン・サイコ」「リベリオン」などのクリスチャン・ベール。渡辺謙、リーアム・ニーソンに加えて、執事のアルフレッドにマイケル・ケイン、ゴッサム・シティで唯一のまともな警官ジム・ゴードンにゲイリー・オールドマン、ウェインの会社の副社長にルトガー・ハウアーと渋いキャストがそろった。ベールの暗い顔つきはトラウマを持つウェイン役に違和感がないが、主役を張るのに十分な派手さもない。こうした脇の役者たちがそれを補っている。

2005/06/17(金)通話無料 父娘篇

 やじうまウォッチ経由。WillcomのCMで、一番下にあるやつの評判がよいとか。なるほど。60秒のやつがしんみりして良いですね。

 「元気か」「元気」「元気か」「元気よ」「元気か」「元気だよ」「元気か」「元気だってば」。この反復のセンスがなかなかいい。監督は誰だろう。もう少し重くなっても良いから画質を良くした方がいいと思う(91kbpsじゃあね)。

 しかし、これを見た後に「通話無料 上京編」を見ると、おやじギャグレベルの出来にがっかり。とても同じ親子とは思えない。

Symantec Brightmail AntiSpamの効果

 メール受信状況@niftyのメールは6月1日からスパム判定率が大幅に向上した。右のグラフは3月20日からきょうまでのメール受信状況。ピンクが学習型フィルターで検出した迷惑メール、緑が基本フィルターで検出した迷惑メール、青が通常メール。通常メール学習通数は44,713通で迷惑メール学習通数は10,471通。学習度は2,103ポイント。学習型フィルターでの検出が大幅に少なくなっている。

 学習度はまだまだだが、基本フィルターでこれだけ検出できると、あまり困らない。問題は受信もしたくない場合にどうするかで、フィルター10個の拒否条件ではとても足りない。受信拒否アドレスは1000個設定できるが、登録していったら、それでも足りないだろう。拒否条件を50個ぐらいに増やしてくれると、ありがたいんですがね。

2005/06/14(火)「最後の恋のはじめ方」

 「最後の恋のはじめ方」パンフレットニューヨークを舞台にウィル・スミスがデート・コンサルタントを演じるロマンティック・コメディ。冗長と思える部分もあるが、ノリのいい音楽とともに2つの恋模様を軽くユーモラスに描いて、まず退屈しない映画になった。ウィル・スミスはアクが強くないので、こういうサポートの役柄も似合っており、「アイ,ロボット」に続いて絶好調という感じがある。ダンスを教える場面やホタテ貝アレルギーで顔が腫れるシーンには爆笑した。監督は「アンナと王様」「メラニーは行く!」のアンディ・テナント。この監督の作品、そんなに見ていないが、この映画は出来のいい方の部類に入るのではないか。スミスの相手役エヴァ・メンデスも色っぽくて良い。

 スミスが演じるデート・コンサルタントのヒッチはもてない男のサポートが仕事。セックスだけが目的の依頼は断るという主義を持っている。依頼してきたアルバート(ケヴィン・ジェームス)は太ってドジでさえない男。恋しているのはマスコミも注目する財団の令嬢アレグラ(アンバー・バレッタ)で、まるで釣り合いが取れそうにない。「まず彼女の注意を惹くこと」というアドバイスを受けたアルバートは会議でアレグラに同調し、なんとか2人で会う約束を取り付ける。ヒッチ自身もバーで男から言い寄られている新聞記者のサラ(エヴァ・メンデス)と出会い、恋に発展していく。しかし、ヒッチがデート・コンサルタントと知ったサラは卑劣な職業と誤解し、けんか別れしてしまう。

 他愛ない話といえばそうなのだが、脚本は恋に関する教訓をいろいろ入れていて面白い。「人間の意思伝達の60%は言葉でなくボディ・ランゲージ。30%は声の調子。つまり90%の“会話”は言葉じゃない」という指摘には納得。脚本を書いたケヴィン・ビッシュはこれがデビュー作で、次作もコメディらしい。アルバート役のケヴィン・ジェームスはテレビ中心のコメディアンで、映画での大役はこれが初めてとのこと。笑いの取り方も下品ではないし、観客を引きつけるエピソードになったのはジェームスのキャラクターが大きいと思う。アンディ・テナントの演出にはこれといって優れた部分も見あたらず、こうした材料を交通整理しただけのように思える。ただ、気持ちのよい終わり方を含めて全体的に好感の持てる作品に仕上げた腕は認めるべきか。

 ヒッチがアルバートにダンスを指導する場面の音楽(アッシャーの「Yeah!」)が良かったが、サントラには収録されていなかった。エンドクレジット前にあるおまけのダンスシーンが楽しく、もっと見たい気にさせる。ウィル・スミスもエヴァ・メンデスもダンスがうまい。

2005/06/13(月)「戦国自衛隊1549」

 「戦国自衛隊1549」パンフレット半村良の原作を映画化した斎藤光正監督作品(1979年)はアクション監督を千葉真一が務め、アクションだけはそれなりの出来だった。ほかには覚えている部分もないぐらいで、ほとんど良い印象がない。当時、角川春樹は「タイトルが出ないのは『地獄の黙示録』よりも先だ」と意味のないことを言っていたと記憶する。

 その「戦国自衛隊」を福井晴敏が新たに書き下ろし、「ゴジラ×メガギラス G消滅作戦」「ゴジラ×メカゴジラ」「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS」の3本のゴジラ映画でファンの支持を集めた手塚昌明監督が映画化した。自衛隊の描写はゴジラ映画でお手の物なのでそれなりの映画にはなるだろうとの予想はあった。確かに自衛隊が全面協力しただけあって装甲車やヘリの描写に重みがあり、アクション場面は悪くないが、ドラマが物足りない。SF的な設定は福井晴敏の力を借りただけによくまとまっているけれど、残念ながら時間テーマSF独特の魅力はない。自衛隊が戦国時代に行って戦うというパッケージングをまとめただけの作品に終わっている。惜しい映画だと思う。最後の最後でセンス・オブ・ワンダーを感じさせてくれた「ファイナル・カウントダウン」あたりを見習った方が良かったのではないか。驚いたのは敵役が「ローレライ」と同じ論理、同じ意図で同じことを計画すること。福井晴敏、これは少し安易ではないか。十分な時間がなかったのだろうか。

 陸上自衛隊で行われた人工磁場発生器の実験に太陽プラズマの増大が重なり、的場一佐(鹿賀丈史)率いる部隊が消滅する。後に戦国時代の侍・七兵衛(北村一輝)が実験現場に現れたことから部隊は戦国時代にタイムスリップしたものと分かった。かつて的場の部下で特殊部隊Fユニットにいた鹿島(江口洋介)は今は居酒屋の雇われ店長になっていたが、自衛隊の神崎二尉(鈴木京香)の要請で的場たちを救いに行くことになる。的場たちが過去に行き、その時代に干渉したことで現代にホールと呼ばれる虫食い穴が出現し、世界は消滅の危機にさらされていたのだ。実験を指揮していた神崎は判断ミスの責任を感じて、森三佐(生瀬勝久)率いる救出部隊のロメオ隊に参加。部隊は的場たちと同じ状況を作り出し、1549年に向かう。

 半村良の原作は的場が率いる部隊の戦国時代での活躍を描いたような作品だった(自衛隊が活躍する場面を用意したかったと、かつて半村良は言っていた)。福井晴敏はそれにもう一つの部隊を加えることでオリジナリティーを出している。先に過去へ行った部隊の歴史への干渉を止めることがロメオ隊の使命なのだから、2つの部隊が敵対することは容易に予想できる。この映画に出てくる歴史の修復作用は半村良版でも出てきて、それが隊員たちの運命に重なっていったが、この映画ではそれが中盤のちょっとした驚きの場面につながる。僕は時間テーマSFを偏愛しているが、それは人間がタイムスリップしてもタイムマシンを発明しても時の流れには抗えないからで、そのために時間テーマSFには切ない感じがつきまとうからだ。この映画にはそうした切なさが一切ない。これはアクション映画だなんだという前に原作者のSFに対する意識によるものだろう。福井晴敏はSFの設定はできるけれども、SFが血肉になっている人ではないのだと思う。

 手塚昌明の演出はいつものようにドラマ部分が弱いと思う。脚本にもかかわってくるけれども、ロメオ隊の嶋大輔のような役柄をあと1人か2人用意して、時にのみ込まれていく自衛隊員たちの悲劇を際だたせるともっと面白くなっていただろう。出演者の中では北村一輝の好演が光る。「ゴジラ Final Wars」でも怪演を見せていたが、この人、とにかく目立つ。せりふ回しからして武士そのもので、現代にいる場面のちょっとずれた感じが面白い。それが戦国時代に帰って、実にぴったりと時代に収まるのがまた良かった。

2005/06/12(日) Quicktimeのムービー編集

 携帯で撮影したムービー(3G2)を編集してみる。トリムしてコピーして新規ムービーにペーストする方式というのは普通のタイムラインでの編集に慣れていると、やりにくい。画面に文字もかぶせたいが、できないみたいだし。テキストの挿入は「拡大/縮小して追加」からできるけれど、もう少し操作しやすいインターフェースになりませんかね。夏に出すというQuicktime7のWindows版ではこのあたり改善されているのだろうか。

オレの書いた「スターウォーズ」評を配給会社が検閲!

 「このままこれを掲載するなら、今後のおつきあいも読者の試写招待もありません」という言い方が凄い。何考えているんだか。「シスの復讐」に関してはマスコミに載る映画評(写真付きのやつ)はすべて信用できない(配給会社の意向に沿った内容に変えられている)と見た方がいいだろう。頼りはネットの映画評だけだな。

 特定の人物がやっていることらしいので、そいつを排除した方がいいと思うぞ、20世紀フォックス。こういう低レベルの人間を置いていると、会社全体のマイナスイメージになるのは間違いない。