2011/08/09(火)「裸の島」
離れた島から手こぎの小舟でくんできた水を入れた2つの桶を天秤棒にかついで、乙羽信子が島の斜面を登る。家族4人で暮らす小さな島のてっぺんの畑に水を撒くためだ。同時に水は飲み水でもある。華奢な乙羽信子が慎重に一歩一歩進む姿を見ていると、いつか転ぶのではないかと思えてくる。案の定、乙羽信子は転び、桶を倒して貴重な水をこぼしてしまう。夫の殿山泰司はそれを見て駆け寄り、平手打ちをする。命をつなぐ水を無駄にするとは何事だ。島での生活はそれほど過酷なのである。
水をこぼす場面は終盤に別の形で繰り返される。たいていの人はここで胸を締め付けられる思いになるはずだ。あらためて語るまでもない名作で、1961年のモスクワ国際映画祭グランプリ。セリフは一切ない。黙々と水を運ぶ2人を見て、「愛と宿命の泉」のジェラール・ド・パルデューを思い出した。
「裸の島」は6月初めにNHK-BSで放映されたが、わずか2カ月で12日にまた放映される。そんなにリクエストが多かったのかと思ったら、夫婦が桶で水を運ぶシーンが新藤兼人の新作「一枚のハガキ」にもあるためのようだ。99歳の新藤兼人が「人生最後の映画」としている作品。これまでの集大成的な作品になることは想像にかたくない。13日から全国公開されるので、それに合わせた放映なのだろう。