2004/03/26(金)「ペイチェック 消された記憶」

 フィリップ・K・ディックの短編「報酬」をジョン・ウー監督が映画化。設定だけがSFで話としてはSF感覚はほとんどない。予想通り、アクションに比重を置いた作品になっている。ジョン・ウーだからそれは仕方がないけれど、これではディックの原作を選ぶ意味は少ないのではないか。謎解きの面白さもサスペンスも希薄。主演のベン・アフレック、相手役のユマ・サーマンとも特に目立ったところはない。VFXから見て、予算はかなりかかっていそうだが、限りなくB級の映画である。ウー監督の映画に必ず出てくる鳩はクライマックスに何の意味もなく飛ぶ。~

 主人公のマイケル・ジェニングス(ベン・アフレック)はフリーのコンピュータエンジニア。企業の製品を研究してそれ以上の製品を短期間で作り、ライバル企業に売る。それがばれないように開発にかかった期間の記憶を消して多額の報酬をもらっている。ある日、マイケルはハイテク企業のオールコム社から3年間の研究に携わるよう依頼を受ける。報酬は9000万ドル以上。仕事が終わったら、3年間の記憶を失うことになるが、多額の報酬にひかれてマイケルは仕事を引き受ける。研究所にはパーティーで出会った女レイチェル(ユマ・サーマン)もいた。3年後、マイケルはオールコム社から自分の所持品として19個のがらくたが入った封筒を受け取る。ところが、報酬は4週間前に自分で辞退したと聞かされる。なぜかFBIもマイケルを追い始める。マイケルはレイチェルの助けを借りて謎を探り始める。~

 面白くなりそうな設定なのだが、謎はすぐに解け、その後はアクション中心の展開となる。19個のがらくたがすべて役に立つアイデアは良いのだけれど、基本設定を発展させない脚本(ディーン・ジョーガリス)は非常にもったいない。いくらでも謎とサスペンスを盛り上げられるところなのだ。音楽(ジョン・パウエル)はバーナード・ハーマン風のもので、ヒッチコックの得意だった巻き込まれ型プロットに似た設定なのだから、そういう風な展開になると面白かったかもしれない。同じくジョン・パウエルが音楽を担当し、記憶をなくした男が主人公だった「ボーン・アイデンティティー」(2002年)と比較しても、この映画の出来は良くない。