2003/12/05(金)「影踏み」

 「半落ち」ほど綿密につながってはいないが、これも連作短編。主人公はノビ師。夜中に民家に忍び込んで物を盗む泥棒である。主人公の真壁修一は15年前の火事で双子の弟啓二と両親を亡くした。一流大学の法学部を出て、将来は弁護士にと期待されていた主人公はその事件がきっかけで法を捨て、ノビ師になった。双子の弟はその時から頭の中に住み着いている。

 7つの短編が収録されていて、どれも完成度が高いが、クリスマスにプレゼントを届けるよう頼まれた約束を果たす「使徒」がオー・ヘンリーの短編を思わせていい話である。プレゼントを贈るよう頼まれた少女は目の前で父親が死に、叔父夫婦に預けられたが、納戸のような部屋を与えられ、冷たい仕打ちを受けている。5年前、父親が死んだときから続くクリスマスのプレゼントだけが心の支えなのである。主人公はそのプレゼントを届け、意外な依頼主が明らかになる。

 帯にハードサスペンスとあるので、誤解を与えるが横山秀夫の本質は人情話。タッチはハードボイルドだが、ハードボイルドも本質は人情話だろう。具体的な描写をするか、外見描写だけにとどめるかの違いがあるにすぎない。

 今夏に出た横山秀夫の初長編「クライマーズ・ハイ」はミステリーではないので、「このミス」などでは入らないかもしれないが、これまでの代表作と言える傑作だった。それに比べれば、見劣りはするものの、「影踏み」も買って損のない本だ。