2002/10/21(月)「9デイズ」

 予告編ではテロリストの手に渡った核爆弾を9日間の期限内に取り戻すシリアスな話のように描かれていたが、本編はまったく違う。殺されたエージェントの身代わりを務めるため、その双子の弟が9日間で訓練を受ける(双子の弟がいるとは実に都合の良い設定だ)。テロリストとの交渉はそこから始まるわけで、なんで「9デイズ」というタイトルなのさ、という感じである(原題は“Bad Company”)。

 主人公を演じるのはスタンダップ・コメディアン出身で、「サタデー・ナイト・ライブ」で人気を得たクリス・ロック。もともとの設定がコメディにしかならないような類のものなので、コメディタッチで作れば良かったものを、ジョエル・シュマッカー監督の演出はほとんどシリアス(この監督は「セント・エルモス・ファイアー」とかシリアスな映画の方がいい)。主人公を代えるか、監督を代えるかしなければ、成立しない映画である。

 だいたい、クリス・ロックとアンソニー・ホプキンス(CIAで作戦の現場指揮を務める)という組み合わせがまずダメである。ホプキンスをキャスティングしたのは映画興行の保険みたいなものだろうが、ホプキンスはシリアス、クリス・ロックはコメディ路線を勝手に進むだけだから、バランスが悪いことこの上ない。クリス・ロック自身、映画の主演を張るほどの風格はないし、字幕がセリフの面白さを伝えていないことを差し引いてもほとんど退屈である。

 冒頭のエピソードから描き方の手際が悪いが、話がその後ちっとも面白くならないので、後半に連続するアクションは見ていて虚しいだけ。ジョエル・シュマッカーという人はつくづくB級から抜け出せない人だな、と思う。

 パンフレットにあるホプキンスのインタビューを読むと、ホプキンス自身、まったくこの映画に愛着を持っていないことがよく分かる。エージェントから勧められたので出たのだそうだ。そう、金のためだけに出たんですよ、きっと。