2002/07/21(日)「タイムマシン」

 H・G・ウェルズの原作をひ孫のサイモン・ウェルズが監督。1959年のジョージ・パル監督作品に続いて(劇場公開作としては)2度目の映画化となる。ウェルズの小説は「失われた世界」「地球最後の日」「透明人間」「モロー博士の島」「宇宙戦争」など読んでいるが、この原作とは縁がなかった。前作(あまり評判は良くない)も見ていないが、今回はテーマと物語がうまくまとまって佳作となった。SFXを無駄に使ってちっともSFしていない「メン・イン・ブラック2」などよりは、よほどまともな映画である。

 1899年、冬のニューヨークで科学者のアレックス・ハーデゲン(ガイ・ピアース)は強盗に恋人エマ(シエナ・ギロリー)を殺される。なんとかしてエマを取り戻したいと、アレックスは研究に没頭し、4年後にタイムマシンを完成させる。さっそく過去に帰って、エマが強盗に出会わないようにするが、今度は別の事故でエマは命を失ってしまう。「1000回過去を変えたら、1000通りの死に方をしてしまうのか」「運命は変えられないのか」と絶望したアレックスはその答を探るため、未来へ向かう。2037年のニューヨークでは月面爆破の影響で地球は崩壊寸前。ここでの事故でアレックスは80万年後の世界に飛ばされてしまう。そこは原始化した人類がモーロックという凶悪な種族に脅えながら暮らす悪夢のような世界だった。

 この80万年後の世界の描写はまるで「猿の惑星」なのだが、昨年のティム・バートン版「猿の惑星」よりはるかに出来がよい。スタン・ウィンストンがデザインしたモーロックのデザインとダイナミックな動きは秀逸。展開としてはアフリカの未開のジャングルで外部からやってきた主人公が悪を倒すという、かつてエドガー・ライス・バロウズなどによってよく書かれた冒険物語の一種である。違うのは6億年後の未来を見て、そこもモーロックの支配する世界であることを知った主人公が未来を変えようと決意してモーロックと戦う点。「過去は変えられないが、未来は変えられる」という手塚治虫「バンダー・ブック」的テーマが浮かび上がり、物語の結末とうまく同化している。

 2030年のニューヨーク市立図書館で主人公が出会ったホログラム人格(「エボリューション」のオーランド・ジョーンズ)が80万年後の世界で子どもたちに物語を語るラストショットを見て旧「猿の惑星」シリーズの第5作を思い出した。ここからより平和な未来が築かれていくのだろう。

 サイモン・ウェルズは「ロジャー・ラビット」「アメリカ物語 ファイベル西へ行く」などを経て「バルト」で監督デビューしたというアニメの経歴が中心の監督。今回が実写映画デビューだが、破綻はない。欲を言えば、主人公がタイムマシンを作れるという裏付けの描写を序盤に少し加えると良かったか。

 モーロックの親玉を演じるのはジェレミー・アイアンズ。白塗りメイクアップでほとんど分からなかった。