2002/06/23(日)「陽はまた昇る」
ビクターの横浜工場ビデオ事業部がVHSを開発し、販売にこぎつけるまでの苦闘を実話に基づいて描く。ということは知っていた。NHKの「プロジェクトX」が元になったそうで、この番組、あまり見ていないが、映画が感動の押し売りになっていたら嫌だなと気構えて見た。
監督デビューの佐々部清はそういう危惧を払拭するように手堅く真摯にまとめている。西田敏行がいつものような熱演タイプの演技であるとか、主人公の家族の描写に時間を割いている割にはあまり効果を挙げていないとか、さまざまな瑕疵はあるにせよ、一本筋の通った映画に仕上がっており、デビュー作としては合格点と言える。佐々部清は崔洋一、和泉聖治、杉田成道、降旗康男らに助監督としてついたそうだが、降旗の映画の感触に近いものがある。
主人公の加賀谷静男(西田敏行)は日本ビクターの開発技師。あと数年で定年を迎えるところで、横浜工場のビデオ事業部長の辞令が下る。高卒の加賀谷が事業部長となるのは異例だったが、実は業務用ビデオを生産する横浜工場はビクターのお荷物的存在。体のいい左遷だった。不況にあえぐビクターは全部門に2年間で20%の人員削減を命じる。横浜工場の人員は241人。50人近い人員のリストラを課せられたことになる。加賀谷は1人の首も切りたくなかった。営業に力を入れ、家庭用VTRの開発で人員を守ろうとする。
しかし、そんな努力も虚しく、SONYが一足先にベータマックスを発表してしまう。ベータマックスの録画時間は1時間。加賀谷たちは残業を重ねて、2時間の録画が可能な試作機のVHS(Video Home System)を完成させた。通産省はVTRの規格が乱立することを恐れ、家電業界に統一を促す。業界はベータマックスの導入に傾く。ビクターもベータに傾くが、ここでビクターがベータを選べば、工場のスタッフの努力が水の泡になる。加賀谷は世界規格を目指してVHSの技術を公開。松下電器をVHS陣営に引き入れるため、松下幸之助(仲代達矢)に直訴し、VHSの優秀さを訴える。
リストラされるサラリーマンの悲哀を感じさるを得ず、目頭を熱くさせる描写がところどころにある。部下を救うために必死の努力を重ねる西田敏行の姿もいいが、それを補佐する次長の渡辺謙や下請け工場の社長を演じる井川比佐志、加賀谷たちの努力をくんでVHSの発売を決めるビクター社長夏八木勲らが好演している。
こういう普通の感動作が日本映画にはもっと必要だろう。いや感動作でなくとも、奇をてらうことなく普通のしっかりした映画を作れば、観客はもっと映画館に足を向ける。