2001/06/05(火)「日本の黒い夏 冤罪」

 松本サリン事件のマスコミ報道と警察の捜査を批判した熊井啓監督作品。訴えていることは十分まともなのだが、パッケージングが古い。熊井啓は正直な作風だから、こういう展開、作り方になるのだと思う。現代にアピールするタッチに変える必要があると思う。昭和30年代の映画といわれてもそのまま通るような劇伴(この言葉通じないか)、セリフ回しである。

 優等生的視点から「ここが悪かった」と言われても、「はあ、そうですか」と答えるしかない。高校生を狂言回しにするあたりがいかにもという感じ。これは高校生に対して「まだ純粋」という幻想を抱いている証拠である。

 視聴率アップが至上命題のテレビ局と部数拡大がそれの新聞社。加えてメンツにこだわる警察が生み出したまれにみる冤罪劇。夜回りは警察担当記者の使命だけれど、警察のお先棒かつぎになる危険がつきまとう。情報を得るためには警察幹部のご機嫌もうかがわなくてはならない。そのあたりにもう少し踏み込むと、厚みが増したと思う。

 映画の構造として報道に良心的なテレビ局を舞台にしたのはどうか。これはむしろ、被害者の立場から描いた方が説得力が得られたのではないか。

 急いで付け加えておくと、熊井啓のような社会派の監督は今の邦画界には貴重な存在である。エンタテインメントだけを志向していては、邦画は薄っぺらになると思う。次作も是非、社会派の題材で作れるよう期待したい。