2021/11/21(日)「聖地X」ほか(11月第3週のレビュー)

「そして、バトンは渡された」

瀬尾まいこの本屋大賞を受賞した原作にはあまり心を動かされませんでしたが、映画は永野芽郁主演なので「お、原作よりいい」というのが序盤の感想。
見ていくうちに「まあ、普通かな」に落ち着き、終盤で少し盛り返した感じでした。
大衆的な泣かせる映画としての作りは悪くなく、こういうジャンルの需要は確かにあるのでしょう。
劇中で石原さとみ演じる人物によるある行為は原作読んだ時に「そりゃダメだろう」と思いました。映画はそのあたり少し緩和しています。
前田哲監督は以前より随分うまくなったと思います。
監督デビューは1998年で、これが18本目の監督作ですから、当然でしょうけど。

「FUNAN フナン」

1975年にカンボジアを制圧した共産主義勢力クメール・ルージュ(ポル・ポト政権)支配下の苦難を描くアニメーション。アヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞しました。
ポル・ポト政権下では300万人が死んだと以前は言われていましたが、現在では諸説あり、この映画は170万人から200万人が虐殺と飢えと病気で亡くなったとしています。
農村に移住させられ、粗末で不十分な食事で強制的に農作業をさせられる人々を描き、ミニ・アウシュヴィッツと言われた強制収容所での虐殺の様子は描かれていません。、
タイトルの「フナン」は1世紀から7世紀にかけ、現在のカンボジアやベトナム南部周辺にあった古代国家「扶南(フナン)」のことだそうです。

女優のアンジェリーナ・ジョリーはこの時期のカンボジアを描いた映画「最初に父が殺された」(2017年)をNetflixオリジナル作品として監督しています。
配信開始時からマイリストに入れっぱなしだったので、この機会に見ました。
当時の様子は実写だけあって詳しく、エキストラもかなり使って予算をかけた映画です。
原作は生きのびた少女によるノンフィクションで、アンジーの視点も子供に寄り添ったものになっています。ただ、ベトナム軍の侵攻によって解放された後の描写が30分もあるのが余計に感じました。

「ルック・オブ・サイレンス」

カンボジアの虐殺は共産主義勢力によるものでしたが、インドネシアでは共産主義者が虐殺の標的になりました。それを描く「ルック・オブ・サイレンス」は「アクト・オブ・キリング」とセットになる作品で、犠牲者100万人と言われる1965年からの大虐殺を描くノンフィクション。
「アクト…」が加害者側に虐殺行為を演じさせたのに対して、「ルック…」は被害者の遺族の視点で組み立ててあり、かつての加害者とその家族のインタビューで構成されています。
インドネシアの虐殺でやり切れないのは指示者も実行者も誰1人として処罰されていないこと。
「アクト…」同様、この映画でもどう殺したかを詳細に語る実行者が出てきて、気分が悪くなります。
虐殺は軍が直接行ったのではなく、民間組織に指示して行わせたのが悪質で、劇中の説明によると、国際批判を警戒したためとのことです。
ヴェネツィア国際映画祭で審査員大賞、国際映画批評家連盟賞など5部門を受賞しています。

「草の響き」

函館出身の作家・佐藤泰志原作の映画化第5弾。
体調を崩した和雄(東出昌大)は妻の純子(奈緒)と函館に戻る。和雄は自律神経失調症と診断され、医師の勧めで毎日街を走ることになる。やがて路上で出会った若者たちと交流を持ち始める。
斎藤久志監督の演出に不備はないものの、特に褒めるべき部分も見当たりませんでした。
医師が走ることを進めるのは精神を安定させるセロトニンが分泌されるからでしょう。
セロトニンが不足すると、不安や鬱、パニック障害を引き起こすそうです。

「聖地X」

興行的に苦戦しているようで金曜日の初回に見た時、観客は僕1人でした。内容が全然、浸透していないためもあるのでしょう。
劇団イキウメの舞台をオール韓国ロケで映画化した入江悠監督のホラー。
予告編は確かにホラーのイメージでしたが、本編は少しも怖くなく、怖がらせようという演出もありません。
聖地Xが生み出すある物体を巡る騒動を描いていて、いかにも元が演劇という作りになっています。それも含めて僕は割と好意的に見ました。
前川知大の原作戯曲は韓国とは関係なく、韓国になじみのあるプロデューサーの意向とのこと。
主演の川口春奈に入江監督の前作「シュシュシュの娘」の福田沙紀と同様のダンスシーンがあっておかしかったです。

「残菊物語」

宮崎映画祭で上映された溝口健二監督の「残菊物語」(1939年)を見ていなかったので、U-NEXTで見ました。
デジタル修復版といっても画質的につらいものがあるんですが、内容の素晴らしさですぐに引き込まれます。
五代目尾上菊五郎の養子で若手人気歌舞伎役者・菊之助はある日、弟の若い乳母・お徳に自分の芸を批判されるが、次第に彼女に愛情を抱き始める。しかし、養父母はお徳との仲を許さず、菊之助は地方回りの劇団に入って落ちぶれていく。お徳はそんな菊之助を必死で支え、ついに復活への道を開く。
身分違いの恋という題材は後の傑作「近松物語」(1954年)でも描かれますが、この物語には普遍的で感情を揺さぶる魅力があり、多数の作品に影響を与えているようです。
同じ泣かせる映画でも「そして、バトンは渡された」とはレベルが違う感じ。
海外でもIMDb7.9、ロッテントマト94%と、高い評価を得ています。