2021/11/14(日)「君は永遠にそいつらより若い」ほか(11月第2週のレビュー)

「サウダーヂ」

2011年の映画ですが、宮崎市での公開は初めて。
山梨県甲府市を舞台に土木作業員や移民労働者の姿を通して文化摩擦や差別、経済格差の問題を描き、同年のキネ旬ベストテン6位に入ってます。
無名の役者と素人を使い、現実に密着した作りが評価された理由でしょう。
タイやブラジル人の出稼ぎ労働者が出てきますが、映画が公開された10年前と決定的に違っているのはこの間に日本がどんどん貧しくなったこと。
アベノミクスで円安が進んだことと、賃金がさっぱり上がらないのが原因で、今やバンコクの最低賃金は東京より高くなっていて、タイの人が渡航費用を払ってまで日本に出稼ぎに来る理由はなくなっています。
逆に日本人が海外に出稼ぎに行く時代が来る、と先日、週刊誌が書いてました。
今の眼でこの映画を見ると、「まだこの頃は良かったんだなあ」と思わざるを得ません。
当時はリーマンショック後の円高の時代で1ドル80円を割ってましたからね。

「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」

今年のアカデミー賞で作品賞など6部門にノミネートされ、編集賞と音響賞を受賞した作品。
突発性難聴に陥ったヘヴィメタルバンドのドラマーの苦悩と再生を描き、主人公を演じたリズ・アーメッドは主演男優賞ノミネート。
タイトルは主人公が付ける人工内耳(インプラント)が発する金属的な音とヘヴィメタルのダブルミーニングでしょう。
amazonオリジナルなので昨年12月からプライムビデオで配信中で、映画館でまた見るかというと、個人的にはそこまで思い入れはありません。

「君は永遠にそいつらより若い」

映画館のロビーで手に取ったパンフレットは副読本レベルの分厚さ(340ページ、脚本も収録)。価格が1800円もするので、ま、買わないなと思いましたが、映画を見始めて必ず買おうと思い直しました。傑作です。
原作は津村記久子のデビュー作。大学卒業間近で児童福祉司として就職が決まっている主人公ホリガイのモノローグでほとんど進行します。
脚色は吉野竜平監督自身で、かなりうまい脚色だと思いました。
原作のホリガイは身長175センチ、演じる佐久間由衣は172センチ。背の高さも起用された理由でしょうが、佐久間由衣は本当に役にぴったりの好演を見せています。
おおらかで朗らかでさっぱりしたホリガイの人柄にまず引きつけられますが、映画は暴力や児童虐待、自殺、同性愛、コンプレックスと、てんこ盛りの題材を織り込んで進行します。
タイトルは13年前に起き、ホリガイが児童福祉司を目指すきっかけとなった4歳男児の行方不明事件に関するホリガイの胸を打つセリフに由来。
「君のことを攫って、君の心と存在を弄んで、侵害するそいつらは、どんどん年をとって弱っていくから。だから絶対に諦めないで。…君は、永遠にそいつらより若いんだよ」
佐久間由衣の出演作は追っかけて全部見ようと思いました。
今年6本の映画に出演し、絶好調と言うほかない奈緒はふとしたことからホリガイと交流を深めていく1学年下のイノギ役。
不倫してもあっけらかんとしていた「先生、私の隣に座っていただけませんか?」とはガラリと変わった役柄ながら、やっぱり好演してました。

「トムボーイ」

夏休みに田舎に引っ越したのを機に自分を男の子だと周囲に信じ込ませたボーイッシュな女の子ロール(ゾエ・エラン)を巡る騒動を描くセリーヌ・シアマ監督作品。
10年前の作品ですが、昨年、シアマ監督の「燃ゆる女の肖像」が話題を呼んだことで公開されたのでしょう。
主人公のロールはミカエルと名乗って同年代の子供たちと遊び、水遊びの時は自分で女子用水着を切って水泳パンツにし、粘土で股間の膨らみを偽装します。
仲良くなったリザとキスもするようになります。
明らかに心と体の性の不一致の傾向があるんですが、両親はまったく気づいていません(そんなことってある?)。
夏休みが終わりを迎える頃、ロールは男の子とけんかしたことがきっかけで、男子に扮していることを母親に知られてしまうことになります。
トランスジェンダーに限らず、子供が嘘をつかなくちゃいけない状況というのはかわいそうな状況であり、ありのままの姿を受け入れたいところ。
根本的な部分は解決されないままなので、映画はハッピーエンドとは言えないですね。

「リスペクト」

ソウルの女王アレサ・フランクリンを描く伝記ドラマ。
「ドリームガールズ」のジェニファー・ハドソンがアレサを演じ、圧倒的な歌を披露しています。
ハドソンの歌はいいんですけど、ドラマが型通り、演出も型通り。
IMDb6.6、メタスコア61点、ロッテントマト67%の低評価に納得するんですが、なぜか日本では評価が高いです。
が、よく見たら、KINENOTEは3人とも5点満点ですが、週刊新潮3.5、日経電子版3と、そうでもないですね。映画のクライマックスは7月に公開された「アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン」で描いた教会コンサートの場面になってます。