2022/01/16(日)ネトフリ版「新聞記者」ほか(1月第3週のレビュー)
不正を正していくには事実を掘り起こし、「声なき声を届ける」優れた記者も必要ですが、それ以上に組織の中で自分の良心や正義感を捨てない存在が不可欠だ、ということをこのドラマは強く訴えかけてきます。これは映画版にもあったテーマで、組織の圧力に押しつぶされそうになっているけれども、ぎりぎり良心を失わない人たちこそが現状を変える原動力になるということです。
僕らはこのドラマで描かれた後のことを既に知っており、政権中枢にいた巨悪が逃げ延びるところを見ているわけですが、ドラマは良心を失わない存在が新聞社にも官僚にも検察庁にも一般社会の至る所にもいるというのが希望になっていて熱い感動を生んでいます。
米倉涼子は熱演型の記者を想定して撮影に入ったそうですが、藤井監督との話し合いで「想いをこらえたなかで辛抱を積み重ねられる、未来に向かって継続できる女性」に変わったとのこと(米倉涼子×綾野剛インタビュー Netflixドラマ「新聞記者」で魅せた “事実と虚構の共演”)。この抑えた演技と役作りがリアルで実に良く、「ドクターX」などとは違った米倉涼子のベストワークと言って良い演技になっています。
このほか、自殺する官僚役の吉岡秀隆、その妻の寺島しのぶ、上司の田口トモロヲ、政治に興味のなかった大学生役の横浜流星、検察官・大倉孝二、首相秘書官から内閣情報調査室に異動させられる綾野剛らが、いずれも素晴らしい演技を見せています。NHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」のきぬちゃんこと小野花梨も横浜流星とともに若者代表的な役柄をしっかりと演じています。
岩代太郎の音楽がまた一級品で、もうこのドラマ、褒め始めたら切りがありません。
Netflixの中では韓国ドラマに負けっぱなしの日本のドラマが一矢を報いた良質の作品であり、世界に十分通用する作品と胸を張って良いと思います。
「コンフィデンスマンJP 英雄編」
「ロマンス編」、「プリンセス編」に続く劇場版3作目。はっちゃけた長澤まさみはいつものように良いんですが、中盤にダレ場があり、大きなマイナスになってます。古沢良太の脚本のせいというよりも田中亮監督の演出に工夫とキレがないためでしょう。「クライ・マッチョ」
今年5月で92歳となるクリント・イーストウッド監督・主演で、元雇い主からメキシコの別れた妻のもとにいる息子を取り戻して欲しいとの依頼を受けた主人公のロードムービー。さすがにイーストウッドの姿勢は前屈みになり、動作もゆっくりになって高齢を感じさせますが、映画としてはまずまずの作品になっています。IMDbを見ると、イーストウッドの次回作の予定はなく、特に主演映画としてはこれが最後になるかもしれません。ファンなら見ておきたい作品でしょう。「決戦は日曜日」
衆院議員選挙を舞台にしたコメディ。75歳の衆議院議員・川島昌平が倒れ、次の選挙の出馬候補として白羽の矢が立ったのは川島の娘・有美(宮沢りえ)。私設秘書の谷村勉(窪田正孝)ら事務所のスタッフは自由奔放で世間知らずの有美に振り回される、というストーリー。最初の30分ぐらいはまあまあ好意的に見ていましたが、選挙戦にまるでリアリティーがありません。衆院議員候補の、しかも保守系の総決起集会が公民館みたいな会場で20~30人というのは町村議会議員選挙か、と思ってしまいますね。この規模では当選はまず無理。1000人ぐらいは集めないと話になりませんし、出陣式も同じぐらいのエキストラが必要です。予算がどうこうの話ではなく、これは映画のリアリティーに必要なもので、それができないのなら、最初から省略して描かない方が良いです。
キネ旬1月上・下旬合併号によると、坂下雄一郎監督は議員秘書などに話を聞いて脚本を書いたそうですが、選挙の現場は見ていないのでしょう。見ていたら、こんな描写になるはずがありません。唖然としたのは宮沢りえと窪田正孝がビルの屋上から落下しても無傷な場面。下にマットはありましたが、あの小さなマットで無傷はあり得ないです。話自体も新鮮さがまるでなく、僕が見た時は観客3人でしたが、そのうち1人は途中で出ていきました。
「リスタート」
品川ヒロシ監督、HONEBONE(ホネボーン)のEmily主演。12日にDVDが発売され、配信レンタルもできるようになったのでU-NEXTで見ました。シンガーソングライターを夢見て上京した主人公未央(Emily)は10年後、地下アイドルになっていた。ある日、有名アーティストとの逢瀬がスキャンダルとなり、偏執的なファンから暴行を受ける。心身ともに傷を負った未央は迎えに来た妹(朝倉ゆり)と故郷の北海道下川町に帰る。継父(中野英雄)と母(黒沢あすか)、同級生たちは温かく迎えてくれたが、週刊誌のカメラマンが未央の現在を密かに取材していた。
「どん底に落ちたら、そこから這い上がるしかない」という分かりやすいテーマが良いです。初の映画で主演を務めたEmilyはさすがに演技の幅が狭いですが、ビジュアル的には申し分なく、もっと映画に出ても良いと思いました。品川ヒロシ監督はこれで長編5作目。良いところも緩いところもあるものの、撮影期間はわずか7日だったそうで、仕方がない面もあります。品川監督の描写には力があり、出演者の好演と相俟って感動的なクライマックスに成功しています。
ホネボーンの2人がゲスト出演した昨年7月4日のニッポン放送「笑福亭鶴瓶 日曜日のそれ」によると、品川ヒロシはテレビ「家、ついて行ってイイですか?」にEmilyが出ているのを見て「主演やってみない」と連絡したそうです。撮影は2019年。Emilyは撮影時28歳。川のシーンで溺れそうになった、などなど爆笑のエピソードを語っていました。