2022/02/13(日)「ウエスト・サイド・ストーリー」ほか(2月第2週のレビュー)

「ウエスト・サイド・ストーリー」のスティーブン・スピルバーグ監督は10歳か11歳の頃に「ウエスト・サイド物語」のサントラ盤を聴いて好きになったそうです。今回の映画化は旧作のリメイクではなく、舞台を基にしたリ・イマジネーションだと言っています。旧作も舞台を基にしていたわけですから、同じ原作の2度目の映画化なわけで、そういう場合は普通リメイクと言うんですけどね。

ナタリー・ウッドが歌っていなかったとか、プエルトリコ系の役者がリタ・モレノしかいなかったとか、そのためプエルトリコ移民を演じた他の俳優は顔をメイクで茶色っぽく塗っていたとか、アカデミー賞10部門を受賞した旧作も今となってはさまざまな批判があります。スピルバーグがリメイクしたのはそうした旧作の批判を払拭するためではなく、好きなものを自分の手で映画化したかったというシンプルな理由だったようです。

新作を見て最初に感じたのは役者が地味なことでした。マリア(レイチェル・ゼグラー)、トニー(アンセル・エルゴート)、ベルナルド(デビッド・アルバレス)、アニータ(アリアナ・デボーズ)という主要4人のキャストは旧作のナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー、ジョージ・チャキリス、リタ・モレノに比べてスター性が欠けています。特にアルバレスはシャークスの集団の中にいると、埋もれてしまって目立ちません。

アルバレスはブロードウェーの「リトル・ダンサー」でトニー賞最優秀主演男優賞を史上最年少で受賞した後、一時期、舞台を離れ、別の仕事をしていたそうです。2018年にこの映画のオーディションでベルナルド役を獲得しました。歌と踊りの技術を買われたのでしょうが、「ウエスト・サイド物語」で鮮烈な印象を与えたチャキリスのように、映画1本の効果で長く人気を保つことはできないでしょう。

歌が吹き替えだった旧作のナタリー・ウッドのようなことはせず、レイチェル・ゼグラーは非常階段で歌う「トゥナイト」など自分の歌声を聴かせます。しかし、ドラマ部分の演技に関してはナタリー・ウッドの方が優れていたように感じました。

こうした役者の弱さを除けば、旧作をアップデートした映画としては大成功の部類に入ると思います。マリアとトニーがダンスパーティーでお互いに一目惚れするシーンは旧作では周囲を暗くして2人を目立たせましたが、スピルバーグはそれをやらずに目立たせています。ドラマティックで運命的な出会いと悲劇的な結末が、今回も多くの観客を引きつける要素になっているのでしょう。

尊敬するのはリタ・モレノの存在そのもので、90歳なのに背筋は真っ直ぐで歌も歌っています。製作総指揮も務めたモレノには特別賞をあげたいくらいです。

「前科者」

香川まさひと、月島冬二原作のコミックを「あゝ、荒野」の岸善幸監督が映画化。WOWOWの連続ドラマ6話を受けての劇場版という形になります。といっても、ドラマを見ていなくても分かる話になっていて、少し分かりにくいのは石橋静河の役柄だけでしょう。

ドラマ版で保護司の主人公・阿川佳代(有村架純)が初めて担当したのが石橋静河演じる斉藤みどりで、2人は保護司と前科者の関係を越えて友情を育んでいきました。阿川が今回担当するのは殺人で服役し仮釈放された工藤誠(森田剛)。工藤は半年間の保護観察期間を終えようとしていたところで、所在不明となり、2件の殺人と1件の殺人未遂の容疑がかけられます。同時に語られるのは阿川が保護司を目指すきっかけになった過去の事件で、その事件に関係する幼なじみの刑事・滝本(磯村勇斗)が工藤を追い、阿川と再会します。

工藤の生い立ちは父親(リリー・フランキー)がDV男だったために不幸なものでした。幼い兄弟2人を連れて逃げていた母親は父親から殺害され、工藤は弟と一緒に養護施設に入ります。そこでいじめに遭って耳が不自由になり、殺人を犯してしまったのもいじめが原因でした。残念なのはこうした設定と事件の背景に新鮮味がないことで、何かオリジナルな要素を加えたかったところです。

それでも森田剛の演技のリアルさはキャラクターに深い奥行きを与えていますし、長い髪を縛り眼鏡を掛けた有村架純と、ケバい衣装の石橋静河という対照的な2人の演技も充実しています。工藤の行方が分からなくなったことに落胆した阿川に対して、みどりが「前科者に必要なのは佳代ちゃんのような弱さを持つ人間だよ」と訥々と語る場面には胸を打たれました。

「こんにちは、私のお母さん」

中国で大ヒットしたコメディ。母と娘の関係をタイムスリップを絡めて描いています。途中までベタな展開だなと思って見ていましたが、最後で意外な事実が明らかになり、感動的な話になります。ただ、この展開、タイムトラベルに限らず、過去にいくつもあったようなパターンではありますね。それでも大ヒットしたのは主演女優の人気と好感度の高さと、いつの時代にも通じる普遍的な話になっているからでしょう。

2001年、高校3年生のジア・シャオリン(ジア・リン)は親戚を集めた大学の合格祝いの席で合格通知を偽造していたことが発覚し、母親ホワンイン(リウ・ジア)を悲しませる。「今まで喜ばせてくれたことがない」と言う母と自転車の2人則で帰る途中、車にはねられた。気がつくと、シャオリンにけがはなかったが、母は意識なく横たわっていた。母のそばで眠ってしまったシャオリンが目覚めると、そこは1981年の世界だった。なぜか空から落ちたシャオリンの下には若い頃の母(チャン・シャオフェイ)がいた。シャオリンは母に幸せになってもらおうと、父親とは違う金持ちの男と結婚させようと画策する。

監督・脚本・主演のジア・リンは今年40歳になる太めの喜劇女優。女優というより女芸人と言う方がぴったりな感じですが、実際、スタートは中央戯劇学院の相声(日本の漫才に当たる)科で、その後はテレビと舞台を中心に活躍してきたとのこと。IMDbによると、映画出演は本作を含めて8本。日本では一昨年公開されたチャン・イーモウ製作総指揮の5話のオムニバス「愛しの故郷(ふるさと)」にも出ていたようですが、未見です。

「こんにちは、私のお母さん」の物語はジア・リンが中央戯劇学院に合格後1カ月で亡くなった母親をモデルにしているそうです。

※ここから追記。
この映画の終盤と同じパターンの話をふと思い出した。「いま、会いにゆきます」だ。別の視点での語り直しがあり、その語りの人物はすべてを知っていたというパターン。愛情あふれるシーンということでも共通している。「こんにちは、私のお母さん」でのタイムスリップには2種類あって、主人公の方は良いのだが、もう一人の方は都合の良いタムスリップの仕方だなと思う。

「HOMESTAY(ホームステイ)」

amazonオリジナル映画。10日から配信が始まりました。原恵一監督のアニメ「カラフル」(2010年)と同じ森絵都の原作を「PARKS パークス」などの瀬田なつき監督が映画化。なにわ男子の長尾謙杜、山田杏奈主演で青春映画の佳作に仕上がっています。

山田杏奈を目当てに見たんですが、amazonのレビューを見ると、「長尾くんが出てるから見たら、とても良かった」という投稿が多いです。

瀬田監督は前作「ジオラマボーイ パノラマガール」でも山田杏奈を主演にしており、お気に入りの女優なのでしょう。