2022/02/20(日)「さがす」ほか(2月第3週のレビュー)

「さがす」は「岬の兄妹」(2019年公開、キネマ旬報ベストテン12位)で注目を集めた片山慎三監督の長編第2作。商業映画としては初の監督作になります。

大阪の西成区で暮らす父と中学生の娘。父は「指名手配中の犯人見たんや。捕まえたら300万円もらえる」と言ったまま姿を消す。帰ってこない父親を娘は捜し始め、日雇い現場に父の名前があることが分かる。現場を訪れた娘が見たのは父親と同じ名前を名乗る見知らぬ若者だった。その男は父親が言っていた指名手配の連続殺人犯らしかった。

こうした序盤のストーリーからは予想できない展開をする映画で、第2部で3カ月前、第3部で13カ月前の出来事が語られていきます。当初は「父親を捜していた娘が殺人犯に捕らわれてしまう」という話だったそうですが、「もっと予想外な展開にしたい」との議論から現在の形に変わったとのこと。脚本は片山監督と「まともじゃないのは君も一緒」「ボクたちはみんな大人になれなかった」の高田亮、「デイアンドナイト」「明け方の若者たち」の小寺和久の共同。

父親を演じるのは佐藤二朗、娘を伊東蒼、指名手配犯を清水尋也というキャスティング。中でも伊東蒼がすごすぎます。佐藤二朗が「怪物級」と言い、片山監督が「天才」と絶賛するのが少しも誇張ではないと思える演技を見せつけています。

万引き犯の疑いをかけられて事故死する中学生を演じた「空白」や、ちょい役で出演した朝ドラ「おかえりモネ」でも印象に残る演技でしたが、今回は映画を背負った見事な演技と言えるでしょう。冒頭、商店街をひた走る場面から今年17歳とは思えない度胸と自信とリアルなたたずまいが素晴らしく、将来大女優の逸材と思えました。

話自体はミステリ慣れした作りではありませんが、笑いとサスペンス、猟奇的犯罪が同居するタッチに面白さがあります。とぼけているようで真っ当なラストの処理などその代表でしょう。片山監督が師事したポン・ジュノ監督の影響も一部あるのかもしれません。同時にリアルな貧困を描いた「岬の兄妹」と同様に日本の底辺社会の現状を背景にした作品になっています。

「ライダーズ・オブ・ジャスティス」

マッツ・ミケルセン主演のデンマーク製アクション映画。列車事故で妻を亡くした主人公の職業軍人マークスが事故の真相を聞き、事故を仕組んだ犯罪組織ライダーズ・オブ・ジャスティスへの復讐を図る、というストーリー。

事故の真相を調べたのは列車に同乗し、主人公の妻に席を譲って命拾いした数学者オットーで、ハッキングに詳しい仲間たちとマークス宅を訪れ、復讐に協力します。アクションが主眼というよりどこか欠陥をかかえた人たちが集まってコミュニティーを形成していく描写が心地良く、ラストも現実的ではありませんが、ほっこりした気持ちになる映画でした。

マークスの娘が自転車を盗まれるのが話の発端になり、さまざまな出来事が現在につながってくるという寓話的な物語になっています。監督はアナス・トーマス・イエンセン。

「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」

雑誌形式で綴る3話のオムニバスにエンドノートが付く構成。作りは面白いですし、出演者もベニチオ・デル・トロ、エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントン、フランシス・マクドーマンド、クリストフ・ヴァルツ、ティモシー・シャラメ、シアーシャ・ローナン、エリザベス・モスなどめちゃくちゃ豪華です。

クスクス笑える話ではありますが、そんなに評価するほどの作品とは思えませんでした。IMDb7.3、メタスコア74点、ロッテントマト74%と、アメリカの評価を見てもウェス・アンダーソンの映画としては高くない水準にとどまっています。レア・セドゥのファンは必見でしょうけど。

「悪魔のいけにえ レザーフェイス・リターンズ」

18日からNetflixで配信されています。トビー・フーパー監督の傑作「悪魔のいけにえ」(1974年)で唯一生き残った女性サリー・ハーデスティが登場し、40年以上もレザーフェイスを追っているという2018年版「ハロウィン」を真似たような作り。ハリウッド版「ゴジラ」シリーズのレジェンダリー制作だったので少しだけ期待しましたが、やっぱりと言うべきか、レザーフェイスが無差別殺人を繰り返すだけの普通(以下?)のスプラッターでした。

サリーの役回りも「ハロウィン」のジェイミー・リー・カーティスほどの重みはありません。バリバリバリと音を響かせながらチェーンソーで人を殺す残虐場面が楽しめる人向けで、IMDb5.3、メタスコア36点、ロッテントマト32%と散々な評価なのも納得。

フーパー版でサリーを演じたマリリン・バーンズは2014年に亡くなっていて、今回演じているのは別の女優です。