2022/06/05(日)「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」ほか(6月第1週のレビュー)
1979年に放送された「機動戦士ガンダム」第15話の同名エピソードの映画化。ククルス・ドアンは元ジオン軍の兵士で、ある島に戦争孤児たちと暮らしています。そこに残置諜者掃討の任務を受けたアムロたちがやって来る、という話。
テレビ版でドアンが操るモビルスーツの「ドアン専用ザク」は「頭部が通常のザクとはバランスが異なり、ガンダムファンの中で“作画崩壊”として語り継がれているのは有名」なのだそうです。ファーストガンダムでキャラクターデザインと作画監督を務めた安彦良和が今回の映画化を意図したのはそれが大きな理由とのこと。
テレビ版の20分余りの話を109分にするためにテレビでは4人だった子供を20人に増やし、島での生活を描いていますが、間延びして不要と思える部分が少なからずありました。他のエピソードを組み合わせて話を立体的に膨らませた方が良かったのでしょうが、元々がガンダムの本筋からは独立した話なので難しいところです。
テレビ版とは43年の開きがありますから、声優はアムロ・レイ役の古谷徹など一部を除いて旧作とは異なる声になっています(当時と同じ声を演じているのは凄いことです)。戦闘シーンはさすがにテレビ版よりはるかに良い出来ですが、映画全体の作りは新しくはなく、むしろ古さを感じるのが残念なところ。そのあたり、斬新な傑作「閃光のハサウェイ」とは大いに異なります。
「閃光のハサウェイ」は昨年6月の劇場公開後4カ月で配信(しかも見放題)が始まりましたから、これも早そうです。ガンダムの熱烈なファンではない人は配信を待っても良いかもしれません。
なお、ガンダムを製作してきたサンライズ(ファーストガンダムの頃は日本サンライズ)は今年4月1日にバンダイナムコフィルムワークスに商号変更し、「サンライズ」は同社のブランドとなっています。
「犬王」
「夜は短し歩けよ乙女」「きみと、波にのれたら」の湯浅政明監督作品で、古川日出男の原作「平家物語 犬王の巻」を“狂騒のミュージカル”としてアニメ化。脚本を野木亜紀子、キャラクター原案を松本大洋、音楽は大友良英というスタッフで、犬王の声を人気バンド「女王蜂」ボーカルのアヴちゃん、相棒となる琵琶法師・友魚(ともな)を森山未來が演じています。室町時代、猿楽能の一派、比叡座に生まれた犬王は生まれつき全身に障害を持ち、異形の容貌を隠すため、ひょうたんの面を身につけている。友魚は壇ノ浦で三種の神器の剣を見つけて引き揚げたことから、剣の呪いで父親は死亡、友魚は失明する。都に出た友魚は琵琶法師となって犬王と出会い、友魚の奏でる琵琶に合わせて犬王は歌う。歌うたびに犬王の障害は一つ一つ消え、本来の体を取り戻していく。
この犬王の設定は手塚治虫「どろろ」の百鬼丸とよく似ています。犬王の体が異形となった原因は父親が猿楽の道を究めるため、母親の胎内にいた犬王の体をいけにえとしたためで、百鬼丸と同じです。
湯浅監督独特のグリグリ動く絵と歌のシーンに躍動感があり、はまる人は徹底的にはまるようですが、僕はそれほどでもありませんでした。
「リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス」
パーキンソン病で引退した歌手ロンシュタットの生い立ちから綴るドキュメンタリー。僕は「悪いあなた」「イッツ・ソー・イージー」「ブルー・バイユー」などの有名曲を知っているぐらいで特にロンシュタットのファンではありませんでした。なので、何でも歌えた歌手だったことが驚きでした。後年にはスペイン語で歌ってメキシコで活躍し、オペラまで歌ってます。映画はそうしたロンシュタットの半生をジャクソン・ブラウン、エミルー・ハリス、ドリー・パートン、ボニー・レイット、ライ・クーダー、ドン・ヘンリーなどのミュージシャンと音楽通の映画監督キャメロン・クロウのインタビューで浮き彫りにしていきます。
ラストには2019年現在のロンシュタットが姿を見せますが、親族2人と座って歌いながら、手が小刻みに震えていて病気の影響をうかがわせます(この時、72歳ぐらい)。監督は「ラヴレース」などのロブ・エプスタインとジェフリー・フリードマン。IMDb8.0、メタスコア77点、ロッテントマト89%。