2022/06/12(日)「マイスモールランド」ほか(6月第2週のレビュー)

「マイスモールランド」は埼玉県川口市在住のクルド人一家の苦境を描く物語。

17歳のサーリャ(嵐莉菜)は幼い頃、クルド人の家族と共に生活していた地を逃れて来日。父マズルム(アラシ・カーフィザデー)、妹アーリン(リリ・カーフィザデー)、弟ロビン(リオン・カーフィザデー)と4人で暮らし、埼玉の高校に通っている。クルド人の誇りを失わない父と違い、サーリャたちは日本の同世代の少年少女と同様に育っている。サーリャは進学のため東京のコンビニでアルバイトを始め、東京の高校に通う聡太(奥平大兼)と出会う。ある日、サーリャの家族全員に難民申請不認定の知らせが入った。在留資格を失い、「仮放免」の身分になると、居住区から出られず、働くこともできない。働いていたマズルムは警察の職質を受け、出入国在留管理局(入管)の施設に収容されてしまう。

昨年公開されたドキュメンタリー「東京クルド」(日向史有監督、キネマ旬報文化映画ベストテン7位)はクルド人の青年2人を5年間にわたって取材し、サーリャの一家と同じ苦境を描いていました。川和田恵真監督は日本国内に2000人以上のクルド人がいることを知り、2017年頃から取材を進めたそうです。映画で描かれたことは事実に基づいていて、本来ならクルド人をキャスティングしたいところですが、映画に出れば、入管に知られ、不利益を被る恐れがあることから出来なかったとのこと。

在留資格がないと働けませんし、大学や専門学校に進学したくても門前払いされます。働かなければ生きていけませんが、入管は関知しません。在住クルド人の多くは、身に危険が及ぶ恐れがあるため故郷には帰れません。日本のシステムは難民を受け入れず、追い返すという非人道的政策(敵対的措置)を取っているわけです。

映画はサーリャの青春映画としての側面を入れつつ、在住クルド人の現状を描いています。人を苦しめる制度は間違っていますし、それを放置しておくことも間違っています。「東京クルド」同様にそうしたことを痛感させる映画でした。日本が世界第5位の移民大国であることを知らず、単一民族国家だと時代遅れの勘違いをしている人こそ必見の作品です。

なお、川和田監督の両親は日本人とイギリス人。主演の嵐莉菜は母親が日本人とドイツ人のハーフ、父親はイラン、イラク、ロシアのミックス(パンフレットの表現)。この父親を含め映画に出てきた4人の家族はそろってオーディションに合格した本当の家族だそうです(父親は日本国籍取得済み)。

「ハード・ヒット 発信制限」

韓国製のサスペンス・アクションで、スペイン映画「暴走車 ランナウェイ・カー」(2015年)のリメイク。

銀行支店長のソンギュ(チョ・ウジン)の車に爆弾を仕掛けたと、犯人から電話がかかってくる。爆弾は車から降りると、爆発する仕掛けで地雷の上に座っているようなもの。後部座席には学校へ行くために長男と長女が乗っていた。同じ爆弾が仕掛けられた同僚の車が目の前で爆発し、飛んできた破片で長男は足に大けがをしてしまう。病院に行くには犯人の要求をのみ、大金を支払わなくてはならない。ソンギュは必至に金を工面するが、というストーリー。

途中まで快調だったんですが、終盤、犯人とその動機が分かったところで急速にダメになってしまった印象。ベタベタの情緒的雰囲気が起きてくるためで、個人的にはドライでクールな犯人との知恵比べ的展開の方が好みです。犯行理由は納得できるもので、これで同僚の車が爆発さえしなければ、犯人の方に分があったんですけどね。

IMDb6.1、ロッテントマト100%(ただし評価は6人だけ。ユーザーは70%)、メタスコアなし。元になった「暴走車 ランナウェイ・カー」はIMDb6.6、ロッテントマト100%(ユーザー57%)。

「メイド・イン・バングラデシュ」

バングラデシュの実話に基づくドラマ。縫製工場で働く主人公シム(リキタ・ナンディニ・シム)は労働者権利団体のナシマ・アパ(シャハナ・ゴスワミ)と出会ったことから労働組合の結成に動き始める。仲間たちと労働法を学び、署名を集め、組合結成に向けて奔走するが、工場幹部から脅しを受け、夫や同僚からは反対されるなど、さまざまな困難が待ち受けていた、という展開。

マーティン・リット監督「ノーマ・レイ」(1979年)を思わせる内容ですが、主人公の困難は、ノーマ・レイよりはるかに大きく、貧困や男尊女卑、行政の腐敗など解決すべき問題が多々あります。監督はバングラデシュ出身のルバイヤット・ホセインで、これが日本初公開作。労働問題を過不足なく描き、佳作に仕上げています。IMDb7.0、ロッテントマト100%(ユーザー88%)。