2023/03/13(月)「オットーという男」ほか(3月第2週のレビュー)

 「オットーという男」はスウェーデン映画「幸せなひとりぼっち」(2015年、ハンネス・ホルム監督、フレドリック・バックマン原作)のリメイク。主演のトム・ハンクスがオリジナルに惚れ込んで企画したとか。「最良のリメイク」と評したレビューがありましたが、僕には「凡庸なリメイク」としか思えませんでした。オリジナルより優れた部分は見当たらず、むしろ、主人公の亡くなった妻の描写など劣った部分が目に付きます。

 郊外の住宅地に一人で住むオットー・アンダーソン(トム・ハンクス)は近所のゴミの出し方や駐車の仕方を監視し、ルールを守らない人には注意するなど面倒で近寄りがたい男。最愛の妻に先立たれ、仕事も失ったオットーは自殺しようとするが、向かいの家に引っ越してきたマリソル(マリアナ・トレビーニョ)らメキシコ人一家の邪魔が入ってなかなか実行できない。この一家との交流でオットーの人生は一変していく。

 オリジナルはアカデミー外国語映画賞にノミネートされました。個人的に最もグッときたのは若い頃の妻ソーニャ(イーダ・エングウォル)の姿で、不器用な主人公オーヴェを理解し、温かく包み込むような描写に実に心打たれました。ソーニャは事故で車椅子生活になりますが、高校教師として問題行動の多い生徒のクラスを受け持ち、生徒たちから深い信頼を得ます。ソーニャが素晴らしい人柄だっったからこそ、主人公の喪失感の大きさに説得力があるわけです。

 「オットーという男」で妻を演じるレイチェル・ケラーはオリジナルのエングウォルほど目立たない上に、脚本・演出が平凡なので割を食っています。若い頃のオットーを演じるのはトム・ハンクスの息子トルーマン・ハンクス。公式サイトには「これが映画デビュー」とありますが、IMDbを検索すると、同じくトム・ハンクス主演の「この茫漠たる荒野で」(2020年、ポール・グリーングラス監督、Netflix配信)にも出ているようです。

 昨年のアカデミー作品賞「コーダ あいのうた」の例もありますから、リメイクがすべてダメなわけではありませんが、今回はオリジナルの方が良いと思いました。マーク・フォースター監督、2時間6分。
IMDb7.5、メタスコア51点、ロッテントマト69%。
「幸せなひとりぼっち」の方はIMDb7.7、メタスコア70点、ロッテントマト91%。amazonプライムビデオが配信しています。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午前)

「すべてうまくいきますように」

 安楽死を望む父親をめぐる姉妹の物語をフランソワ・オゾン監督が映画化。姉役のソフィー・マルソー(今年56歳)はきれいに年齢を重ねているなあと思いましたが、オゾン監督作にしてはそんなに感心するところもなく、普通の出来だと思いました。

 フランスでは安楽死が法律違反となるため、安楽死をサポートするスイスの協会に依頼するわけですが、救急車でスイスへ行くのも一苦労。救命士たちも安楽死に関わると、罰せられるからです。映画はそうした安楽死をめぐる諸問題をユーモアを交えて描いています。

 エンドクレジットを見て、スイスの協会の老婦人がハンナ・シグラであることを知り、びっくり。「マリア・ブラウンの結婚」(1979年、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督)の印象が強く、おばあさんのイメージはないんですよね。今年79歳なので、おばあさんなのが当然なんですけど。1時間53分。
IMDb6.8、メタスコア67点、ロッテントマト93%。
▼観客2人(公開5日目の午後)