2023/07/09(日)「1秒先の彼」ほか(7月第2週のレビュー)
ただ、男女を入れ替えたことで、(何しろ清原果耶が演じているので)変態ストーカー野郎になるはずはなく、けなげに一途に「1秒先の彼」を思い続ける素敵な彼女になっています。岡田将生もコメディー演技に冴えがあり、前半が面白いのは彼の好演のお陰です。京都を舞台にしたのも実に効果的(不意に流れる「なのにあなたは京都へゆくの」が同世代には刺さります)。僕はオリジナルより好きです。
クドカンの脚本はコメディのツボを外さず、山下敦弘監督の演出も上々でした。惜しいのはネタを知っていると、後半が長く感じること。オリジナルを見ていない人はどう感じるのでしょうね。
2月に亡くなった笑福亭笑瓶さんが本人役(ラジオで声だけ)と写真店の店主役の2役で出演。プロフィールを見ると、ほかに映画出演作は見当たらず(笑福亭鶴瓶のドキュメンタリー「バケモン」には出ているそうです)、劇映画初出演作が遺作になったようです。片山友希はメークがすごくて気づきませんでした。岡田将生の子供時代を演じるのは「怪物」の柊木陽太。1時間59分。
▼観客6人(公開初日の午前)
「Pearl パール」
ポルノ映画の撮影スタッフが農場でシリアルキラーに襲われるホラー「X エックス」(2022年)の前日談。前作より61年前の1918年を舞台に最高齢の殺人鬼パールの若い頃を描いています。パールがなぜ殺人鬼になったのかが描かれるわけですが、小動物の惨殺から人間へという過程は珍しくなく、しかも終盤、パール自身の口で語られるのが残念。ここはやっぱり絵で見せるべきでしょう。
主演は前作に続いて、ミア・ゴス。ミュージカルに憧れて農場から出て行きたいパールとそれを許さない母親(タンディ・ライト)の確執は新鮮味に欠けますが、ゴス自身は好演しています。ゴスは今回、主演だけでなく、脚本(タイ・ウエスト監督と共同)と製作総指揮も務めています。
3部作(Xトリロジー)の2作目に当たり、3作目の「MaXXXine」も製作が進んでいるとのこと(今回は予告編なかったです)。「X エックス」の主人公の女優マキシーンの物語で、1980年代のロサンゼルスが舞台になるようです。1時間42分。
IMDb7.0、メタスコア76点、ロッテントマト92%。
▼観客13人(公開2日目の午後)
「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」
予備知識ほとんどなしの状態で見て、不登校の原因となっている主人公の妹の病気が何なのか分からず、ポカンとしました。帰宅してテレビアニメの第1話を見て「ああ、そういうことか」と納得しました。だからこれ、鴨志田一の原作か、テレビアニメ「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」(2018年、全13話)、それに続く劇場版「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」(2019年)を見ていないと、細部が分かりません。そういう意味では、シリーズを知らない一般観客に不親切な作りになっています。「名探偵コナン」のように物語のポイントを冒頭で描くような工夫をすると、一般にも広がりが出ると思うんですけどね。平日ではありましたが、観客1人だったのはそういう作りが影響しているのでしょう。
Wikipediaによると、テレビアニメが描いたのは原作の1巻から6巻の序盤まで、「ゆめみる少女の夢を見ない」は6、7巻、今回が8巻を描いています。映画の最後に予告があり、第9巻「青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない」の映画化が進んでいて、冬公開の予定だそうです。
今回の話は妹が県立高校に行くか、通信制高校に行くかの悩みと選択を描く内容。青春SFだろうというこちらの予想は外れてSF的要素は希薄で、これだけ見ると、なんてことはない話でした。
KADOKAWA製作であることと、上映時間の短さを考えると、たぶんこのシリーズ、ファンを対象に原作の販売促進とDVD・ブルーレイ・配信で稼げばいいという戦略なのかもしれません。ニッチな作り方。ただ、「シュレーディンガーの猫」や「ラプラスの悪魔」など物理学の概念をヒントにした「思春期症候群」(この作品で描かれている架空のオカルト的現象)という題材は面白いので、映画の作りを初心者にやさしいものにした方が良いと思います。増井壮一監督、1時間14分。
▼観客1人(公開7日目の午前)
「aftersun アフターサン」
トルコのリゾート地にやってきた11歳のソフィ(フランキー・コリオ)と31歳の父親カラム(ポール・メスカル)のひと夏を描いたドラマ。ポール・メスカルはアカデミー主演男優賞候補となりました。ボーッと見ていると、父娘のバカンスを描いただけの作品に思えてしまいますが、大人になった娘が当時を回想していることが分かってきます。両親は離婚したばかり。父親は精神的に不安定で、娘に背中を向けて泣くシーンがあったりします。空港で母親の元へ帰る娘を見送って帰る父親の背中が悲しいです。
ただ、子供の頃は分からなかったが、大人になってみると、父親についてよく分かるというあたりをもっと明確に描いた方が良かったのではないかと思いました。シャーロット・ウェルズ監督の体験に基づいた作品とのこと。1時間41分。
IMDb7.7、メタスコア95点、ロッテントマト96%。
▼観客8人(公開5日目の午後)
「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 決戦」
話の内容は簡単で、喧嘩ばかり。これなら「ハロウィン編 運命」と分ける必要はなく、1本で描けたでしょう。前編・後編に分けたのは興行上の理由でしかないことは明白。永山絢斗は重要な役なので、出演場面を削除して編集することは不可能です。公開して何ら問題ないと思います。英勉監督、1時間36分。
▼観客多数(公開6日目の午後)
「若き仕立屋の恋 Long Version」
3編のオムニバス映画「愛の神、エロス」(2004年)でウォン・カーウァイが監督した「若き仕立屋の恋」の拡張版。U-NEXTで見ました。1960年代の香港が舞台。仕立屋見習いの青年チャン(チャン・チェン)は高級娼婦ホア(コン・リー)と出会う。ホアに魅了されたチャンはホアが他の男たちのために着飾る服を何年にもわたり作り続ける。やがて時が経ち、ホアのかつての精彩は衰え、すべてを失う。
年上の女性に憧れるのは若い男にはありがち。ウォン・カーウァイらしいというか、直接的なエロス描写はないにもかかわらず官能的です。56分。
IMDb7.5、メタスコアとロッテントマトはなし。
「愛の神、エロス」の方はIMDb5.9、メタスコア51点、ロッテントマト34%とさんざんな評価です。他の2編は「ペンローズの悩み」(スティーブン・ソダーバーグ監督)と「危険な道筋」(ミケランジェロ・アントニオーニ監督)。
「コード CODE 悪魔の契約」
日テレの日曜ドラマ「CODE 願いの代償」の1回目を見て、この設定のドラマがオリジナルならなかなかすごいと思ったんですが、調べたら、元ネタは台湾のドラマ「コード CODE 悪魔の契約」(2019年、英題CODE2、全10話)でした。さらにそのドラマの元ネタとなったのが2016年の同名の単発ドラマ(英題CODE)。連続ドラマの主人公は日テレ版と同じく刑事ですが、単発の方は銀行員。願いを叶えるアプリを使って大金を得る代わりに指定された任務をこなす必要がある、というプロットは共通しています。悪い出来ではありませんが、結局、このアプリが何なのかは分からず、そこが大きく減点対象です。連続ドラマ版は話を単発より広げた感じですけど、どういう決着を付けるんでしょう?
どちらもU-NEXTで有料配信しています。ジアン・ダーウェイ監督、1時間40分。