2023/08/06(日)「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」ほか(8月第1週のレビュー)

「キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩」は同じアパートに住んでいたウクライナ人、ユダヤ人、ポーランド人の3家族が支配者に翻弄される姿を描いた物語。ソ連→ドイツ→ソ連と支配者は変わりますが、その時々に民衆は苦しめられます。他国に蹂躙されてきたウクライナのこれまでを3家族の苦難に象徴させた映画だと思います。

 1939年1月、ウクライナのイバノフランコフスク(当時はポーランド領スタニスワヴフ)でウクライナ、ユダヤ、ポーランドの3家族が同じ屋根の下で暮らすことになる。ウクライナ人の娘ヤロスラワ(ポリナ・グロモヴァ)が歌うウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」を通して互いに交流が始まるが、第2次大戦が勃発。ナチス・ドイツやソ連によって占領され、ポーランド人とユダヤ人の両親たちは連行される。ウクライナ人で歌の先生でもあるソフィア(ヤナ・コロリョーヴァ)の夫ミハイロ(アンドリー・モストレーンコ)はウクライナ民族主義者組織のメンバーであったことからドイツ軍に処刑される。ソフィアはポーランド人の娘テレサ、ユダヤ人の娘ディナを、自分の娘ヤロスラワと分け隔てなく守り、生き抜くことを誓う。

 物語は実話そのままではないようですが、脚本を書いたクセニア・ザスタフスカの祖母が体験したことをベースに実際の出来事を多く盛り込んだそうです。オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ監督はキーウ在住。撮影はロシアが侵攻する前の2019年から2020年にかけて行われたそうで、侵攻後の状況を反映したものではありませんが、監督を含めて多くの人たちはロシアの侵攻を予想していたとのこと。2時間2分。
IMDb8.1(アメリカでは映画祭での上映のみ)。
▼観客6人(公開7日目の午前)

「告白、あるいは完璧な弁護」

 意外な展開をする密室殺人ミステリー。もっとも、登場事物が少ないので意外性はそれほど高くなく、そこそこの出来に終わっています。

 IT企業社長ユ・ミンホ(ソ・ジソブ)の不倫相手キム・セヒが密室のホテルで殺された。容疑者となったミンホは潔白を主張し、敏腕弁護士ヤン・シネ(キム・ユンジン)に頼んで事件の真相を追う。ミンホは事件以前に起きたある交通事故がセヒの殺人に関係しているかもしれないと告白。事件の再検証が始まるが、目撃者の存在により、思わぬ方向へと進む。

 キム・セヒ役の女優がすごい美人だなと思ったら、ガールズグループAFTERSCHOOLのメンバー、ナナとのこと。K-POPにうといので知りませんでした。ユン・ジョンソク監督、1時間45分。
IMDb6.6(アメリカでは未公開)。
▼観客5人(公開5日目の午後)

「トランスフォーマー ビースト覚醒」

 シリーズ7作目。監督がマイケル・ベイからスティーブン・ケイブル・Jrに替わっても出来は大して変わらず。いや、序盤は期待させたんですが、その後失速します。子供向けを意識しているのかもしれませんが、話が簡単すぎてつまらないです。

 子供向けにするなら、子供を登場させた方が良いでしょう。シリーズ番外編の「バンブルビー」(2019年、トラヴィス・ナイト監督)が作品内容でも成功したのはティーンエイジャーを主人公(ヘイリー・スタインフェルド)にした青春ものに徹したからでしょう。もちろん、監督の手腕が高かったためでもありますが。2時間7分。
IMDb6.1、メタスコア42点、ロッテントマト52%。
▼観客多数(公開初日の午前)

「逃げきれた夢」

 北九州を舞台に定年間近の男が人間関係を見つめ直し、新たな一歩を踏み出す姿を描いたドラマ。俳優でもある二ノ宮隆太郎監督の商業映画デビュー作で、北九州出身の光石研が主演しています。

 北九州で定時制高校の教頭を務める末永周平(光石研)。元教え子の平賀南(吉本実憂)が働く定食屋で、周平は支払いを忘れてしまう。記憶が薄れていく症状に見舞われ、これまでのように生きられなくなってしまった。妻の彰子(坂井真紀)との仲は冷え切り、一人娘の由真(工藤遥)とも会話が進まない。周平はこれまでの人間関係を見つめ直そうとする。

 音楽もなく、ホン・サンス監督作品のような会話劇で話が進行します。そのためか未完成感は残るんですが、二ノ宮監督の話の作りと演出は悪くありません。同じく北九州出身という吉本実憂は憂いを含んだ表情が良いです。1時間36分。
▼観客7人(公開2日目の午後)