2023/09/17(日)「ミステリと言う勿れ」ほか(9月第3週のレビュー)

 「ミステリと言う勿れ」は田村由美原作のテレビドラマで取り上げられなかった「広島編」の映画化で、天然パーマの大学生・久能整(菅田将暉)が旧家の遺産相続争いに巻き込まれるミステリー。原作が面白いこともあるのでしょうが、最近の日本のミステリー映画ではよくできた部類の作品になっていると思いました。

 美術展のために広島を訪れた久能整は犬堂我路(永山瑛太)の知り合いという女子高生・狩集汐路(原菜乃華)からアルバイトを持ちかけられる。狩集家の莫大な遺産相続を巡るものだった。狩集家の遺産相続では毎回死人が出ており、汐路の父・弥(わたる=滝藤賢一)も8年前に他のきょうだい3人とともに自動車事故で死亡していた。 そして今回も相続候補の赤峰ゆら(柴咲コウ)が蔵に閉じ込められ、汐路を狙って植木鉢が落ちてくる。階段に油が塗られ、波々壁新音(ははかべねお=萩原利久)が滑り落ちるなど事件が頻発する。

 普段の舞台である東京を離れ、独立した作品なので犬堂我路の存在以外はドラマを見ていなくても分かる作りになっています。その我路を少しでも説明するため相沢友子の脚本は原作にはない我路と汐路の場面を冒頭に持ってきています。ほぼ原作に忠実な脚色で、演出もそれに沿ったものです。

 久能整は相変わらず“絶口調”。
「子供はバカじゃないです。自分が子供の頃バカでしたか?」
「証拠を出してみろとか言うのは、大抵犯人って僕は常々思っています」
「半分こして大きいほうをくれる人が優しいとは限らないです。そんなことどうでもいい人もいるし、罪悪感からする人も目的がある人もいる」
「“女の幸せ”とかにもだまされちゃダメです。それを言い出したのは多分おじさんだと思うから。女の人から出た言葉じゃきっとない。だから真に受けちゃダメです。女性をある型にはめるために編み出された呪文です」
などなど、どれも原作にあるセリフですが、共感する人は多いでしょう。こういうところがこのキャラクターとドラマ、原作の支持が大きい所以なのだと思います。

 原菜乃華は子役時代を含めてキャリアは長いですが、映画の中心にいて少しも不思議ではない演技力と魅力を見せています。原作の広島編には登場しない大隣署の伊藤沙莉、尾上松也、筒井道隆が最後に顔を見せるのはドラマファンへのサービスですね。相変わらず尾上松也がおかしかったです。このスタッフ、キャストで続編を(映画でもドラマでも)見たいです。松山博昭監督。2時間9分。

「グランツーリスモ」

 大ヒットしたドライビングシミュレーションゲーム「グランツーリスモ」のトッププレイヤーを本物のレースドライバーに育成するGTアカデミーの実話を映画化。ゲームプレイヤーを本物のレーサーにしようという発想が出てくるぐらい「グランツーリスモ」はよく出来たシミュレーションなのでしょうが、入り口はどうあれ、アカデミーに入った後は本物のレーサーになるための訓練を重ねることになり、これは本格的レース映画になってきます。

 ヤン(アーチー・マデクウィ)はグランツーリスモに夢中になり、父親(ジャイモン・フンスー)から「レーサーにでもなるつもりか」と呆れられ、サッカー選手を目指す弟からもバカにされていた。GTアカデミーを設立したダニー(オーランド・ブルーム)はグランツーリスモでトップの得点をたたき出したヤンに目を付け、アカデミーに誘う。指導するのは元レーサーのジャック・ソルター(デヴィッド・ハーバー)。ジャックはル・マン24時間レースでの事故でレーサーをやめた過去があった。ヤンは10人のアカデミー生の中でもトップに立ち、実際のレースに参加する。

 日産GT-Rニスモが何台も登場して競い合うアカデミーの描写はカーマニアにはたまらない描写。難コースで知られるドイツのニュルブルクリンクでヤンが観客席に飛び込む重大事故を起こし、失意からル・マンでの入賞を目指すというストーリーと、主人公たちが負け犬的立場にあることもスポ根ものの王道を行く展開となっています。

 「第9地区」(2009年)のニール・ブロムカンプ監督はスピーディーな演出とレース場面の迫力で手腕を発揮しています。ドラマにややコクが足りないと思える面はありますが、十分に楽しめる出来と思いました。アメリカの評論家の評価が高くないのは日産とプレイステーションのPR的側面があるからでしょうかね。2時間14分。
IMDb7.4、メタスコア48点、ロッテントマト64%。
▼観客3人(公開初日の午前)

「コンサート・フォー・ジョージ」

 ジョージ・ハリスン死去の1年後、2002年11月29日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開かれた追悼コンサートの模様を伝える映画。コンサートの企画はジョージの妻オリヴィアと息子のダニー。40年来の盟友だったエリック・クラプトンが主催し、音楽監督を務めたほか、出演して多くの曲を歌っています。ポール・マッカートニーとリンゴ・スターも登場するほか、ジョージゆかりのさまざまなアーティストが歌い、演奏してジョージを偲んでいます。

 僕はハリスンのファンではありませんでしたが、それでも「ギブ・ミー・ラブ」や「想い出のフォトグラフ」「ヒア・カムズ・ザ・サン」など耳になじんだ曲が多く、ファンならさらに楽しめるでしょう。デヴィッド・リーランド監督、1時間42分。
IMDb8.6、メタスコア82点、ロッテントマト75%(ユーザー)
▼観客3人(公開5日目の午後)

 今回公開されたのは高画質リマスター版。YouTubeには高画質版ではありませんが、フルサイズの映画がアップされています。
CONCERT FOR GEORGE Royal Albert Hall 2002

「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。」

 青柳碧人の原作を「銀魂」シリーズなどの福田雄一監督が橋本環奈主演で映画化したNetflixオリジナル作品。原作は赤ずきんを探偵役にしたミステリーのようで、第2作「赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。」も出ています。

 赤ずきんが森の中でシンデレラと出会う。2人は魔法使いの力を借りて美しいドレスを身にまとい、カボチャの馬車でお城の舞踏会に向かうが、その途中、男をはねてしまう。男は国一番の美容師ハンス(加治将樹)。頭に傷があり、馬車にはねられる前に死んでいたことが分かる。午前0時、舞踏会から急いで帰る途中、シンデレラのガラスの靴は城の階段で脱げてしまい、翌日、王子様がシンデレラの元を訪れる。赤ずきんは推理を働かせ、ハンスを殺した犯人を突き止める。

 福田監督なので緩いユーモアがあるのは当然で佐藤二朗、ムロツヨシらおなじみの面々も出ています。橋本環奈をはじめ新木優子、山本美月、桐谷美玲、夏菜、若月佑美ら美人女優をそろえたのも監督の趣味なのでしょう。映画com2.8、Filmarks3.0、IMDb5.2と評価はさんざんですが、テレビで気楽に見る分には良いと思います。英語タイトルは“Once Upon a Crime”。

「火の鳥 エデンの宙」

 手塚治虫「火の鳥 望郷編」のアニメ化でディズニープラスが13日から全4話を一挙配信しています。ラストを変えた「火の鳥 エデンの花」が11月3日から劇場公開されます。昨年の「四畳半タイムマシンブルース」も同じ方式でしたが、あの時は毎週1話の更新でした。一挙配信ならば、4話に分ける必要はなかったんじゃないでしょうかね。

 それはともかく、話は原作と少し変えてあります。宇宙船で地球から逃げたロミ(宮沢りえ)と恋人のジョージ(窪塚洋介)は辺境の惑星エデン17に降り立つ。この星は水が乏しく、井戸を掘っていたジョージは地震による事故で死亡。1人残されたロミは妊娠しており、やがて息子のカインが生まれる。ロミは将来、カインを1人にしてしまうことを避けるため、13年間のコールドスリープを決意。しかし、装置の故障で1300年も眠り続けてしまう。目覚めると、エデン17は地球人とは異なる者たちが巨大な町を築いていた。

 原作でのコールドスリープは20年で、目的はカインとの間に子供を作り、人を増やしていくためでした。ところが、生まれたのは男の子ばかり。ロミは再度、コールドスリープし、目覚めた後は自分の孫との間に子供を作ろうとする、という展開。近親婚を繰り返すわけで、そういう描写を避けるための変更なのでしょう。

 後半、ロミが望郷の念に駆られて地球に帰還するのは原作と同じ展開ですが、地球の状況などはアニメの方が詳しく描いています。破綻はありませんが、全体としては平凡な出来。変更したラストを見るためだけに劇場に行くかどうかは微妙なところです。監督は「ムタフカズ」(2018年)などの西見祥示郎。STUDIO4℃制作。
IMDb7.7。英語タイトルは“Phoenix: Eden17”。