2024/09/22(日)「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」ほか(9月第3週のレビュー)

 ちょっとしたきっかけでドラマ「東京ラブストーリー」(1991年)を見たら、1話で心を持って行かれました。鈴木保奈美がめちゃくちゃかわいいです。というか、赤名リカというキャラクターがとても魅力的です。坂元裕二の脚本は柴門ふみの原作コミックからリカを大きくフィーチャーしているそうで、Wikipediaには「リカの心情を丁寧に描くなど坂元や演出家による漫画原作からドラマとして再構築するための大胆な改変が大きなヒットに繋がった」とあります。

 リカは「誰に対してもフェアで自然体に物を言う」半面、真意が見えにくいところがあり、明るい言葉と振る舞いで本当の気持ちを覆い隠しているようにも見えます。複雑なキャラであり、かつ一途でけなげな面もあるのが最強です。

 Wikipediaには「月曜夜9時には繁華街から人影(特に20代のOL層)が消えるほどだった」と、かつての「君の名は」(1952年、ラジオドラマ放送時に銭湯から女性が消えた)みたいな書き方がしてあります。リカのキャラは男女を問わず、惹きつけられるものがあり、今さらながら大ブームになった理由を納得できました。33年前のドラマですが、基本的な人間関係とセリフは今も感情を揺らします。名作は普遍的なわけですね。

 リメイク版(2020年、脚本は北川亜矢子)も少し見ましたが、リカ(石橋静河)のキャラが分かりやすすぎました。同じ名前のキャラは登場するものの、別物と思った方が良いです。

「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」

 シリーズ第3弾は宮崎ロケ。青島海水浴場から始まってニシタチ、文化ストリート、県庁、シーガイア、宮交ボタニックガーデン青島などでアクションが展開されます。1作目(2021年)が抜群に面白かったのに対して、2作目「2ベイビー」(2023年)がそうでもなかったのは、まひろ(伊澤彩織)の格闘アクションが少なかったからでした。今回は存分にあり、格闘場面に関してはシリーズ一番の出来と言って良いと思います。

 クライマックス、最強の殺し屋・冬村かえで(池松壮亮)との死闘は見応え十分で、かつてのクンフーアクション、特にブルース・リーのアクション映画を彷彿させました。ここが素晴らしいのはエモーションが乗っかっているからで、銃→ナイフ→素手の格闘で冬村にボッコボコにやられたまひろを助けるため、ちさと(高石あかり)がまひろに向けられたナイフを素手でつかんで反撃し、頭突きで双方とも気絶。血だらけのまひろが立ち上がり、目を覚ました冬村との死闘を繰り広げていく、と展開していきます。パンフレットによると、この死闘場面は旧内海オートキャンプ場で撮影したそうです。

 アクション監督は今回も園村健介。スピード感と痛みを感じさせる難度の高いアクションを演出しています。伊澤彩織がすごいのは言うまでもありませんが、池松壮亮もすごいです。「シン・仮面ライダー」(2023年)はあるものの、本格的な格闘アクションはたぶん初めてだと思いますが、今後もアクションで十分やっていけると思わせました。

 池松壮亮とともに、地元の殺し屋・入鹿みなみを演じる前田敦子という実績のある役者2人をキャスティングしたことで、映画に格と幅が出ました。今回の成功要因はこの2人を出したことにもあるでしょう。

 伊澤彩織はインタビューで池松壮亮について「池松さんに敵う俳優はいないです」と語っています。「ラストファイトでかえでがまひろに馬乗りになるところで、対面してる池松さんの表情を見て『本当に殺される』と思ったんです。顔を真っ赤にしながら、執念強い眼差しで。人間ってこんな決死の表示ができるのかと思いました。あの爆発力は到底敵う相手じゃない」。サイコチックなところがある冬村かえでを池松壮亮はリアルに演じきっています。

 高石あかりは伊澤彩織ほどの格闘アクションはできませんが、1作目に比べると演技面の成長が目覚ましいです。多数のドラマ・映画で経験を積んでいるので伊澤彩織を演技面でリードする形になっています(だからこそ、いいコンビになってきたなと思います)。園村健介監督・阪元裕吾脚本の「ゴーストキラー」に単独主演するとのこと。1作目のクライマックスで伊澤彩織と死闘を見せた三元雅芸が出演しており、これも楽しみです。

 阪元裕吾監督の演出は時折緩い場面を入れるのが持ち味なんでしょうが、脚本をもう少し練ってほしいところ。かつての香港映画同様に脚本に弱さを感じます。面白いストーリーに見応えのあるアクションを組み合わせた映画にするのが理想で、それにはアクションに詳しい脚本家と共同作業しても良いのではないかと思います。

 放送中のドラマ「ベイビーわるきゅーれ エブリディ!」(テレ東)はちさととまひろの緩い日常を堪能できますが、アクションには映画ほど力を入れていません。毎週のドラマで過激なアクションを入れるのは無理なのでしょう。

 パフレットはCDが付属して1300円。主題歌の女王蜂「狂詩曲」を繰り返し聴いてます。
▼観客15人ぐらい(公開初日の午後)1時間52分。

「ボストン1947」

 1947年のボストンマラソンで朝鮮のソ・ユンボク(イム・シワン)が優勝した実話を基にした韓国映画。ユンボクを指導したのがベルリン五輪マラソン金メダルのソン・キジョン(ハ・ジョンウ)と同3位のナム・スンニョン(ペ・ソウ)。日本統治時代だったため2人は日本選手として五輪に出場し、獲得したメダルも日本のメダルとして記録されました。

 朝鮮が次の五輪に出るためには国際大会での実績が必要なため2人はユンボクを朝鮮代表としてボストンマラソンに出場させようとしますが、さまざまな困難を乗り越えなければならなかった、というストーリー。愛国心高揚タッチが少し気になりますし、スポーツものとして特に優れた部分も見当たりませんが、笑いと感動の物語としてのまとめ方はまずまずでした。

 気になったのはクライマックス、朝鮮の人たちがボストンマラソンのラジオ中継に聴き入るシーン。「はて?」、当時、通信衛星はもちろんありませんし、どうやって中継できたんでしょう? 短波ラジオならアメリカから朝鮮まで電波が届く可能性はありますが、スポーツ大会の中継を短波放送でやったんですかね?

 また、大会出場のため朝鮮の人たちがカンパするシーンがありますが、Wikipediaには、参加費用は「在韓米軍の寄付により賄われた」とあります。参加の障害にしかなっていない映画での在韓米軍の描き方とは随分違います。ユンボクが着るユニフォームも、映画のように太極旗だけでなく、星条旗も付けていたそうです。こういう実話を基にした映画でフィクションを入れるのは普通ではありますけど、都合の良い改変に思えました。

 ユンボクと仲良くなる食堂の女の子がちょっとかわいいなと思ったら、パク・ウンビンでした。監督は「シュリ」(1999年)「ブラザーフッド」(2004年)などのカン・ジェギュ。
IMDb7.0、ロッテントマト80%(アメリカでは限定公開)。
▼観客2人(公開5日目の午後)1時間48分。

「ヒットマン」

 偽殺し屋のおとり捜査官ゲイリー・ジョンソンは実在しましたが、映画はそれをざっくりと基にしたフィクション。この映画に対する一般観客の評価があまり芳しくないのは全面的に肯定できない方向に物語が向かうからでしょう。観客の多くは道徳的であるわけです。

 ニューオーリンズのゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は大学で心理学と哲学を教えながら、地元警察に技術スタッフとして協力している。おとり捜査で殺し屋になるはずの警官が職務停止となり、ゲイリーが代役を務めることになる。これを予想以上にうまくやりおおせたゲイリーは依頼人の好みに合わせたプロの殺し屋になりきり、殺人の証拠を集めて依頼人を次々に逮捕へと導く。ある日、夫から暴力を振るわれているマディソン(アドリア・アルホナ)が夫の殺害を依頼しにくる。殺し屋ロンとして事情を聞いたゲイリーは彼女を見逃してしまう。

 クスクス笑って見ていましたが、笑い事じゃなくなる事態となるのが映画のポイント。マディソンと恋に落ちたゲイリーはのっぴきならない立場に追い込まれてしまいます。リチャード・リンクレイター監督作品なので単なるコメディーにはならないですね。そこも含めて僕は面白いと思いました。「恋するプリテンダー」「ツイスターズ」に続いて今年3本目のグレン・パウエルは脚本にもクレジットされています。
IMDb6.8、メタスコア82点、ロッテントマト95%。
▼観客5人(公開7日目の午後)

「あの人が消えた」

 前半はあるマンションで住人が消えるミステリー、後半はその謎解きですが、これがもうテレビのバラエティー並みのアイデア&演出でした。まあ、それでも笑って済ませようかと思ったんですが、その後にもう一つある追加の(真相の)シーンが問題。某有名アメリカ映画(四半世紀前の作品)のまんまパクリでした。ここであきれ果てて大きく減点。ここを褒める人は明らかに先行作品を見ていない人ですね。

 前半の描き方も素人並みの出来。このレベルの脚本で映画化にGOサインを出すのはまずいのではないでしょうかね。監督はバラエティー番組のディレクター出身で(やっぱり)、「劇場版 お前はまだグンマを知らない」(2017年)の水野格。

 高橋文哉、田中圭、北香那、坂井真紀、染谷将太、菊地凛子などの出演者は悪くないです。特に田中圭。予告編にもあった「神隠し……。千尋だけに」など笑いました。
▼観客7人(公開初日の午前)1時間44分。