2025/01/26(日)「機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning」ほか(1月第4週のレビュー)
「機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning」
まったく内容を知らずに見たので、序盤の展開には懐かしさと驚きと戸惑いを覚えました。ファーストガンダムとは別のパラレルワールドにある物語。それ以降の本筋は話が途中で終わることもあって、評価のしようがありません。日テレ系で始まるテレビシリーズの序盤を再編集した作品だそうです。脚本は庵野秀明と榎戸洋司、監督は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(2020年)などの鶴巻和哉。制作はサンライズとスタジオカラーで、序盤はサンライズ色、それ以降はスタジオカラー色が強くなっています。絵のタッチから違うので、別々に作ったんじゃないでしょうか。予告編には序盤の絵がまったく出てきませんから、ここが最大の売りであることは確かでしょう。
本筋はスペース・コロニーのサイド6で暮らす女子高生アマテ・ユズリハが主人公。一年戦争がジオン公国の勝利(!)で終わって5年後、アマテは戦争難民の少女ニャアンと出会う。運び屋のニャアンが運んでいたのはモビルスーツの戦闘を可能にするデバイスだった。2人がジャンク屋に行くと、そこにはジオンのモビルスーツ、ザクがおり、さらに赤いガンダムとジオンの新しいモビルスーツGQuuuuuuX(ジークアクス)がいた。素人ながら、ジークアクスに乗り込んだアマテは軍警ザクと交戦する。
アマテがその後、モビルスーツの決闘競技クランバトルに参加していくのは同じく女性を主人公にした「機動戦士ガンダム 水星の魔女」(2022年)を思わせました。
シャアとキシリアとマ・クベが登場し、画面には出てきませんが、アルテイシアの名前が出てくるなど序盤はファーストガンダム世代にはたまらない展開。本筋はテレビシリーズの全貌が分からないと評価できませんが、パラレルワールドを物語にどう生かしていくのか楽しみです。
▼観客8人(公開7日目の午後)1時間21分。
「型破りな教室」
アメリカ国境近くの治安の悪い地区マタモロスにある小学校を全国トップレベルに押し上げた教師の実話を基にしたメキシコ映画。赴任してきた教師フアレス(エウヘニオ・デルベス)の授業はユニークで、詰め込み式ではなく、考え方を教えていくものです。その意味で型破り(原題Radical)なわけですが、その効果で子供たちは探求する喜びを知り、成績も上がっていくという物語。ただ、こうした授業の在り方でどのように成績が上がっていったのか、映画は具体的には描いていません。実際に成績が良くなったといっても、小学校だから成立するのだろうと思いました。中学、高校に進むにつれて覚えなくてはいけないことは多く、ものの考え方を学ぶだけでは通用しなくなるでしょう。それでも小学時代にこの方法を学ぶことは人生を左右することにつながるのかもしれません。
生徒の中には数学の天才少女パロマ(ジェニファー・トレホ)がいます。不遇な環境にいる天才を見つけて教師が指導する話は「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」(1997年、ガス・ヴァン・サント監督)をはじめたくさんありますが、パロマが暮らすのはゴミ捨て場のそばという過酷な環境。父親はゴミの中から金属を探して売って生計を立てています。その父親が買い取り屋に代金をごまかされそうになったところをパロマが助ける場面があります。教育と知識を深めることはひどい環境を脱出するのに確実に役立つことを示すシーンであり、現状脱出の希望を持たせることがフアレス先生の授業の最も大きな効果だったのではないかと思います。
原作は雑誌「WIRED」に掲載された記事「天才の世代を解き放つラディカルな方法」。監督・脚本のクリストファー・ザラはケニア生まれで現在はグアテマラ在住だそうです。
IMDb7.8、メタスコア70点、ロッテントマト96%。
▼観客16人(公開初日の午後)2時間5分
「サンセット・サンライズ」
東京の大企業に勤める釣り好きの西尾晋作(菅田将暉)はリモートワークを機に移住を決意。南三陸の4LDK・家具家電完備で家賃6万円の“神物件”の家を契約し、お試し移住をスタートさせる。移住先の大家・関野百香(井上真央)は町役場に勤め、空き家対策の仕事をしていた。百香は町のマドンナ的存在でもあり、周囲の男たちは東京から来たよそ者の晋作と百香の関係に気が気ではない。百香の父で漁師の関野章男(中村雅俊)ら、距離感ゼロの住民たちとの交流に戸惑いながら、晋作はポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく。
百香は大震災による津波で悲しい別れを経験し、9年たってもまだ傷は癒えていないでしょうが、それを表に出してはいません。そんな百香を真っすぐに演じる井上真央が良いです。終盤、晋作からある話を聞きながら、アジのなめろうを作るシーンの手際の良さに感心しました。「芸能界で一番なめろう作りが早い」と言われたそうです。菅田将暉も魚のさばき方をしっかり練習して臨んだとのこと。
コロナ禍の密を避ける描写は今見ると、大袈裟なことやってるなと思いますが、当時は確かにこんな感じでしたね。
▼観客6人(公開6日目の午後)2時間19分。
「雪の花 ともに在りて」
江戸末期に疱瘡(天然痘)の治療に尽くした福井藩の町医者・笠原良策を描く小泉堯史監督作品。原作は吉村昭の小説「雪の花」。前半の演出にメリハリがないのがつらいところですが、終盤のまとめ方は悪くありません。当時、疱瘡は死の病で、隔離して感染拡大を防ぐしかありませんでした。笠原良策はオランダの医療を学んで種痘(予防接種)の普及に努めますが、無知蒙昧な反ワクチン勢力はこの時代にもいて、妨害されます。このあたり、現代に通じる話になっています。主演は松坂桃李。その妻役に芳根京子。それぞれに立ち回りの見せ場があるのが静かな展開の中でのアクセントになっていました。
小泉監督は80歳。監督デビューの「雨あがる」(2000年)の頃ならともかく、今でも黒澤明の弟子うんぬんで語られるのは作風も違いますし、迷惑じゃないでしょうかね。前作「峠 最後のサムライ」(2020年)はその年のワーストに選びたくなるような出来でした。それに比べれば、随分良いです。これまでの8本の監督作の中では現代劇の「博士の愛した数式」(2005年)が最も充実していたと思います。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午前)1時間57分。
「勇敢な市民」
原作はWebトゥーン(漫画)だそうですが、猫の仮面は明らかにキャットウーマンを意識したのでしょう。ソ・シミンは韓国語で小市民の意味。タイトルは「勇敢なシミン」も意味していることになります。相手の生徒があまり強そうに見えないのが難ですが、まずまず楽しめる内容でした。
IMDb6.5(アメリカでは未公開)
▼観客6人(公開5日目の午後)1時間52分。
「マイ・オールド・アス 2人のワタシ」
TBSラジオ「アトロク2」の放課後ポッドキャストで紹介していたので、amazonプライムビデオで見ました。レズビアンのエリオット(メイジー・ステラ)が18歳の誕生日に幻覚キノコでトリップし、39歳の自分(オーブリー・プラザ)と出会う。彼女はエリオットに「チャドに近づかないで」と忠告する。ある日、湖で泳いでいたエリオットはチャドと名乗る男に遭遇。エリオットは忠告に従ってチャドを避けていたが、次第に愛するようになってしまう。チャドにどういう秘密があるのかがすべてですが、クライマックスで分かるその真相がなかなかよく出来ていると思いました。青春映画の佳作ですね。
監督・脚本のミーガーン・パークはカナダの女優兼歌手の38歳で長編映画の監督は2作目。この映画はナショナル・ボード・オブ・レビューが昨年のトップ10インディペンデント・フィルムに選んだほか、多数の賞の候補に挙がってます。
IMDb7.0、メタスコア74点、ロッテントマト90%。