2025/02/23(日)「ブルータリスト」ほか(2月第3週のレビュー)
「NHK連続テレビ小説『カーネーション』で夏木マリが演じる糸子の登場は、第145話からになります」(Search Labs | AI による概要)

GoogleのAIはBS12トゥエルビのサイトにある各週の概要紹介「145~151話」を見て、早とちりしたようです。当然のことながら、AIが常に100%正しいわけではないのです。それにしても尾野真千子が出ないとなると、「カーネーション」を見る意欲はだだ下がりです。
NHKと言えば、アカデミー賞授賞式生中継の詳細が発表されました。司会は廣瀬智美アナウンサー、ゲストは佐々木蔵之介とトラウデン直美。レッドカーペット中継もやるそうです。良かったです。
「ブルータリスト」

序曲、第一部「到着の謎 1947-1952」、第2部「美の核芯 1953-1960」、エピローグ「第1回建築ビエンナーレ 1980」で構成する3時間35分(インターミッション15分含む)。「序曲」のある映画はかつては「ベン・ハー」や「ウエスト・サイド物語」「2001年宇宙の旅」などありましたが、最近ではあまり見かけません。この映画の序曲は短いものの、こうした立派で本格的なパッケージングにより見応えは十分あります。ただ、大作感はそれほどなく、物語も通俗的と言えるものでした。
大作感に乏しいのは物語の中心が1947年から1960年までの13年しかないためもあるでしょう。前半はペンシルバニアに住む従兄弟を頼って単身渡米したラースロー(エイドリアン・ブロディ)が富豪のハリソン・ヴァン・ビューレン(ガイ・ピアース)と出会い、大規模な礼拝堂とコミュニティセンターの設計と建築に携わるまでの5年間、後半は妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と姪ジョーフィア(ラフィー・キャシディ)がペンシルバニアに来て、礼拝堂の建築を進めながらラースローとハリソンの間に確執が生まれる様子を描いていきます。
俳優でもある監督のブラディ・コーベットはこれが監督3作目ですが、過去2作(「シークレット・オブ・モンスター」「ポップスター」)はいずれも低評価に終わっています。
ここでパンフレットを読んで愕然としたのはラースロー・トートが架空の人物であるということ。てっきり実在の人物かと思ってました。功績のダイジェストにせず、時代を絞ったのは賢明な処理とも思ったんですが、なんのことはない。そうなのか、フィクションなのか。それと、製作費が1000万ドル(約15億円)という少なさにも驚きました。5000万ドル以上、もしかしたら1億ドルぐらい掛かってるかと思ってました。大作感がなかったのはこのためなのか。監督として大きな実績もないのに、多額の予算の作品をまかせられたのはおかしいなと思ったんですよね。これぐらいの予算規模なら納得です。いや、コストパフォーマンスは抜群だと思います。
というわけでパッケージングは一流、中身はそこまでではないというのが率直な感想でした。第1部よりもフェリシティ・ジョーンズが(意外な姿で)登場する第2部が面白かったです。
IMDb7.8、メタスコア90点、ロッテントマト94%。ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞。アカデミー賞10部門ノミネート。
▼観客10人ぐらい(公開初日の午前)3時間35分。
「セプテンバー5」
1972年のミュンヘンオリンピック事件を生中継した米国のテレビ局ABCのスポーツ局スタッフを描くドラマ。なぜ今、この映画を作ったのか、その意図が気になります。公式サイトには「報道のあり方を問う、現代へのメッセージ」とありますが、果たしてそうか? 報道の在り方を問うなら、50年以上前の事件ではなく、今の事件に材を求めてはどうか。ガザで多くの子供を含む4万人以上を虐殺し、なおも攻撃をやめようとしないイスラエル擁護のプロパガンダ的意図があったのではないか、と勘ぐりたくなります。ミュンヘンオリンピック事件はパレスチナの武装組織「黒い九月」によって行われたテロ事件。五輪の選手村を襲撃、イスラエル選手2人を殺害し、9人を人質にしてイスラエルと西ドイツに拘束されている328人の解放を要求しました。犯人グループは海外への逃走を図りますが、空港で銃撃戦となり、人質9人含む選手11人、警察官1人、犯人5人が死亡しました。
ABCのスタッフは選手村からの銃声を聞いて事件発生を知り、現地にいる強みを活かして生中継します。緊張感のあるタッチで悪くはないんですが、それだけで終わってます。驚くのは終盤の出来事で、当初、「人質は全員助かった」と発表され、ABCはそれを真っ先に報じ、他社も後追いしますが、後に「全員死亡」の間違いと分かります。この部分はスティーブン・スピルバーグ監督の「ミュンヘン」(2005年)でも冒頭のシーンで描かれていました。
アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した「ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実」(1999年、ケヴィン・マクドナルド監督。DVDタイトルは「ブラック・セプテンバー ミュンヘン・テロ事件の真実」)も間違いの原因については触れていません。恐らく西ドイツ当局の単純なミスだったのでしょうが、これを未確認でそのまま報じてしまったことは後追いした他社も含めて大きな汚点でしょう。
このドキュメンタリーには事件のその後が描かれています。生き残って逮捕されたテロリスト3人はルフトハンザ機ハイジャック事件の犯人の要求で解放されました。このハイジャック、乗客は12人しかいず、西ドイツ政府が絡んだ茶番だったという説があります。イスラエルは報復作戦を実行し、Wikipediaによると、PLOの基地を空爆して「65人から200人を殺害」し、犯人2人を含む武装組織の20人以上が暗殺されました(「ミュンヘン」はこの報復作戦を描いていました)。残る1人がこの映画のインタビューに顔を隠して登場しています。映画の評価はIMDb7.8、メタスコア82点、ロッテントマト93%。
「セプテンバー5」がダメなのは「報道の在り方を問う」名目で、一連の経過を無視して局所的な場面しか描いていないからです(タイトル通り9月5日の出来事=イスラエル被害の場面だけ)。だから別の意図を勘ぐりたくなるわけです。

ドイツはこの事件の後、五輪を自国開催していませんが、2040年大会の開催に関心があるそうです。
IMDb7.1、メタスコア76点、ロッテントマト93%。アカデミー脚本賞ノミネート。
▼観客9人(公開6日目の午後)1時間31分。
「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」

ロイ・コーンがトランプに教えた勝つための3原則は「攻撃、攻撃、攻撃」「何も認めず、全否定しろ」「勝利宣言をして決して負けを認めるな」。確かに今のトランプはこれを忠実に実行しているように見えます。トランプが負けや誤りを認めた場面など見たことがありませんから。
映画は前半、ロイの忠実な弟子となるトランプを描いていますが、後半は力関係が逆転します。トランプは師匠を超える存在になっていくわけです。落ちぶれていくロイには悪い奴だと分かっていても悲哀を感じざるを得ません。
トランプを演じるのはマーベルファンにはウィンター・ソルジャーとしてお馴染みのセバスチャン・スタン。外見と身振り手振り、喋り方をまねて完璧な演技を見せ、アカデミー主演男優賞にノミネートされました。ロイ・コーン役のジェレミー・ストロングも助演男優賞候補。監督は「ボーダー 二つの世界」(2018年)、「聖地には蜘蛛が巣を張る」(2022年)のイラン出身アリ・アッバシで、今回も的確な演出を見せています。
タイトルはトランプが2004年から2012年まで司会を務めたNBCのテレビ番組「アプレンティス セレブたちのビジネス・バトル」(WOWOWが以前放送したそうです)からきています。
IMDb7.1、メタスコア64点、ロッテントマト83%。
▼観客9人(公開7日目の午後)
「代々木ジョニーの憂鬱な放課後」
「違う惑星の変な恋人」(2023年)の木村聡志監督作品。オンライン試写で見ました。「グリーンバレット」(2022年、阪元裕吾監督)、「さよならエリュマントス」(2023年、大野大輔監督)に続いてミスマガジン受賞者が出演する映画製作プロジェクトによる作品で、2023年の受賞者6人が演じる女の子たちと高校生の代々木ジョニーをめぐる緩い青春群像劇です。ストーリー的にはなんてことないですが、とぼけた会話の微妙なおかしさで好感の持てる作品になっています。ちょっと変わった高校生の代々木ジョニー(日穏=KANON)は気の強い今カノ熱子ちゃん(松田実桜)を怒らせてしまったり、スカッシュ部のバタ子さん(加藤綾乃)、神父さん(高橋璃央)と部室でずっと喋っていたり、引きこもり生活中の幼なじみ神楽さん(一ノ瀬瑠菜)に会ったり、マイペースな放課後を送っている。しかし、名ばかりだったスカッシュ部に熱血部員デコさん(吉井しえる)が入部したことで他の部員ともどもちゃんと練習し、いきなり関東大会に出場することになる(スカッシュ部のある高校は少ないから)。ジョニーは宮崎から東京に来て祖父(マキタスポーツ)の喫茶店でバイトしている出雲さん(今森茉耶)と出会い、惹かれ合うようになるが…。
出演はほかに渡辺歩、前田旺志郎、綱啓永ら。「違う惑星の変な恋人」もそうでしたが、木村監督の作品は会話が秀逸で、元は舞台劇かと思えるぐらいです。ただ、シーンの並列なので物語としてはあと一ひねりあっても良かったかなと思います。
ミスマガジン2023グランプリの今森茉耶は実際に宮崎出身。今週号(2025年3月10日号)の週刊プレイボーイのグラビアに登場しているほか、始まったばかりの戦隊シリーズ第50作「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」でゴジュウユニコーン=一河角乃を演じています。映画は昨年の「あのコはだぁれ?」(清水崇監督)に続いて2本目。清楚なビジュアルは申し分ないので、戦隊の1年間で演技力を磨きたいところです。目指せ、高石あかり。
映画は3月14日からの大阪アジアン映画祭で上映後、東京で公開、全国順次公開されるようです。1時間48分。