2025/02/16(日)「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」ほか(2月第2週のレビュー)
Netflixで今月から配信が始まったタイ映画「邪厄の家」(2023年、ソーポン・サクダピシット監督)は「バーン・クルア 凶愛の家」(全国的には昨年11月公開)と同じものです。劇場公開と配信でタイトルが異なるのは困りものですが、たぶん供給ルートが違い、Netflixの担当者も公開作とは知らなかったんじゃないでしょうか。わざとこうする理由は思いつかないです。
それにしても「邪厄」とはあまり聞き慣れない言葉。一昨年5月に公開された台湾ではこのタイトルだったようで、それを参考にしたんでしょうかね?
「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」
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アメリカ大統領サディアス・ロス(ハリソン・フォード)がホワイトハウスで複数の人間から銃撃される。その中の1人は元スーパーソルジャーでサムの友人イザイア・ブラッドリー(カール・ランブリー)だった。彼らは何者かに洗脳されていたらしい。さらに希少金属アダマンチウムを巡って日本とアメリカはインド洋で一触即発の危機を迎えていた。キャプテン・アメリカは、ファルコンのウイング・ユニットを受け継がせたホアキン・トレス(ダニー・ラミレス)とともに双方の戦闘機の攻撃を必死に食い止め、陰謀を企む黒幕に迫る。
空中アクションとレッドハルクとの闘いが見どころ。超人血清によってスーパーパワーを持ったスティーブ・ロジャースとは違って、サム・ウィルソンは普通の人間。ウイング・ユニットとスーツを身に着けてもアイアンマンのスーツほどのパワーがあるわけでもなく、普通に考えてハルクに勝てる訳がありません。アンソニー・マッキー自身にスター性が希薄なのもつらいところですが、それはシリーズ第1作のクリス・エヴァンスも同じでした。2作目の「ウインター・ソルジャー」(2014年)が1作目の100倍ぐらい面白かったように、映画の作りと監督次第でどうにでもなるでしょう。次に期待します。
日本の首相に扮するのは「SHOGUN 将軍」(ディズニープラス)や「モナーク レガシー・オブ・モンスターズ」(アップルTVプラス)などの平岳大。この映画での日本の役割は今の情勢で考えれば、本当は中国でしょうが、米中開戦は洒落にならないので日本にしたんじゃないでしょうかね。
監督は「クローバーフィールド パラドックス」(2018年)、「ルース・エドガー」(2019年)のジュリアス・オナー。マーベル映画の常でエンドクレジットの後におまけのシーンがありますが、マルチバースをめぐるもので、これ、今後につながるのですかね? 以前の設定の名残のような気もします。製作が始動したといわれる「アベンジャーズ ドゥームズデイ」(アンソニー&ジョー・ルッソ監督)と「シークレット・ウォーズ」(同)もマルチバースものになるのでしょうか。
「インクレディブル・ハルク」(2008年、ルイ・レテリエ監督)以降、サディアス・ロスを演じていたウィリアム・ハートは2022年に死去。ハリソン・フォードがそれを引き継いだわけですが、82歳のフォードには引退説も流れています。
IMDb6.0、メタスコア43点、ロッテントマト51%。
▼観客多数(公開2日目の午前)1時間58分。
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城塞」
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香港へ密入国したチャン(レイモンド・ラム)は黒社会のルールを拒み、己の道を選んだために組織に目を付けられる。追い詰められたチャンは巨大スラム街・九龍城砦に逃げ込み、そこで3人の仲間と出会い、深い友情を育む。しかし九龍城砦を巻き込む抗争が激化し、チャンたちは命を賭けた戦いに挑んでいく。
アクション監督は谷垣健治、音楽を川井憲次が担当しているのはファンとしてはうれしいです。監督は「ドラゴン×マッハ!」(2015年)などのソイ・チェン。大ヒットしたので前日談や続編の計画もあるそうです。
パンフレットはクリアファイル付きで1200円でした。amazonでは4000円とか5000円とかで売ってますが、バカバカしいので劇場で買った方が良いです。入場者プレゼントのポストカードまで売ってるのがあきれますね。
IMDb7.0、メタスコア77点、ロッテントマト90%。
▼観客20人ぐらい(公開初日の午後)2時間5分。
「港に灯がともる」
監督の安達もじりは放送中のNHK夜ドラ「バニラな毎日」や再放送中の朝ドラ「カーネーション」(2011年)「カムカムエヴリバディ」(2021年)などの演出家。本作はNHKドラマを再編集した前作「心の傷を癒すということ 劇場版」(2020年)に近い内容です。阪神・淡路大震災の翌月に神戸市長田で生まれた在日韓国人三世の灯(富田望生)は20歳。在日の自覚は薄く、震災の記憶もない灯は父(甲本雅裕)、母(麻生祐未)が語る家族の歴史や震災当時の話が遠いものに感じられ、苛立ちを募らせる。父は家族との衝突が絶えない。結婚間近の姉の美悠(伊藤万理華)が提案した日本への帰化を巡り、父親との対立がさらに深まる。灯は鬱状態になり、勤めていた造船所を退職。小さな建設会社に入る。
と、ここまで書いてパンフレットの「企画の始まり」のページを読んだら、この映画はプロデューサーの安成洋の発案から始まった、とありました。安プロデューサーの兄は「心の傷を癒すということ」(1996年)を書いた精神科医・安克昌。神戸、震災、在日のテーマが共通しているのはそのためなのでした。
異なるのは主人公が震災を経験したか、しなかったかの点。ドラマ「心の傷を癒すということ」(全4話)は震災で深い心の傷を受けた人たちの治療に当たる安医師(柄本佑)を描き、心の傷の苦しさ辛さをよく伝える内容でしたが、この映画はそれが間接的な分、主人公の苦悩が分かりにくくなっています。そして、39歳で亡くなった安医師がこのドラマの中で3人目の子供に付けた名前が灯でした。
この映画の主人公が安医師の娘と同じ名前なのは安達監督(あるいは安プロデューサー)が関連作として意識したからでしょう。灯の苦しみは主に父親との確執が原因となっていますが、父親が経験してきた苦難は娘に実感として伝わっていません。だから最後まで父娘はわかり合えないままになっています。それと同じようなことが主人公と観客の間にもあるようで、富田望生の役に入り込んだ熱演は空回り気味に感じました。これは富田望生が悪いわけではなく、単に脚本(安達もじり、川島天見)の説得力の問題だと思います。
大震災から30年ということもあって、「心の傷を癒すということ」の新増補版(2019年)は先月、NHK「100分de名著」で取り上げていました。
▼観客多数(公開5日目の午前)1時間59分。
「占領都市」
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原作の「Atlas of an Occupied City」はマックイーン監督の妻で歴史家のビアンカ・スティグターの著作。マックイーンは2005年に短いバージョンが発表された際に映画化を考えたそうです。アムステルダムには当時、アンネ・フランクをはじめ多くのユダヤ人が住んでいましたが、その多くは収容所に収容の末に殺されたり、病死したりしました。街の至る所でもドイツ兵に殺されていて、スティグターは彼らがどのように死んでいったのかを調査したそうです。
ナレーションで何度も繰り返されるのは“Demolished”という単語。取り壊された、消滅した、解体されたという意味で、建物や場所、人々など多くのものが占領下でなくなってしまったことを象徴しています。撮影はちょうどコロナ禍の時で、善意の“マスク警察”の人たちがマスクを着けるように道行く人たちに注意する場面があり、占領当時にナチスの手先になった人たちと重なります。
4時間11分、退屈はしませんが、当時の映像を一切入れないことにこだわる必要もなかったのではと感じました。
IMDb6.7、メタスコア76点、ロッテントマト72%。
▼観客5人(公開6日目の午後)4時間11分。