2004/08/09(月)「スチームボーイ」

 「スチームボーイ」チラシ19世紀のイギリスを舞台にした大友克洋監督の少年冒険アニメ。超高圧蒸気を注入したエネルギー源スチームボールを巡り、オハラ財団とイギリス政府と発明一家の少年レイが争奪戦を繰り広げる。元々は大友監督のオムニバス映画「MEMORIES」(1995年)の一編「大砲の街」から構想が始まったそうで、「大砲の街」で描かれたような19世紀の技術で蒸気機関を使った凝った兵器が多数登場する。「科学は人々の幸福のためにある」というシンプルなテーマを少年の正義感に絡めて描く構成は分かりやすく、ちょっと長すぎる2時間6分の上映時間を除けば、少年向けのアニメとして大変良い出来である。善と思っていたものが悪だと分かるひねりは面白く、財団の勝ち気な娘スカーレット(スカーレット・オハラ!)などキャラクターにも凝っている。

 ただ、科学の意義を巡って対立するレイの祖父と父親の関係に収まってしまうストーリーには少し不満が残る。「スター・ウォーズ」を持ち出すまでもなく、父親が悪役という映画はたくさんあるにせよ、やはり外部に強力な敵を設定した方がすっきりしたのではないかと思う。事故でやけどを負った父親が機械の義手や仮面を付けているあたり、その「スター・ウォーズ」の影響なのかもしれない。

 1866年のイギリス、マンチェスター。紡績工場で働くレイの父親と祖父はアメリカのオハラ財団で蒸気機関の研究をしている。ある日、レイの家に祖父から荷物が届く。入っていたのは発明のメモと金属製のボール。そこへオハラ財団の男2人が訪れ、ボールを渡すよう要求する。「財団に渡すな」との手紙を読んでいたレイは抵抗し、当の祖父も帰ってくる。ボールをスチーブンスンに届けるよう言われたレイは自作の蒸気一輪車で逃げ出し、財団の歯車メカが後を追う。線路で列車と歯車メカに挟まれたレイを助けたのは列車に乗り合わせたスチーブンスンと助手のデヴィッドだった。しかし、財団は飛行船で列車の屋根を引き裂き、レイをボールとともに連れ去る。レイが連れてこられたのはロンドンの万博会場近くにあるオハラ財団のパビリオン。そこでレイは死んだと聞かされた父親に再会する。父親は研究中の事故で大けがをして祖父と意見が対立するようになった。ボールの正体は超高圧のエネルギー源スチームボールで、パビリオンはそのエネルギーで動くスチーム城だった。父親に協力するようになったレイは祖父が閉じこめられているのを知り、スチームボールを奪ってスチーブンスンに届けるが、スチーブンスンもまた、イギリス政府の下で蒸気機関の兵器を開発していた。

 序盤の一難去ってまた一難というアクションの呼吸が良く、凝ったメカデザインにも見所がある。クライマックスはイギリス軍と財団の新兵器の戦いで、蒸気兵や飛行兵、蒸気戦車など蒸気機関を使った複雑なメカが次から次へと登場し、CGを絡めてスペクタクルな展開を見せる。こうしたメカニックな面白さと同時に科学技術を戦争のために使ってはいけないという主張も明確になっているが、例えば、宮崎駿「未来少年コナン」で描かれる一直線の正義感ほど力強くはない。これは作画と同様に善悪併せ持つ複雑なキャラクター設定から来ることだと思う。外部に敵を設定した方がいいというのはこのあたりを見て感じたことで、ジュブナイルであることを考えれば、キャラクターは単純化しても良かったのではないか。

 主人公レイの声を演じるのは鈴木杏。ちょっと心配したが、不自然さはなかった。大友監督はこの映画を「小学3~5年生の男の子に見て欲しい」と言っている。うちの小学3年生の長男を誘ったら、「行かない」と一言。小学5年生の長女によると、学校では「あの絵はダサイ」ということになっているそうだ。今の小学生、まるで分かっちゃいないのである。