2006/03/16(木)「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」
ジョニー・キャッシュ(ホアキン・フェニックス)やジェリー・リー・ルイス(ウェイロン・マロイ・ペリン)やバンドのメンバーが朝から酔っぱらっているのを見てあきれたジューン・カーター(リース・ウィザースプーン)が「まっすぐに歩けない男たちばかりね」と怒る。それでジョニーは「君のために真っ直ぐ歩く」と訴える「アイ・ウォーク・ザ・ライン」という歌を作る。少女時代からステージに立ったジューンの歌をジョニーは少年時代からラジオで聴いていた。手の届かない世界にいると思っていた憧れの女性と同じステージに立ち、一緒にツアーに出るようになって、ジョニーはジューンへの距離を徐々に縮めていく。酒場で初めて心を通わせる場面など2人の関係を描くシーンがとてもいい。ジューンは2度結婚に失敗し、ジョニーも既に結婚していたので、なかなか恋人同士にはなれないのだが、この映画、ジョニー・キャッシュの生涯をジューンとの関係に重点を置いてラブストーリーとして映画化したのが成功の要因だと思う。素敵なラブストーリーになっている。
何よりホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーンの歌のうまさには驚くばかり。「キューティ・ブロンド」(2001年)のようなコメディのキャラクターの要素を残しつつ、シングルマザーの歌手を見事に演じてウィザースプーンはアカデミー主演女優賞を受賞したが、ホアキン・フェニックスも主演男優賞を取ってもおかしくない演技。残念ながら受賞は逸したけれど、ひたすら真面目に取り組んだ様子が手に取るように分かる演技である。フェニックス、かなりの演技の虫なのではないかと思う。
「悪魔は出来のいい子を奪った」。アーカンソーの貧しい家で飲んだくれの父親が嘆く。ジョニーの兄のジャックは1ドルを稼ぐために行っていた電動ノコギリ作業中の事故で死んでしまう。仲の良かった兄の死と父親の残酷な言葉がジョニーのトラウマになったのも無理はないと思える(考えてみれば、ホアキン・フェニックスもまた兄リバーを亡くしているのだった)。序盤のジェームズ・マンゴールド監督の演出は無駄な部分がなく的確で、ここで観客のハートをしっかりとつかんだ後、楽しすぎる歌のシーンが続いて前半は100点満点の映画と思った。もう2人の歌が素晴らしすぎて、サントラが欲しくなってくる。後半、ドラッグ(アンフェタミン)に溺れるあたりが「Ray/レイ」との類似性もあって損をしているし、ブルーな気分にもなるのだが、実際にあったことなのだから仕方がない。ジョニーのドラッグをやめさせようと、ジューンが協力して、さらに二人の愛は深まっていくことになり、ステージ上でのプロポーズという幸福なラストシーンにつながっていく。
少年時代から描いていることと、肉親の死やドラッグの描写があることで、どうしても「Ray/レイ」と比較したくなるのだが、僕はジェイミー・フォックスがレイ・チャールズに人工的に似せようとした「Ray/レイ」には窮屈さを感じた。「ウォーク・ザ・ライン」にはもっと大らかな感じがあり、主演2人の好感度の高さが映画の印象を心地よいものにしている。ジョニーがドラッグから立ち直る描写は人の再生を示して説得力があり、「Ray/レイ」よりもうまいと思う。