2006/06/30(金)「Death Note 前編」

 「Death Note」パンフレット大場つぐみ・小畑健のベストセラーコミックを平成ガメラ3部作の金子修介監督が映画化。警察で対処できない犯罪者を主人公が殺すという始まりは警察内部の私設警察を描いた「黒い警察」や「ダーティハリー2」を思わせるが、この映画の場合、名前を書かれた人間は死ぬというデスノートを使うのでファンタジーっぽい様相がある。ただし、映画の魅力はファンタジーではなく、意外なストーリー展開とキャラクターの面白さの方で、ミステリ的な趣向の方にある。原作漫画を4巻まで読んでみたが、映画の脚色(大石哲也)は原作のエッセンスをコンパクトにまとめてあってうまいと思う。原作には登場しない主人公の恋人にクライマックス、劇的なドラマを用意しており、ここではっきりと主人公がダークサイドに落ちたことを明らかにしている。このあたりの驚きは最初から主人公に悪の雰囲気がある原作にはないものだ。デスノートの元の所有者である死神リュークのCGは良くできていて、原作よりも漫画チックな造型であるにもかかわらず、陳腐にはなっていない。金子修介のエンタテインメントの資質が良い方向に働いたと思う。2時間2分の上映時間のうち、少し冗長と思える部分もあるが、第2のキラと死神が加わって、夜神月(ライト)とLの対決が本格化する後編が楽しみになった。

 ガメラが登場してもおかしくない空撮で映画は始まり、ガメラのようなタイトルで物語が始まる。タイトル前にデスノートの効果を示すのが分かりやすい語り口。そこから映画は少しさかのぼってライトがデスノートを手にした経緯を語る。原作の高校生ライトはデスノートを拾ったことで、殺してもいい人間として犯罪者を選ぶが、映画のライト(藤原竜也)は司法試験一発合格の大学生で、裁ききれない犯罪者への怒りを感じてデスノートを利用する。犯罪のない新しい世界を作ろうと意図する善の男なのだ。ライトは次々に重犯罪者を殺していき、世間からキラと呼ばれるようになる。警察はキラの行為は大量殺人として、これまでさまざまな難事件を解決してきたというL(松山ケンイチ)に協力を仰ぐ。Lはライトが関東地方に住むことを突き止め、捜査情報が漏れていることから内部に関係者がいると見抜く。ここからライトとLの駆け引きが描かれていく。これに絡むのがFBI捜査官の恋人をライトに殺された南空(みそら)ナオミ(瀬戸朝香)。ナオミはライトを怪しいとにらみ、周辺を調べ始める。

 ライトは超エリートで悪の主人公なのだが、演じるのが藤原竜也なので脚本の意図通り、単純な悪人には見えない。対するLのキャラクターはいかにも変人で不気味なメイク。善と悪が入れ替わってもおかしくない作りなのが面白い。脚本は原作の設定を尊重しながら、原作にはないさまざまなエピソードを取り入れている。知略を尽くしたライトとLの戦いというのは映画の方がより分かりやすく描かれているし、犯罪者たちの死の描写を取り入れたことでドラマに厚みもあると思う。脚本の大石哲也はこれまでテレビのミステリドラマが中心で、この映画のミステリ的な雰囲気もそれが功を奏したのかもしれない。

 ライトの恋人を演じる香椎由宇は、犯罪者はあくまで法律で裁くべきというライトとは対照的な考え方の持ち主として描かれ、非日常的な物語を抑える役目を果たして好演。ライトの父親の鹿賀丈史も堂々とした演技で良かった。