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2002年01月22日の記事

2002/01/22(火)「山の郵便配達」

 キネ旬ベストテン4位。中国・湖南省の険しい山々の集落に郵便を配達する親子の話。長年、郵便配達を続けてきた父親は足を痛め、局長から勧められて引退、息子に仕事を譲る。息子は公務員になれば、幹部への道も開けると志願するのだが、重い郵便バッグを背負って山道を3日間歩きづめの配達は想像以上に大変な仕事である。映画は初めて配達に行く息子とそれに付き添う父親の姿を通して、親子の本当の理解と家族の関係を情感を込めて描く。

 ある集落の外れに目の見えない老婆が一人で住んでいる。老婆は都会に出ていった孫からの仕送りと一緒に入った手紙が届くのを楽しみにしている。父親は長年、その手紙を読んでやってきた。しかし、実は紙には何も書かれていず、父親の創作だった。父親は老婆の胸中を思いやって長年それを続けてきた。というような心温まる描写が多い。仕事のために家にいることが少なく、息子は父親とまともに口をきいたことがなかった。今も“あんた”と呼ぶが、3日間の仕事を通して父親の本当の生き方を理解する。美しい村の娘と

息子との出会いを見て、父親は自分と母親の出会いを回想する。ここにあるのは貧しいけれども真っ当な生き方であり、人生の区切りを迎えた父親の深い感慨である。

 同じように山で働いてきた他の公務員は次々に幹部になっていったのに、愚直なまでに正直な生き方をしてきた父親は村人たちから感謝はされていても、社会的な地位という意味では何も報われない。だが、愚痴一つこぼさない。息子にも愚痴をこぼしてはいけないと戒める。映画自体の完成度が高いのを認めた上で書くと、こういう人物を描く映画はまことに国家にとっては都合がいいと思う。むろん、この映画が海外の映画祭でも評価されたのは父と息子の関係をメインに据えたストーリーが胸を打つからだが、父親は自分に与えられた仕事は懸命に果たし、不正は許さないという、道徳に出てくるような(国にとっては)模範的な人物なのである。

 こういう人物ばかりであれば、国は平気で人を使い捨てにするだろう。恐らく作者たちは少しも意図しなかったであろう、そういう部分が少し気になる。だから父親のストイックな生き方に感銘を受けながらも、映画に対してアンビバレンツな思いを抱かざるを得ない。チャン・イーモウ「初恋のきた道」は少女の一途な恋心の描写に普遍性があって支持を集めた。この映画にも普遍性はあるが、ここで描かれる普遍性が常に正しいとは限らないのである。

 監督のフォ・ジェンチイはこれが3作目。ポン・ヂェンミンの原作「那山 那人 那狗」(あの山 あの人 あの犬)は1983年の全国優秀短編小説賞を受賞。監督は「息子に背負われた父が涙を流すところで、映画化のインスピレーションを」受けたそうだ。父親役のトン・ルウジュンが素晴らしくリアルな演技を見せるのに対して、息子役のリィウ・イエはやや未熟な部分が目に付いた。