2003/04/04(金)「キューティ・ブロンド」
リース・ウィザースプーン主演のコメディ。ブロンドで派手好きな女の子が恋人から「結婚はできない。別れよう」と言われて発奮。恋人を取り戻そうと、ハーバード・ロー・スクールに入る話。ロー・スクールには意外に簡単に入ってしまい、そこからの学生生活と裁判がメインになる。脚本は簡単で、メインの裁判のエピソードも軽い。テレビドラマの青春ものを見ているような感じだが、なかなか好感の持てる作品に仕上がっていた。
ウィザースプーン(既に結婚して子どももいる)はそんなに美人とは思わないが、ゴールディ・ホーンみたいなコメディエンヌになれるんじゃないかな。ブルネットで主人公のライバルになるセルマ・ブレアも良い。
2003/03/30(日)「オー・ブラザー!」
1930年代のミシシッピー州が舞台。脱獄した3人の男がたまたま歌った歌で人気者になっていく。州知事選が絡み、3人は恩赦を受けるというハッピーな感覚にあふれたコメディ。コーエン兄弟の映画ではおなじみのジョン・タトゥーロやジョン・グッドマン、ホリー・ハンターがそれぞれにうまい。主演のジョージ・クルーニーはコーエン兄弟の映画は初めてだが、はまり役という感じ。
肩の力を抜いた作品で、全編に流れるカントリー&ウエスタンがいい。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」はこんなタッチで映画化すれば良かったのに。コーエン兄弟とスピルバーグの感覚の差か。
2003/03/28(金)「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」
2匹のネズミがクリームの缶の中に落ちた。1匹はすぐにあきらめて溺れ死んでしまった。もう1匹は必死に手足を動かしてもがいているうちにクリームがバターになり、缶から出ることができた。
冒頭、主人公の父親が地元名士の集まりで披露した小話。そして父親は「必死にもがく2番目のネズミが自分だ」と自己紹介する。父親を演じる老けたクリストファー・ウォーケンがいい。この映画、高校生の詐欺師(レオナルド・ディカプリオ)とそれを追うFBI捜査官(トム・ハンクス)の話なのだが、根底に父親と息子の絆をしっかりと描いてある。
最近のスピルバーグ映画では描写の暗さ、残酷さに閉口した「A.I.」や「マイノリティ・リポート」と違って、ユーモラスで明るいタッチが快い。60年代の風俗、ファッションが忠実に再現され、ジョン・ウィリアムスの音楽も軽快。ちょっと長いのが欠点だが、レオナルド・ディカプリオの年齢設定ぎりぎりの好演とトム・ハンクスの余裕の演技が加わって楽しめる映画に仕上がっている。
タイトルに流れるアニメーションから60年代風を意識したようだ。フランク・アバグネイルJr(レオナルド・ディカプリオ)は事業家の父親とフランス人の母親(ナタリー・バイ)との幸福な家庭で育ったが、父が脱税容疑を受け、事業は失敗。郊外にある家から街中の狭いアパートに引っ越す。母親は愛人を作って離婚。家出したフランクはパンナムのパイロットの制服を利用し、小切手詐欺を次々に成功させるようになる。FBIの捜査官カール・ハンラティ(トム・ハンクス)は地道な捜査で着実にフランクを追い詰めてゆく。
スピルバーグの演出は頑張っていて、数々のエピソードをテキパキと見せていく。詐欺師を扱った題材でブレーク・エドワーズのように軽薄にならなかったのはいいのだが、父と息子のテーマは意外に重たいため(というか、ウォーケンの演技も重い)、軽妙にまとめるには至っていない。たぶん、映画には真面目なドラマがなくてはと、スピルバーグは思っているのだろう。全盛期のビリー・ワイルダーやウィリアム・ワイラーあたりなら、1時間40分程度でもっと洒落た映画にまとめたのではないかと思うのは、ないものねだりか。
2003/03/14(金)「007 ダイ・アナザー・デイ」
タイトル前に大がかりなアクションを見せるのは007の伝統で、今回も火薬の量はタップリ。その舞台が北朝鮮、敵役も北朝鮮のワル(北朝鮮がワルなのではない。アメリカに留学して悪い考えに染まったという設定で、このあたり、脚本の配慮を感じる)というのが時流を反映している。
40周年、20作目の007。監督のリー・タマホリは、猿でも分かる簡単なプロットをアクションでつなぐというこれまた007の伝統に沿った演出で、まずまずの作品に仕上げた。NSA諜報員役のハル・ベリーのセクシーさや、敵役のトビー・スティーブンス、リック・ユーンの面構えもよい。40周年らしく、過去のシリーズ作品を彷彿させる秘密兵器や設定も出てきて楽しい。ただ、話は「ダイヤモンドは永遠に」を思わせるし、ボンドが拷問を受けるシーンは前作「ワールド・イズ・ノット・イナフ」にもあった。ハル・ベリーの活躍は「トゥモロー・ネバー・ダイ」のミシェル・ヨーのアクションには及ばない。20作目ともなると、新機軸を出すのもなかなか難しいのだろう。
北朝鮮の危険人物ムーン大佐を暗殺するため、ジェームズ・ボンド(ピアース・ブロスナン)ら3人がサーフボードで侵入する。ボンドは正体を見破られるが、鞄に仕掛けた爆弾を爆発させ、逃げたムーン大佐を追う。このホバークラフトを使ったアクションが見せる。ムーン大佐は崖下に落ちて死亡。ボンドは大佐の父親の将軍に捕まり、拷問を受ける。拷問シーンにマドンナの歌を重ねたきれいなタイトルが終わると、映画はいきなり14カ月後。ボンドはムーン大佐の補佐だったザオ(リック・ユーン)との捕虜交換で解放される。しかし、情報を漏らした疑いがかけられ、M(ジュディ・デンチ)は諜報員の資格を剥奪する。ボンドはザオのいるキューバに向かい、謎の美女ジンクス(ハル・ベリー)に出会う。ザオはアイスランドのダイヤモンド王グスタフ・グレーブス(トビー・スティーブンス)と組んでいるらしい。背後の陰謀を暴くため、ボンドはジンクスと協力して2人の身辺を調べ始める。
考えてみると、諜報員の資格剥奪というのは「消されたライセンス」なのだった。007シリーズは第10作「私を愛したスパイ」でもシリーズ総集編みたいな作りにしていたが、今回も節目の作品であることを意識したようだ。僕はジャッキー・チェンやジェット・リーのような肉体を駆使したアクションが好きだが、このシリーズのようにスペクタクルなアクションも悪くないと思う。問題は話の設定で、明確な悪役を設定しにくく、1人の諜報員の活躍が世界を救うという話にリアリティのかけらもないことが同じような印象の作品ばかりになってしまう原因なのだろう。
この映画、昨年のアカデミー賞で明暗を分けたハル・ベリーとジュディ・デンチの共演作でもある。ハル・ベリーは主演女優賞受賞後第1作で、パンフレットでもキネ旬でも「なぜボンド・ガールに」と問われて「それが私には普通のこと」と言っている。個人的には「チョコレート」のハル・ベリーの方が美しいと思ったし、好きですけど、こういう単純な娯楽映画にも出続けてほしいものだ。
2003/03/09(日)「ワンピース The Movie デッドエンドの冒険」
4作目の映画。初の単独公開(航海)が売りだが、昨年春まで「アニメまつり」として併映だった「デジモン」の興行力がなくなった(昨年夏に惨敗した)ので、単独公開せざるを得なかったのだろう。余計な併映がなくなって上映時間はこれまでの70分程度から20分ほど長くなったものの、出来そのものは変わらない。毎回同じパターンの話なので、印象も変わらない。
ルフィたちが海軍に追われる冒頭の演出にさえがなく、次に意味のない一人称の視点で港町の移動シーンがあって、これはちょっとと思ったら、その通りの出来だった。サンジやゾロに活躍の場面がないとか、シーンによって絵の出来不出来に差が大きいとか、細かい不満はいろいろあるのだが、何よりも話がもっと面白くないと苦しい。
万年金欠病のルフィたちが賞金3億デリーの海賊船レース・デッドエンドに参加することになる。優勝候補のガスパーデは悪魔の実の能力者。アメアメの実を食べて、体が「ターミネーター2」のT1000のように変わっている。港町ハンナバルでルフィたちと知り合った賞金稼ぎのシュライヤ・バスクードはこのガスパーデを狙う。シュライヤは8年前、妹をガスパーデに殺された恨みから海賊を狙う凄腕の賞金稼ぎになった。ガスパーデの船には病気に苦しむボイラー職人のビエラじいさんがおり、ビエラに育てられた少年アナグマは薬を買う金を手に入れるため、ルフィの船に潜入するが、ゾロに発見される。
映画はテレビシリーズの番外編みたいなものだから、毎回、悪人に苦しめられている者たちをルフィが救う展開にせざるを得ないのだが、今回もシュライヤとアナグマの話が中心になる。ゾロに見つかったアナグマが生きていても意味がないから自分を殺せ、と言ったのに対してナミが激怒したり、ルフィが終盤、「どんなことがあっても生き抜け」みたいなセリフを吐くのが義理と人情と友情と正義と不正に対する強い怒りに彩られた「ワンピース」らしいところ。ギャグを交えて本音を語るのが根強い人気の要因か。
監督はテレビシリーズを担当している宇田鋼之介。テレビシリーズで魚人のアーロンたちにメタメタにやられたエピソードのような話を映画にも期待したいところだ。上映時間が長くなったのにあまり盛り上がらないのはルフィたちに危機らしい危機がないためではないかと思う。やられてやられてやられた後に反撃する展開はこういう話の定石なのだ。テレビとの同時進行で時間的な制約があるのは分かるが、次の作品ではもっと面白い話を見せてほしい。