2003/03/28(金)「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」

 2匹のネズミがクリームの缶の中に落ちた。1匹はすぐにあきらめて溺れ死んでしまった。もう1匹は必死に手足を動かしてもがいているうちにクリームがバターになり、缶から出ることができた。

 冒頭、主人公の父親が地元名士の集まりで披露した小話。そして父親は「必死にもがく2番目のネズミが自分だ」と自己紹介する。父親を演じる老けたクリストファー・ウォーケンがいい。この映画、高校生の詐欺師(レオナルド・ディカプリオ)とそれを追うFBI捜査官(トム・ハンクス)の話なのだが、根底に父親と息子の絆をしっかりと描いてある。

 最近のスピルバーグ映画では描写の暗さ、残酷さに閉口した「A.I.」や「マイノリティ・リポート」と違って、ユーモラスで明るいタッチが快い。60年代の風俗、ファッションが忠実に再現され、ジョン・ウィリアムスの音楽も軽快。ちょっと長いのが欠点だが、レオナルド・ディカプリオの年齢設定ぎりぎりの好演とトム・ハンクスの余裕の演技が加わって楽しめる映画に仕上がっている。

 タイトルに流れるアニメーションから60年代風を意識したようだ。フランク・アバグネイルJr(レオナルド・ディカプリオ)は事業家の父親とフランス人の母親(ナタリー・バイ)との幸福な家庭で育ったが、父が脱税容疑を受け、事業は失敗。郊外にある家から街中の狭いアパートに引っ越す。母親は愛人を作って離婚。家出したフランクはパンナムのパイロットの制服を利用し、小切手詐欺を次々に成功させるようになる。FBIの捜査官カール・ハンラティ(トム・ハンクス)は地道な捜査で着実にフランクを追い詰めてゆく。

 スピルバーグの演出は頑張っていて、数々のエピソードをテキパキと見せていく。詐欺師を扱った題材でブレーク・エドワーズのように軽薄にならなかったのはいいのだが、父と息子のテーマは意外に重たいため(というか、ウォーケンの演技も重い)、軽妙にまとめるには至っていない。たぶん、映画には真面目なドラマがなくてはと、スピルバーグは思っているのだろう。全盛期のビリー・ワイルダーやウィリアム・ワイラーあたりなら、1時間40分程度でもっと洒落た映画にまとめたのではないかと思うのは、ないものねだりか。